趣味の漢詩と日本文学

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June 28, 2008
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カテゴリ: 漢詩・漢文
湘中憶歸 劉長卿
終日空理棹、經年猶別家。
頃來行已遠、彌覺天無涯。
白雲意自深、滄海夢難隔。
迢遞萬里帆、飄■(「楓」の「木」と「搖」の右側を入れ換えた字。ヨウ)一行客。
獨憐西江外、遠寄風波裏。
平湖流楚天、孤雁渡湘水。
湘流澹澹空愁予、猿啼啾啾滿南楚。
扁舟泊處聞此聲、江客相看涙如雨。

【訓読文】
湘中にして帰らんことを憶ふ。
終日空しく棹を理め、年を経れども猶ほ家に別れたり。
頃来(このごろ)行くこと已に遠く、弥(いよいよ)天の涯(はて)無きことを覚る。
白雲意自から深く、滄海夢隔て難し。
迢遞たり万里の帆、飄■(ヨウ)たり一行の客。
独り憐ぶ西江の外、遠く寄す風波の裏(うち)。
平湖楚天に流れ、孤雁湘水を渡る。
湘流澹澹として空しく予(われ)を愁へしめ、猿啼啾啾として南楚に満つ。
扁舟泊る処此の声を聞き、江客相看て涙雨のごとし。
【注】乾元二(七五九)年秋、左遷されて南巴に赴く途中の作。

○憶帰 故郷に帰ることをふ。
終日空しく
○理棹 舟の櫂を操る。
○経年 何年も経過する。
○猶 依然として。

○弥 ますます。
○涯 はて。
○白雲 空に浮かぶ白い雲。自由なもののたとえ。
○滄海 青海原。
○迢遞 遥かに遠いさま。
○万里 非常に遠い距離。
○飄■(ヨウ) さすらうさま。
○一行客 一緒に旅に出た一団の旅人。同船者であろう。
○西江 雲南省沾益県馬雄山に発する川。珠江の主流。作者の左遷される潘州南巴県は西江の南にある。
○風波 強い風と荒い波。
○平湖 楚天に流れ、孤雁湘水を渡る。
○湘流 湘水の流れ。
○澹澹 水が揺れ動くさま。
○猿啼 サルの鳴き声。
○啾啾 鳴き声のさびしくあわれなようす。
○南楚 長江中下流流域一帯。戦国時代に楚の国があった。
○扁舟 小舟。
○此声 カリやサルの声。
○江客 川を旅する者。
○涙如雨 雨のようにぽろぽろと涙が流れる。
【訳】
湘中においていつか故郷に帰ることを夢みる詩。
一日舟で川くだり、故郷はなれて、はやいく年。
このごろ左遷の目に遇って、さらに故郷が遠くなり、ますます天に果ての無いこと実感することよ。
わが身が空の雲ならば遠い故郷もひとっ飛び、青い海原ひろがれど帰郷の夢は忘られず。
遥か遠くを目指す舟、波にゆられてさすらわん。
ああ西江のかなたへと、向かう我が身は強風と荒波の立つその中ぞ。
平湖流れるそのむこう、楚国の空は広がって、折しも一羽のカリガネが湘水の上を飛び渡る。
湘江流れゆらゆらと私の心しょんぼりと、猿の鳴き声キイキイと寂しさ添えて楚に響く。
わが乗る小舟泊るとき岸の猿声、空の雁その鳴き声は悲しげで、舟の一行お互いに顔見合わせて泣くばかり。





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Last updated  June 28, 2008 08:56:46 AM
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