小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

ドロップ ドロップ



ドロップの缶を傾けて、中から宝石のようにキラキラした塊を取り出した。
オレンジ、イチゴ、メロン味。
レモンに、ミントに、チョコレート。
ひとつずつ大事に食べていたけど、もうこれで最後の一個だ。

缶を振ると、からからと楽しげな音。
その音を楽しみながら、スキップを踏み踏み公園に向う。

『おい僕にも飴よこせよ。』

まずい・・・おにいちゃんに見つかっちゃった。

『お兄ちゃんも、ドロップの缶貰ったでしょ。』
『もうとっくに食べちゃったよ。よこせよ。』

そういうなり、お兄ちゃんは私から無理やりドロップの缶を奪い取った。

『返して!最後の1個なんだよ!特別なドロップなんだよ!』

お兄ちゃんは、ニヤニヤしながらドロップの缶を持った手を高く上げた。
私はサンダルのかかとを精一杯上げて、爪先立ちになる。
もう少しで手が届きそうだ。

『えいっ!』

思い切ってジャンプしたら、ドロップの缶に手が触れた。

    ドン!

『あっ!』

私は、お兄ちゃんに突き飛ばされて、思いっきりしりもちをついてしまった。
お尻が痛い。
でも、もっと他の部分が痛くなって、私の目がジンと熱くなった。

『お兄ちゃんの馬鹿!』

お兄ちゃんは私が馬鹿といったとたん、ものすごく怒った顔をした。
そして、ドロップの缶を開けると、中身も見ずにからりと口に傾けた。

『うまい!』

お兄ちゃんは私を見下ろしながら、自慢げにそう言った。

『これは何の味だろ?ヒヤッとしてるからミント?
う~ん。ちょっと違うぞ。
ちょっぴりすっぱいからレモンかな?
なんだかりんごみたいな匂いもする・・・。』

お兄ちゃんは、ドロップの味をあてようと一生懸命だ。

『それはお星さまなんだよ。』

私は、顔中くしゃくしゃにしながらおにいちゃんに言った。

『ぷっ!』

お兄ちゃんはいきなり噴出した。
それからげらげら笑い出した。

『お前って本当に馬鹿だな。』

お兄ちゃんは笑って、笑って、それからひゅっ吐息を吸い込んだと思ったら、目をぐるぐる回しながら喉を押さえた。

『やべ。飲み込んじゃった!』

お兄ちゃんは、おなかを二つ折りにしながら、喉をげこげこ鳴らして苦しみ始めた。
お兄ちゃんの息がヒューヒュー鳴った。
お兄ちゃんの顔が赤くなり、それから青くなり、終いには紙のように白くなっていった。
お兄ちゃんの膝が、がくんと地面に落ちた。
私は怖くなって、お兄ちゃんにしがみついた。

『お兄ちゃんしっかりして!』

そのとたん、お兄ちゃんの喉からけくっと音がした。
そして、お兄ちゃんの顔色はたちまち元に戻っていった。

『ふう。苦しかった・・・。』

それから、泣きべそをかいてる私を見て、なんだか困ったような顔をした。

『お兄ちゃん大丈夫?』
『ああ・・・。』

だけど、お兄ちゃんはちっとも大丈夫じゃなかった。

『あれれ?なんだか、おなかが暖かいぞ。』

お兄ちゃんは、シャツを捲り上げて、自分のおなかを見た。
おなかは、蛍のお尻のように、ぽおっと光っていた。

『なんだ?何でおなかが光るんだよ。』

お兄ちゃんはぎょっとして、おなかを押さえたリ、さすってみたりしている。

『だからお星さまだって言ったのに。』

私は残念だった。
お星さまをせっかく、お日様の下の公園に案内しようと思っていたのに。
お兄ちゃんのおなかの中なんて、真っ暗で、夜空と何も変わらない。
ただずうっと狭いだけだ。



それから1週間。
お兄ちゃんのおなかは輝き続け、お兄ちゃんは私の姿を見ると一目散に逃げ続けた。
私がおにいちゃんに向って、願いを3回唱えると、
お兄ちゃんは必ず叶えなくっちゃいけないからだ。




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