小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

薔薇の下にて


私の頭の中の小説袋もたまにはメンテナンスしなきゃ・・・(笑)
今日のは、ほんの小さな小さなお話です。


   『薔薇の下にて』

私の家の近所に、薔薇に囲まれたお家があります。
決して庭が広いわけではないのですが、
軒、玄関、垣根・・・。
家の周りのわずかな空間をも薔薇で出来ているようなお家です。
透ける血管の様な真紅の薔薇、淡雪のような白薔薇。
中心に行くほどに甘く紅に色づくピンクの薔薇。
日に照らされると金色に見える豪華な黄色の薔薇。
白や黄色のとげのない小さなモッコウ薔薇。
青薔薇を夢見て作られた紫の薔薇。
薔薇、薔薇、薔薇に埋められたお家です。
薔薇の間から覗く家は、西洋的な家でなく少し古風な日本家屋です。
たとえて言うなら日本画で描かれた薔薇の花です。
そのせいでしょうか、見るたびに、何か不思議な思いがするんです。

その家の前を通ると、私の胸は鳩のように膨らみます。
薔薇の香水を少しでもつけすぎると、
うっとうしく重苦しく胸につかえるのに、
こうした生花だといくらあっても、
瑞々しく甘く蠱惑的に感じられるのはなぜでしょう?
塀から飛び出るように枝を伸ばしているクリーム色の薔薇。
思わず誘われたように顔を寄せると、
目の前にひとりのおばあさんの姿がありました。
手に断ちバサミを持って、
薔薇を抱えた小さなおばあさんです。
『こんにちは。綺麗な薔薇ですね。』
私が声をかけると、おばあさんは、ほんのり微笑みました。

しわだらけの猿のような顔。
でもなぜかおばあさんは、薔薇の花がよく似合ってました。
『これは命の花だから。』
おばあさんは薔薇を一輪差し出しました。
私は手を伸ばして受け取ろうとしましたが、
その薔薇は、まるで私を拒むかのように、
触れる前にしおしおと枯れ、
夢のように風に散らされてしまいました。
私は驚いて目を見張りました。
 クスクスクス・・・。
おばあさんは、幼い童女のような笑いをこぼします。
それは、はらはらと零れ落ちる薔薇の花びらのようでもありました。


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: