「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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小説 こにゃん日記
命が乗る船
今日の小説は、その子にこっそり捧げます(^^)
『命が乗る船』
天国の船着場は今日も大騒ぎでした。
『カエデ町行きの船はこっちですよぉ。』
『朝日町はこっちです。』
『ほ~い。白浜村の船が出航しま~す。』
金の冠と透き通った翼を持った天使達が、これから生まれる命たちを、地上行きの船につぎつぎと乗せています。
小さな命たちはお行儀良く、天使達のあとについて、それぞれの船に並んで乗っていきました。
『私のお父さんは、南の島の王様なのよ。』
『僕のお母さんは、とっても美味しいケーキが焼けるんだ。』
『僕のお父さんは靴屋だ。町中で一番素敵な靴を作れるんだ。』
『私のお母さんは、とっても綺麗な声で歌を歌っているのよ。』
小さな命たちは、わいわいがやがや嬉しそうです。
だってこれから、お父さんやお母さんに会えるんです。
お父さんはどんな人でしょう?
お母さんは優しく抱きしめてくれるでしょうか?
お兄さんやお姉さんはいるのでしょうか?
みんなの想像はふくらみます。
その中で、ふたつ、泣きべそをかいている命がありました。
『どうしたの?』
空色の翼を持った天使が、ふわりと飛んできてたずねました。
『僕たち、別々の船に乗りたくないんです。』
『天国でも、ずうっと一緒だったから、だから、地上でも一緒にいたいんです。』
空色の天使は優しく言いました。
『大丈夫。
その気持ちが魂のずうっと奥に残って、たとえ、地上に降りて、天国のことをみんな忘れてしまっても、いつかはふたりめぐり会えるよ。』
『でも、私たち、今まで一度も離れたことはないんです。
離れ離れになるのは悲しくてたまりません。』
『お母さんやお父さんに会いたくないの?
この船に乗らなければ、もう二度と会えなくなるんだよ。』
天使はふたりに尋ねました。
ふたりは涙をぼろぼろとこぼしました。
それでも抱き合った腕を離そうとはしません。
天使はふたりが可哀想になりました。
天使はしばらくどうしようかと悩んでいるようでした。
『じゃあふたりとも、同じ船においで。』
何か考えついたのでしょうか?
天使はにこにこと嬉しそうです。
空色の天使は、ふたりを同じ船に乗せました。
ふたりはしっかりと手をつなぎ、もう片方の手で、いつまでも空色の天使に手を振って行きました。
ふたりを乗せた船が、天国を出ようとしたとき、桃色の翼を持った天使が来ました。
『あの子たちはどうなるんだい。』
『あの子たちは、双子として生まれるんだよ。』
そこへ、みかん色の翼の天使が来て言いました。
『困るよ。あの子が生まれてくるのを待っているお母さんがいるのに。』
『大丈夫。』空色の天使が言いました。
『その船にはわたしが乗るから。』
天使たちはびっくりして、みんなで空色の天使を止めました。
『地上は天国と違って、いろんな病気や悪いことがあるよ。
わたしたちは、天使に生まれて、こうしてかみさまの御許で、幸せに自分たちの仕事をして暮らしてる。
でも、地上は、かみさまの心もあるけど、あくまの心もあるんだよ。』
空色の天使はきっぱりと言いました。
『でも、毎日毎日心待ちにしているお母さんを、がっかりさせたりできないよ。
それに・・・。』
空色の天使はちょっぴり恥ずかしそうに笑いました。
『ここで仕事をしているうちに、わたしもお母さんが欲しくなったんだよ。』
天の船がまた一艘出航していきます。
空にはキラキラと天の川が流れ、船をゆっくりと押し流していきました。
『さようなら、さようなら。』
命たちは、天国に向って口々に叫びます。
いつも遊んだ蜜の流れる花園。
鳥の歌声や仲良く戯れる動物たち。
『さようなら、さようなら。』
天国では、天使たちの透き通った歌声が星星をめぐらせ、かみさまはいつも、暖かい膝に抱き上げて頭をなでてくれました。
船が星の波をかき分けると、シャランシャランと涼やかな音楽が響きました。
それはお別れの歌でしょうか?
それとも祝福の音楽でしょうか?
病院でまたひとり赤ちゃんが生まれました。
『良くがんばったね。』
お医者さんがうなずきます。
『赤ちゃん抱いてあげましょうね。』
看護婦さんが、小さなほかほかの赤ん坊を、そっとお母さんの胸に置きました。
『どれどれ、お父さんだぞう。』
心配が去ってほっとしたお父さんが、顔中くしゃくしゃにして覗き込みます。
『あら?』
お母さんが不思議そうに、赤ちゃんを見つめました。
『どうしたんだ?』
お父さんもあわてたように、赤ちゃんとお母さんを見ました。
『ううん。
あのね。
この子の背中に翼が見えた気がしたの。』
お父さんが目を細めて言いました。
『僕には、この子の頭に金の冠が見えたよ。
僕たちのお姫様の天使だからかな。』
お父さんとお母さんはにっこり微笑みあいました。
窓からお月様が、そっと覗いて安心したように、ほんのり輝いておりました。
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