全6件 (6件中 1-6件目)
1
2019年全日本フィギュアの目玉は、なんといっても高橋大輔選手の復帰だろう。彼が現役復帰したことで、普段なら静かな地方大会までが、集結した大ちゃんファンの熱気に包まれていた。引退して何年も経っているというのに、この集客力には目を見張るものがある。今回の高橋選手の全日本での演技、一言で言えば、「いや~、いいもの見せてもらいました」。同時に現役の選手に欠けているもの、今のルールの偏りも改めて認識した気がする。ショートの「シェルタリングスカイ」は、高橋選手の代表作の1つになるであろう傑出した出来。シンプルだが官能的な旋律が、高橋選手のパフォーマンスによって、より情感を持ってこちらに迫ってきた。彼の動きを見ていると、いかに今の選手たちが上半身棒立ちで、腕だけグルグル動かしているだけかということがよく分かる。高橋選手は腰から上半身を大きく動かし、さらに首から上ではまったく違う方向のモーションを加えたりする。それだけ言えばダンサーのテクニックなのかもしれないが、高橋大輔はやはり一義的にはフィギュアスケーター。それも一流中の一流のスケーターだ。深いエッジを使いながら、時に伸び伸びと時に細やかに滑りつつ、上半身の複雑で華麗な動作を有機的にまとめている。音楽がその動きを引き立てるが、高橋選手の動きがまた音楽を引き立てる。その相乗効果が観客の心を奪う。ショートの流麗なステップシーケンスに入る前の、両手を天に向かって大きく広げる一瞬の仕草が、フリーのコレオシーケンス冒頭のスタイリッシュな動きが、脳裏に焼き付いて離れない。こんな選手は、やはりどこにもいない。現行のルールは、ジャンプとスピンに重点が置かれている。いかに難しい入り方をし、いかに回り切り、いかに素早く次のモーションに入るかでGOEが付けられるジャンプ。一定のポジションをキープしながら規定数をしっかり回り切ることを重視するスピン。これらは、客観的に採点をする、その判断基準としては優れていると思うが、回転に重きを置くということは、選手としてのピークが早くなることでもある。「20歳すぎると、ジャンプやスピンの技術が落ちてしまう」とは、町田樹氏の言葉だが、まさにその通り。シングル選手のピークは明らかに以前より早くなった。女子などは、ジュニアからシニアに上がった、その1年目が技術的には一番安定しているといった様相になり、その「少女潮流」はとどまることをしらない。ロシアの女子が、現状を最も端的に示している。ザギトワが完璧な演技で五輪女王に輝いてから、まだ1年も経っていない。それなのに、国内大会で表彰台に立てなかった。そのたった1年前、無敵の強さを誇っていたメドヴェージェワ選手は、ジャンプの失敗やスピンのレベルの取りこぼしを繰り返している。今年のロシアの国内選手権で台のりしたのは、幼い体形の少女たち。より多く回転するジャンプ、より速く正確に回るスピン。こうしたフィギュアスケートのスポーツ面を重視すれば、女子の場合は特に、体も軽く、恐怖心もあまりないローティーンが強くなる。それはそれで客観的な採点を旨とするスポーツ競技としては、十分に「アリ」な話だろう。だが、それでは、フィギュアスケートの将来は? この競技の持っていた芸術的な側面はどうなるのだろう? 15歳でピークを迎え、20歳でもう引退する競技に、ファンは身体表現が生み出す芸術性を見出しうるだろうか? フィギュアスケートを見る楽しみの1つは、選手の成長を見守るという点にある。去年より滑りに味が出てきた。去年より表現に深みが増した――ソチの女王だったソトニコワ選手も、団体金の貢献したリプニツカヤ選手も、そういった「成長」のもたらす感動を観客と分かち合う前に、心身の問題で第一線から消えていった。今のままのルールが続けば、平昌の女王も、北京の女王もおそらく同じ運命だ。数年後には、人々は次々に出てくる優れた若い選手を見るうち、いつの間にか表舞台から姿を消した、前の五輪の女王の名前さえ思い出せなくなる。高橋大輔のパフォーマンスは、こうした現在の潮流に警鐘を鳴らすものだった。宇野昌磨選手は現役トップ選手の中では、最も表現力の優れた選手だ。それでも、高橋大輔選手の圧巻の情感表現の前ではかすんでしまった。高難度ジャンプと難しいポジションでのスピンは素晴らしかったが、芸術性では、やはり高橋選手の右に出る者はいない。高橋選手のフリーのコレオシーケンス(レベルは一定)のGEOで「5」が並んだことで、本田武史氏は、「3回転ジャンプ1つ分」になった説明した。それだけ得難い評価を得たということなのだが、逆に言えば、コレオシーケンスでここまで評価されても、たったそれだけの点にしかならない。だったら、点を伸ばすためには、4回転ジャンプの練習をひたすらしたほうがいい。これでは、より高く・遠くへ跳び、速く回れる選手は出ても、ステップやスケーティングをもって生み出す情感表現で人々の心をわしづかみにするトップ選手は育ってこない。ダンス表現は体全体を使うから、体力も当然使う。今のルールは、「やらなくてはいけない条件」が細かく規定されているので、それをクリアするために選手たちは体力を使い果たしている。当然、プラスアルファの身体表現まで回らないから、「表現力」はカッコいい一瞬のポーズや表情に頼りがちになる。高橋選手が今回見せてくれた、深いエッジを使った華麗なスケーティングと、体全体で表現するエモーション、その芸術性。彼は過去の選手ではない。フィギュアスケートの可能性、「今の延長」とは違う未来を見せてくれる選手だ。
2018.12.28
今年のフィギュアスケートのフリーは見ごたえ十分だった。優勝候補の選手たちは皆素晴らしいパフォーマンスをやってのけ、最後まで誰が勝つのか分からなかった。キチガイみたいに厳しい回転不足の判定もなく、点数の出方も分かりやすい。演技構成点は紀平選手のSS(スケートの技術)をもう少し出しておいたほうがよかったように思うが、宮原75.09、坂本73.25、紀平72.06という上位3人に対する採点は、宮原選手の細部まで行き届いた成熟した表現力を最も高く評価し、坂本選手の勢いとしなやかさの向上を認め、紀平選手はややジャンプにばかり意識がいっていたところを辛く見られたと解釈できる、個人的には点差も含めて妥当で良い採点だったと思う。総合4位の三原選手69.77点、5位の樋口選手66.22点と、メダル圏内の3人と露骨に70点ラインで線引きがあるのはいただけないが、このごろの演技構成点は技術点の出方によって露骨に上がったり下がったりするので、三原選手や樋口選手が上位3人と明確に実力差ができたという話ではないと思う。また、来季の頑張りで評価は変わってくるだろう。紀平選手はショートでトリプルアクセル失敗と、3+3が3+2になってしまったという2つのジャンプの大失敗が尾を引いてしまった。トリプルアクセル自体はコケたとはいえ、認定してもらっているので基礎点は入っている。問題は次のジャンプ。これを3+3にできなかったのが、なんといっても痛かった。坂本選手は、すべてのジャンプを高次元の質でまとめてみせた。3+3の大きさやスピード、流れの素晴らしさは、テレビでも何度もリピートされているので繰り返さないが、あまり取り上げられていないが凄い、と思うジャンプが単独のループだ。あの難しい入り方でジャンプに入り、しかも跳ぶ直前の構えが非常に短い。滑りながらの回転動作がそのまま空中での回転に移動するようなマジカルなジャンプで、ジャンプそのものに飛距離も高さもある。ループは、たいていの選手は、跳ぶ前に一瞬流れが止まるし、構えてしまって姿勢が前傾になる人が多い。坂本選手のループは、あまりにスムーズで美しい。GOEで「5」もあるが、当然だと思う。この加点の付くジャンプを後半に入れて、ショートでは5.39点の基礎点に対し7.35点、フリーでは7.14点という点を叩き出している。単独ループとしては破格の得点と言っていいだろう。ショートに基礎点の高いルッツを入れずに高得点を出すのは、連続ジャンプの素晴らしさと同時に、ループの凄さもあるというのは強調しておきたい。逆に世界女王を睨んだ時、不安になるのがルッツのエッジ。坂本選手はフリーに1回しかルッツを入れないが、エッジ違反判定はほぼお決まり状態。問題は「!」でとどまってくれるか、「E」になってしまうか。今回の全日本フリーのルッツはアテンション「!」判定で、スロー再生がなかったが、録画を何度かリピートしてみると、どうもインに入ってしまっている――つまりE判定になってしまっても文句は言えない踏み切りだった。過去の坂本選手のルッツに対する判定を見ると平昌五輪 E判定 GOEは-2~0で、-1が多い。得点は基礎点4.62に対し4.02スケートアメリカ !判定 GOEは-2~0で、0が多い。得点は基礎点5.9に対し5.65ヘルシンキ E判定 GOEは-2~0で、-1が多い。得点は基礎点4.43に対し3.99ファイナル 認定 GOEは1~4で3が多い。得点は基礎点5.9に対し7.59全日本 !判定 GOEは-2~2で0が多い。得点は5.9に対し6.07と一貫しないが、ファイナルで認定されたのは、まぁ、判定するカメラの位置のせい――もっと率直に言えば見逃しだろうと思う。認定されれば加点が多く付く質のジャンプだが、逆にE判定をくらうと、相当に減点がきつい。!判定なら全日本のように無理やり加点ジャンプにすることもできるが、それは好意的な採点で、通常は減点ジャンプになってしまうと考えるべきだろう。Eか!かによって、得られる得点は、4点から6点ぐらいの幅がある。それでも、エッジを気にしてしまって失敗すると元も子もない――全日本フリーでの宮原選手のフリップ失敗は、「!」判定にならないよう気にしてしまったことが背景にあるように思う――から、これまでのように思い切って跳ぶしかない。E判定でも、失敗さえしなければ4点ぐらいは入る。!判定なら5.5点ぐらい(全日本の6.07はオマケしすぎ)。ルッツのエッジが不安でも、坂本選手には凄い加点の付くループがある。今回の優勝は、多分に紀平選手のショートの2つの大きな失敗に助けられたという側面はあるが、試合では、何が起こるか分からないのだ。ロシアの国内選手権でも、ショートで完璧な演技を見せたザギトワ選手がフリーで大崩れした。聞けば飛行機で移動する予定が、悪天候のため寝台車での移動を余儀なくされたという。今回の優勝を自信に、坂本選手にはワールドでも素晴らしいパフォーマンスをしてほしいと願う。幸い次のワールドの舞台は日本。だいたいオリンピックの翌年は、世界大会でもジャッジは日本人選手に好意的だ(そこで期待をもたせ、衆目を集めたあと、あーら不思議、五輪前になるとなぜか点が出なくなる)。だが、そんな「大人の事情」には関係なく、一度でもワールドで金メダルを取れば、その後の人生が変わる。紀平選手だけではなく坂本選手にとっても、そしてもちろん、宮原選手にもチャンスはある。頑張って欲しい。
2018.12.24
本田真凜選手のスター性については、Mizumizuは早くから注目していた。五輪前にはスポンサーもどっさりついて、お膳立てもバッチリ。あとは本人の「成長」を待つばかりだったのが、五輪シーズンに失速し、代表に選ばれなかったのは周知のとおり。飛躍を期して渡米したが、今シーズンも今のところ鳴かず飛ばすの状態だ。ところが、ネット上に出てくる記事には、それなりの活躍をしている坂本選手や三原選手を無視して、「本田真凜 復活へ…見えた変化『嫌い』なスピンで最高評価」だとか「紀平梨花に本田真凜は追いつくことができるのか」などといった提灯持ちライターの的外れな持ち上げが目につく。スピンに関しては、宮原選手だって、三原選手だって、坂本選手だって、最高評価のレベル4をずらりと並べている。取りこぼしはわずかだ。わざわざ記事にするほど突出したことではない。対・紀平選手に関しては、上記の記事を執筆した折山淑美氏によれば、今の本田選手は新しい環境に慣れていないだけで、練習環境に慣れ、嫌いな練習に我慢して取り組めば、紀平選手と十分競うことができるという結論だが、成績がのびない理由の筆頭に挙げられるジャンプの回転不足は、特に体の成長と体形変化が絡んでくる時期の女子は、環境の慣れや練習だけでは克服できない場合が多いのだ。そもそも、これほど成績がぱっとしない本田選手を引き合いに出すのなら、宮原選手だって、三原選手だって、坂本選手だって、十分に紀平選手に追いつける可能性はあるし、今はそちらの可能性のが高いだろう。今はライターの記事に一般人のコメントがつけられるものも多いから、それにも着目しているが、本田真凜選手に関しては、ライターの的外れぶりを指摘するきついコメントが多い。それだけならともかく、本田選手のすべてを頭から否定するような感情的な「悪口」も。明らかに、ライターの持ち上げが本田真凜の「アンチ」を増やしている。今季の本田真凜選手の演技をいくつか見たが、やはりスター性は十分な逸材だと思う。お金をかけた華やかな衣装が実に似合う。演技の入るときの自信にあふれた顔つきは、「演じることが好き」「見てもらうことが好き」な彼女の性格をよく示しており、演技中の楽しそうな表情は、見るものを幸せな気分にさせる。スケーティングにも天性の音楽性が溢れている。フィギュアスケートの観客は、テレビ中継で客席を見ると分かるが、年齢層の高い女性が主だ。チケット代が高いということもあるだろうが、もう少し若い人たちの観戦を増やしたい。本田真凜のアイドル性は、若い男性にファン層を広げてくれるのではないかと期待したい。だが、成績が伴わなければ、いくら華があっても高いチケット代を出してまで見たいというファンは増えない。本田選手の今の問題は、なんといってもジャンプにある。女子選手の多くを苦しめる回転不足問題だ。プロトコルを見ると、本田選手の回転不足の多さがいやでも目につく。特に、3回転+3回転に関しては絶望的だ。いや、それどころか3回転+2回転の連続ジャンプさえあやうい。今のところなんとか光明を見て取れるのは2A+3Tだけで、もっと言ってしまうと、単独の3回転にさえ不安がある。アメリカ大会はアクシデントがあったようだが、それにしても…ショート3Lo+3T<3F<フリー3Lz+3T<< 3F< (!)3S<1A+3T<3F<+2T+2T<(!)フランス大会ショート3Lo<+3T<フリー(3ルッツ/3フリップ+3回転は回避)3Lo<2F+2T<+2Lo<このとき回転不足やエッジ違反などの減点がなかった連続ジャンプは3F+2T2A+3T言葉を失ってしまうほど深刻な状態だ。ジュニアのころには跳べたけれど、シニアになって体が成長したら跳べなくなる典型のパターンで、これをこれからまた体形が変化する時期に立て直していくのは本当に難しい。特にバカげているのは、ショートで3ループに3回転をつけているところ。3ルッツ/3フリップからの3回転連続が跳べなくなっているからだろう、というのは容易に想像できるが、ループというのは、これまでのジャッジの傾向から見ても、回転不足が取られやすく非常に危険なジャンプだ。今季のルール改正で、回転不足の範囲が少しだけだが広がり、さらに厳しく取られる条件がそろっている。事実、男子でも、羽生選手やチェン選手など、これまで回転不足をあまり取られなかった選手のジャンプでも、少し足りないまま軸が傾いたまま降りてしまったジャンプにはアンダーローテーション(<)がついている。ザギトワ選手のループの3+3も同様、ロシア大会で回転不足を取られている。本田選手の3Lo+3Tは、ショートでは認定ゼロ。単独のループさえアンダーローテーション判定されている。フリップからの連続ジャンプも3連続になると認定ゼロ。3F<+2T+2T<2F+2T<+2Lo<これでは、わざわざ3回跳んで、減点してくださいと言ってるようなものだ。最後の2回転ジャンプなどつけても大した点にはならない。世界トップを競い合う状態なら2回転ジャンプ1つの点でも重要になってくるが、「ファイナルに出られるかどうか」の線上にいる選手には、3連続を「跳んで見せる」ことより、まずは2連続ジャンプのセカンド2回転であっても確実に回り切ることが大事だろう。今はショートから3回転+3回転を跳ばないと優勝争いには絡めない。だが、本田選手の今の状態は、とても3+3レベルではない。ならば、一見きれいに見えて、ほぼ確実に回転が足りていない3ループ+3トゥループなどやめて、ショートでは3フリップ+2トゥループにレベルを落とし、まずは確実に回り切るところをジャッジに見せなくてはダメだ。このまま続けて、どこかの試合で甘い判定があったとしても、確率からしたら、「跳べていない」状態であることは明らか。そして、フリーでは2A+3Tを「活用」する。3連続はあぶないので、とりあえずは確実に2連続のみに。全日本では、いったんそれで認定具合を見てはどうだろう。Mizumizuがアルトゥニアンコーチを一貫して評価しないのは、彼の「回転不足判定軽視」の姿勢があまりにあからさまだから。最も印象に残っているのは、リッポン選手がどこからどうみてもダウングレード判定の、4回転ルッツを「降りた」ときのアルトゥニアンコーチのはしゃぎぶりだ。解説は当時、本田武史氏で、「完全に反対向きに降りてしまっている。ダウングレードでしょう」と残念そうに言っていたが、リッポンとアルトゥニアンはキス&クライで手に手を取り合って喜んでいた。旧採点時代なら、コケずに高難度のジャンプを降りれば快挙だっただろうし、明らかにダウングレード判定されるほどの回転不足でもコケなかったのはある意味たいしたものだが、現行の回転不足を重く減点するルールになって、すでに長年たっていた。それなのに、誰が見ても大幅な回転不足の4ルッツを「降りた」からといって、選手と一緒にはしゃいで見せるというのは一体どういうことなのか。女子のワグナー選手に関しても、Mizumizuは、ルッツのエッジと3+3の回転不足判定のブレ――すなわち、アメリカの国内大会ではひどく甘く判定され、そのままワールドに来ると、突然判定が厳しくなること――への疑問を呈してきた。ワグナー選手は素晴らしい選手だが、エッジと3+3には、どうにもスッキリしない部分があるのは、テレビで観戦していても感じていた。アルトゥニアンは、「ジャッジは時々(回転不足を)見る。時々見ない」といった発言をしていて、確かに現実はその通りなのだが、「時々見ない」ことを期待して高難度ジャンプを組み入れたら、どこかで破綻するのは明らかだ。その点、ミーシンコーチは回転不足を非常に重く見て選手を指導している。トゥクタミシェワ選手が3ルッツ+3トゥループを跳べるにもかかわらず(しかも、決まればかなりの加点が期待できる)、ショートでは3トゥループ+3トゥループできているのはそういうことだ。ミーシン門下の選手は、ジャンプが非常にクリーンだ。本田真凜選手に今必要なのは、いったんジャンプの難度を落とすことだろう。確実に跳べるジャンプ構成でクリーンに滑ってこそ、世界のトップに返り咲く道がひらける。
2018.12.17
2018年グランプリファイナル、女子シングルフリーの視聴率は22.6%だったらしい。生放送ではなく、すでに浅田真央以来の快挙とテレビニュースでさかんに宣伝されていたことも、この高視聴率に一役買っただろう。やはり自国の選手が強ければ、皆「じゃあ、見てみようか」となる。羽生選手の欠場で視聴率ガタ落ちを心配した関係者は、胸をなでおろしたに違いない。しかし、ファイナルのリンクの壁を見ていて、Mizumizuは一種の失望を感じた。並んでいるスポンサー名は日本企業だらけ。在日系が純粋な日本企業といえるかどうかという視点はあるだろうが、とりあえず日本国に本社をおく日本企業以外は、フランスの化粧品メ―カーの名前が2つばかり見えるだけだ。https://skatecanada.ca/2018-isu-grand-prix-of-figure-skating-final/ここにスポンサー名があるが、ISUのオフィシャルパートナーは、アコム、バンダイ、キヤノン、シチズン、ジャパネット、木下グループ、コーセー、マルハン、Guinot(ギノー)、Mary Cohr(マリーコール)。日本企業をスポンサーに引き込んだ関係者の努力には敬意を払うし、多くの日本企業がフィギュアスケートをサポートしてくれるのはありがたい話だが、あまりにも他国企業のサポートがないではないか。この事実が、日本以外でのフィギュアスケート人気の凋落を物語っているように思う。今回だって、紀平選手が活躍し、結果として勝ったから視聴率がのびたが、優勝がロシア女子だったら、22.6%なんて数字には届かなかっただろうし、視聴率が悪ければ、スポンサーも次第に離れていく。フィギュアスケートの華、女子シングルで日本女子選手がファイナルに3人も入ったのは、確かに素晴らしいが、他はロシアだけ。北米もロシア以外のヨーロッパもゼロというのは、それだけこれらの国々で、人々がフィギュアに興味を示さなくなっていることの証しのように思う。そりゃ、そうだろう。こんなあからさまな採点を何年も続けていれば、ファンは離れていく。日本には浅田選手引退後、羽生結弦という不世出のスターがいたから人気は保たれたが、女子のほうには世界トップを自力で狙えるような選手はいなかった。このファイナルで、シニアに上がったばかりの紀平選手が素晴らしい演技をしても、やや微妙だった連続ジャンプで回転不足を取られたり(よくある話だ)、GOEで思ったほど加点がつかなかったり(よくある話だ)、演技構成点が思ったほどののびず(よくある話だ)、「やはり、まだ子供っぽいですねぇ」「ザギトワ選手は若いけれど、大人の雰囲気があります」などと後付けのつじつま合わせを聞くハメになっていたら、人々はテレビの試合を見なかっただろうし、優勝を受けてのメディアの熱狂もなかった。紀平選手は、確かに素晴らしい才能があり、素晴らしい演技をしたが、それだけで点は出ないことは、この競技を見ているファンならもうとっくに知っている。「流れ」が紀平選手に来た、という言い方が一番穏当だろうが、うまいこと段取り通りにいった、という穿った見方もできる。紀平選手には、このまま流れにのっていってほしいし、連盟もそれをサポートしてほしい。だが、それとは別に、日本企業以外にほとんど公式スポンサーが付かない競技って何だろう、と思わずにはいられない。紀平選手が出たことで、日本での視聴率はひとまず安泰だろう。紀平VSザギトワでメディアが過剰なまでに煽り、視聴率アゲに走ることは目に見えているし、自国に強い選手がいれば、人々の注目も集まる。だが、この先は? 明らかにスター選手頼みのフィギュアスケート人気は、いつまで続くのだろう?メディアは今、「すでに浅田真央をしのぐ紀平」などと、盛り上げるのに必死だが、日本女子シングル史上最高の人気を誇った浅田真央をいちいち引き合いに出し、「彼女よりスゴイ」などというストーリーにもっていって衆目を集めようとするのは明らかに逆効果で、かえって紀平選手の「アンチ」を増やすだけだ。個人がそれぞれ自由に意見を発信できるネット社会の今、個人はマスメディアの思うようには動かない。
2018.12.15
今回のファイナルで3位に食い込んだトゥクタミシェワ選手の復活には脱帽するしかない。フリップ、ルッツともクリーンにエッジの使い分けができ、ジャンプも高さのある素晴らしい質。この選手がオリンピックに出場経験がないというのは、本当に信じられない。ロシア女子の層の厚さに加えて、4年に一度の最高の舞台に、ただでさえ選手生命の短い女子がタイミングを合わせる難しさを改めて思う。ショートでトリプルアクセルを入れることのできるトゥクタミシェワ選手。だが、3+3回転がトゥループ+トゥループというのは、どうしても今の世界トップの女子の中では見劣りする。ショートでトゥループ+トゥループを跳んで勝てたのはソチまでだ。今世界一を目指すなら、ショートに3ルッツ(もしくは3フリップ)からの3回転連続が欲しい。ファイナルのフリーでは、トゥクタミシェワ選手は3ルッツ+3トゥループを見事に決めて高い加点を得ている。グランプリシリーズでは失敗もあったから、決められる確率からいうと3トゥループ+3トゥループのほうが高いのだろうということが察せられる。事実、ファイナルのフリーの3ルッツ+3トゥループ、最後に片足にのってから跳び上がるまでがやや長い。慎重に跳びにいっているなという印象。単独の3ルッツだと、あっという間に跳んでしまう。高さのあるジャンプの質といい、エッジの明確さといい、思わず、「う~ん、素晴らしい」と唸ってしまう。紀平選手のファイナルのフリーの3ルッツ+3トゥループは、最後に片足にのってから跳び上がるまでが非常に速く、加点がつくのもうなずけるジャンプだ。ただ、セカンドの3トゥループの回転が少しだけ不安といえば不安。グランプリシリーズで回転不足を取られたこともあったように思う。今回のトゥクタミシェワ選手のグランプリシリーズでの目標は、復活の足掛かりをつかむことだったと思うから、ショートは従来どおり、3トゥループ+3トゥループで確実にいったのだろうけれども、世界トップを目指せるということがはっきりした以上、やはりショートには3ルッツ+3トゥループを入れて欲しい。実際、ファイナルのプロトコルを見ると、フリーで決めた3ルッツ+3トゥループには、高い加点もついており、決めれば3トゥループ+3トゥループより点数が稼げることは実証済みだ。ワールドで是非、トゥクタミシェワ選手の3ルッツ+3トゥループを見たいと思う。そうなれば、闘いはますます面白くなる。…と思ったら、肺炎で入院というニュースが飛び込んできた。ロシアの国内大会を間近に控えたこの時期に。残念、あまりに残念としか・・・・・・
2018.12.13
安藤・浅田時代が過ぎ、ロシアにやられっぱなしだった女子シングル。長らく待たれた「世界女王の器」を備えた日本人女子選手がついに現れ、その才能が思った以上に早く開花してくれた。2018年グランプリファイナルを制した紀平梨花選手だ。 エッジにイチャモンがついたり、回転不足が非常に多かったり、日本女子を苦しめるマイナスの要素を、「いまのところ」ほぼ持たない紀平選手。トリプルアクセルのことばかり注目されるが、Mizumizuが繰り返し主張してきたように、現在、女子シングル選手の女王の条件は、この難しい大技が跳べるかどうかにあるのではない。ルッツにエッジの不安がなく、連続ジャンプのセカンドにつける3回転が不足なく降りられるかどうかなのだ。 苦手なジャンプがないというのも大事になってくる。難しいルッツは得意だが、ループが不得意だとか、ルッツのエッジは大丈夫だが、フリップに中立グセがあるとかいったマイナス要素があると、現行ルールでは、たとえ大技があっても必ずしも得点はのびてこない。 今回のファイナルで表彰台に立った女子選手3人は、エッジの問題がなく、質の高いジャンプをまんべんなく跳べる優等生ばかり。スポーツとして非常に分かりやすく、解説しやすい結果となった。 まずはショート。紀平選手とザギトワ選手のジャンプ構成を見ると、3回転に関しては3ルッツ、3フリップ、セカンドには3トゥループ(紀平)、3ループ(ザギトワ)とザギトワ選手の難度がやや勝っている。だが、それはトゥループとループの基礎点の違いだけだから、差はわずか。ただ、アクセルジャンプの基礎点の差は大きい。トリプルアクセルが8点なのに対し、ダブルアクセルはわずか3.3点。いくらGOEで加点がついても、紀平選手が3Aで失敗してくれなければ、ザギトワ選手は追いつけない。 あとは演技構成点だが、このファイナルが始まる前に、佐野氏がテレビで、「紀平さんの演技構成点は上がりますから!」と、バラしてしまった!(大爆笑) このお膳立て…もとい、流れの中で、紀平選手はすべてのジャンプをきれいに決める。今回、紀平選手はトリプルアクセルを3回跳んで2回成功させた。ショートで決めたのは大きく、演技構成点の差は佐野氏の予告…じゃない、見事な予想通り、わずか0.68点に留まったこともあって、2人の点差は、アクセルジャンプの基礎点の差がほぼそのまま反映されたものになった。フリーで紀平選手は3Aを2度跳んだが、最初のジャンプで失敗している。それも、あからさまにダウングレード判定(<<)だと分かる、回転不足のまま降りてしまったから、このジャンプは2Aの失敗と同じ点で、得点は1.67点と、ないに等しい。だが、そのあとが素晴らしい。次に3Aを跳ぶなら、連続ジャンプにしなければならない。それをキチンと連続ジャンプにした。予定された3トゥループではなかったが、紀平選手は3ルッツにも3フリップにも3トゥループをつけることができるという強みがある。実際、3ルッツに3トゥループをつけて、ちゃんと回り切った。エッジにも疑問符はつかなかった。宮原選手が――先のグランプリシリーズで、普段は問題のないルッツに「!」がついたせいもあるのだろう――今回ルッツの調子を崩してしまい、さらに時々イチャモンをつけられるフリップに「!」をつけられてしまった(テレビで見てもwrong edgeではないが、中立で、ちゃんと内側にのっているかどうか疑問だった)のと対照的だ。曲の選択・振付も抜群によかった。ショートでは柔らかで清楚な雰囲気。紀平選手ののびやかなスケーティングが光っていた。フリーでは、「地球の創生」という大自然をテーマにした壮大な表現。日本女子が陥りがちな「かわいらしさ」か「大人っぽさか」といった短絡的な二者選択を絡ませない斬新な振付だった。宮原選手のような、緻密で繊細、洗練された腕の動きこそないが、ポーズを決める所作には目を惹く魅力がある。久々に日本女子シングルに現れた、世界女王にふさわしい「ルール上の欠点のない逸材」。ワールド制覇も1度は間違いない―それが今年か来年以降かはともかく。ロシアのジュニア女子のような選手層の厚さを持たない日本にとって紀平選手は貴重だ。次の五輪までは長く、果たして北京で今のようなジャンプが跳べるのかという不安はどうしてもつきまとう。クリケットクラブに送り込み、心身ともに健康でいられるよう万全のサポート体制を作るのが肝要だろう。間違ってもアルトゥニアンにつけてはいけない。
2018.12.10
全6件 (6件中 1-6件目)
1