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後回しにしていた出張が溜まっていて、今週の高速バス移動は合計2500キロ程になりそう。それでも出張で高速バスを選べるようになった点に、修羅場の1年が終わったことを実感。本音を言うと「移行組」各社の運用(特に乗車オペレーション)が心配なのだが、もう高速ツアーバス連絡協議会も解散するし、これ以上立ち入る義務はない。前にも書いたように8月1日の夜に鍛冶橋の現場を走り回らせてもらったのを「記念」として、個別の契約がある一部の会社を除き、私はもう、「移行組」各社とは無関係なのだ。とはいえ友人たち(おおむね「既存組」のバス事業者か、愛好家。そしてなぜか?愛好家というのは「既存組」のことは詳しいが旧・高速ツアーバスのことは詳しくない)からの質問で多いのは乗車オペレーションについてだ。乗合化するということで、どうも「既存組」の「座席指定制」のオペレーションを採用すると考えていた面々が少なくなさそうだ。しかし実際には「移行組」のほとんどが、高速ツアーバス時代と変わらないオペレーションを行なっている。ちなみにけっこうな数の「移行組」を受け入れたYCATなど、羽田線や県内高速バスなどの「定員制」、成田線などの「予約定員制」、西武バスなど「既存組」高速乗合バスの「座席指定制」に加え、「移行組」各社は従来通り「チェックイン型」を採用しており、さらにそのチェックイン型には「完全予約制」で申請した会社とそうでない会社が混在しているという複雑さ。しかし現場は多少のバタバタはあれど回っている。新宿地区なども、停留所名称こそ「高速バス西新宿」で統一されているが(ちなみに私の命名)、各社が用意した待合施設で必ず事前チェックインをする必要があり、ウェブ画面や予約確認メールなどでは停留所および発車時刻ではなく、待合施設の場所と集合時刻が案内されている。ここがどうも、「既存組」の運用に慣れている面々には不思議に映るらしい。この「既存組」高速乗合バスの運用(以下:乗合型)と、旧・高速ツアーバスの運用(以下:ツアー型)の差が生まれた背景はシンプルで、前者が鉄道(というかマルス)の考え方をベースにしているのに対し、後者が航空やホテル、さらには旅行業界の考え方を元にしている、というだけの話。蛇足ながら法制度上は特に運用方法について制約はなく(当たり前か)、どちらの運用が自社の商品や販路構成と合っているか、という点で選べばいい。余談だが、共同運行化する前の中央高速バス富士五湖線は、富士急便のJTB発券分のみがチェックイン型だったのは懐かしい思い出。ポイントは、「座席をいつアサインするか」という点に尽きる。乗合型が、予約時点で座席番号まで決定する(乗客に伝えるかどうかは別。きわめて例外的に一度決めた座席を事業者都合で変更するケースもあるが、その場合も必ず代替の座席を確保する)のに対し、ツアー型は、座席定員まで予約を受け付け、出発直前に事業者側が全予約をまとめてアサインするという違い。それぞれにメリットとデメリットがある。ツアー型の長所は、座席アサインが合理的にできること。乗合型のように虫食いに席が埋まることはなく、遅く予約したグループ客が離れ離れになることはない。窓側などの希望も(よほど希望が集中しない限り)反映できる。女性客は後方、男性客は前方にアサインする「女性安心」マークを「移行組」各社がそれこそ「安心」してウェブ上で表記できるのもこの運用だからだ。乗下車場所ごとに号車を分け、配車を合理化することも容易だ。さらに、それを上回る長所が販売面。旅行業界は(JTBなど「総合大手」を除き)商品を企画するホールセラーと、店舗を構え複数のホールセラーの商品を代売するリテーラーとに分かれるが、リテーラーに販売を委託する際の運用は簡単な方が喜ばれる。ツアー型だといちいち電話等で号車・座席番号のやり取りをする必要がないのだ。「移行組」の高速バスには、TDRなどテーマパークを組み込んだパッケージの一部として組み込まれている例が多いから、簡単には乗合型には変えられないだろう(TDRについては、「既存組」の長距離高速バスはあまりうまくいかなかったが、運用がツアー型であったならば歴史は変わっていたかも知れない。もちろんそれ以外の要素も大きいけれど)。したがって乗客は自らの号車・座席番号を知らぬまま乗り場に集まるので、必ずチェックイン作業が必要な点が短所。チェックインが必要な以上、乗客は早めに集合場所に集まる。これが「集合場所でのタムロ」問題につながる。<「既存組」にも路上の高速バス停があるじゃないか?>という指摘もあるが、コンビニや飲食店で適当に時間をつぶして直前に集合する乗客が多い「既存組」とはここが異なるのだ。今回の待合施設設置の件は、本質的には待合そのものよりも「集合」と「乗車」を分離する意味の方が大きい。そこまでしても(また、チェックイン要員のコストをかけても)、夜行路線に関してはツアー型の方が合理的な面は多いなと私は感じている。だから、制度上乗合化したという理由で運用も乗合型に変える会社はほとんどないだろう(続行便を出しづらい状況では若干流れは変わるかもしれないが)。もっとも象徴的なのが神姫バスだ。姫路・神戸~新宿線の「既存」の高速乗合バス「プリンセスロード」の基幹システムは発車オーライネット(持ち席管理でSRSも使用)で運用は乗合型。一方で今回の件で乗合化した神姫観光バス運行の「ハートライナー」の基幹システムはドリームジャーニーで、当然運用はツアー型(神姫バスの高速バス予約センターで、プリンセスロードが満席の日などハートライナーの案内をしたりしてるのかなあ)。ただ、そんな「差」を冷静に見つめ、お互いに学べなければ進歩もない。「異文化」を重ね合わせ、オペレーションの進化や、システム開発のアイデアという面で業界を前に進めることこそ、私が業界のお手伝いできる最大の役割に違いない。
2013.08.08
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昨日、高速ツアーバス連絡協議会の年次総会を1ヶ月遅れで開催し、8月末の解散を決議した。本来ならば、万歳三唱?したり、メディアを招いて派手に伝えてもらったりすべきところかも知れないが、関越道事故と、事故以降の論調を踏まえ粛々と終わらせた。それでも、国土交通省と日本バス協会から幹部の皆様に来賓としてご臨席いただき、懇親会も盛り上がった。高速ツアーバス業態の成長も、同協議会の設立も、そして事故後の修羅場を乗り越え無事に移行完了できたのも多くの関係者のご協力の賜物であり、まずは深く感謝。組織としての解散自体はともかく(これにも、業態がなくなったんだから即解散という考えと、少なくとも各社の事業が安定するまでしばらくは残すべき、という考えがあるが)、今般の制度改正について、突き詰めて考え抜けば様々な思いが、私自身にはある。まず高速ツアーバス連絡協議会としては、「あり方検討会(旧)」冒頭の意見表明(2011年1月)において、<安全性・公平性を担保しつつ、柔軟な営業を可能とし、高速バス市場の最大化を支援する「新制度」を時間をかけてでも構築する>ことがゴールだと表明している。公平性とは「停留所の権利へのイコールアクセス」であり、柔軟な営業とは「レベニューマネジメントなど今日的なマーケティング手法」を指す。その点、今回の制度改正は、その両面において(若干の不足点はあるものの)協議会の意向が実現したと言える。もっとも同発表を私は、<IT化など消費環境の変化、現制度の限界を踏まえ、短期的、長期的両面のアプローチで制度の最適化を目指す「ロードマップ」を作成し、期限を決めて「新制度」の構築を目指してはどうか>とまとめており、もう少し長期的に物事を考えていたと、今振り返ればそうわかる。そしてあの資料を作り発表した際、組織の意向としてはそれ以外の選択肢はないと納得しつつ、私個人としては複雑な思いが拭えなかった。一本化を進める役回りをなんとか務め終わった今でも、複雑な思いは消えたわけではない。ひとつには、国の制度のあり方の話。高速ツアーバスは規制が甘いとよく言われるが、実際には旅行業法における消費者との契約に関する規制も、道路運送法における貸切バスの運行に関する規制も、特に後者の方は決して甘い内容ではない(乗合バスよりも貸切バスの方が危険であっていいわけではない)。だが、それを守っていないヤツがいる、つまり問題点は規制の「実効性」にあるのだ。だからといって事業モデル自体を禁止するというのは、どう考えても理屈に合わない。もっともその点は、議論の中で名古屋大・加藤先生が、<高速ツアーバスという事業モデルには、法令遵守意識の低い貸切バス事業者が運行にかかわりやすい「リスクを内在」している>と述べられ、これは非常によく考え抜かれた発言であったので、これを機に、一本化という結論へ向け急速に議論が収斂し始めた。「理屈」の方はそれで片付いたのだが、もう一つの観点は、業界のために本当にプラスになる結論かどうかという点である。「あり方検」では(私は「ツアーバス側」で参加していたわけだが)、「既存側」から集合場所問題が持ち出されるたびに、<では停留所の権利の開放を>と、オウム返しを続けた。「戦略」としては、<では一般的な貸切バス、特に観光バスツアーや、幼稚園などの通園通学バスの路上乗降は問題ないのか?>と返す手法もないではなかったが、ここは停留所の権利一本にしぼった。停留所の権利という話は、間違いなく「既存側」のアキレス腱であった。結局、ご存じのとおり、高速ツアーバス各社の移行に際し国土交通省が停留所の確保を「支援する」ということで決着した。結果としては「ツアー側」は停留所を確保し安定感を持って事業を継続でき、「既存側」は高速ツアーバス各社を従来よりおおむね不利な乗降場所に追い込むことができた。「あり方検」当時から描いていた構図がほぼそのまま実現したわけだ。しいて言えば、事故の影響とそれを受けた移行期限短縮の結果、「ツアー側」の状況(特に停留所と管理受委託制度の詳細)が想定よりは不利な条件にはなってしまったが。問題は、この結果が業界に何をもたらすのかという点だ。短期的には、続行便設定の難しさなどから繁忙期を中心に「ツアー側」は事業規模の縮小を余儀なくされる。もっともそれは高速ツアーバスの6割を占める大都市間3路線において影響はあるものの、地方路線が98%を占める「既存側」にとっては大したメリットはない。ただし「既存側」の本丸たる地方向け、短中距離路線においてもやがて本格的な競争が始まり得るリスクを「既存側」が明確に認識するきっかけになれば、中期的には業界の再成長を呼び込むと私は見ている。ではその先はどうなるのか? 高速ツアーバス業態(募集型企画旅行)は短・中距離路線に不向きだと何度も書いてきたものの、それでも福岡~宮崎や大阪~徳島などでは「ツアー側」が一定の存在感を勝ち取ってきた。そして高速ツアーバス業態には参入障壁はない。旅行業免許や貸切バス事業許可は要件さえ満たせば取得できる(繰り返すが、残念ながらその要件を守っていないヤツがいたことが問題なのだ)。一方、今月以降、高速バス市場に参入を望む者は、すべからく、停留所の権利という見えない壁を乗り越えなければスタートラインにも立てない。業界の顔ぶれが、2013年8月1日時点で事実上固定されたことになる。そのことが、長期的に見て業界の活力を奪ってしまわないか、私には不安である(ちなみにこの「停留所の権利」に関して、以前ご紹介した大分交通・蛯谷さん達の論文が、運輸政策研究機構のサイトで読めるようになったのでご確認されたい)。この問題は、今回の制度改正に関わった者の責任として、いつも念頭に置いて仕事を進めていきたい。さて話は変わるが、連絡協議会が無事に解散することで、個別に契約をいただいている一部の会社を除くと、私はもう「移行組」各社とは無関係になる。本音を言うと、私にとって「同志的」感情を共有するのは「既存組(の中の、改革派)」の人たちであり、旧・高速ツアーバス各社の多くとはしょせん「仕事上の関係」という意識であった。しかし今回、移行期間が1年に短縮されるという修羅場を経験し、特に停留所調整やその後の段取りを主体的に担当したメンバー達とは初めて「仲間意識」が芽生えたのも事実である。いつだって、どんな背景があれど、戦友は貴重な存在である。今後はむしろ私は「既存組」のブレインとして彼らとは競合先として向き合う機会の方が多いだろうが、バイタリティ溢れた彼らが再び業界を引っ掻き回してくれることを、恐れと期待を込めて心から祈っている。
2013.08.06
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一昨日は、関東運輸局主催「新宿駅周辺高速バス停留所調整協議会」。会議の内容は非公開になのでご紹介できないが、2時間の会議のために、その何倍何十倍もの準備時間と多くの関係者のご協力が必要だった点だけはお伝えしたい。新宿を筆頭に、とにかく停留所の件をなんとかしないと高速ツアーバス各社は食っていけないはめになる。実はときどき、万一停留所調整に失敗した時のことが夢に出てきて、夜中に目覚めてしまうことがある。さてこのブログでは、既存事業者の動きを中心にご紹介し、高速ツアーバス各社の乗合移行に際して具体的な動きやそれに対する論評を行なってこなかった。ある会で専門紙の記者さんから、<成定さんはもうツアーバスから離れつつあるというウワサだが>とご質問を受けたが、たしかに個人的な思い入れの強い弱いはあるとはいえ、高速ツアーバス連絡協議会の顧問の仕事をお引き受けしているのも事実。見捨てたりしたつもりはないのだが。彼らはいま乗合移行に向け準備の真っ最中だ。ここでいう準備とは大きく分けで3つある。第一は、乗合の法的要件を満たすことで、小さいもので言えば車両の要件(方向幕など)や運行管理者の資格など。大変なのは従来はバスを持たなかった旅行会社が、車庫を設け車両を買って乗務員を雇い、バス事業者になるパターンだ。もっとも、実は高速ツアーバスの担い手は旅行会社と貸切バス事業者を兼業する会社が多かったから、このパターンは10社ほど。とはいえ、当事者にとっては「生き様」「生業」まで変える大きな変化だ。なお、「楽々道中」というシステムがある。「メイテツコム」と「メイエレック」(ともに名鉄グループのシステム会社)が共同開発する貸切バス運行管理システムだが、高速ツアーバス各社の乗合移行に伴い「高速乗合バス版」もスタートさせる。その発表会では私も業界の今後など講演させていただいた。既存事業者は「平場」の路線バスも含む大掛かりなシステムをおおむね導入済みだから、本システムのターゲットは高速ツアーバスからの「移行組」。名鉄グループが結果として彼らの移行をサポートする形になったのは皮肉ではあるが、それが皮肉に感じられるところがこの問題の矛盾の象徴とも言える。第二の準備が、法的要件以前に、漠然と存在する「貸切」と「乗合」に求められるレベルの差を超えること。本来は貸切の方が乗合より高いものを要求されるべきだと思うが、現状はなぜか逆。要するに乗合の方がチェック項目が多いから、結果として細かいメッシュで規制の網がかかっているということだ。第三が停留所問題。なお、大規模発着地の停留所確保は高速ツアーバス連絡協議会が主体的に担当しているが、地方の停留所調整(と、先の二つの課題)は、移行を目指す各社が個別に乗り越えるべき課題。専門家をご紹介するなどフォローはしているが、あくまで自分の意志と努力で乗り越えていただくよりない。ところで最近、特に停留所の件で、高速ツアーバスの企画実施会社と既存の乗合事業者が会う機会が増えた。というよりこれまでそんな機会はなかった。私はそれに立ち会ったり報告を聞いたりする立場で、嫌な言い方だが、これが非常に興味深い。7~8年前の時点で、高速乗合バスのあらゆる関係者は、高速ツアーバス会社を、見習うべき点など何もない、レベルの低いヤツらだと見下していただろう。かくいう私自身がそうだ。「きちんとした既存乗合/ならず者のツアーバス」というのが当時のステレオタイプだ。で、停留所の件があって高速ツアーバス会社と初めて会うことになった既存事業者の中には、未だに江戸時代のままの感覚で(言い過ぎ?)、向き合うことさえ避けようとする人もいるようだ。<まだそんな感覚の人がいたのか>というのが私の率直な感想。一方、ここ3~4年で「新しいステレオタイプ」も登場した。それは、「安全面は立派だが営業面では保守的で顧客志向でない乗合/ウェブを中心にマーケティングが上手で業界にイノベーションを起こしてきたツアー」というもの。先日も既存事業者と高速ツアーバス企画実施会社の担当者どうしを私が紹介する機会があり、既存側が名刺を出しながら、<御社ほど集客は上手じゃありませんが>とおっしゃっているのを聞いて、むろん社交辞令や謙遜もあろうが、既存事業者の間で「新ステレオタイプ」が定着してきたことに驚いた。その上でもう一回かき混ぜるようなことを言うが、では本当に高速ツアーバス各社は、成熟産業たるこの業界に自らイノベーションを起こしたと胸を張れるだろうか。前にも書いたが、2001年にオリオンツアーと西日本ツアーズ(現・WILLER TRAVEL)が東京~大阪の商品を作った(高速ツアーバスという呼称もなかった)時には、単にテーマパーク直行バスの派生形という自己認識に過ぎなかった。それがある日、ウェブマーケティングを武器に急成長した。その大きなうねりを、自らの手で作り出したと言える会社は、いったい何社あるだろう。たしかにWILLERはそうだろう。地場で孤軍奮闘した海部や、既存事業者ながらあえて一歩踏み出した弘南も、その一つだろう。他にも数社あるかもしれない。逆に言えば、それ以外の多くの会社は、もちろん個別に見ればさまざまな苦労も挑戦もあったには違いないが、イノベーションを起こしたと言えるほど、斬新なアイデアを打ち出し、多くの苦難を乗り越え現在の立ち位置を築いたと、胸を張って言えるだろうか?高速ツアーバス各社は、いま一度、この試練が持つ意味を真剣に考える必要がある。むろん、新制度が上から押し付けられたもので、さらに関越道事故により(自社の事故でもないのに)期限が大きく短縮され、受け身になってしまう気持ちはわかる。しかし、この環境変化さえ乗り切れずして、後年、誰があなた方のことを「業界を変えた」と評価してくれようか。イノベーションとは、今とは違う姿を絵に描き、それを実現していくことである。あなた方が、放っておけば沈みゆくだけのこのバス業界に本物のイノベーションをもたらしてくれたと既存組から評価を受けて初めて、一緒に育ってきた私も、業界に対する自分の役割の第一段落を終えることができるのだ。歯を食いしばってでも、この試練を乗り切りたい。私も、(時には自らのクライアントと停留所の交渉をするというような難しい立場ながら)サポートを惜しむ気はない。次の季節は、もうそこまで来ているはずだ。
2013.03.03
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事故から3週間経過しました。もう3週間?、とカレンダーを見てあらためて驚いたほど、ずっと報道や関係諸機関への対応に追われておりました。その間、本来の業務(主に高速路線バス事業者やその基幹システムを対象に、「新たな高速路線バス制度」対応や新しいマーケティング手法導入の支援)のほとんどを後回しにせざるを得ませんでした。高速ツアーバスのことが理由で、高速路線バス事業者各社にご迷惑をおかけするのははなはだ心苦しいのですが、皆様には無理を聞いていただきました。個人的な話で恐縮ですが、私自身と高速ツアーバスとの現在の関係だけで言えば、高速ツアーバス連絡協議会の顧問(新制度対応担当)を仰せつかっているのと、2社ほど個別にコンサルティング契約があるに過ぎません。本件についてどこまで関与しなければならないか、私自身にも最初は迷いもありました。しかし、次のことを考えました。【1】二度と同様の理由で事故を起こすわけにはいかない。【2】また、「新たな高速路線バス制度」を象徴とする、せっかく動き出した高速バス(どちらかと言うと高速路線バス)の改革の動きを止めるわけにはいかない。何度も繰り返し書いていることですが、<やっぱり高速ツアーバスは間違っていた>あるいは、<やっぱり自分たちのやり方だけが正しかった>と、高速路線バス各社が考えてしまえば、高速バスの改革は動きを止めてしまう。また、(少なくともまっとうに事業を行なっている>高速ツアーバス各社やその従業員の生活を守る必要もある。そう考えると、協議会顧問という枠を超えて、高速ツアーバス業界の善後策策定や関係諸機関との対応について、踏み込んで協力するという答えが自ずと出てきました。一方、本来業務が遅れに遅れてご迷惑をおかけしているにもかかわらず、多くの高速路線バス事業者から、<体調はだいじょうぶか?>、<今月はサボった分、来月はめいっぱい働いてもらうからな>と、温かく声をかけていただき本当に感謝しています。実は事故翌日、テレビ局をハシゴしながら体力的にも精神的にも疲れ切っていたとき、ふと見上げると、本当に偶然、都内の首都高速を、バイト時代の「古巣」である京王の高速バス車両(空港線)が通過していきました。もともと、京王のホームグラウンドである中央道以外の場所であのカラーリングに出会うと嬉しくなるタチなわけですが、あの時は本当に疲れきっていたなかでしたので、誰かがガンバレと言ってくれているようで涙が出そうになりました(勝手な妄想なのですが)。本来業務と合わせ、引き続き時間がタイトな状態が続きそうで、本ブログの更新が日常ペースに戻るまではまだしばらくかかりそうです。取り急ぎ近況を報告させていただきました。
2012.05.21
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4月29日(日)未明、関越自動車道で高速ツアーバスの大きな事故が発生いたしました。亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈りいたします。また、けがをなさった方々の回復を願っております。私自身、あまりに大きな事故に大変ショックを受けております。同時に、新聞、テレビ、ラジオ等の報道対応をはじめ、業務量が急激に増加しております。まずはそれらの対応を一つひとつ真摯に、真剣に行なうことを今は考えております。様々な立場の多くの方から、<大変だと思うけどがんばれ>という声も頂戴し、感謝しております。引き続き皆様のご支援をお願いいたします。
2012.05.07
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「バス事業のあり方検討会」の最終報告書について、本日付『東京交通新聞』第一面でも報じていただいた(上記リンクから「立ち読み」可)。とはいえ、高速バスの話より「バス・タク併用認める 同一営業所で効率運行 地域公共交通確保に一石」の方が大きな扱いなのがタクシー中心の同紙らしい。この件や「乗合/貸切併用登録」「貸切バスの営業区域」なども、機会があれば解説してみたい。さて、前回、<高速ツアーバス各社にとって、高速乗合バスに移行するのはメリットが大きい>と書いたわけだが、とはいえ「はい、そうですか」と簡単に移行できるわけではない。まずご理解をいただきたいのは、理屈ではわかっていても、これまでの自分たちのやり方を半強制的に改めさせられることは気分のいいものではないし、何より誰だって怖い。一人ひとりの生活がかかっているのである。それに、特に旅行会社からバス事業者に変わらないといけない数社にとっては、かなりの資金も必要になる。合わせてネックになるのが、やはり「バス停の確保」問題だ。報告書でも、<特に、移行に際して必要となるバス停留所については、国土交通省において高速バス停留所調整協議会(仮称)の開催や同協議会における調整の指針となる高速バス停留所調整ガイドラインの策定等を実施し、関係者の協力を得つつ、その確保を支援する。具体的には、大都市圏のターミナル駅周辺などの優先度の高い地区を中心に協議会を設け、関係団体の意見やパブリックコメントの結果を踏まえて策定する高速バス停留所調整ガイドラインに基づき、調整を実施する。確保できた停留所は公平かつ客観的な基準により配分する。>とある。これに対し、既存の高速乗合バス事業者側の反応は様々だ。もちろん多くは「様子見」なのだが、現実的な事業者の中には、現在の自社バス停を死守すべく、駅の裏側や、駅前から交差点を一つ越えた辺りの「1.5等地」に新バス停を設置してはどうかと周囲と根回しを始めた会社もあるようだ。もちろん、既存事業者が勝手にバス停を「采配」できるわけでないとはいえ、少なくとも考え方としてはこれは非常に賢明な選択と言えよう。おそらく「停留所調整ガイドライン」には、新設される、または既存事業者と共用となるバス停について、高速ツアーバスから移行する事業者の「既得権にはならない」との表現が入ると考えられるものの、それでも昨日書いたように、そのバス停を使い「移行組」が短・中距離路線に参入する蓋然性は大きい。長距離夜行ではあまり集客力と連動しないバス停の位置だが短・中距離路線では大きなポイントであり、<どうぞどうぞ、この辺りでいかがでしょうか?>と先に「1.5等地」に「隔離」してしまうのは既存側にとって得策だ。逆に、<なぜツアーバスごときにバス停をあげないといけないんだ>とばかり、客観性のない理屈をこねバス停の新設や共用を拒み続けたらどうなるだろう。報告書には、<なお、これらの取り組みによっても必要なバス停留所の確保が進まない場合は、バスターミナルへのイコール・アクセスを義務付けている英国の例や混雑空港における発着枠の配分ルールなども参考に、制度整備の可能性を含め、さらなる取り組みを検討する必要がある>とある。「英国の例」とは、高速バス分野の規制緩和(需給調整撤廃)後においても「バス停の権利」がネックになって新規参入が進まなかった同国において、公共のものはもちろん既存事業者自身が運営する私有地のコーチ・ステーション(高速バスターミナル)にも、一定割合で新規参入側の入線受入を義務付けた「アファーマティブ・アクション」を指す。つまり最もアグレッシブなパターンとして、「バス停再配分の制度化」が考えられるのだ。もっともそこまで行き着かなくても、「内々での話し合い」でコトが実現しなかった場合、地域ごとに、「高速バス停留所調整協議会」を開催することとし、運輸局長名で関係者を招集することになる。既存の乗合事業者の本心では「先祖代々受け継がれた己が領地」であるバス停も、公の場に出てしまえば、そう主張することはできない。福島県であったように公正取引委員会マターとなってしまったり、誰か(誰?)のリークにより地元メディアで「●●交通、バス停新設を拒否。新規参入側は既得権益と反発」などと報じられてしまったりしたら、地元との関係を最重視する各事業者にとって得なことは何もない。あえてネガティブに考えれば、どこか1~2か所の地域において、そのような「騒動」が起こりメディアを賑わせたならば(そうなると間違いなく私はこのブログで紹介するだろうし)、全国の残りの地域では調整が一気に進み関係者の苦労は少なく済むわけだが、できればそのような事態にはなってほしくない。少なくとも、私のクライアントである乗合各社にだけは、その騒動の主人公にはなっていただきたくはない。しばらくの間、各社におかれては、バス停関係の発言(特にメディア対応)にはよく注意いただきたい。いずれにせよ報告書にある通り、<移行の成否及び時期は、バス停留所の確保の成否及び時期に大きく依存することから、関係者に対し、積極的な協力を求めていくこととする>。なお、<この際に大都市でも、事業者別のターミナル配置ではなく方面別とするなど、より利用者にわかりやすいようバス停を再配分したらどうか?>という意見もお聞きする。もちろん、それが「一つの理想」であることは認めたうえで、私自身は、今の高速バス事業にとってそれはマイナスだと考えている。5回にわたって「バス事業のあり方検討会」最終報告書について解説してきたが、(貸切バス分野について書けなかった点に消化不良感は残るものの)いったんそれは終了し、まずは上記「わかりやすい停留所再配分」という言葉を鍵にして高速バス事業の今後を考えるところから、次回以降は通常のブログの形(つまり、単に私が思いついたり記事掲載があったりした時だけ気ままに更新)に戻したい。最後にもう一度、「バス事業のあり方検討会」に関係した全ての皆様に、心から感謝申し上げる。
2012.04.09
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「バス事業のあり方検討会」最終報告書は、既にご報告した『毎日新聞』等(共同通信配信)や『日本経済新聞』のほか、昨日付『フジサンケイビジネスアイ』でも報道された(『SANKEI BIZ』で閲覧可。また同紙は昨年10月10日1面トップでもこの問題を紹介いただいた)。今回の見出しは、<「ツアー」VS.「乗合」競争激化>。一部を引用すると、<「両者の競争が激しくなるのは確実」(大手バス会社)>な中、<高速ツアーバス業界は、乗り心地の良さや付加価値の高いサービスで差別化を図る>としてウィラーやオリオンの事例を紹介する一方、<大手バス会社に目立った対応策がなく>と断言されるなど、高速乗合バス事業者には「トホホ」な論調。もっとも、<報告書自体が乗合事業者を「アホ」やと言うてるようなもんやから>と乗合バス事業者の管理職の方が嘆いておられたから、見事に本質をついた?記事ということか。つづいて、昨日の日経の記事をベースに、昨日夕方のFNN(フジテレビ系)『スーパーニュース』でもご紹介いただけた(動画をFNNサイトで閲覧可)。日経記事をなぞって、制度柔軟化を歓迎するJRバス関東のコメントと、<全社移行という方針>と高速ツアーバス連絡協議会の方向性を紹介。なおこちらも昨年11月20日の同番組の続報である。引き続き、各メディアでの報道を確認しだい、本ブログでご紹介する。さて本日このブログは、昨日までと視点を変え、高速ツアーバス各社への影響、がテーマ。実は記者さんをはじめ、<高速ツアーバス各社は本当に新制度に移行するのか>というご質問が多い。特に乗合事業者の皆様はかなり疑念的に感じておられるようだ。一方で現実は、既報の通り、<新制度への移行義務はないが、高速ツアーバス各社が加盟する高速ツアーバス連絡協議会(東京・品川)によると、最大手のウィラー・アライアンス(東京・港)など、加盟する約40社のほぼ全社が移行する方針>(日経)なのである。もちろん、実際にはハードルは決して低くない。現在、法令上は「乗合」も「貸切」も求められる安全性は同じだが、現実問題としては各種運用の差などもあって乗合の方が高い安全性を求められる。監査の頻度、瑕疵があった際の罰則の大きさ(特に「服喪」)などを考えると、「募集型企画旅行+貸切バス」形態よりは事実上の縛りは強いだろう(なお事業許可の取得自体は困難ではない。2002年の需給調整撤廃以降、乗合バスの新規参入に法令上の大きな制約はない。あるのは「バス停の権利」という見えない壁だけである)。さらに高速ツアーバス業態では、運行する貸切バス事業者が事故を惹起した場合、顧客対応上の全責任は企画実施会社にある反面、法令上の責任を負うことはない。運行事業者に重大な法令違反が判明しても、社会的責任を除けば、企画実施会社が問われるものは何もない。だが新制度に移行した場合は、「受託者」にあたる貸切バス事業者の瑕疵が、一定程度の割合で「委託者」の罰則を招く。現在、<安ければどこでもいい>という感覚で貸切バス事業者を選定している企画実施会社がもしあれば、改めないと自らの身に返ってくる。そして何より、現状ではバス事業者でない純粋な企画実施会社においては、まずは(自社ブランドで運行する台数のうち最低でも3分の1に当たる車両数を保有する)バス事業者にならなければ新制度に移行することができない。この点、私としては、公式非公式な各種議論の中で実は若干抵抗した部分である。既に鉄道や運送事業において認められているよう、車両を1台も所有せずとも乗合バス事業に参入することを認めるべきだと主張した。「経営・企画」と「運行」は別々の会社でも事業は成立するはず、という意見だ。ただ、<実際にバスを1台も所有・運行しない会社が、いざというときにバス事業者の気持ちを理解して何かを判断できるだろうか?>という反論(他人同士はなかなか分かり合えないもの、という論理であったので、関係者は「他人性議論」と呼ぶ)も十分に理解でき、主張を取り下げた。一連の議論で、私が自らの意見を曲げた数少ない個所である。この、<旅行会社からバス会社に「生き様」を変えないといけない>点については、新制度に関わった身として、該当する数社に課せられた苦労の多さに申し訳ない気持ちもある。それでも、上述のように移行義務はないのに全社が移行を表明してくれた。ほとんどの企画実施会社が、貸切バス事業者をM&Aするとか、近しい貸切バス事業者と合弁で新しくバス事業者を設立する、あるいは自らバス部門を立ち上げるために必要な人材を揃えるなど、自らの方向性を決め、例えば金融機関との融資の調整など具体的な準備に入っている。たしかに、昨日の日経にあるように、<資金力のない中小の中には「採算が合わず撤退する会社も出る」(業界関係者)>という例があるやも知れぬが、万一そういう事例が発生しても、優秀で意欲ある担当者たちなら、「即戦力」として他の事業者で腕を鳴らしてくれるだろう。では、高速ツアーバスの各企画実施会社が、「生き様」を変えハードルを越えて新制度に移行する理由は何か? 一つは、法的に高速ツアーバス業態を明確に禁止しないとはいえ、「検討会」での議論を踏まえ、私たちが「大人の対応」を各社に真摯にお願いし理解してもらえたことは事実。そしてもう一つ、やはり何をどう考えても、経営的にみると、「高速乗合バス業態の方が実は有利」なのである。次回は、その「実は有利」の具体的な内容を検証したい。
2012.04.05
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本日、「バス事業のあり方検討会」最終回が無事に終了した。一昨年12月に初回を開催して以来、1年3ヶ月。一時はどうなることかと思うほど議論が荒れたこともあったが、最後の数回は驚くほど平穏で、本日も「最終報告書」の文案について粛々と議論が進んだ。座長の竹内先生をはじめ、事務局を担われた国土交通省自動車局旅客課の皆様も、いろいろ気疲れもあっただろうが、最後はあるべき姿へよく導いてくださったと思う。深く感謝。最終報告書については、これから細かい修正などを経て4月上旬をめどに発表されるだろうから(ちなみに、パブリックコメントの募集も最終報告書発表と同時になる見込みとのこと。予定から数か月遅れている。制度改正を前提に新年度の事業計画を立てておられる数社にとっては施行日が気になるところだが、運賃制度は5月ごろ、管理受委託は夏ごろではないだろうか)、報告書の内容についてここでは詳しく書けない。ただ、細かい点を除けば、おおむね本ブログや専門紙等で伝えられてきたほぼその通りの内容である。思えば、今からちょうど6年前の4月1日に、私はホテルから楽天に転職した。今の私からは想像できないだろうが、その時点では私はガチガチの「アンチ・ツアーバス論者」だった。それでも、まずは高速ツアーバスをサイト上で取扱うと発表したばかりの楽天に転職を決めたのは、ぼんやりとだが、頭の中に一つの絵が浮かび上がってきていたからだ。そのさらに5年前、私はホテルの担当者として、楽天トラベルの前身である「旅の窓口」をはじめとしたウェブ宿泊予約と、RM(レベニューマネジメント)に出会った。実は仕事をがんばり過ぎたのか、もともと線の細かった私は、体調を崩して2年間も会社を休ませてもらっていた。なんとか復帰した先が、ウェブ予約やRMの部署だった。部署と言ってもその時点ではまだ正式な組織ではない。宿泊予約の管理職の方が片手間にやっていただけだったのが、それらが急速に成長し手に負えなくなり、<とりあえずアルバイトでいいから補佐役を>と要望を出していたらしく、私はその「アルバイトの代わり」だったのだ。最初は上司の指示通りに在庫出し入れ(全客室中何部屋を自社サイト、何部屋を楽天や一休、じゃらんで売るかの登録作業)などを無感情にやるだけだったが、ある程度まで判断も任せてもらえるようになったところ楽しくて仕方なくなり、気が付いたら数字もどんどん上がって、<数字を上げてくれるヤツ>という評価を社内でいただけるようになった。そんな中、趣味の分野で付き合い続けていた高速バスに、このウェブ予約やRMをなんとか導入できないかと思い始めた。部屋(席)を旅行会社に預けっぱなしにするのではなく、ホテル(バス事業者)の側でどの販路で売りたいかを能動的にコントロールする。手数料率や販売力、予測稼働率を見比べながら、売上が最大になりコストが最小になる組み合わせを自ら選んでいく。それどころか予測稼働率や競合の価格を見て、価格さえリアルタイムに上下させる。サイト上の表現一つや、メールマガジンなど広告ツールの活用で、自ら積極的に潜在需要にアプローチする。そして、結果は常にリアルタイムで追いかけてくる。<楽天、高速バス予約事業参入>という新聞記事を読んだとき、したがって、私の頭の中には、高速路線バス各社の予約センターのスタッフが、楽天トラベル等の管理画面に向かって運賃や在庫(販売可能席数)をリアルタイムにコントロールする図が、ごく自然に、ぼんやりと私の頭の中に広がった。過去データや受注状況から細かい分析を行ない、続行便の設定台数について精緻な検証をしている映像も思い浮かんだ。特に、学生時代のアルバイトで深くかかわった中央高速バス富士五湖線について、夏の繁忙日など車両と乗務員の不足で続行台数にキャップがかかっていたのを知っていたので、帝産やKMといった老舗貸切専業者の車両が京王や富士急行の続行として「西口」を出発するイメージが、まるで「ぼかし」の入ったテレビ映像のようにぼんやりと目の前に浮かび上がってきた。もちろん、その時点では、それらは現実的な構図とは言えなかった。私自身はその時点で、<制度を変えてやろう>と考えていたわけではない。考えていたわけではないが、<いつかそうなっているのではないか? だとすれば、ぜひ実現したい>とは思った。その後私は、いったんそのことは忘れた。目の前にある仕事として、「ヒヨコ」に過ぎなかった高速ツアーバス各社を営業的に成長させることをまずは考えた。次に、楽天自身の事業上のリスクを最小化するためにも、ツアー各社の永続的な成長のためにも、団体を作って業界を整序化することに努めた。そして「あり方検討会」の委員にご指名いただき、あるいは一委員としての枠を超えて新制度策定のお手伝いをさせていただく機会に恵まれた。あの時、6年前、ぼんやりとしていた映像が、いまピントが合って鮮明になろうとしている。「アンチ・ツアーバス論者」という「自画像」を否定した所から、全てが始まった。楽天がまず高速ツアーバスを徹底的に育て上げたことで、いったんは高速路線バス各社から背を向けられたことは事実だが、価格設定と供給力確保の柔軟さが、高いマーケティング意識(ウェブマーケティングの活用や柔軟な発想など)と結びつくことで、高速バスにさらなる成長余地があることを示すことができた。「あり方検討会」委員の皆様も、立場を超えてその点はご理解くださったと思う。その結果、ぼんやりと思い描いた映像が、結局は高速路線バス各社においても現実のものとなろうとしている。とはいえ、まだ制度という「ハコ」が出来たに過ぎない。高速ツアーバス各社がハードルを乗り越え乗合に移行し、また既存高速路線バス各社が新制度の柔軟さを活用し事業を成長させるには、まだもう少しの時間と努力が必要だ。そのための支援は惜しまないとともに、いつかどこかで、私自身の「いまの自画像」を、もう一度否定することが、高速バスの「次なる変革」を運んできてくれるのかも知れないと、いまそう感じている。
2012.03.23
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事前に公表されていた議題(「高速ツアーバスの『新高速バス』への移行について)が議題だったためか、あるいは前日の「発車オーライネット戦略共有会」で皆の前で、<明日は「あり方検討会」>と言ったためか、23日午後の「バス事業のあり方検討会」の結果について多くの方からご質問をいただいた。議事自体は非公開(後日、議事概要は公開される)だし手元資料にも「委員限り」のものが多いので全て書くわけにはいかないが、ざっくり言うと、「あり方検討会」のテーマの一つであった「高速乗合バス(本ブログでは高速路線バスと記載)と高速ツアーバスの一本化」については無事に議論を終えることができ、あとは実務的な作業が(山ほど)待っている、という状態になった、と断言していいだろう。繰り返すが、私自身は今回の結論は100点満点だとは考えていない。今回のオペレーションが完了した後、高速バス事業への新規参入は今より困難になる。もちろん、参入のハードルが低すぎることは安全性などにおいて問題を誘引することになるが、高すぎれば競争原理が働かずサービス水準が低下(価格の高止まりも含め)し、結果として業界全体の成長を阻害する。冷静に議論できればさえ、新規参入のハードルを上げずに高速ツアーバスが抱える問題を解決することは不可能ではなかったとは思うしその点では不満が残るが、まあ80点、手前味噌かも知れぬが十分に合格点がつく新制度ではなかろうか。むしろ「既存組」高速路線バス事業者の中には不満も大きいことはよく承知しているが、十分に議論が重ねられた上の結論であることだけは、よく承知しておいてほしい(それどころか、このような会議が持たれたこと自体、「既存組」のリクエストによるものだ)。いや、今回の結論は、必ず「既存組」にとって大きなメリットをもたらすはずだ。失礼を承知で言いきってしまえば、今回の結論を「ツアーバス寄り」だと非難するならば、それは今後起こり得る高速バス市場の変化について想像力が不足しているだけである。さて、終わってみればそうなるより他ない結論を皆で導き出すまで1年以上がかかったことになるが、時間がかかった大きな理由の一つが、相互の無理解だったような気がする。私自身の経験が、そう思わせるのである。6年前、「市井の一マニア」だった私は楽天に転職した。その時の思いはあくまでも「既存組」高速路線バスを販売力のある楽天トラベルで取扱って成長を助けたい、というもので、その時点ではガチガチの「アンチ・ツアーバス」論者だったと言っていい。だから私は、自分で選んだ仕事とはいえ高速ツアーバス各社の経営者、担当者と会うのが嫌だった。むしろ、彼らが怖かった。高速ツアーバスを企画している中小旅行会社の経営者など、さすがにヤ○ザとは言わないが、法の網の穴をついて、既得権益に風穴を開けてやろうと暗い情念に燃えている(イメージで言えば、瞳の中に青白い炎が見えるような)連中だとばかり思っていたのだ。だが仕事だから会わぬわけにはいかない。実際に会ってみると、彼らの屈託のなさに驚いた。<成定さん、今度こんなアイデア思いついたんだけど売れるかなあ?>。それをやったら「既存組」は顔を真っ赤にして起こるだろうということまで、思いついたことが嬉しくて仕方ない様子で話しかけてくる。最初、その感覚が理解できなかったのだが、ある日、そうかと思い当たったのだ。考えてみれば単純な話で、旅行会社や貸切バス会社を自ら作ってしまった人たちである。お客様が喜ぶアイデアを思いつき、それを形にしていくことが、ただ楽しくて仕方ないのである。彼らは皆、オフィスの社長席などに座っているより、自ら旗を持って添乗に出ていたい人たちなのである(その辺り、『バスラマ』前号での平成・田倉社長の、また最新号のウィラー村瀬社長のインタビューをぜひ読んでいただきたい←ついでに『年鑑バスラマ』の私の原稿もぜひ)。私自身が、同じ理由でホテルという就職先を選んだ身だから、そう思って見てみると彼らの気持ちは手に取るようにわかる。ただ、路線バスという世界に立った場合、その屈託のなさが、まるで喧嘩を売られているように見えていたのである。皆、<ツアーバスの連中は(人間的に)信用できない>という思いが先に立っていたのだろうが、1年間議論を繰り返す中で、少なくともその場にいる皆さんは、相互に理解が進んだと理解できよう。さらに高速ツアーバス各社の経営環境の話もある。もともと気の合う仲間と作った(ほとんどが、当時人気の絶頂だったスキーの愛好家たちがスキーツアーの会社を作ったパターンだ)小さな会社が、今や100人、数百人の生活を支えるまでに成長した。これまではがむしゃらに走り続けてきたが(その「がむしゃら感」に賛否あるとはいえ)、そろそろ、事業の安定や永続を考えるフェーズに入ったのだ。これまでの事業モデルを捨て移行するのは物心両面で不満がないわけではないが、いろいろ考えた末に皆が決断をした、ということなのだ。私自身も、彼らから「乗合の手先」と非難されても仕方ない環境のなかで、真摯に彼らの説得に努めてきたつもりだ。そのことは、全委員にご理解いただけたと思う。先日の「発車オーライネット戦略共有会」での質疑応答など聞いても、その辺りの理解は、未だ全ての「既存組」事業者に進んでいるわけではないようだが、高速ツアーバス各社が最終的に理解してくれたように、彼らにも真摯にご説明を繰り返すよりないだろう。さて、本日は某社の高速バス車内。明日朝イチの新幹線でも間に合う出張だが、初めての街で本を読みながら一人でお酒を飲むのが趣味の私は、高速バス+前泊を選んだ。昼行便にしては長い5時間の乗車もそろそろ終着。ひと月ほど前ならもう薄暗くなっていたこの時間でもまだ明るい。北風の中、実は日差しは強くなっていて、また周期的に降る冷たい雨が春を呼ぶこの2月後半は、季節の歩みを実感できるので一年で最も好きな時期。着実に進む季節のように、業界全体も、自分自身も、成長を重ねることができるか。新しい季節は、すぐそこまで来ているはずだ。
2012.02.26
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昨日まで4泊の出張は、火、水、木と地図に一筆書きするようにうまく日程を組めた。西に行くのだからせっかく、と、金曜は周辺の路線バス事業者に営業を兼ねご挨拶に回り、大阪泊で予定を組んだ。大阪泊としたのは、暗くなってから無愛想な新幹線、それも金曜夜の混雑のなか帰るよりは、1泊して誰かと飲んで土曜は高速バスでも乗り継いで帰ろうかなあ、程度のつもりだった。さあホテル勤務時代の上司にでもおごってもらおうか、翌日はどの路線を選ぼうかなど考えていたら、出張に出る直前におあつらえ向けに大阪から電話があった。あまり規模の大きくない、ある高速ツアーバス企画実施会社の担当者。楽天勤務時代から、営業にお邪魔すると必ず夜は食事に誘い誘われ、取引先(または取引先候補)というより「友人」「兄貴分」と呼びたい人物が全国にいる高速路線バス事業者達とちがい、意外かもしれないが、高速ツアーバス企画実施会社で、個人的に飲みに行くような相手は実はあまり多くない。彼はその少ない一人だ。多くのツアー各社にとって私は、売上の多くを握られているうえに(私が楽天を辞めた今ではもう関係ないのだが)、営業面では単価アップの話ばかりされ、運営面では協議会を作って集合場所問題など小言ばっかり言うは、最後には制度改正にかかわり「お前ら旅行会社からバス会社になれ」と生き様まで変えさせられるは、あまり親しく話ができる相手ではないことだろう。とはいえ、彼ら一人ひとりの人生にとって重要な局面にあるのも事実。もともとバスを持つ会社ならともかく、純粋な旅行会社、それも決して規模が大きくない会社にとって、今回の制度変更は会社の存亡に直結する。うまいお好み焼きをごちそうになりながら、ハラを割って話せたことはよかった。本来なら、個人的にさほど親しくない他の会社とも、これくらい話し合うのが本来の(「ツアー陣営」顧問としての)私の役割なのかも、とちょっとだけ感じたが、「路線陣営」各社からいただく仕事でいっぱいいっぱいなのも事実だし…お好み焼きの後は当然のように、高速ツアーバス各社が集合場所として活用する梅田プラザモータープールへ。新宿や東京駅にはなるだけ顔を出すようにしているけれど、また、大阪の各高速路線バスのターミナルには何度となく行っているけれど、出発時間帯のプラザは実は初めて。正直「アウェイ感」ありありでプラザに入った瞬間、センディングの「ドン」が私を見つけて右手を差し出しながら笑顔で近づいてきてくれた。会社の売上(ほぼイコール私の給料)も割いている時間も、8割以上は「路線陣営」である今の私だが、また上に書いたように決して高速ツアーバス各社にとっては親しまれる役回りではなかった私だが、忙しいなか歓迎してくれたことに深く感謝しながら固く握手。それにしても、出発時間帯のプラザは初めてのはずなのに、どこか懐かしい。一つには、当然そこに出入りするバスは、楽天勤務時代に一緒に成長してきた取引先各社のもの。昨年2月に楽天を離れてから1年弱、協議会から顧問の仕事をもらっている以外はほとんど全て高速路線バス事業者とのお付き合いだったが、入線してくる車両を見ると、それぞれの会社の経営者や担当者の顔まで浮かんでくるようだ。いつの間にか新車が入っていたりカラーリングが微妙に変わっていたり、これまでなかったナンバープレートがついているものも多く、<また営業所を新設したのか>と、あらためて各社の成長力に感心した。だが、こみ上げてくる懐かしさは、1年前までの、楽天勤務時代への郷愁だけではない。むしろ、20年近く前の、京王の新宿高速バスターミナル(通称「西口」)でのバイト時代の思い出が浮かんでくるのだ。いやもちろん、ここには、さほど難しいとは思えない車庫入れに苦戦している乗務員がいたり、走り回っているセンディングのみんなも、茶髪もロン毛もいたりする。私が「西口」で着せてもらっていた、肩章付きのいかめしい制服(その色合いから、みんな親しみを込めて「チャバネゴキブリ」と呼んでいた)とは似ても似つかぬ、ラフなジャンパー姿である。プラザと「西口」とを一緒にするなと言う人もいるだろう。いや、バイト時代の私が今いたら、間違いなくそう怒ったことだろう。一方、そのセンディング一人ひとりの真剣さは、充実感に裏付けされた目の輝きは、間違いなく当時の「西口」バイト連中と共通だ。今の「西口」をどうこう言う気はないが、全国の高速路線バス事業者を回っていて、特にターミナルのスタッフ達の「目が寝ている」のは、高速バスターミナルの一OBとして少し不満に感じていたところだ。もっとも、背景を考えれば当然なのかもしれない。私のバイト時代はいわゆる「高速バスブーム」の最後の時期で、高速路線バス各社は新路線、増発改正のラッシュだったのだ。今思えば、昨日より今日の方が忙しい、今日より明日の方が忙しいという恵まれた環境に、私達はいた。その恵まれた環境は、今はこのプラザモータープールにある、ということだ。たまにお邪魔する新宿のセンタービル前あたりもそうだ。全夜行便を出発させ終わった後のミーティングは真剣で、充実感が溢れている。「西口」近くの居酒屋「つぼ八」で当時のバイト連中が夜な夜な開いていた「ミーティング?」での議論を思い出す。今の私の原点は、間違いなくあの「つぼ八」でのミーティング?にある。もしかしたら20年後、プラザやセンタービル出身のコンサルタントが現われて、私の仕事を奪っていくかもしれない。さて土曜はどう帰ろうかと迷いながらの出張中、今度はメールが届いた。<土曜は(個人的に)某高速路線のヒュンダイ車に乗りに行くけど一緒に行く?>。首都圏の別の路線バス事業者の高速バス担当者。あわてて金曜の宿泊を新大阪近くのホテルに変更し、土曜は6:47発の新幹線。まだ薄暗い中ホテルを出て新大阪駅まで歩いていると、新宿から到着した京王の夜行便が交差点を折れてきた。小雨に濡れた白い車体がキラリと光り、思わぬ出会いに、何とも言えぬ懐かしさともに、何かを訴えかけてきた。
2012.01.22
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同じく私が連休を取っていた間の動きとして、日本バス協会の全国バス事業者大会があった。前回の大会では一波乱あったようだが、今回は双方とも「現実的」なスピーチで平穏に終わったようだ。もっともウワサによれば、それでもご挨拶の冒頭に、<今回はおとなしく話す>というようなコメントがあったとかなかったとか。さて、11月9日の日本バス協会の高速バス委員会、10日、11日の当社のフォーラム、そして16日の同大会と、高速路線バス事業者の経営者、担当者どうしが話すチャンスが続いた。惜しむらくは、目の前に迫っている「新高速バス」制度に向けた省令改正について、未だ細かい内容が事業者に届いていないことだ。逆に高速ツアーバス連絡協議会ではこれまで数度、会員を集め詳細を行政から直接説明していただいているにもかかわらず。その結果、高速路線バス事業者における「新高速」の捉え方は、事業者、または個人によってかなりバラバラなようだ。まず多くの方々は、「新高速」などまだまだ先の話だろう、と感じておられるようだ。この話は、高速路線バスと高速ツアーバスの一本化を目指すものであり、では高速ツアーバス全社が「新高速」に移行が完了するまでには相当な時間がかかるだろうと踏んでいて、だから「まだ先」という捉え方だ。しかし、「あり方検討会」中間報告書にある通り、まずは年内(ちょっと遅れて「年度内」になりそうだが)をメドに省令改正を行ない、その上でツアー各社の移行を行なうという段取りなのだ。だから省令改正自体は目前に迫っている。一方、当社のクライアントや、フォーラム参加の事業者さん達はそのことを認識して下さっているはずだ。「一本化」という言葉についても、相反する捉え方があるようだ。その一つは、「高速ツアーバスの事実上の禁止」という言葉から、現在のツアー各社が事業を継続できなくなる、というものだ。しかし今回の制度改正は、ツアー各社が、安全面でのハードルを上げながらもきちんと事業を継続できるよう様々な配慮がなされている。高速ツアーバスというモデルが事実上禁止されることと、ウィラーやオリオンが廃業するということは意味が違う。逆に、<いざ同じ土俵に乗っかってしまえば、ツアー各社に手も足も出ないんじゃないか>と悲観する事業者も多い。たしかに、ウェブマーケティング活用やメディア受けする新商品開発などツアー各社が先行する面は多い。コスト構造も違う。しかし、既存の高速路線バスが圧倒的な強みを持つ面も多い。少なくとも、高速バス市場の「本丸」である多頻度昼行区間において、急激に競争が始まり逆転が起こるとは考えられない。それらの状況を冷静に見極め、より自由度が増す制度のもとでどのような戦略に基づき事業を運営していくのか。先延ばしにしている余裕はもうない。ところで、昨日ちょっと触れた前田大臣の記者会見、本日付の『東京交通新聞』で詳細が紹介されている。高速ツアーバスは、<「現実には非常に便利に利用されており、特に若い利用者が多いと聞いている。『バス事業のあり方検討会』で(駅ターミナル停留所の確保など)何とか早く現実的な対応策を出してほしい」と述べ、ツアーバスの運行に好意的な反応を示した>ここでも「現実的な対応」という言葉が出てくる。昨日は、利用者など一般の人たちから見た「現実的な対応」という言葉の意味を説明したが、本日はちょっと違う話をしたい。それは、「業界」として、「あり方検討会」の結果をどう受け入れるかという点だ。いま同検討会で論点として残っているのは、「高速ツアーバスを、法的に明確に禁止すべきか」という点だ。しかし「現実」をよく見て欲しい。行政は、<現在の法律の理念に照らし合わせて高速ツアーバスは違法ではない>という言葉を繰り返して説明している。つまり、本当に高速ツアーバス(募集型企画旅行による二地点間輸送)を法的に禁止しようとすれば法律改正が必要で、時間も手間もかかる上に最後は国会の判断ということになる、という説明しているのだ。現在の法律がいいか悪いかは別として、それを変えようというのは、<時間もかかるし手間もかかるし、また絶対にそうなるという確証もない>ので、この場では約束できない、というのが行政の「立場」だ。私自身は、繰り返すが、新しい事業モデルの構築も重要なイノベーションであり、制度によって規制すべきではないという考えだが、そう言い張っていても何も変わらないという「現実」がある。だからこそ高速ツアーバスモデルの「事実上禁止」という考え方を受け入れ、法改正しなくても「事実上禁止」を実現する実務面でのアイデアを提供するとともに、高速ツアーバス連絡協議会会員に対しては村瀬会長と一緒に「事実上禁止」と説明を続けた。会員各社も意図や背景をよく理解し、「新高速」移行への準備を着々と進めている。おそらく「既存組」各社にすれば、そのようにツアー各社が移行に前向きなこと自体、不気味な印象を与えるのかもしれないが、この機を逃せば、「事実上禁止」さえ実現が覚束なくなる。「一本化」は、そもそも「既存組」各社の強い希望だったはずだ。そしてその希望を実現するためには、上記、行政の「立場」を無視するわけにはいかない。その立場をよく慮らなければ、通る希望も通らなくなってしまう。大切なことは、今回生まれる「新高速バス」制度は、「既存組」「(高速ツアーバスからの)移行組」双方にとって大きな未来を与えてくれるということだ。ただし、現実をよく理解し、自らの強み弱みを冷静に把握し、適切な戦略を選んだ事業者だけが、その未来を実現できるわけだが。
2011.11.21
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本日付の『日本経済新聞』朝刊で、「旅行予約サイト バスの扱い拡充 料金など一括比較」と報じられている。ネタは「じゃらんnet」が今月24日から本格的に高速ツアーバス予約サービスを開始することと、「楽天トラベル」が高速路線バスの取扱いを拡充させることだ。そのうち、後者の方は今さらご説明するまでもないだろう。記事中に具体的に社名が上がっているのが京成バスと千葉中央バスであるが、日本バス協会高速バス委員長のお立場にある京成バスやそのグループ会社が楽天で販売を始めたことは、業界内でも相当なインパクトがあるはずだ。今後、順調に取扱事業者数は増えていくことだろう。今回の大きなニュースは前者の「じゃらんnet」だ。まず、きわめて短期間に高速バスの予約サービスを構築したメンバーには敬意を表する。その上で、少し解説させていただきたい。実は現在でも「じゃらんnet」から高速ツアーバスの予約をすることができるのだ。いったい何が「本格的にサービス開始」なのか。現在、「じゃらんnet」トップページの「高速バス」タブをクリックすると空席検索のモジュールが現れるのだが、そこで検索すると検索結果ページ以降、ホワイト・ベアーファミリー社が運営する高速ツアーバス予約サイト「高速バスドットコム」に誘導される。利用者はあくまでも「高速バスドットコム」に対し予約を申し込む形になる。「アフィリエイト」と呼ばれる提携の一形態だ。なおホワイトベアー社(みな親しみを込めて「ベア」とか「くま」とか呼ぶ)はこの種の提携に非常に熱心で、MSNトラベルなどと「じゃらん」同様のアフィリエイト形式で提携しているほか、YAHOO!トラベルとの提携は、データベースはベアのものを使うがUI(ウェブ画面)はYAHOO!側がデザインしており、これはOEM(相手先ブランド供給)と呼ばれる提携だ。つまり、「じゃらんnet」のトップページを訪れた利用者が(予約申し込み先が、ホワイトベアー社なのか「じゃらん」を運営するリクルート社なのかの違いはあれ)高速ツアーバス各社の商品を比較検討しながら予約する、という流れは従来と何も変わらない。リクルート社にすれば、面倒な顧客対応やら企画実施会社とのやり取りなどをホワイトベアー社に任せ、みずからは「じゃらんnet」の集客力を活かし利用者を集めておけばホワイトベアー社から予約実績に応じてフィーが支払われているわけだから、事業としては、コストがほとんどかからない「優等生」だったはずだ。それが、なぜ内製化に向かうのか。リクルート社にとって最大の資産は、ウェブ、リアル双方における圧倒的な媒体力だ。それらのサイトや印刷媒体では広告主から相当の広告料を受け取り広告掲載するほか、同社が展開する各種サービスの告知も行なう。もちろん自社媒体だからタダみたいなものとはいえ、その広告枠は販売すれば相当な価格で売れるものであり、多様な自社サービスのうちどれを告知するか、優先順位が付けられるはずだ。貴重な告知枠ゆえ、自社サービスならなんでもかんでも紹介、というわけにはいかない。一方、アフィリエイト形式ならたしかにコストはほとんど発生しないが、手にするフィーも高くはない。今、同社は「積極的に告知すれば高速バス予約サービスは伸びる」と踏んでいるのだ。しかし、アフィリエイトフィー程度しか手にできないサービスを、自社媒体で積極的に紹介するわけにはいかない。もっと儲かっている(あるいは儲かる可能性が大きい)他のサービスを紹介することになるとは企業として当然だ。だからここは、たとえ社内でオペレーション体制を整えシステムを新規開発して相当のコストを掛けたとしても、企画実施会社から直接送客手数料を受け取るビジネスモデルに転換する、という積極策に出た。この「攻め」は成功するだろうと思う。そして、記事にある通り当面は高速ツアーバスのみ取扱うわけだが、その高速ツアーバスが「新高速」に一本化されるわけで、楽天トラベル同様「じゃらんnet」が高速路線バスの取扱いを始めるのは時間の問題だろう。いつも書いていることだが、直営店だけで売っている商品よりもヨーカドーでも売っている商品の方がたくさん売れるのは当然で、さらにイオンでも売っていた方がもっと売れるに決まっている。そして楽天と「高速バスドットコム」さらには「じゃらん」の競争が、さらに高速バス市場全体の拡大を後押しする。合わせて事業者側は、これら予約サイトをうまく「使いこなして」いかないとならない。今のところ彼らの中でトップを走るのは楽天トラベルだから、<まずは楽天さんと>という声も多いが、それだけでは不十分なのだ。複数の予約サイトと契約し、在庫の配分、価格の設定(「新高速」移行後の話だが)などで彼らを揺さぶりながら、画面上での露出量など自社に有利になるよう導いていく。もちろん、手数料率が不当に引き上げられないようプレッシャーをかけるのも、複数の予約サイトを使いこなして初めてできることだ。ちなみに、宿泊予約の分野ではビジネス出張に強い楽天トラベルに対し、「じゃらんnet」は観光旅館に強い。例えば箱根や富士五湖、白浜温泉などの温泉旅館を予約しようとする利用者にサイト上で高速バスも合わせて案内できたら……既存の高速路線バス事業者にとって、本日のニュースは将来、きわめて大きい意味を持つのかも知れない。【首都圏の皆様にお知らせ】10月18日(火)18:10ごろから、FM Nack5『夕方シャトル』に電話で生出演します。ぜひお聞きください。
2011.10.14
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ウィラー・トラベルから、「新成長戦略」第一弾として、まずは大阪南港線で乗合バスに参入し、「新高速」運用開始とともに現高速ツアーバス商品を移行させると発表された(『日本経済新聞』や『トラベルジャーナル』参照)。「新高速」について、既存の高速路線バス事業者からご質問をいただくことも増えてきたが、ウィラー・トラベルのこのニュースでさらに加速するだろう。経営者や担当者の個別のご質問にお答えするケースもあるし、役員から本社部門の担当者、また予約センターや営業所の所長さんらに一堂に集まっていただき、みっちり半日かけてレクチャーするケースも既に何社目かだ。制度そのものの詳細については決まっていないことも多いが、「バス事業のあり方検討会」中間報告書に書かれた制度の骨子と、それを導いた環境変化。そして具体的に既存の高速路線バスに落とし込んだ場合どんな運用になるのか、もっと言えば、彼ら自身がこれからどういう方向に進むべきなのか、ご説明し皆で議論するのだ。よく尋ねられるのが、<本当にツアーバス(全社またはほとんど)が、「新高速」とはいえ乗合許可を取得できるのか?>という点だ。もちろん、安全面でのハードルは上がる(とはいえ、書面上は乗合も貸切も求められる安全性は同等だ。例えば、そもそも私鉄系事業者では、平場の路線バスで優秀な乗務員だけが貸切に「上がる」会社が多い。初めての道で咄嗟の判断を重ねながら走る貸切の方が、求められるレベルは本来的には高いはずなのだ。万が一、外国人観光客を乗せた貸切バスが居眠りなどで大事故でも起こせば国際的な問題にさえなろう。ただ残念ながら、様々な背景から、現在の貸切バス事業者のレベルは「乗合よりも上」とは言い難い)が、それは歯を食いしばってでも越えてもらうしかない。ただ、今日、高速ツアーバス事業に携わる会社のうち、企画実施会社(旅行会社)から発注を受ける立場の運行会社(「新高速」移行後は「受託会社」)の中には、涙を呑んでこの事業から撤退する会社もあるかも知れない。彼らに法令違反が判明した場合、「委託会社」(今日でいう企画実施会社)にも罰則が与えられる可能性があるからだ。いわゆる「服喪」が残るのかはわからないが、仮に受託会社の監査結果が委託会社の拡大申請(新路線開設や増回など)を妨げるなどというシーンを想像するだけで、それが他の仕事(一般貸切)に与える影響を考えると、これまでいい加減にやってきた貸切専業者は震えているだろう。また、企画実施会社の中には、「バス会社になる」ことに違和感を覚える会社もあろう。彼らは、純粋に旅行会社として消費者ニーズに応えてきただけだ。スキーが好きだからスキーバス事業を始め、TDRが出来たのでツアーを企画し、都心間だけ乗りたいという声があったからそれに対応したというのが彼らのメンタリティであり、何ゆえ今さら「生き様」まで変えないといけないのか理解できないだろう。当然ながら旅行会社よりバス事業者の方が固定的な投資額は大きく、「重たい」会社に変わることには経営者としても大きな決断が求められる。そのことに関して、新制度にかかわる身として少し申し訳ない思いがある。ただそれも、高速ツアーバスの事業規模がここまで拡大した中で従来通りとはいかないことは皆理解しているはずだ。そもそも、曲がりなりにも自身で事業を起こし自分の会社をそれぞれ成長させてきた経営者たちである。一度スイッチが入ると動きは速い。腹を決めた何人かの社長からは、私のところに貪るように質問がどんどん飛んでくる。そして私は、高速ツアーバス連絡協議会から委託を受ける形で全国を回っている。目的は、高速ツアーバスが「新高速」に移行するに当たり必要な停留所の候補地を地図に落とし込む作業である。ただいまも高速バス車中だ(高速路線バスの発券窓口で、領収書の宛名を<高速ツアーバス連絡協議会で>と申し出る時、なぜかいつもメマイがする)。北海道と沖縄を除く45都府県のうち、もう35は回っただろうか。停留所設置に求められる技術的な要件(交差点や消火栓の位置関係など)のほか、都市計画サイドの理念、そして既存事業者の感情など多重方程式を私なりに想像で解きながら、協議会としてのリクエスト地点を確定させていくのだ。そのリクエストがその後どう取り扱われるか、本当にその通り実現するかは私の知る由もないが、協議会としては粛々と移行の段取りを支援しているという事実は、特に既存事業者の皆様は認識しておいていただきたい。<そうか、とうとうウィラーやオリオンも停留所を持ててしまうのか…>という思いとともに、心のどこかに、<それだったら、そのままツアーバスでいてもらった方がマシだったな>などという気持ちがよぎった人がいるなら、これまでの反ツアーバス活動、「一本化」の主張はいったい何だったんですかということになってしまう。文字通り、これからは「同じ土俵」に上がるのだ。高速ツアーバス各社にとっても必死の上り坂が続くが、既存側もそれなりの覚悟で迎えねばならない。それでも、どう客観的に見ても、地方マーケットわけても昼行路線において既存各社のアドバンテージは大きい。既存事業者が今求められていることは、自分たちのどこがどう強く、どこが弱いのか感情的にならず冷静に把握することである。それさえできれば、どう攻め、どう守ればいいのかはっきりする。私としては、引き続き、高速ツアーバス各社に対しては渉外担当顧問としての立場から協議会を通して「ハードル越え」をサポートし、既存各社には個別の事業者単位でマーケティングを中心とした変革を支援していく。繰り返すが高速バスの拡大余地はまだまだ大きいから、どちらも支援し甲斐がある。これでますます面白くなってきた。
2011.09.02
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チェルシージャパン社が全国で運営する「プレミアム・アウトレット」は、本国での成功に倣い都心から約100kmの郊外に立地し、自家用車のほか直行バスやバスツアーなどによる集客、「ツーリズム・マーケティング」に積極的である。例えば御殿場プレミアム・アウトレットへは、新宿、東京駅、横浜、調布、静岡から直行バスが走る。乗合形式とツアー(募集型企画旅行)形式のものがあるが、いずれも相応の路線バス事業者が企画、運行するのが特徴だ。小田急箱根高速バス、小田急バス、JRバス関東、富士急行らである。そのラインナップに、今月、京王電鉄バス(運行は京王バス中央)が加わった。聖蹟桜ヶ丘発多摩センター経由のコースだ。京王系の座席管理システムSRS(サイト名としては「ハイウェイバスドットコム」)が初めて募集型企画旅行に対応したというのは興味深いところである。チェルシー社が、直行バスの運行事業者について路線バス事業者(御殿場の上記各社のほか、神戸三田の阪急や近鉄、鳥栖の西鉄など)にこだわる理由は、一つにはもちろん地上対応(バスターミナルなど)や安全面も含めた事業者のクオリティだろう。一方、ビジネス的には、彼ら路線バス事業者が持つ沿線での影響力も無視できないだろう。今月に入ってからまだ私は京王線の電車に乗っていないので確認していないが、小田急バスが調布発新百合ヶ丘経由のコースを始めた際には、小田急バス、小田急シティバスの路線バス車内はもちろん、小田急線の電車の駅貼りなど鉄道系の露出も相当なされていた。最近は高速バスの新路線も多くなく、昨年までと同じネタを使いまわしてついついお茶を濁してしまう「業務枠」(大手私鉄系バス事業者が親会社の鉄道駅や車内でポスター掲示などを行なう広告枠)だが、媒体価値は相当高い。つまり、首都圏から、例えば青森とか例えば長野だとかに向かう都市間の高速バス商品を首都圏マーケットで拡販しようと考えれば、路線別に多数の事業者が輻輳している現状が障害となるのだが、対空港(羽田、成田)や対アウトレットといった商品では逆に狭域マーケティングが有効で、京王や小田急といった私鉄の力は絶大だ。またチェルシー社側からすれば、「直行バスの告知」を通してアウトレットモールそのものも告知できるのだから(結果として自家用車での来店となったとしても)「おいしい」のではないだろうか。もっとも、チェルシー社側が持つ集客力はそれを上回ると思われる。これらの直行バスの乗客は、ウェブ予約、それもチェルシー社のサイトからリンクを辿ってバス事業者のサイトへ飛び、さらに予約システムに入り予約する利用者が圧倒的に多いようだ。バス事業者にすれば安定した集客が見込める商品ということになり、まさにWIN-WINである。別の例だが、巨大な店舗で人気のインテリア店「IKEA」。こちらはもう少し都心に近い郊外に立地する。例えば横浜の店舗は港北ニュータウン近くにあるが、最寄りの新横浜駅から頻発する無料送迎バスはいつも大混雑。そしてこの店舗、東急東横線の田園調布駅から、なんと所要30分以上、自動車専用道路である第三京浜を使う長距離無料送迎もある。東急バスが受託していて、週末の増便など、IKEAカラーではない東急色のワンロマが「田園調布⇔IKEA」とLED表示して走ったりするからまるで短距離高速バスの雰囲気だが、これがまたよく乗っている。田園調布駅ロータリーの停留所、もとい、乗り場には「満席になったので早発しました」という案内が準備されているほどだ。ローカルな話題で恐縮だが、IKEA港北に便利なのはどう考えても新横浜であり、遠く多摩川の先で都区内に位置する田園調布から送迎とはちょっと思いつかないルートである(ただし、たしかに第三京浜を通ればさほど遠くない「コロンブスの卵」ルートだが)。また私はサラリーマン時代、通勤で田園調布駅を電車で毎日通過していたが、駅貼りも車内吊りも、東急側での告知は見たことはない。さらに田園調布という地名は有名だが、いたって静かな住宅街であり駅自体が集客力を持つ土地ではない。にもかかわらずあれだけの利用者がいるのだから、IKEAに買い物に行きたいと考える都区内在住の「IKEAの目的客」が、IKEA側のサイトやチラシでこの送迎バスを知って利用していると考えられる。強いデスティネーションがあり、彼らが積極的にバスの情報を示してくれればさえ、ちゃんとバスを使ってもらえるのだということをこの2例は示している(震災等で新幹線が不通になり高速バスが大活躍した後、新幹線が復旧しても高速バスの人気が定着した、という事例とどこか共通している)。これらの例を見るにつけ、既存の高速バス路線においても活性化の余地は十分にあると感じる。終点近くにレジャー施設を自ら作って誘客するのは小林一三翁の宝塚以来、我が国の鉄道バス事業者がみなチャレンジしてきた手法(高速バス分野で最も成功した事例は、中央道富士吉田線という「参道」のその先に鎮座まします富士急ハイランド)だが、レジャーも多様化しつつあるなか自前の施設だけでは不足だろう。そう考えたとき、各事業者は、各地域の観光協会や旅館ホテルの組合、観光施設らと有効な関係を日ごろから築いているか? 時刻表を手に、よろしくお願いしますと頭を下げに行ったことがあるか? 地方側の観光資源が、大都市側の共同運行先に伝わっているか? そしていざデスティネーション側が高速バスを、例えば自社のサイト上で紹介しようとした際、アフィリエイトなどの仕組みを提供できるか? そんなちょっとしたことに手を抜くと、新規参入者に対し余地を与えてしまうのだ。
2011.08.12
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昨日は、設立準備会から数えると5回目の高速ツアーバス連絡協議会の年次総会。報道陣まで合わせて80人を超える皆さんにご出席いただいた。私はもう協議会事務局を離れた身なのだが、それでもホスト側、裏方的に動いてしまうのは、自分でイチから作り上げた協議会への愛着、ではなくて、元ホテリエ(ホテルマン)としての習性かな。私が大学を卒業しホテルに就職して、ベルパーソンやハウスキーピング(客室清掃)など最初の1年は各セクションで研修した後、正式配属されたのが宴会場のウェイターだったのだ。2000人収容の大宴会場を担当し、来る日も来る日も夜を徹して翌日の宴会の準備を重ねる日々。今回のような事業者団体の総会であれば会議卓と椅子をセンチ単位で測りながら整然と並べ、それが終わると時間との勝負で立食パーティに「どんでん」し、週末は婚礼(結婚披露宴)。正直、バス会社の労使の基準では考えられないような超長時間労働の中で、タキシードを着てゲストの前でサービスができる時間などほんの僅か。宴会やイベントの段取りをしたり会場を作り上げたりする作業は楽しいけれど、やはりホテリエになった以上はゲストの前に立ちたい。フラフラになりながらもむさぼるようにその僅かな時間を楽しんでいた時代。今なら、半日と体力がもたないだろうなあと懐かしく振り返った。さて協議会総会には毎回、国土交通省から幹部の方を来賓としてお迎えし、耳の痛いことも含めて講話をお願いしている。今回のテーマは、当然、「バス事業のあり方検討会」中間報告書と「新高速」の詳細について。旅客課長さんの講話の後、私も短いセッションながら今日のマーケット環境の変化について講演し、その中でも若干の補足をさせていただいた。前回、中間報告書発表の際に一度ご説明をいただいていることもあり、今回は会員からの質問も思ったより少なかった。その後の懇親会では質問攻めにあったけれども。各社とも、その業態や規模に応じて、これからどんな順番でどういう内容に対応していかなければならないか、少しずつながら確実に焦点を結んできた様子。全ての会員にとって低いハードルではないかも知れないが、彼ら自身の事業の安定、さらなる成長のために必要な努力を払っていくことだろう。私としても、協議会の顧問(渉外担当)を承った身として、行政はじめ関係諸機関との調整ならびに会員の努力への支援を、粛々と進めていく。業界には、未だ、オフィシャルな場で「中間報告書には納得していない」とご発言なさる方もあると聞く。そもそも、日本バス協会や各労働組合、高速ツアーバス連絡協議会らの代表者が参じて繰り返し議論を重ねた会議の末に国土交通省によりまとめられた中間報告書を「納得していない」ではないと思うのだが。しかしながら、大切なことは、今回の報告書に書かれた内容は、高速ツアーバス各社にとって大きなメリットがあるのと同時に、既存の高速路線バス事業者にとって非常に大きな意義があるものだということだ。それには短期、長期、二つの意義が考えられる。まず、どう考えても高速バス市場で大きなボリュームを持つのは短・中距離の多頻度昼行路線だ。東京と地方都市を結ぶ長距離夜行路線など、どれほど高単価だ、高乗車率だといったところで、毎日1~2往復×20数人の規模に過ぎない。一方で東関道、中央道、アクアライン、明石海峡、九州内路線など、いったい毎日何人を運び、どれだけの売上を計上しているか。この種の路線こそ高速バス市場の「本丸」であり、そこでは現在、圧倒的に高速路線バスが強い。今後、この種の路線に新規参入を目論む者は絶対に出てくる。既存の高速路線バスがその新規参入を阻止、または影響を最小限に収めるには、規制に縛られた今日の事業のあり方から、より積極的なマーケティング活動を行なえるよう柔軟性を高め、潜在需要を先に掘り起こしてしまうことが最も近道だ。規制を厳しくすればさえ新規参入を拒めるだろうなどと考えるのは、ウェブ化の進展など外部環境の変化を、またマーケット(乗客)のパワーを考慮に入れない、いたって楽観的、独善的な観測である。そして何より、長期的に見て、ここで高速と平場を切り離すことが、実は平場の路線バスを守る道なのだ。40年前に約100億人の年間輸送人員があった我が国の平場の路線バスは、今日では40億人である。逆立ちしても、それがV字回復を遂げるとは思えない。だから本当に公共交通としての平場の路線バスを守ろうと思えば、何らかのスキームを作ってもっと多くの公的なお金をつぎ込むしかない。だが、片や高速バスは競争が排除され儲かっている、また昔からの流れでサービスエリアのレストランやら航空総代理店やらといった利権も握っている、その一方で路線バスは赤字だからもっとお金を入れてくれでは、あまりにも虫が良すぎて社会は認めてくれないだろう。路線バス事業者という「会社」にお金を入れるのではなく、赤字だけれども残さなければならない「路線」に対してお金を入れる。そしてその路線が残すべき価値があるかどうか「経営」面を常にチェックする仕組みと、顧客満足、安全・安定性そしてコストなど「運営」面を常に最適に保つ仕組みを導入する。そう書くとさも大げさだが、我が国のバス産業とバスという輸送モードを守るすべが他にあるのか。そして考えてみれば、2002年および06年改正以降、我が道路運送法の理念は上記のとおりだ。法律が先に走り、むしろ業界が「マッチ売りの少女」のようにノスタルジーにしがみついているのである。今回の制度改正は、間違いなく、我が国のバス産業を立ち直らせるための大きな大きなターニングポイントになる。関係者は、何度も何度もこの中間報告書を一字一句飛ばさず読み直し、腹に落とすべきだ。そうすれば、この転機にバス事業に携わっている自身の役割の大きさを、もう一度認識できるはずである。
2011.07.22
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先日、私の古巣である楽天トラベル高速バス予約に、神姫バスの富士山ツアーが登場とご紹介したばかりだが、名鉄観光バスの名古屋~東京線も取扱いも開始したようだ。名鉄観光バスと言えば、旧社名である名古屋観光自動車の頃から、「ドラゴンズパック」ブランドで自社ツアーを積極的に展開、特に東京ディズニーリゾート(当時は「ランド」のみ)へのバスツアー専用車両として夜行運行用の高級車両、その名も「メルヘン」を大量に揃えていたのが印象的だ。今回の商品が、TDRツアーの一部を切り売りするものなのか、都市間の高速ツアーバス用に専用の運用を組むのかは承知していないが、震災以降、TDR関係の集客に各社とも苦戦していることは間違いなく、その落ち込み分の穴埋め対策であることには変わりないだろう。各社の情報を総合すると、震災後、高速ツアーバスの集客は瞬間的に落ち込み、創業以来初めてとなる前年割れを記録した会社もあったようだが(現在ではおおむね従来の成長率近くまで持ち直しているようだ)、その中でも特に落ち込みが激しかったのが名古屋~東京線だ。しかも同路線に限ってみても、昼行便に比べ夜行便の落ち込みは極端だった。ひとえに、それはTDR関係の集客が苦戦したことによる。正確な統計データはないが、いわゆる高速ツアーバスとして運行する車両(※)のうち、TDR関係のお客様が占める比率は、名古屋~東京線が圧倒的だ。※「いわゆる高速ツアーバスとして運行する車両」とあえて書いたのは、実はそれらに乗車しているお客様の中には、大手の一般的な旅行会社が企画実施するTDRバスツアーのお客様が多く含まれているからだ。大手旅行会社で沖縄ツアーを申し込んだら往復の足にANAやJALの飛行機を利用するように、大手旅行会社でTDRツアーを申し込んだら往復の足に高速ツアーバスを利用する、というものだ。逆に言えば、既存の高速路線バスも大手旅行会社ともっとうまく関係を築けば乗客数を増やせるということではある(もっとも、運用面などで先方のペースに合わせざるを得ず、現実には難しいだろう)。それだけ、中京地区の、特に若年層の間では、「TDRへはバスで行く」という文化が定着しているということだ。そして、それを文化にまで育て上げたのは、他でもないこの名鉄観光バス(というより、名古屋観光自動車ドラゴンズパック)なのである。その背景には、地域一円に根を張る名鉄グループの存在感、販売力があったことは間違いない。JTBや日本旅行といった大手旅行会社が、例えば関西地区で掘り起こした「バスで行くTDR」という市場の、おそらく何倍もの市場を、彼らは中京地区で作り出したのだ。とすれば、だ。もし名鉄グループがその頃から東京線の高速バス事業にも積極的だったら、と考えると少し残念な気もする。名古屋~東京線の高速バスは、東名高速開通とともに国鉄バスと東名急行バスによって運行が開始された。名鉄は、東急、静岡鉄道、遠州鉄道など沿線のバス事業者とともに東名急行バス設立に参加したわけだが、いくら大株主とて、「自らの商品」として中京地区における名鉄グループの販売力を総動員して東名急行バスの販売強化を行なったわけではないであろう。私が言う「第1フェーズ」時代の話だ。その後「第2フェーズ」時代に入って、名鉄自身が大都市側事業者として中央道、北陸道方面や夜行便の運行に自ら参入した。共同運行事業者の現地側の販売力に頼る部分が大きかったが、それでも名古屋側でも相応の需要を喚起しただろう。一方、「第1フェーズ」の象徴だった東名急行バスという会社は早々に解散に追い込まれた反面、国鉄バスは路線を維持し続けたから、認可制の時代において名鉄グループが自身が東京線に進出することは難しかった。ダブルトラック容認、需給調整撤廃など規制緩和の流れを受け、名鉄バスとして京王と共同運行の形で自ら東京(新宿)線を2002年に運行開始した際、既に民営化されていたJRバスは積極策に転じており、さらにウェブ時代が到来し高速ツアーバスが急成長したため、東京(新宿)線において名鉄グループの底力を発揮できる環境ではなかった。多数の事業者が方面別に高速バスを運行し、人口規模も著しく大きい首都圏、京阪神で高速バスの認知が難しいのは致し方ない。しかし名古屋と仙台においては、名鉄、宮城交通という(奇しくもグループ会社だが)圧倒的存在感を持つ事業者が存在し、名古屋から地方都市、仙台から東北各都市といった路線では彼らが十分に力を発揮しているのにかかわらず、名古屋~東京、仙台~東京において高速路線バスが成長しなかったのは、認可制の元でこれらの路線が「第1フェーズ」時代の「生きた化石」となってしまったからだ。もし名鉄、宮交自身が早くから自らの商品として東京線にノウハウを注入し積極的に販売する環境が整っていたら、これらの路線での高速ツアーバスの台頭はなかっただろう。ただ、外的環境は変化する。いったん成功をおさめた「第2フェーズ」型モデルも、いつまでも圧倒的勝ちパターンではない。もしそれらの路線が、マーケティング意欲の不足や共同運行のしがらみの中で外的環境変化にうまく対応できなければ、「第2フェーズの生きた化石」として、新規参入事業者の草刈り場となってしまうに違いない。そうなる前に自らの体にメスを入れる勇気が、いま試されている。
2011.06.30
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勤め人を辞めて高速バスマーケティング研究所を設立してから、とにかく時間が過ぎるのが速い。震災対応のお手伝い、そして「バス事業のあり方検討会」で決まった新制度。楽天という会社もかなり時間が速い会社であったけれど、事業のほぼ立ち上げから携わり5年も経ち事業の幹が出来上がってしまうと、気づかないうちに時間の流れがゆっくりとなっていたんだなあと反省する。そんなことを考えたのは、昨日の夜、F1の予選中継をCSで見ながら。明け方までカナダGPの中継に付き合ったのがまるで一昨日くらいの印象だが、あれからもう2週間も経つのかと。いつまでも、この時間の速さを大切にしたい。さて、「バス事業のあり方検討会」報告書に書かれた新制度、通称「新高速」には、私は二つの立場からかかわっている。一つは高速ツアーバス連絡協議会の立場。協議会設立準備の段階から楽天バスサービスが協議会の事務局を担当していたから私は事務局長であったわけだが、私自身が楽天を辞し、その後会員の震災対応への支援や延期されていた「検討会」もいったん終わり、先日の会合をもって事務局長の呼称は返上した。本当は、新しいクライアントのほとんどが既存の高速路線バス事業者だということもあり協議会との関係自体をゼロにしようかとも考えたが、様々な事情を考え、「顧問」という立場でお手伝いを継続することにし、先日の理事会でお認めいただいた。なお事務局は引き続き(手弁当で)楽天バスサービスが担当しているので変わらぬご協力をお願いしたい。「新制度を作る」と報告書に書くことは簡単(もっとも、行政が報告書にそう書く時点で、実効性など十分に摺合せを終えてはいるが。多くの方からご心配を聞くけれど、ここに書けないことも含め様々な点を考慮済みではある)でも、いざ制度を変えるとなると対応すべきことは山ほどある。私としては、高速ツアーバスの実態を(安全性担保のために変えないといけない部分は除いて)なるだけ多く「新高速」に反映させつつ、決まりつつある制度を噛み砕いて会員各社に伝え必要な対応を促していくという仕事を進めていく。貸切専業者や旅行会社が乗合事業者に変わるわけだから(建前上「乗合」と「貸切」に求められるレベルは同じとはいえ、実態として)相応のハードルがあることは間違いなく、それは何としてでも越えてもらわねばならぬ。ハードルを越えられなくて高速バス事業から撤退するのは仕方ない。ただ、安全性担保以外の側面で制度対応に苦慮したり撤退を余儀なくされたりという例は出したくない。細心の注意を払い関係者と協議を続けている。全く手弁当で動いてきたわけだが、自分で高速ツアーバス事業を営んでいるわけではない点が会員の皆さんとは異なるので、形ばかりは協議会から委託費を頂こうと考えている(来月の総会の議案の一つに入っているので、会員の皆さん、ご理解をお願いします)。いずれにせよ、今回の制度改正を導けたことで、この協議会を作って本当によかったとあらためて実感している。もちろん、「高速ツアーバス」という業態自体があと数年で無くなる予定なのだから、本協議会もそれに合わせて消滅するのが当然だ。「移行組」の利害を守る仕組みを維持しつつ解散するまでの段取りも様々な関係者とご相談を重ねないとならない。このように協議会を通して広く浅くお手伝いする高速ツアーバス各社とは異なり、既存の高速路線バス各社とは、高速バスマーケティング研究所としてご依頼をお受けした事業者さんに対し、個別により深く具体的にお手伝いをしている。もっとも、<「新高速」対応を手伝ってほしい>などというご依頼を受けた会社は1社もない。私がずっとご提案してきた<既存の高速路線バスも今日的なマーケティング手法を積極的に活用し事業拡大に邁進すべきだ>という主張に共感いただきコンサルテーションのご依頼を(直接的に、または間接的に。「間接的」というのは、共同運行会社など取引先のコスト負担でという意味だ)いただいている事業者が全国にいくつかある。楽天時代からお付き合いがありトップから現場まで私の考えをよくご理解いただいている事業者も、また一部の役員や担当者が共感して下さりまずは社内で講演や勉強会を催し会社全体をこれから巻き込んでいかないといけない事業者もあるが、いずれにせよシステム改修や商品再設計、社内体制再構築など処方箋を正に組み上げようとしている段階だった。そこにこの「新高速」の話である。共同運行先との関係など事業者により若干の環境の差はあるが、既存の高速路線バス事業者の立場から見ると、この新制度は極めて「活用しがい」が大きい。ある既存大手事業者の課長さんが「ビジネスチャンス」という表現を使っていたが、高速ツアーバス各社とは別の意味で、既存の高速路線バス事業者にとってこの制度変更がもたらす未来は非常に大きいのだ。ただ残念ながら、そのことへの感度は鈍い。そもそも既存各社にすれば、制度が変わるとはいえ一切何の対応をせずとも事業を継続できる。それに具体的な情報が不足している(報告書の文面を読んだだけでは伝わらないのは仕方なく、だからこそ高速ツアーバス各社に対しては協議会から委託を受け私が「通訳」していくのだが)。さらには<高速ツアーバス各社にだけ有利な内容だ>と決めつけ、その報告書さえ子細に目を通さない人がいるのは心から残念だ。それだけに、コンサルテーションのご依頼を受けている各既存事業者の皆さんに、制度を噛み砕き「新高速」では御社もこんな新しい取組が可能なんですよ、と具体的にお話しすると喜んでいただけるのだ。ただ一つだけ、全ての既存事業者に忘れてほしくないことがある。この「新高速」は「利用者が求める高速バスサービスのあり方」を制度として形にしたものだ。なぜ今、この制度変更なのか、その先にある「利用者が求める」ものは何なのか、自らの頭で考え腹に落とし込めて初めて、この制度改正を活かせるのである。<規制がユルくなるからあれもしたい、これもしたい>では、どのような結果をもたらすか、今から目に見えるようだ。
2011.06.26
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私の古巣である楽天トラベル高速バス予約の「富士登山ツアー特集」(本来は高速バス各社の予約受付が事業領域なのだが、TDRや東京スカイツリーなどのバスツアー、定期観光バスなどとともに派生的に扱っている)に、とうとうこんな会社の商品が新登場した。私にとっては、生まれ育った実家の目と鼻の先にバス停が立つ愛着ある路線バス事業者である。中学、高校と、私は神姫バス本社の前を通って通学した。今でも同社にお邪魔する際には、30分ほど早く着いて懐かしい街をうろうろする。通学経路上の商店街にあって毎日のように立ち読みをしていた2軒の老舗書店は、ドラッグストアと100円ショップに姿を変えて久しい。先日は、重厚な石造りが印象的な都銀の支店で現金を引き出そうと思い向かったら、そのレトロな外観内装を活かした結婚式場に生まれ変わっていた。仕方なく周囲を見渡すと、道路の向かい側に合併相手の銀行の支店があり、支店機能はそちらに統合されていた。巨大なメガバンクの経営にどれだけインパクトがあるのかはともかく、少なくとも物理的に支店を統合した限り経費は下がっていることだろう。ピーク時の4割にまで市場がシュリンクしてしまった路線バス事業において、当時と同じ数の事業者が変わらず存在することの異常さを少し思った。さて同社の上杉社長さんは、「バス事業のあり方検討会」において激論?を戦わせた相手でもある。私としては、地元紙『神戸新聞』などで何度もお顔やお名前を拝見してきた上杉社長さんと同じ会議に出席できるというので、胸を借りるつもりで臨んだ。私が単に高速ツアーバス各社の利害だけに固執しているのではなく、バス産業全体のあるべき姿を考える中で高速バス事業のあり方の変化を主張している旨はご理解いただけたと思う。会議では意見がかみ合わなかった部分も正直ある中で、自社商品の販路拡大に楽天トラベルを活用しようとご決断いただけたことは大変光栄である。私は既に楽天を離れた身であり、富士山以外の同社商品が今後楽天トラベル上に次々と登場するのか、また上杉社長さん以外の「検討会」委員の皆さんの会社の商品も楽天トラベルに並ぶのか、までは承知していない。ただ一般論としては、同検討会の報告書において、高速路線バス各社は「一般的な旅行系予約サイトの積極的活用」を求められていることも考えると、各社がなだれを打って契約することが予想される。既存路線バス事業者の商品の楽天トラベルでの取扱が、まずは定期観光バスやバスツアーからスタートするのは、一つには各社ともその種の商品については集客のためにコストを使うことに抵抗がないという理由がある。同時に、これはうがった見方かも知れないが、高速バスについては「共同運行」という事業モデルが障壁を作っているという要素もあろう。実は私が知る限り、A社では楽天トラベルの活用に前向きで、B社もまた前向きで、かつA社とB社は高速バス路線を共同運行している、という例がいくつかある。ところがA社とB社は、路線開設した当初は経営者同士、担当者同士の交流もあったものの、今日ではお互い電話で時々話すだけで顔も知らない、という関係だったりする。事業の戦略について腹を割って話せない相手など、事業パートナーとは呼べないはずである。ましてや、これから「新高速」の制度が導入されると、過去数年と本年の予約受注データを分析しながら、リアルタイムに便ごとに運賃を変動させ、多数のチャネル(販路)を1席単位でコントロールし、予測される需要量を元に他社(貸切専業者)の車両と乗務員を1台単位で調達していかなければならないのである。いや、厳密にいうと「していかなければならない」わけではない。今までと同じやり方を貫くことは不可能ではない。ただ、新制度の柔軟さを最大限に活用せねば、何が起こるかは想像できるはずである。逆に、先手必勝で自ら新制度を活用しきることでどのような成長が既存事業者の高速路線バスにもたらされるか、という観点でみると、きわめて大きな未来がそこに存在する。まずは今、定期観光バスやバスツアーから、という選択が間違っているとは言わない。しかし、中学生の初恋のように、共同運行先同士でお互い言葉に出すきっかけを探っているような時間はもうない。仮に今年中に「新高速」の詳細が決定し省令などの改正が実施されるとして、そこから逆算して新制度下での商品設計、基幹システムの改修、レベニューマネジメントのノウハウ習得、それを実行する体制づくり……私なら、今日一日が無駄に過ぎるのさえ惜しく、上司のデスクの上に這い上がり胡坐をかいて座り込んででも、「新高速」への対応準備を急ぐよう会社を説得するのだが。既存の路線バス事業者でも、第一線のミドル(本社の課長クラスなど)の中には、この報告書がもたらす環境変化の意味に気付いている人が多い。彼らが、ミドルの立場からマネジメントに働きかけ会社を導いていくことができるか。その意味で、将来のマネジメント候補としての彼らの実力が、これを機に試されているのかも知れない。
2011.06.23
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「バス事業のあり方検討会」中間報告についての第4回。では、「新高速」に『移行しなければならない』のだろうか? 今回、法的には高速ツアーバスは禁止されなかった。理由はいくつかある。まず、そのためには法改正が必要で省令以下のようにすぐ改正できないので、アクション優先という考え。次に禁止対象の定義が技術的に難しい点。スキー場、上高地や尾瀬、テーマパークや温泉。どこまで禁止か。まさか<既存事業者の高速バスと競合しなければ、あるいは既存事業者の貸切車を使えばシロ>などと法には書けまい。報告書にある通り、2002年の道路運送法改正以前は、路線バス事業者の経営保護のため高速ツアーバスは禁止されてきた。今はそうでなくなった代わり、「平場」の路線のうち赤字のものについて系統単位で公的補助が行なわれている。再び路線バス事業者の経営を保護するため競争を制限するよう法律を再改正すれば、今度は公的補助が受けづらくなってしまう(今日の欠損補助という手法が正しいかは別として)。それでも、高速ツアーバス各社には「集中移行期間」(おそらく3~4年)が設けられ、事実上「移行」を求められる。キーの一つは、やはり「乗降場所」である。高速ツアーバス集合場所の現状が胸を張れる状況でないことは確かだが、既存事業者が集合場所の件を問題にすればするほど、<バス停の再配分機能がないのはおかしい>とおうむ返しされるのもまた事実。たしかに、道路運送法と同時期に同趣旨で法改正があった航空では、羽田などの発着枠について調整会議が設置されスカイマークなどに優先配分される「アファーマティブ・アクション」が導入されている。今回、一部関係者は、本当に新宿などターミナル周辺の既存事業者のバス停が一律20%返上させられ新規側に配分されるとか、数年に一度、定期的に「●●地区バス停留所調整会議」が開かれ新規参入希望者にバス停が自動的に配分されことが制度化されるといった「悪夢」を一度は見たことだろう。たしかに、一度設置されたバス停が強制的に返上させられない現状では、明らかに使用効率が低いものも存在する。それらについては返上、または早朝深夜のみ高速ツアーバスからの「移行組の新高速」との共用を受け入れざるを得ないかも知れない。一方、駅前ロータリー内に多くのバス停があって、例えば新宿のモード学園前やセンタービル前にバス停が立っていないのは、もともとバス停とは「平場」の路線バス用であり、10分の乗車時間のために駅から5分も歩かされてはニーズに合致しないからに過ぎない。これから大阪へ、福岡へ向かう利用者にとっては、その5分など、羽田空港で歩かされる距離を考えれば知れたものだ。高速ツアーバス各社が現状において集合場所として使用しているエリアは、実は高速バスのバス停としては適地なのだ(詳細に見ると要件はいろいろあるが)。本当に物理的限界にある羽田の発着枠と違い、バス停についてはもう少し新設の余裕がある。しかし配分のルールが決まっておらず、設置権限者も、誰に与え、誰に与えてはならないのかわからず、新規設置は一律で認めず、という暗黙のルールが定着していただけである。<お宅の会社にバス停をあげたら、他の会社にもあげないと。そんなことしてたら道路が全部バス停になっちゃうからさ、わかるよね>。これが決まり文句だ。2002年、法律は需給調整撤廃を目的に改正されたが、バス停という重要なファクターについては(意図したかどうか別として)新規参入を導く運用改正を行なわなかったのである。高速ツアーバスを運行する事業者の相当数が高速路線バス化を目指し、バス停の確保でいわゆる「前さばき」(正式な書類を受ける前に根回し時点で断られること)に会って断念せざるを得なかったのは、これが原因である。一方、今回「誰に与えるべきか」は明確だ。もしも、の話だが、高速ツアーバスがこれまで集合場所として使用していた地区に、移行した会社数に合わせ徐々にバス停が増えていくとすればどうなるだろう。バス停ということは、ご存じのとおり、路線バス以外は駐車も停車も禁止である。そして報告書には<公道上の駐停車問題についてメリハリを効かせて対応するべき>と明記されているのである。もちろん、今日の高速ツアーバスの会社数、台数を発着させるには何本のバス停が必要でどんな運用が適切なのか、あるいは駅前ロータリーの貸切バス乗降スペースを集合場所として利用している地方都市においてどうするか(蛇足ながら、国鉄時代からの流れでJRが管理している駅前広場が多く、私鉄系事業者の高速路線バスが駅広にバス停を設置できない都市も多い中、「移行組」だけが堂々と駅広に入るのは現実的ではないだろう)、など考えないとならない点は少なくないが、そこは事務方どうしで粛々と進んでいくことだろう。「乗降場所」は、高速ツアーバス各社に「新高速」移行を促す最大の要素であるが、報告書をよく読むと、それ以外にも多くの要素が散りばめられ、高速ツアーバス(どう定義するかにもよるが)をその業態のまま継続することは事実上困難になることが予想される。もちろん、身を隠し細々と事業継続することは不可能ではないが、「細々」程度のバスサービスの手法ならいくら でもあるのだ。既存側も、モグラたたきよりずっと重要で前向きな仕事があるはずだ。今回は「実質一本化」に私も協力するが、本来なら、新業態の開発もまた重要なイノベーションのはずだ。今回の件から、双方が学ぶことは多いはずである。さて明日は「中間報告書」解説の、いったん最終回。
2011.06.17
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「バス事業のあり方検討会」中間報告についての第3回。業界メディア以外で書いてくれたのは、今のところ『朝日』のみのようだ。この記事、大枠は正しい内容なのだが、なぜか見出しが「高速ツアーバスに下限運賃制検討」となっている。議事録や報告書を読めばわかるが、そんな議論をしたことは一度もない。しいて言えば、一般論として<極端な安売りはよくない>という話が出た記憶があるのと、<高速ツアーバスの価格の柔軟性を「乗合」の制度で実現するとすれば、例えば上限認可、下限届出とした上でその範囲であれば事業者の裁量を認める、というのはどうかなあ>という案が非公式に出た程度だ。おそらく、後半の「貸切バス」のパートと混同して記者さんが1行だけ「下限運賃検討」と付け加えたものを、今度は整理部が見出しとして切り出した、というのが真相だろう。報道に接する際の難しさをあらためて実感する。同じことは先日の「高速ツアーバス回数券」のときもあった。関係書類をよく読むとわかるが、<高速ツアーバスの回数券を販売することそのものは直接的には旅行業法上の問題はない。ただそうすると、資金決済法など配慮すべき他の要素があるので、そこはちゃんとやりなさい>という方向性が明確に示されたという話が、<ツアーバス回数券は法律違反>と全く正反対の見出しがついてしまったのだ。私自身はこの回数券の販売にかかわっておらずまあどっちでもいいのだが、何社かの路線バス事業者に上記の話をしたら<ぬか喜びだった>と苦笑しておられたので、別に高速ツアーバスの回数券が無くなるわけでない点は、お伝えしておきたい。もっとも、今回の制度改正でそもそも高速ツアーバスというものそのものが無くなる予定なのだから(そもそも回数券のシェアなど微々たるものだし)、この問題も霞んでしまっただろう。本日は、高速ツアーバス側から見た「新高速」について見てみよう。昨日書いたように1日単位、1台単位で事実上「車両の手配」が可能で、運賃もほぼ事業者の裁量でコントロールできるようになるので、高速ツアーバス企画実施会社が育て上げてきたノウハウはそのまま活用できる点は有利だ。だが考えないといけない点もある。まず、「新高速」では、現在の企画実施会社の役割は「委託者」としてのバス事業者に変わる。つまり、純粋な旅行会社として(同一法人、グループ内にバス事業を持たずに)高速ツアーバス事業を営む企画実施会社は、自らバス事業に参入することがほぼ要求される(または「リテーラー」に移行し他社の代売に徹するか)。これには二つの意義がある。一つは、バス商品の企画、運営する企業は、実際にバス事業そのものを営んでいた方が、知識の面でも意識の面でも感覚の面でもプラスだろう、という判断だ。バス事業者に求められる制度の知識や安全意識くらいは、企画側も持っておけ、ということだ。そして二つ目の方が重要で、受託者の選定、管理を委託者が責任持って行なうようにする意義だ。旅行業法は、<旅行に使う交通機関や宿泊施設などは、彼ら自身がちゃんと法令遵守しており安全だ>という原則に立っている。文字で読むと何か無責任に見えるかも知れないが、交通機関にも宿泊施設にもちゃんとした業法がある以上、当然のことだ。旅行会社がツアーを企画する際、ANAやJRに法令違反がないかとか、ホテルが旅館業法はもちろん食品衛生法、消防法(非常階段を荷物置き場として使っていないか、など)に抵触していないかいちいちチェックしていたら仕事にならない。別に旅行業に限らず、<取引先に法令違反があったからお前にも罰則だ>などと言われたのでは世の中成り立たない。だから今日の高速ツアーバスのモデルでは、運行を委託した貸切バス事業者が大きな事故でも起こせば利用者への補償など旅行業法に厳しい縛りがあるものの、その事業者に違反が判明したとしても罰則は受けない。しかし、委託者として「バス事業者」の立場になることで、道路運送法の対象として、受託者に違反が判明した場合にも罰則の対象となるのだ。当然、受託者の選定、管理は以前より慎重にならざるをえないだろう。それらの意味で「新高速」は高速ツアーバスのモデルより安全性が担保される、という考えだ。そうなると、貸切バス事業者のあり方にも変化がもたらされるかも知れない。貸切バス事業者が「新高速」の運行を受託するためには、委託者に対し、積極的に、コンプライアンス体制や具体的な安全確保策をわかるように伝えないと、委託者は怖くて委託できない。一方、同一路線に複数の事業者が高速バスを運行するとともに、ウェブ時代に入って消費者側が手にする情報量が一気に増加した今日、営業主体(すなわち委託者)から利用者に対し「具体的に、わかりやすく」情報を提供することで他社との差別化を図ることが求められている。受託者から委託者へのセールス活動の目玉として提供されるコンプライアンスと安全に関する情報は、そのまま、委託者から利用者に提供される情報の最大のコンテンツになりうる。「お客様自身が、バスを選んで乗る時代」が、ここでも実現するのである。「新免」の貸切バス事業者にとって「移行組の新高速」受託が一つの目標に、そして中堅以上の貸切バス事業者にとっては「既存組の新高速」を受託することが経営者から従業員まで共通のゴールになるようなら、需給調整撤廃後の貸切バス事業において初めて「企業としての成長の姿」が目に見えるようになる。では次に、「新高速」に『移行しなくてはならないのかどうか』だ。明日以降、その点をご説明する。
2011.06.16
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今週は、(飲み会も含めて)バタバタと忙しかった。忙しかったと言いながら、対価をいただける本当の意味での仕事よりは、業界や親しい会社のために手弁当で働いている時間の方が長い気がするが。早く、正当な売上をいただける仕組みを作ることと、事務作業などを「外出し(アウトソース)」することかな。クライアント企業(バス事業者)にはそれらの重要性など説いていたりするのに自分ではできていないということか。親しい人はよくご存じだと思うが、私の場合、ガツガツがんばってお金を儲けたいという願望が人より明らかに小さく(コンサルタントの大先輩からは、お前は「お布施タイプ」だと言われた。困っている人がいたら助けて、もし後からお布施を差し出されればありがたく受け取るお坊さん、という意味らしい)、その意味では、好きなことをして(かつ、皆さんの役に立って)自分一人が食っていければ十分、というつもりで作った会社だ。ただ、その「好きなこと」が、「いろんな会社(私の場合はバス事業者)の売上や利益を最大化するための戦略を考えること」だから話がややこしい。クライアント企業に話している内容をそのまま自分の会社にあてはめると、<お前、もう少し戦略的に事業をやれよ>ということになるし、会社を大きくしたいとムラムラくることもある。まあ、長い人生だから将来はわからないけれども、現在のところは、人をたくさん雇って企業規模を大きくするよりは、「ピン」でメシを食えるよう各社のお手伝いを続けていきたい。話を戻すと、忙しかった中でなかなか楽しい仕事だったのは、日本自動車工業会で講演をさせてもらったこと。バス車両メーカー幹部の皆さんとお話しする機会などめったにないから、彼らがどう考えているのかをお聞かせいただいたのも意味があった。テーマにもよるが、私の講演では高速ツアーバス誕生の背景を説明する一節がある。募集型企画旅行(旧:主催旅行)で二地点間輸送を行なう先例として北海道の事例や「帰省バス」などがあるが、今日の高速ツアーバスはそれらとは関係ない。過去の話はいっさい端折って、<スキー人口低落によるスキーバス事業不振と、貸切バス需給調整撤廃や旅行の個人化などによる通年での貸切バスチャーター代下落の結果、スキーバス旅行会社は関西からTDR、首都圏からUSJといったテーマパーク直行バスを新施策として企画した。パーク周辺ホテルは満室で都心のホテルを手配したためバスも都心に停車し、そのうち利用者から都心間のみ乗車したいと要望が増え、自然発生的に誕生した>とごく簡単に説明する。この部分を、さらっと簡単に済ませるのには理由がある。2001年にそのようにして誕生した業態ではあるが、その後4年間はニッチ商品の枠を出なかったのに対し、ウェブマーケティングと出会った06年から急激に成長カーブを描いているため、05年と06年の間に大きな断絶があり、その断絶こそ本質的な意味で「誕生」だと考えるからだ。ただ今回、そんな話をしながら、あらためて自分が高速ツアーバスに出会った頃を思い出した。私が楽天に転職し高速ツアーバス各社(といってもその頃はまだ9社)と出会ったのは06年の春。今思えば、成長カーブの角度を正に上げようとした瞬間である。私はその時点ではまだ「アンチ・ツアーバス」であり、きわめて「既存事業者的感覚」を持っていたといっていい。私は、高速ツアーバス各社の経営者たちについて、きっと、熱い、暗い情念のようなものを持って、路線バス事業者の既得権益に風穴を開けることを目指しているんだろうと想像していた。それとも、よほどの金儲け主義者なんだろうと。ところが、実際に会ってみるとそうではなかった。彼らは、旅行会社として、利用者のニーズに応えそれを創造することに喜びを感じている人たちだった。彼らの屈託のない笑顔に拍子抜けしたのを覚えている(なお、需給調整撤廃前に貸切バス事業に参入し規模を拡大させてきた貸切専業者の経営者たちには既存事業者への反発心もあったが)。品質が覚束ない状態で本質的には輸送サービスに当たる事業を行なったことに賛否はあろうが、本人たちは、目の前のお客様の声に応えていたらこうなったと、ごく自然体だったのだ。あのとき私が感じた違和感が、既存事業者をして高速ツアーバス各社への理解を妨げる要因などだろうと、あらためて思う。既存事業者のメンタリティとしては、安全・安定に万全の配慮をしながら公共交通を守る使命感やプライドがほとんどを占める一方、心のどこかには既得権益と非難される恐れもまた、うすうす持っているというあたりだろう。それに対し「既得権益打破」とムシロ旗を掲げられるならまだしも、「お客様のために」などと正論を吐かれると、自分たちが守ってきたもの(あえて言葉にすれば「安全・安定」)の価値を認めない異国人と話すような気分になるに違いない(少なくとも私は最初そうだった)。既存事業者が高速ツアーバス各社に対し生理的に感じてきた違和感、嫌悪感は私にはよくわかる。最近、多くの事業者、担当者が勇気をもってその嫌悪感を飲み込み、高速ツアーバスの手法のうち盗めるモノは盗もうとするようになった。そういう前向きな人たちの前では、その嫌悪感の話は「わかります」と言うのに留め、より有益な情報提供に話を切り替えるのに対し、なかなか自らを変えることのできない人たちには、わざと「マーケットのニーズ」とか「バス産業全体の将来」とか正論をぶって余計に嫌な気持ちにさせたりして内心は楽しんでいるけれど。この、両業態の相互の(特に一方からの)無理解を私はずっと嘆いてきた。かつて書いたように、両業態の関係者や行政によるラウンドテーブルの実現を望んできた。昨年、「バス事業のあり方検討会」として実現し、私自身もその委員に選んでいただいた。半年の議論も終わろうとしているが、最後まで、その無理解を埋める努力を続けていきたい。
2011.05.22
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昨日、徳島県の海部観光から、「マイ・フローラ」について正式発表があった。富山県のイルカ交通の「和(なごみ)」と合わせ、4月27日に二つの「2列シート」高速ツアーバスが運行を開始する。片や、エアロクイーン。片や、ガーラ。片や、徹底的に居住性にこだわった12人乗り。片や、定員とのバランスを考慮した20人乗り。片や、まずは1台のみ導入し既存の3列車と隔日運行し乗客アンケートなどで改善点を洗い出したうえでもう1台を完成。片や、スタート時から一気に毎日運行の2台体制。対照的な面もあるが、この時期に、東京と地方都市を結ぶ夜行路線に、現地側の事業者(どちらも自社の旅行部門で企画実施)が2列シート車を導入するというニュースは偶然とはいえ興味深い。両社とも、オリジナルで作り上げた座席周りの造作が、保安基準等をクリアするようギリギリまで調整を繰り返したという点も共通している。共通していると言えば、両社の経営者のバスへの熱い思い、もだ。一見、片や温厚で片やエネルギッシュなお人柄に見えるが、乗務員や車両などバス事業への強い思い入れは共通している(余談だが、ともに貨物運送ご出身という点も共通だ)。両社を訪問して打ち合わせを済ませ辞するとき、私はいつも、この経営者の思い入れを自分が十分に受け止め、力になれているだろうか自問する。「わざわざ東京から足を運んでもらって」という一言で、大目に見てもらっているのではないかと不安になるくらい、どちらもバスへの思いが強い。大げさではない。大手私鉄系事業者のアルバイトとしてバスと出会い、数年前まで、「ぽっと出」の独立系事業者などバカにしていた私が自省を込めて言うのだから理解してほしい。同じ時期に、同じような事業者が同じような車両を導入するのは、もちろん、それ自体は偶然に過ぎない。だが、その背景にある環境変化を考えることは重要である。ウィラートラベルや平成エンタープライズも含めた高速ツアーバスの高級車両ラッシュには、たしかに、デジャ・ヴ(既視感)を感じる。1980年代後半から90年代前半、高速バス(当時は「高速路線バス」のみ)は右肩上がりだった。田中角栄の列島改造論の結果として高速道路は全地方都市へ延伸され、共同運行クローズドドア制度定着で各地元の路線バス事業者が自ら高速バス事業に参入。地方都市側で最大限に需要を喚起した。我が国は空前の好景気(後から思えばバブル)の中にあり、各社とも車両の高級化を競った。その頃を知る人にとっては、「いつか来た道」であり、高速ツアーバスを快く思わない人なら「二番煎じを、さも“一番煎じ”のようにメディアが取り上げるのが許せない」ことだろう。だが、「車両の高級化」という表面的な事象だけを取り上げるなら、木を見て森を見ず、である。あの頃の高級化とは何が違うのか。当時は、高速バス事業は独占免許(平場の路線バスの「地域独占免許」に対して、1組の共同運行ペアに対して独占的に認可が与えられる、いわば「路線独占免許」)であった。また運賃についても認可制であり、同一区間同一運賃の原則が貫かれていた。だから、車両の高級化は、路線単位で行なわれた。所要時間が2時間を超えるとトイレが付き、3時間を超えるとシートピッチが広め、6時間を超えるあたりから3列シート、というのがおおむねのパターンで、これに各事業者や地域の特性により変化が加わる。すなわち、乗客が実際にどの車両に乗るかは、路線単位で、事業者側が決めていたことになる。それに対し、今日(私の定義でいう「第3フェーズ」)においては、同一区間を複数の事業者(高速ツアーバスを含む)が運行する。車両タイプや事業者のブランド力などにより複数の価格が並ぶ。その中から、乗客自身が乗りたいバスを選ぶ。一見は同じに見える車両の高級化だが、主導権が、乗客側に移っている点が特徴だ。なぜそう変わったのか。もちろん規制サイドの変化もあるが、実はそれ以上に重要なのが、ウェブ予約の普及である。多様な車両、多様な価格を電話予約で取扱うのは難しいが、今日では、乗客自身が、画面上で画像やスペック、他の乗客の感想まで比較しながら自ら予約入力操作をするようになったのだ。それゆえ、既存の3列シートやスタンダードの存在を前提とした上での、「マイ・フローラ」「和」であることが、以前と大きく異なる。その流れは、まず、潜在需要の大きさに比べて高速バスの認知が著しく低く大きなホワイトスペースが残っていた首都圏~京阪神などの大都市間路線において花開いた。既存路線の存在感が相対的に小さかったから、「ウェブ化以後」を前提とした市場展開ができたのだ。ウィラーの「ビジネスクラス」、平成の「ロイヤルブルー」はその象徴だろう。それが今、既存路線も相応の存在感を持つ、首都圏~地方都市の夜行路線に展開が始まった。当然、その先には、高速バス市場の「本丸」である、多頻度昼行路線がある。もちろん、習慣的利用が多くフリークエンシーこそ最大のサービスとなる点で、夜行路線とは大きく事情が異なる。しかし、ウェブ化の進展により「情報の非対称性」が解消されたことは、路線の長短に関係なく共通だ。新宿~松本線の「Sクラス」、福岡~宮崎線の(まずは「皆割」その後の)「席割」用の「セレクトシート車」は、その萌芽とも言える。習慣的利用が多く、回数券比率が高く、さらにウェブ予約比率が低い多頻度昼行路線において、多様なニーズにいかに万遍なく答えるか。困難は多い。もっとも、各社に対しそれをお手伝いすることこそが、今回の私の最大の挑戦であり、同時にメシの種でもあるのだが。
2011.04.14
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先週末に取扱開始した東北急行バスだが、さっそく全国450万通配信のメールマガジンで大きく取り上げたこともあり滑り出しは好調だ。乗車対象日が1週間以上先であるにもかかわらず続々と予約が入っている。一例だが、往路(夜行)は東北急行で復路(昼行)は高速ツアーバス、あるいは何度も高速ツアーバスを繰り返し利用しているリピータが今回は東北急行、という使われ方が目立ち、従来から東京と仙台の間をバスで移動していたが、高速ツアーバスの存在しか知らなかった(あるいは、東北急行バスやJRバスの存在は知っているが、予約の利便性その他の理由でそちらを選んでいなかった)利用者が今回の移動からはサイト上での比較検討の結果、東北急行バスを選んだ構図がはっきりと出ている。さて、では利用者はどのような基準で高速バスを「比較」「検討」しているのだろうか? 様々な基準があろうが、例えば、「3列シート(2列を含む。以下同じ)」か「4列シート」か。皆様はどれくらいの割合と想像するだろうか? 首都圏-京阪神(「フライングスニーカー」号登場前のデータなので全て高速ツアーバス)で言うと、平日に関しては、人数ベースで約45%が3列、残りが4列だ(ここではトイレなど付帯設備やアメニティグッズなど付帯サービスの有無などは除外して、座席タイプだけの切り口のデータだ。また金額ベースでは3列の方が上)。ちなみに週末は3列が35%まで低下するが、これは、一般的な貸切バス車両が4列であるため週末には4列でどんどん続行便を設定できるが3列は続行便を用意できず早々に満席となり、結果として3列のシェアが低下しているのだ。逆に言うと週末には、本当なら3列希望だが満席で、やむを得ず他の交通機関(高速路線バスを含む)を選んでいるか、あるいは4列で我慢している人が約1割存在することを示している。高速路線バスの場合、従来は乗車時間によって事業者側が車両タイプを決めてきた。2時間を超えるならトイレ付き、6時間を超えたら3列シートというあたりが平均的だろう。私が「第2フェーズ」と呼ぶ時期の初期はいわゆる「高速バスブーム」であり全国に高速バス路線が雨後の筍のように新設されたが、そのきっかけとして3列シートなど居住性に優れた専用車両の登場が挙げられる(共同運行システム導入により既存事業者が自ら高速バス運行に参入したことによる地方側での認知向上と、高速道路延伸という背景も大きい)。それゆえ、4列シートの貸切車で夜行運行することにネガティブな意見も多い。私自身、学生バイト時代、さらに実は今の会社に転職した時点でもまだかなり否定的だった。もっとも、帰省ラッシュなどの繁忙日において4列シートの貸切車で続行便を設定するかどうかは事業者によって対応が分かれていた。高速バス繁忙日は貸切バス閑散日にあたるため各社ともできれば続行を設定したいのが本音で、私見だが、大都市側事業者のポリシーの違いによって夜行の続行に貸切車を持っていくかどうかの判断が分かれているようだ。ポリシーと言っても、その大都市側事業者が、夜行便よりも収益性が大きい短・中距離の高速バス路線を持っていれば続行便はそちらを優先するので夜行路線は専用車のみ、という程度であり、共同運行ペアの組み換えが続く今日、そのポリシーを巡って新しい共同運行先と意見が合わないとの愚痴も聞く。片や<続行便を設定し多くの方の役に立つのが我々の責任>と言い、片や<「高速バスは快適」というイメージを覆すリスクがあり目先の利益にはなっても長期的にはマイナス>と主張する。しかし上記のデータを見る限り、その論争は終焉させるべきと言えそうだ。要するに<お客様自身が選べばいい>のだ。従来の「路線独占」認可時代は、誰からも不満を持たれない「最大公約数」的商品作りが、独占認可と引替にして強い責任感の元で進められた。首都圏-京阪神で言えば「片道約8時間だから3列独立トイレ付き」が標準とされ、どうしてもその枠をはみ出す繁忙日の続行便について、上記議論が事業者のプライドを賭けて行なわれたのは決して間違いではない。しかし、高速ツアーバス業態はもちろん高速路線バス業態においても座席タイプ別に価格設定が可能になり、かつウェブ上で乗車日と区間を指定するだけで空席便の詳細情報(画像やコピーワーク)と価格を一覧的に表示させることができるようになった以上、自身のニーズに合った商品をそれぞれの利用者がチョイスすればいいようになっただけのことだ。<高いけど快適だから3列シート><安い方がいいから4列シート。でも路上の集合場所よりは待合室のあるターミナルから乗りたいから少し高いけど「路線」を選択>といった判断を利用者自身が行なう環境が整ったのだ。以前、酒販免許ががちがちに運用され、自宅でビールを飲むには近所の酒屋さんからラックで配達してもらうしかなかった頃、ビールの銘柄は限られ商品の個性も乏しかった。消費者が自ら選べない以上、極端に苦いとか軽いとかのビールが届けられれば不満を招くリスクがあったからだ。しかし酒販免許の運用が緩和されコンビニの冷蔵ショーケースから一人ひとりの消費者が自分の意思でビールを選ぶようになった今、価格の安い発泡酒や逆に高級なプレミアムビール、女性向けや健康志向などそれぞれの消費者のニーズに寄り添った多彩な銘柄が並ぶようになった。ウィラー・トラベルと平成エンタープライズを筆頭に高速ツアーバスの世界に起こっている商品の多様化は正にこの流れにあり、むしろ「所要8時間だから3列シート」などは事業者のお仕着せとされるリスクがある。先日、学生時代の友人が<学生時代、遠距離恋愛していて、よく入場券だけで新幹線に乗り込みトイレに隠れて彼女に会いに行っていた>と思い出話をしていた。酒の席での話だからその行為の真偽もわからないし事実なら犯罪ではあるのだが、少なくとも「遠距離恋愛中の学生」という利用者には、少しでも安く移動を提供することこそ、一つの「責任」である(安全性の維持という別の責任との兼ね合いがあるとしても、だ)。そして私たち予約サイトとしては、利用者一人ひとりが自らのニーズに最も近い商品を選べるよう、サイトの導線やデザインを工夫することにその責任がある。しいていえば、高単価の商品が売れた方が満足度が上がり、かつ手数料収入も増えるので、上級車両から優先して売れるような工夫も忘れてはいないが。
2010.10.04
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この夏は本当に色々なことがあって、バタバタしている間にブログの更新もついつい怠ってしまった。思い返せばバタバタの幕開けとなったのは、7月の人事で、お世話になっていた国土交通省の方々が数人、異動になってしまわれたことだ(逆に、協議会立ち上げの前後に本当にお世話になってその後他省庁に出向し長らく東京から離れていた方が本省に戻ってきたりもした)。その後、お盆の繁忙期こそ大きな問題なくクリアしたものの、お盆明けに高速ツアーバスの大きな事故があり、受託販売会社としても高速ツアーバス連絡協議会事務局としても対応することとなった。また数字の面では、この夏休みの取扱高の目標は対前年で約3割増であったのに対し約2割増で終わってしまい会議の度に胃が痛い。ただその中でも、首都圏~秋田県、山形県の路線が対前年2倍を越す成長で、それ以外にも首都圏~青森県や京阪神~鹿児島といった大都市と地方都市を結ぶ夜行路線が比較的好調だったのは従来からの傾向である。ちなみに秋田はウィラー・トラベルが今年から3列シート車を投入、山形はお盆の時期限定で庄内交通観光バスが高速ツアーバスに参入、青森は弘南バスの高速路線バス取扱開始や南部バスとウィラー・トラベルの提携、鹿児島は九州産交バスの高速路線バス取扱開始という風に、利用者の選択肢が目に見えて増えた路線がサイト全体でも相乗して好調であった。そして異常に暑かった夏の最後に来たのが、総務省行政評価局により国土交通省に対して行なわれた「貸切バスの安全性確保に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」であった。総務省行政評価局とは一般企業でいう「内部監査部」に当たる組織で、本件についても非常に長い期間をかけ丁寧に評価を行なってこられた。たしかにここ数年国土交通省が行なってきた規制緩和とは、事後における適切な監視とそれに対応した罰則が機能することが前提であったことは論を待たない。本ブログでも経済人@尾張藩氏から何度もコメントをいただいている通りである。その観点から厳しい指摘をされている。立場上、今回の勧告に深くコメントすることはできないが、次の2点を感じたことだけは表明しておきたい。一つは、国土交通省や観光庁の皆様にはこれまで色々とご協力、ご決断をいただいていただけに、結果としてこのような勧告が出ることになったのは、お互いに目指す形にまだ辿りつけていなかったわけであり、少なくとも単純に個人的な気持ちとして忸怩たる思いが強いこと。もう一つは、今回もまた旅行会社が悪者視されている点には大いに不満な点である。ちなみに私たちの会社は旅行業界では鬼っ子であり、本来は私は旅行業界の意見を代弁する立場には一切ないし、代弁しようと考えたこともないI(そんなことをしたら多くの旅行会社から嗤われるかもしれない)。それでもあえてこの件を取り上げるのは以下の思いだ。「旅行会社は(企画旅行の場合)貸切バス代金を値切って、(手配旅行の場合)手数料をがっぽり取ってバス会社の儲けをさらっている」と言うのは簡単だが、旅行会社が本当に楽でおいしい事業なら、業界大手3社が揃って赤字(それも最大手は年間150億も)のはずがない。さらにこの貸切バス代金に限って言えば、公正取引委員会から旅行会社がカルテルとして摘発された例も多い。公取委は、価格競争を行なって消費者に還元しろという姿勢なのだ。それを、国交省(と、それに対して勧告する総務省)と公取委とで一貫性がないと非難することは容易である。だが、やれ旅行会社が悪い、やれ行政が悪いと、不都合なことは全て外部のせいにし続ける限り、バス業界はこのまま衰退するよりないだろうと考える。競争がありながらも安全性が強く問われる業界も、メーカーが作って販売は小売業者が担う業界も、この世の中には貸切バス業界だけではないのだ。(決して旅行会社が悪くないと言うのではなく、あるいは旅行業界の擁護のために言うのではなく)変わることができなければ衰亡への道が目に見えているバス業界自身の構造変革のために、これ以上、全てを外部環境のせいにして被害者面を続けるのは終わりにしようと言いたい。とはいえ協議会事務局としては、本勧告中、高速ツアーバスに関する部分で「ツアーバス関係者による自主的な改善を促すこと」とされている点を肝に銘じ、従来から長い期間かけて準備を進めている改善策も足元ですぐに実現する改善策も含め、真摯に対応していきたい。さて、季節も、そんな夏からまもなく一つ進もうとしている。特に高速路線バスの取扱を増やすという点に関しては年末にかけ大きな動きが続く。その第一号として、本日から西東京バス/四国高速バスによる八王子・新宿・横浜~高松・丸亀線「ハローブリッジ」号の取扱を開始した。本路線は、私自身が新宿高速バスターミナル(通称「西口」)でのアルバイト時代に、毎日のように見送ってきた路線である。京王本体(当時は京王帝都電鉄自動車事業部)から西東京バスに移管されたので、私たちのサイトにとっては、金沢線、そして成田空港線に次ぐ西東京バス3路線目の取扱という位置づけだが、私個人としては、自身の原点である西口を発着する路線を初めて取扱させていただけるわけで感慨深い。大きな、大きな一里塚という気がする。言うまでもなく、乗車対象初日である10月1日には、西口まで「ハローブリッジ」を見送りに行くことになろう。西口には知った顔が何人もいるわけだが、あらためて「これからお世話になります」と挨拶しないといけないのかなあ。実際に自分たちが需要喚起したお客様が、勝手知った西口からご乗車されると想像すると(あくまで個人的な思いだが)感無量である。「取引先」の立場として西口のプラットフォーム上で初めてバスに頭を下げるとき、涙をこらえられるかどうか、今から少し心配している。
2010.09.21
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高速ツアーバス企画実施会社(高速ツアーバス事業の実稼動ベースで約60社)は、事業タイプによって大きく二つに分けられる。一つは、通年で同事業を営む会社である。ウィラー・トラベルやオリオンツアーのように全国に路線網を持つ会社もあれば、サンマリンツアー(宮崎)や高志観光バス(福井)のように地元密着で1路線だけ運行する会社もある。通年運行する以上は平日の乗車率が課題だから、販路の拡大が肝要だ。各予約サイトでの代売や自社サイトに加え、電話予約や旅行会社での代売(それらのためにはパンフレット製作と配布が必須)など多様な販路を組み合わせる。予約サイトの送客手数料負担を少なくするために自社サイトのプロモーションを行なうなど、チャネルミックスにも積極的だ。彼らは季節波動に対応して続行便を設定するが、地上側での処理能力の限度などから、お盆などピーク日の需要に全て答えられる訳ではない(ロータリーエアーサービス「キラキラ号」や富士セービングバス「旅の散策」のように専用車両にこだわり続行便を一切設定しない会社もある)。そこで私たちは、通常の貸切バス事業者(ただし自社で旅行業免許も保有)に対し、ピーク日だけスポットで高速ツアーバスを企画・運行しないか提案に回ったのだ。私自身、座席表作成や乗車時のチェックイン業務など、初運行する会社の現場に出向きお手伝いしつつ手法を伝えたことも何度かある。その結果生まれたのが二つ目のタイプ「スポット型」である。彼らは年に数日しか高速ツアーバスを運行しないから、パンフレット製作や自社サイトのプロモーションをするより全座席を私たちに販売委託した方が安上がりでしかも楽だ。なお「スポット型」から「通年型」に移行した会社も多く、平成エンタープライズなど今やかなり大規模に高速ツアーバス事業を展開している。高速ツアーバス成長の歴史を振返るとき、まずは汎用的な貸切車で参入しやがて上級車両の品揃えも図る「スモールスタート戦略」とともに、お盆などのピーク日に他の交通機関が満席になった後でもスポット運行の車両を積み増して「満席」状態を回避し多くの人に利用してもらい、それが固定客となって通常期にもリピートする、というサイクルがうまく機能した点も大きい。「山」をとにかく高くすれば「谷」もそれに釣られて埋まっていく。もちろん、片道輸送でも利益が出るようピーク日には極端に高い料金を設定するため価格変動システムを導入したことや、特定日のみ運行でも利用者が該当商品に辿り着けるようサイトのメイン導線を「空席検索」に変えたこと、精緻なデータ分析を元に出発日ごとに不足する台数を事前に把握できるようになったことなどがその大前提である。そのような戦略を、私たちでは4年前にまず首都圏~京阪神に導入し、その成功を受けて首都圏~名古屋、仙台にも広げた。しかし、地方向け夜行路線に一気に拡大とはいかなかった。元のパイが小さいからだ。一晩で200台のバスが運行する区間に20台のスポット増発を設定するのと、3台しか走らない区間に1台のスポットを出すのとではインパクトが違う。「通年型」の会社も大切な取引先であるので迷惑をかけるわけにはいかないからだ。「通年型の会社にすれば、お盆のおいしい時だけスポット組が入ってくるのは歯がゆいのではないか」と質問をいただくこともあるが、そんな疑問自体「路線バス業界的」だ。お盆に初めて高速ツアーバスを使った利用者が次に同区間を移動しようとした際、それが平日なら通年型しか運行していない。ピーク日に一人でも多く(他社のバスであっても)高速ツアーバスを利用してもらうことが通年型の会社にとってもプラスとなるサイクルを彼らは体で実感している。高速ツアーバス(本当は高速バス路線バスも含め)は、各自が狭い縄張りを守ることより皆で成長することを求められている「成長期」の事業である。私はこれまで「高速ツアーバスは大都市間においては成功するが地方都市路線については難しい」と様々なところでご説明してきた。少なくとも3年ほど前には、決して既存事業者へのリップサービスだけでなく、私はそう信じていた(そう信じたかった、のかも知れないが)。地方都市路線では既に高速路線バスがマーケット掘り起こしを済ませている上に、マーケット全体の規模が小さく上記の各種戦略を採りづらいからだ。しかし企画実施会社たちの懸命な努力の結果、地方都市路線は大きく成長した。首都圏~青森、秋田、富山、金沢、岡山、広島、徳島、高松、福岡や京阪神~福岡など、大都市間路線に次いで流動が太い夜行路線については、何台もの続行便やスポット便の設定が当たり前になっている。この夏に在庫不足に陥って満席による品切れを誘発しそうなのは、首都圏~鳥取、島根、高知や京阪神~宮崎、鹿児島など、もう一段細い路線たちなのだ。それでも、高速バスマーケットのほとんどを占める多頻度昼行路線は未だ高速路線バスが圧倒的に強い。所要2~4時間の中距離路線で高速ツアーバスがなんとか事業として成り立っているのは、福岡~宮崎、東京~長野、東京~福島くらいで、高速路線バス側の運賃が他路線と比較しても高めだなど何らかの要因があったところばかりだ。長距離夜行と比べ習慣的利用が多い中距離路線では、制度面では当日発券など高速路線バス業態の方が有利だし、営業面ではフリークエンシーが重要で小規模参入では転移しづらいなど高速ツアーバス(ないしは新規参入者)に不利である。だから今現在の私の率直な意見を求められれば「やはり中距離路線で高速ツアーバスが大爆発することは難しいのでは」と答えるしかない(それこそが、針の筵のようになりながらも提案を続け高速路線バス取扱を拡大しようとしている、会社としての理由である。個人としての理由は単に「好きだから」だけど)。しかしながら、わずか3年前には、首都圏~青森、金沢、福岡などの路線がここまで爆発するとは、私自身、感じていなかったのである。今から3年後、高速バス業界がどう変化しているかなど断言は無理だ。できることは、業界の今後を見通していたつもりで実はできていなかった自分に反省しながら、その時その時の環境と一人ひとりのお客様のニーズに耳を澄ませることしかない。もう一つ、競争激化をいかに高速バスマーケット全体の拡大に寄与させるかという観点だけは、販売側として一瞬たりとも忘れるわけにはいかない。
2010.07.30
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ウェブの登場がマーケティングをどう変えたのかという点については様々な書籍で述べられているが、一言で言うと「サプライヤー(商品メーカーやサービス提供者)と消費者の間の距離を一気に近くした」とまとめていいのではないだろうか。宿泊業界で言えば従来、集客のほとんどを旅行会社に頼っていた。日本の宿泊業界においては「団体」が占める率が非常に大きい(旅行会社が企画する「募集ツアー」もだが、それ以上に大きいのは企業のインセンティブ旅行など「法人団体」だ)し、個人客についても、旅行会社のカウンターで予約を受ける例が、特に温泉旅館ではほとんどだった。旅行会社のカウンターで旅館が予約される際、利用客が見ているのは紙媒体(パンフレット)であり、係員が見ているのは自社の基幹システム(JTBなら「TRIPS」)である。しかしパンフレットも基幹システムも、掲載できる情報量に限界がある。例えばパンフレットなら、コスト度外視なら情報量モリモリの分厚いそれを印刷すればいいわけだが、現実には予算の都合で限られたページ数に少しでも多くの旅館を掲載することになり、一旅館ごとの情報量は限られてしまう。基幹システムも、情報を増やすことは技術的には難しくないが、各旅館が記入した「登録用紙」を元に食事や部屋タイプ、料金などを旅行会社側で手入力する以上、情報量は限られたものにならざるをえない。旅行のプロフェッショナルである旅行会社の係員とはいえ全国の旅館に精通しているわけではないから、どうしても、係員が利用客に宿を薦め、それを元に利用客が宿を選ぶ際には「地域」と「グレード」(料金)を軸にするしかない。係員も利用客も「有馬温泉で一人2万円くらいの宿」という条件をキーにするしかないのだ。そうすると旅館の側では、極端に「とんがった」宿作り、商品作りができなくなってしまう。同グレードの宿の多くが部屋食なのに、「温かいものは温かいうちに召し上がって欲しい」というこだわりから食事処での夕食に切り替えたら「部屋食だと思っていたのに部屋食じゃなかった」という苦情が旅行会社に寄せられるかも知れない。結局、どの旅館も似たような宿作りを迫られる。それで利用客が満足している間はそれでいい。しかしレジャーが多様化する中で、金太郎飴のような旅館ばかりでは利用客の心は離れがちになる。一方、ウェブ化の進展によって利用客が手にする情報量が一気に増えた。宿側も、紙媒体(パンフレット)に付き物だった「枠の大きさ」という限界を超え、多数の商品(宿泊プラン)を自らの手でウェブに掲載できるようになった。「平日限定で激安」「女性向け」「泊食分離(旅館では夕食を提供せず宿泊のみ)」など多様な商品を旅館が自ら考え、自ら商品設定し登録できるようになったのだ。その場合の「ウェブ」とは、各旅館の公式サイトも、私たちのような予約サイトも、である。私たちでは全国に「インターネット・トラベル・コンサルタント」と呼ばれるスタッフを配置し、各旅館が商品作りを自ら行なうようサポートを続けている。その古株が笑っていたが、最初のうちは旅館の女将さんに「おたくのウリは何ですか?」と質問すると、その答えは「伝統と格式」「心のこもったおもてなし」「地元な食材と職人の技」と、判でついたように同じだったのだという。しかし彼らもウェブを活用する中で、自らの「トンガリ」を持つようになっている。旅行会社のカウンターで旅館を予約しても私たちのサイトで予約しても、「手配旅行」という法的な位置づけは変わらない(ちなみに旅行会社で新幹線や高速路線バスの切符を買っても、私たちのサイトで高速路線バスを予約しても「手配旅行」である)。しかし本質的な意味としては、<「旅行会社の商品」として宿を売る>旧来の旅行会社から<「宿の商品」を売るのを手伝う>予約サイトへ、立ち位置は大きく変化している。私たちは、商品の作り方やその見せ方について徹底的に旅館をサポートし、また多くの利用客をサイトに集めるものの、意識の上では「売り手」はあくまで各旅館だ。旅行会社を通してしか販売できなかった旅館を、なるだけ利用客の近くまで連れて行くのが私たちの仕事なのだ。では高速バスではどうなのだ、という点が、既存事業者の皆様に今ひとつピンとこないようだ……。たしかに高速路線バスにおいては、旅館における旅行会社のような「販売を握っている」者はおらずバス事業者の直接販売が中心だった。そこに私たちが後から入り込もうとしているのだから、「サプライヤー(バス事業者)と消費者の間の距離を逆に遠ざけている」と思われるのはわかる気がする。しかし(「発券代行」としての旅行会社の役割はあったが)「集客」については失礼ながら高速バスはちゃんとできていなかったのであるから、これまで事業者と「一部の」消費者の距離は近かったものの、それ以外の多くの消費者(潜在需要。まだ高速バスの存在や魅力を知らない消費者)との距離はずっとずっと遠かったわけで、私たちはそれを近づける役割なのだ。さらに、高速ツアーバス企画実施会社も私たちも同じ「旅行会社」であることが余計に混乱させているようだ。極めて単純化して言えば、企画実施会社は貸切バスを安くチャーターすれば利益が出るのに対し、私たちは少しでも高い商品を取扱えば利益が出る。予約サイトというのはそもそも旅行業界からは鬼っ子扱いなのに、バス業界からは「旅行会社」と一括りにされるのはどうも微妙な感じがする(苦笑)。もしウェブが無ければ、中小旅行会社がや貸切専業者が高速ツアーバス事業で独り立ちすることなど無理だっただろう。高速ツアーバスではウィラー・トラベルの働きが目立つが、市場シェアで言うと決して圧倒的なわけではない。全国で60もの企画実施会社がそれぞれ順調に成長しているのだ。多数の中小規模のサプライヤーがそれぞれ「自走」し工夫と努力しだいで大きく成長できることこそ、ウェブ時代なのである(その最たる例がウィラーなのだ)。ならば、そういった中小企画実施会社が育つことで既存事業者は追い込まれるのか? とんでもない。JR(鉄道)やANAら「大手」サプライヤーに比べれば、高速路線バス事業者はみな「新興」「中小」サプライヤーである。その意味でウェブと高速バスの親和性は大きい。ウェブ時代の到来は、既存事業者の前にも、新興の旅行会社や貸切専業バス事業者の前にも、同じ大きさの未来を用意してくれているのである。
2010.07.29
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高速ツアーバス成長の歴史を振り返ると、いつも書いているように2006年ごろから突然、爆発的に成長している。2001年にオリオンツアー(厳密には、オリオンよりも先に某大手旅行会社が系列事業者の貸切バスを使って始めていたのだけれど)が高速ツアーバスに初参入して以来4年後にあたる2005年度の高速ツアーバス輸送人員(推計値)は年間20~30万人に過ぎなかったのに対し、その4年後にあたる2009年度は400万人である。まだ10年に満たない高速ツアーバスの歴史のなかで、前半の4年間と後半の4年間で、成長スピードは10倍以上の差があったことになる。ではその境目となった2005年後半から2006年前半にかけて一体何が起こったのか? 一つは、その時機に私たちのサイトが高速ツアーバス予約事業に参入したことに象徴されるようにウェブマーケティングの本格活用が始まったことであり、もう一つは、行政が通達等で高速ツアーバス業態を明確に容認したことである(この成長過程は7月12日付の『東京交通新聞』の記事に詳しい)。旧来の紙媒体に比べウェブにおいては情報量が非常に多く、利用者に「比較・検討」の可能性を与えたことで「お客様自身が高速バスを選んで乗る時代」を迎え、2007年ごろからは上級車両やアメニティグッズなど商品の開発競争が激化し、さらにその競争が新たな利用者を呼び込んだ。一昨日の記事に書いたとおりである。ただしそのための前提条件があった。一つは、既存バス事業者の存在感が相対的に小さい大都市どうしを結ぶ路線においては、既存の高速路線バスがマーケットの掘り起こしを十分になしえていなかった点である。そこにウェブマーケティングを持ち込むことで潜在需要を喚起できた。そこまでは何度も書いてきた内容だ。もう一つ、重要な前提がある。それは、この「首都圏~京阪神」のような大都市間路線は、全体(鉄道や航空などを含む)の移動量が、同距離の他の区間(例えば「首都圏~青森県」)に比べて圧倒的に大きかったことだ。ある区間を移動する客が、航空を選ぶか鉄道を選ぶか高速バスを選ぶか、というシェアは、それぞれの区間(すなわち所要時間)によって大きく変動する。さらに高速バスを選ぶ利用者の中でも、3列シートのような上級車両を望む人の比率もまた区間(所要時間)によって変動する。長距離になればなるほど「4列シートはイヤだ」という人の比率は当然上がる。一方、長距離になればなるほどグレードによる価格差も大きくなるから、「キツイけど我慢して4列シート」という人もいないわけではない。首都圏~京阪神や首都圏~名古屋を移動する人全体を移動コストのバジェットという観点で「輪切り」にすると、「最上位」には新幹線グリーン車や航空機の上級座席を選ぶ人たちがいて、「ボリュームゾーン」にあたるのは真ん中あたりの新幹線普通席利用者で、数では圧倒的だろう。そして「下位」に高速バスが一定程度存在し、その高速バス群の中でも3列シートの上級車両を望む人と4列でいいから安い方がいい、という人とに分けられる。それぞれの比率は、所要時間が同じ区間どうしであれば大きくは違わないと思われる。つまり、首都圏~京阪神の全移動者のうち「4列シートの高速バスでとにかく安く移動したい」人の比率は、首都圏~青森県のそれと大差ないはずだ。そうすると、京阪神と青森とでは、全体の移動量に大きな差があるから、結果として「4列シートの高速バス」を選ぶ人の数も、京阪神の方が青森よりも圧倒的に多いということになる。当初、高速ツアーバスが大都市間路線に入り込みやすかった理由として、いつも言うように既存の高速路線バスが市場を掘り起こし尽くせていなかった点に加え、まずは4列シートの汎用的な貸切車で参入しても、「キツくても安い方がいい」という利用者だけでバス何台分もの需要が隠れていた、という点がある。初期投資やそれに伴うリスクを最小限に止めながら新規参入をし、事業が軌道に乗るとともに3列シートなど上級車両を専用車両として導入する、という「スモールスタート」の戦略を採ることができた意義は大きいだろう。逆に彼らが地方都市向けの夜行路線(例:首都圏~青森、京阪神~鹿児島)に進出しようとしても、4列シートの最安値商品だけではバス1台を埋めきれず、大都市間で成立した「スモールスタート」戦略はハードルが高い。既に高速路線バスがマーケットを十分に掘り起こしていた点とあわせて、まずはリスクを最小限に汎用的な貸切車で参入し徐々に上級車両を品揃えを目指す「スモールスタート」戦略が採りづらい事が、これまで高速ツアーバスが地方都市向け夜行路線で苦戦してきたもう一つの理由である。ただ、それも状況が変わってきた。ウィラートラベルや日本ユース旅行など高速ツアーバス事業が一定規模を超えてきた企画実施会社にとって、そのような地方路線に3列シートなどの上級車両を投入することのリスクは相対的に小さくなった。地方都市路線に3列シートの新車を投入することは以前なら清水の舞台から飛び降りるような冒険だったが、もしその路線が思ったほどの収益性を出せなければ、全国にいくつもある自社の他の路線に転用すればいい、という状態にまで事業が育ったのだ。例えばウィラートラベルは今夏、首都圏~八戸/秋田/庄内/金沢/広島/松山や、京阪神~仙台/福島/鹿児島といった地方都市路線に3列シート車を運行している。そして3列シート車や、一段劣るものの優れた4列シートの特別車が導入された路線は、私たちのサイトでも確実に成長している。そして最近では、4列シートの汎用的な貸切車で「スモールスタート」を図る路線は、上記のような数路線よりもさらに線の細い地方路線に移行している。その中には、首都圏~しまなみ海道の各島(この便は大三島を経由し今治、松山行き)や名古屋~山口県のように、従来の高速路線バスのスキームでは難しかった細かな路線や、京阪神~唐津、佐賀、大分、さらには首都圏から日本海側(村上、温海)を経由し鶴岡、酒田を結ぶ商品(本商品については別途説明が必要だろう。詳しくは後日)のように、かつて高速路線バスが運行していた“懐かしい”匂いがする路線も目立つ。その多くは、まずは夏期限定から入るテストケースだが、それらがやがて上記のように上級車両へ、通年運行へと成長していけるかどうか、売る側から見ても楽しみである。もっともその先には、高速路線バスの「本丸」とも言える多頻度昼行路線が残るわけだが。
2010.07.28
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一部の高速路線バス事業者からは、「サイトの入り口(トップページ)で、高速路線バスと高速ツアーバスをもっとはっきり分けて欲しい」という風に言われる。銭湯の入り口で「男湯」「女湯」が分かれているように、「高速路線バス予約はこちら」「高速ツアーバス予約はこちら」と分けてしまえばいいのではないか、そうすれば各事業者の心理的な抵抗感が小さくなり、契約できるんだけど、と。そう意図したわけではなかろうが、実は私たちの競合である「YAHOO!トラベル」のページは、既に擬似的にそのような形になっている(高速路線バスを予約しようとすると、宿泊予約などでYAHOO!と強いつながりがあるJTBの高速バス予約サイトにリンクされている)。私としても、それで高速路線バスの取扱が増えるのなら、と、ちょっと気持ちがゆらがないでもない。だが私としては、それをやってしまえば負けだとじっと我慢である。私が実現したいのは、一つの「商品棚」になるだけ多くのバスを並べ、それを利用者に選んでもらう形である。従来、区間独占的に認可を得た事業者(多くの場合は共同運行ペア)のみが高速バス事業を行なっていた際には、高速バスとは高速路線バスしか存在しなかったし、高速路線バス同士を比較しながら予約をするような環境もまた、存在しなかった。しかし今は違う。高速路線バスについても需給調整が撤廃されマルチトラック化が進展している。さらに高速ツアーバス業態が容認され、むしろ高速ツアーバス同士は激しい競争のさなかにある。利用者一人ひとりが、高速バスと高速バスとを比較しながら、より自分の希望に近いバスを選んで予約できる状況が生まれたのだ。もちろん、「ルイ・ヴィトンの鞄が欲しい」と、あらかじめ欲しい商品が決まっている人は、ルイ・ヴィトンの直営店に行けばいい。「クルマは絶対にジャガー」という人は、ジャガーのディーラーに行けばいい。しかし「100万円くらいで、買い物に使いやすい手ごろな中古車が欲しい」というような漠然とした希望しかない人は、なるだけ多くの中古車を揃えた中古車センターに出向いて、何百台と並ぶ中古車から、予算や年式、メーカーなど希望に合わせて絞り込んでいって、希望に一番近いクルマを最後に選ぶことになろう。最初から「JRのドリーム号に乗りたい」と決めている利用者を簡単に予約まで結びつけることは、JRバスの「直営店、公式ディーラー」に当たる高速バスネットの仕事であり、私たちが担うべきなのは、どの会社のどの高速バスが自分の希望に最も近いのか比較検討しながら予約したいという利用者を、予約にまで結びつけることである。そのためには、なるだけ「同じ商品棚」に並べることが重要だ。京王百貨店で売っている298円の牛乳と、京王ストアで売っている198円の牛乳があったとして、どちらが高級でおいしい牛乳か、簡単に判別できるだろうか? その100円の価格差は、牛乳そのものの価値の差なのか、百貨店とスーパーという販路が異なるから生まれたものなのか、一般の消費者がブレイクダウンできるだろうか? だからこそ、同じ商品棚、同じ空席検索結果画面上に並べ、その中で利用者が一つひとつの商品を見比べながら予約する環境を作ることによって、利用者は自身が最も求めている商品にたどり着くことができる。老舗路線バス事業者の安心感を求める利用者もいるだろう。少しでも安く、という人もいるだろう。わかりやすい停留所や待合室のあるバスターミナルから乗車することを望む人もいるだろうし、アメニティグッズ付きなど柔軟な商品性を好む人もいるだろう。希望のタイプは満席で、やむを得ず次点の商品を選ぶケースもあるだろう。利用者のニーズは多様であり、その全員に万能な商品などあるはずもない。しかし多くの事業者が多様な商品を用意し、それを比較検討する場を用意することができれば、なるだけ多くの利用者が希望のバスにたどり着くことができ、結果として高速バスマーケット全体は拡大していく。利用者が商品を「選ぶ」ということは、事業者側も利用者を選ぶ必要が出てくる。時は既に従来の区間独占認可の時代ではない。同じ商品棚に競合する各社の多様な商品が並んでいる以上、ぼんやりとした輪郭の、個性の乏しい「最大公約数的な」商品を作っていたのでは誰からも選んでもらえない。事業者自ら「この商品は女性向け」「ビジネス出張向け」などとターゲットを明確に選定していかなければならない。事業者側も、商品ごとに、あるセグメントを採ってあるセグメントを捨てる「覚悟」を求められているのである。そこでは、「路線」か「ツアー」かといった業態の選択そのものも、ターゲティングの重要なツールのひとつとなりうる。老舗の路線バス事業者が高速ツアーバス業態を(あるいは両方の業態を)選んでそれに合ったセグメントに向かい合うこともまた、選択肢なのである。かつて酒販免許ががちがちに運用されていた頃、ビールといえば、近所の酒屋の親父に電話してラックで配達してもらうものだった。その頃、近所の酒屋が扱っているビールが極端に「女性向け」だったら、男性は不満に感じただろう。その逆もしかり。だから当時、ビールは余り個性がなかった。しかし、コンビニの冷蔵ショーケースから消費者本人が自身で好みのビールを選べる時代になった今、高級志向や低価格志向、女性向けや健康重視など様々な種類のビールが自らを主張しあっている。上記のような市場の変化は何もバスとビールだけでなく、この国の多くの商品で起こっている。競争が「磁場」を生んで新たな需要を集めるのである。一つ運用面での具体例を挙げれば「夜行便の開放休憩」だ。区間独占だったころ、開放休憩すべきかどうか事業者ごとに(結果として路線ごとに)判断が分かれ、利用者からの不満に各社頭を悩ませていた。休憩ごとに夜中に起こされるのは嫌だという利用者も、気分転換や喫煙で車外に出たいという利用者もいるからである。今なら「休憩しないので睡眠を邪魔されません」「2時間ごとに休憩するのでタバコが吸えます」とサイト上に明記すればいい。独占認可と引き換えに事業者が背負わされていたのは「特定の乗客に不利にならない、不満を持たれない」という責任だったが、競争になった以上、「ウチは開放休憩しません」と言い切ってしまって休憩を望んでいない利用者だけを集めればいいし、「どうしても休憩がお望みなら、他社に乗ってください」と言い切ることができるようになったのである。もちろん休憩は一つの例であって、車両タイプや価格にしても、わかりやすい停留所の有無も含めた「路線」業態か「ツアー」業態かにしても、各事業者が戦略に応じて使い分ければいいだけのことである。高速路線バスの皆様はどうも悲観的というか、必ずといっていいほど「並べて売られたら絶対に負ける」とおっしゃる。しかし、私のサイトで既に取扱を始めているいくつかの高速路線バスの予約状況を見ている限り、心配はいらない。むしろ、彼らがいま持っている自身の「強み」をもっともっとアピールする積極性だけは早く学んでいただきたい。販路拡大の意欲も、その販路を使いこなす積極性も持たないまま「どうせウチのバスが選ばれるはずがない」と引きこもっていたのでは、利用者数が増えるはずもない。
2010.06.28
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先週、南部バスとウィラー・トラベルから大きなニュースが発表された。南部バスが、それまで国際興業、十和田観光電鉄と共同運行してきた八戸-東京線「シリウス号」から撤退し、同時に、ウィラーと提携するというものだ。7月以降は、ウィラーが企画実施(催行)する高速ツアーバスについて南部バスが運行を請け負うという形になる(もっとも、ウィラーの青森-東京線については4月から既に南部バスが運行をしていたけれど)。なお私のサイトはウィラー全便の席の販売を手伝っているので本商品もまもなくサイト上に登場する。以前から、「高速路線バス=既存事業者、高速ツアーバス=新規参入組」という固定観念を捨てるべきと繰り返し書いてきたが、この提携がその「答えの一つ」であることは間違いなく、ウィラー側の粘り強い交渉と、南部バス側の勇気ある決断に心から賛辞を送る。昨年3月に『運輸と経済』の「特集・新時代の高速バス」に詳しく書いたので詳細は図書館ででも読んでいただきたいのだが、「心情的」な部分をいったん横に置けば、高速路線バス、高速ツアーバスそれぞれの長所短所は、大きく「制度」的な側面と「営業面での事業者の特性」という側面に分けられる。制度的には、「路線」の長所はわかりやすい停留所を設置できることであり、また予約や発券行為そのものは簡便な点(「ツアー」の場合は旅行条件書の手交などが必要で、行為そのものの簡便さでは「路線」に分がある。ウェブ予約→決済の場合はそれほど大きな差には感じられないが)であり、特に車内発券が可能な点はまさに「路線」最大の強みである。逆に「ツアー」の長所は、商品設定が簡単なことであり、その運用(価格変動や繁忙日の傭車など)も自由度が高い点である。また営業面では、あくまで一般論だが、「路線」は主に地方部において高い認知度を持つのに対し、「ツアー」はウェブの活用に代表される新規需要の掘り起こし力に強みを持つ。車内発券こそ「路線」最大の強みと書いたが、したがって、多頻度で運行されフリー乗車の比率が高い比較的短距離の高速バスについては「路線」業態が圧倒的に有利である。逆にほとんどの乗客が事前に予約・決済をする長距離夜行路線では、どちらかというと「ツアー」の方がやりやすい。もっとも、「路線」的なフリー乗車や当日発券を望む利用者もいないわけではないし、レベニューマネジメント概念に基づくリアルタイムな価格変動やグレード別の多様な座席タイプの品揃えはまさにウェブ予約の申し子で、紙の時刻表と電話予約、窓口発券ではオペレーションが煩雑になるため、全ての利用者が「ツアー」になじむとも思えない。それを前提に地方の既存事業者(例えば南部バス)の強みや弱みを因数分解すると、彼らの最大の財産は八戸側での圧倒的な認知度である(それと、もちろん充実した運行ノウハウも)。一方、ウィラー(と、その販売のお手伝いをする私たちも)は、首都圏に代表される広範囲なマーケティングでは自信があるが、八戸地区といった狭域マーケティングでは地元の既存事業者に劣る。その意味で今回の提携は営業面ではお互いに十分な補完関係を構築している。商品の性格を見ると、上記のとおり「ツアー」の柔軟さは活用できるものの、南部バスの窓口で発売しようとするなら窓口ごとに旅行業の営業所として届出が必要で、そのための前提条件整備など「路線」を発券するより煩雑となるなど、メリットデメリット双方あることがわかる。もっとも、もしこれが全くの新規参入なら、「路線」業態での参入には障壁が山ほどあるので、多少のデメリットには目をつぶり「ツアー」を選択するのが現実的だが。また業態の選択とは別の話として、ウィラーやオリオンなどが企画実施しその運行を請け負う形に切り替えれば、乗車率が上がらなかった際に赤字となるリスクは企画実施会社側に全て任せ運行業務から上がる最低限の利益は確保できる反面、乗車率が高くてもバス事業者側が手にする利益は低いままで「ローリスク・ローリターン」だ。つまり、既に「路線」として運行してきた実績があるなら、あえて「路線」から撤退しウィラーやオリオンと組むことにはメリットもデメリットも存在する。ざっくり言うと、多頻度昼行路線では「ツアー」に転換する必然性など全くなく、長距離夜行の場合は該当路線が置かれた環境しだい、となる。同じ青森県の弘南バスが「津輕号」でそうしたように、首都圏側で立派な停留所を使える「権利」を持ち、かつ単独運行のため(または共同運行先と意思疎通がうまくいっていて)意思決定が簡単な状態であれば「路線」のまま運行を続け、売り余らせそうな座席だけを私のサイトに登録して乗車率の向上を図ればいいし、南部バスのように既存の共同運行スキームから飛び出すとか新しい区間に参入するとかの場合はウィラーやオリオンに任せてしまうのもテだ。もちろん、「津輕号」と並行して弘南バスが自ら高速ツアーバスにも参入したように、自社ブランド・自社企画実施による高速ツアーバスも一つの選択肢である。ちなみに私のサイトをはじめとした「総合予約サイト」は、事業者自身が売れ残りそうだと判断した座席だけを管理画面から登録し、その結果予約につながればその実績に応じて手数料が発生する形なので、登録する座席数は事業者側が乗車率やコストを勘案しながらリアルタイムに増減させる必要があり(もちろん「出しっぱなし」でも結構だが、余計なコストが発生してしまう)、そのノウハウは高速ツアーバス企画実施会社が十分に持っているのでウィラーやオリオン企画実施にしてしまえばその分の手間とノウハウはバス事業者には不要で済む。つまり、今回の南部バスの決断“だけ”が「正しい答え」というわけではなく、それぞれが置かれた環境に応じて複数の選択肢がある、ということだ。先週書いたホテルの例をここで思い出して欲しい。自社ブランドにこだわった京王と、ハイアットのブランドを掲げた小田急は、それぞれが置かれた環境によって別々の戦略を選びそれぞれに成功した。高速バスも同様だ、と考えるのである。本日は、既存事業者の皆様の「心情」についてはあえて無視して理屈から導かれることだけを書いたが、実際にはこれに「過去の経緯」「心情的な背景」が加味されることはもちろんやむをえないかも知れぬ。ただ大切なのは、自分たちの目の前にあるあらゆる可能性に常に門戸を開き、あらゆる選択肢を比較検討することだけは、手を抜いてはならないということである。
2010.05.31
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『トラベルビジョン』で、ゴールデンウィークの送客実績について報じていただいた。全体で対前年38.9%増という数字は、このところ30%程度の成長率が続いているのに比べるとまあ好調だったと言えるだろう。4月30日の夜が出発のピークだったこともあり、4月については取扱高で久しぶりに目標額を達成することができ、ほっとしている。この種の話題を取り上げるたびにいつも同じコトを書いている気がするが、上記記事を読んでいただいてわかるとおり、成長率だけで見ると大都市と地方都市を結ぶ路線の方が、大都市同士を結ぶ路線よりも成長率が大きい。首都圏~京阪神が2割増、首都圏~名古屋が3割増、首都圏~仙台が4割増だったのに対し、首都圏~北東北(青森/秋田/岩手)が5割増、首都圏~四国や首都圏~九州は2倍以上といったくらいだ。記事には無いが、首都圏~山形県も約3倍、福岡~鹿児島も約2倍と地方路線の伸びが大きい。これまで、そのような成長率の差について「地方路線がまだまだひよっこだから」とご説明してきたが、さあ、そろそろ既存の高速バスに本気で影響を与えるレベルには成長してきただろうか。何度も書いているが、これまで高速ツアーバスは大都市間路線を中心に成長してきた。中心に、というよりは、ごく一部の例外を除けば大都市間路線“だけ”だったと言っていいくらいだ。大都市と地方都市を結ぶ夜行路線(例えば東京~青森、大阪~鹿児島など)で既存の高速バスに全く影響が無かったといえば嘘になるが、本当に既存の高速バスに大きな打撃を与えたのなら、高速ツアーバスがある程度の存在感を得て以降でも高速路線バスの便数が増えた東京~鶴岡/酒田や東京~岡山のような例は生まれなかったはずだ。もちろん、地方の既存バス事業者が「ツアーバスに乗客を奪われた」と主張する気持ちはよくわかる。これまで無風だったところに、微風とはいえ風が吹いたことは事実だからだ。地方の事業者は(何らかの「不条理感」がそれを増幅させることもあり)、「ツアーバスに攻め込まれている」という相応の危機感というか被害者意識を既に持っているだろう。しかし、高速ツアーバス全体の数字を見ることができる私の立場からすれば、とにかく高速ツアーバスの地方都市路線などこれまで本当に「ひよっこ」に過ぎなかった。一方で高速ツアーバス各社は、大都市間路線の成長率が上記のとおり鈍化していることを受け、これから本気で地方路線を攻め始める段階にある。そこに、私は何かしらの危惧を感じている。地方の既存バス事業者は、もしかしたら「ツアーバス慣れ」してしまっているのではないか。もちろん彼らの被害者意識は相当なものだろうし、政治的なアピールも含め既存バス事業者が「ツアーバスに乗客を奪われ困っている」と声高に主張していることは、その矢面に立つ私自身がよく知っている。しかし現実には上記のように、高速ツアーバス各社が(一部の例外を除き)地方路線に本気だったというか、地方路線において「勝ちパターン」を把握していたわけではない。いや、首都圏~京阪神のような大都市間路線においても、(もちろん、高速ツアーバスの乗客の一部が既存の高速バスから転移した乗客であることを否定はしないものの)おおむね、既存の高速バスと「戦って」乗客を「奪った」わけではない。ウェブマーケティングを本格活用してきたのが高速ツアーバスだけだったから、ウェブマーケティングによって高速バスの存在を知った「新しい乗客」は、既存の高速バスについてはその存在さえ知らず高速ツアーバス“だけ”を高速バスだと思い込んで利用していただけだ。「がっぷり四つ」に組んだことは実際には無いのだ。だがこれからはそうではない。大都市間路線と異なり、地方路線においては既に高速路線バスが一定の存在感を持っている。高速ツアーバス各社が地方路線での事業拡大を本気で考えるなら、新しくマーケットを拡大する余地はさほど大きくなく、これまでから高速バスを利用していた乗客を奪う方が簡単なことは目に見えている。これから、本当の意味での競合関係が生まれるのだ。しかしながら既存の各社は、従来からの「かりそめの競合関係」をもって、高速ツアーバスと競合してきたと勘違いしているのであれば、それはよろしくない。これから本気の競合関係が生まれたときに対応できない……本音を言うと私は、大都市間路線で高速ツアーバスが主流になっても、地方路線では高速ツアーバスは苦戦するだろうとタカをくくっていた。それなら、(大都市路線を運行していた一部の既存事業者には申し訳ないが)大都市間路線で高速ツアーバスを徹底的に育て上げればそれに比例して既存事業者各社に危機感が生まれ、地方路線において高速ツアーバスが本気を出す前に、既存の高速バスがちゃんと「武装」を始めるだろうと、そして結果としてそれが既存の高速バスの成長につながるだろうと、そう考えてきた。だが、これから起ころうとしている現象は残念ながらそうではなさそうだ。もしも(私が愛してやまない)既存の高速路線バスが長距離夜行路線から順にズタズタになっていくとすれば、A級戦犯は私、かも知れない。一つだけ言い訳をすれば、(高速ツアーバスの成長が私の予想より早かったわけではなく)既存事業者が危機感を持ちそれに真摯に対応することが、私の予想より遅かった、という点だ。もっとも、彼らの速度感がどれ程なのか、理解していたつもりで結局はわかっていなかった私自身が悪いのだ、きっと。
2010.05.12
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既存の路線バス事業者や彼らと深い関係がある方々(愛好家の方も含む)とお話しする度に、今日の高速バスが置かれた環境を、失礼ながらきちんと認識なさっていないことに失望する。何度も繰り返すが、彼らが高速ツアーバスのことをまるで親の敵のように見る気持ちは私には嫌というほどよくわかる。4年ほど前まで自分自身がそうだったからだ。しかし憎さあふれるばかりに、汚いものに蓋をするように目を背け、「なぜ、こうなったのか」「今後、どうなって行くのか」を正しく理解することを怠ってしまえば、既存事業者の高速路線バスの将来に影響してしまう。例えば<新規参入に対する捉え方>である。たしかに高速ツアーバスという業態は、あまりきれいではない生まれ方をした。高速バスは「乗合」の制度で動いていたのに、先にお隣の「貸切」事業の規制緩和が進み新規参入が増え供給量が増加したことを受け、まるで「屋上屋」のように「旅行」の制度を活用することで擬似的に高速バス事業への新規参入を容易にしたのだ。このことは一体何を意味し、何をもたらしたのだろう?上で「貸切事業の規制緩和」と書いたが、制度的には1年遅れて乗合事業も規制緩和(需給調整と参入規制の撤廃)が行なわれた事実は、二つの意味で大きなキーになろう。まず忘れてはいけないのは、そのような規制緩和が行なわれたのは何もバス業界だけでないことである。「日本版金融ビッグバン」が行なわれた金融業界を筆頭に、我が国のサービス産業の多くで同様の制度変更が行なわれている。次に考えないといけないのは、そのような考えで乗合バス事業でも制度変更が見られたにもかかわらず、様々な事実上の参入障壁が残り、貸切バス事業に比べほとんど新規参入が見られなかったことだ。となると、歴史に「もしも」をあえて持ち込むとすれば、高速ツアーバス業態誕生までに起こりえた「もしも」は二つである。一つは「もしも、バス業界でそもそも規制緩和が行なわれていなければ」であり、もう一つは「上記事態(貸切では新規参入が続いたのに乗合では進まなかった)を踏まえ、募集型企画旅行という別のルールを当てはめることで余剰となる貸切バスを高速バスとして運用するというアイデアが実現していなければ」である。まず最初の「もしも」については、「もしも」という仮定自体が成立しないと言っていいだろう。昨今、「事業仕分け」などで行政機関やそれに準じる組織の非効率さが問われているが、その行政も含めた広い意味での「サービス産業」の非効率さが日本経済の癌であり、それまでの護送船団方式を改めることで彼らの競争力を回復すべきと言う考え方はほぼ定着しているからだ。もしもある政権がバス業界の規制緩和を行なわなくとも、次の政権がそれを行なっただろう。バスにたずさわる人は、バス業界の中だけを見て規制緩和がよかった悪かったと自分の意見を言いたくなるだろうが、そもそも他の産業も含め国全体で同じことが行なわれているのだ。バスの運賃(に限らず、電気代や物流コストやら法人税やら)が高止まりすれば、それが日本製品の価格に転嫁され、結果として日本製品の競争力ひいてはこの国全体の競争力に影響するのだ。次の「もしも」は<高速ツアーバスという業態が定着(第一段階としては関係者がそれを「思いついた」ことであり、第二段階としては行政がそのモデルを容認したことである)していなければ>、という仮定であるが、その「もしもの行方」を、このブログをお読みの方はどのようにお考えだろうか。「もしも高速ツアーバスが定着していなければ、既存の高速路線バスに大きな変化は無く(一歩譲って、成定がよく言っているように成長のチャンスはフイにしているとしても)、少なくとも従来どおりの市場規模を保っていられた」とお考えだろうか。私には、そうは思えない。高速バス事業は収益性が比較的高い(わかりやすく言えば「結構おいしい」)ため、参入を希望する事業者はかなりの数に上る。一方、事実上の参入障壁が多く残り新規参入が難しいとなれば、何が起こっただろう。数少ない「高速路線バス業態での純粋な新規参入」ケースである仙台~福島線(富士交通/桜交通)において公正取引委員会が動いたように、いや、ヤマト運輸が何度もの裁判を通して既存の運送業者や郵政省の既得権と戦ってきたように、全国あらゆる所で、参入障壁を巡る裁判沙汰が多発したことだろう。その意味で、高速ツアーバスという事業モデルが生まれたことは、新規参入希望者への「ガス抜き」としてちょうどよかった。何度も書いているように、全く異なるルールが生まれたことで、全く異なる事業者が全く異なる市場(つまりこれまで既存の高速路線バスが苦手としてきた大都市間路線)を相手に、「高速バス」事業を展開することができたからである。既存の高速路線バスに影響が全く無かったとは言えないが、ここまではほぼ、老舗の事業者は高速路線バス業態で大都市と地方都市、あるいは地方都市同士を結ぶ路線、新興事業者は高速ツアーバス業態で新規参入し、大都市同士を結ぶ路線(ほんの一部のみ、大都市と地方都市を結ぶ長距離夜行路線)という風に、おおむね住み分けをできてきた。しかし、これは機会があれば別途詳しく書きたいが、大都市間路線について高速ツアーバスは市場の開拓をほぼ終えつつあり、つまりは、彼らの成長率が鈍化しているということである。ということは、高速ツアーバス各社にとって次のターゲットは明確に、大都市と地方都市を結ぶ長距離夜行路線に他ならない。実はこれまで、高速路線バスと高速ツアーバスが、本当の意味で競合するケースはほとんど無かった。少なくとも高速ツアーバス各社にとって、高速路線バスと競合していると言う意識はほとんど無かった。「高速路線バスが耕し忘れていた、放棄された土地」を勝手に耕していたに過ぎない。しかしこれからはそうではない。既存の高速路線バスが既に定着している地方都市路線に、その高速路線バスをスナイパーターゲットとして狙い撃ちしてくるのである。従来の高速路線バスと高速ツアーバスの関係とは全く異なる本当の意味での「競争」「競合」が、これからスタートする。本当の意味での競争、競合だから、当然、落伍者は出るだろう。だが、その競争が高速バス全体を大きく強くすることもまた、事実である。
2010.05.03
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私が今の会社に転職した時点では、サイト上での利用者のメイン導線は「空席検索」ではなく「ディレクトリ型」であった。つまり、「○月○日 ○県→○県 大人○人」と条件を入れて「検索」を押す形ではなく、「関東発」ボタンを押すと関東から各地への路線(「東京→仙台」「東京→大阪」など)が一覧表として表示され、どれかの路線名を押すとその路線に紐づく便の一覧が表示され、さらにどれかの便を選んでクリックするとその便の詳細(内装のイメージ写真や空席カレンダーなど)が表示される仕組みになっていた。当時はまだ高速ツアーバスの企画実施会社の数も少なかったし(ちなみに高速ツアーバス予約事業に参入した際の取扱社数はわずか9社。現在では60社を超えている)、1社ごとの商品数も少なく、利用者にとっては一つ一つの便詳細ページを開いて空席状況や価格、車両タイプなどを確認してもさほど手間ではなかったのだ。むしろ空席検索型にしてしまうと乗車希望日に満席の便は表示されないから取扱商品がシャビーに見えてしまうというこちら側のデメリットの方が大きかった。昔の話ではない。わずか4年ほど前の話だ。しかし、3年半前に私たちでは、メイン導線を「空席検索」に変えた。東京~大阪間を中心に商品数が一気に増える一方、私たちのサイトの販売力も拡大し満席となる率が高くなっていた。全ての便について一つ一つ詳細ページを開いて価格や内容を確認し、また一覧に戻って次の便の詳細を開けばその便は満席で、また一覧に戻って次の便を開き・・・・・・という動きが利用者に負担となりそうな状況に変わったからだ。だから日付や人数など条件を入力し「検索」ボタンを押すとその日に空席がある便だけが一覧表示され、必要に応じて座席グレード順や価格順などで利用者が並べ替えまたは絞込みできる導線をメインに据えたのだ。もちろん、興味がある便をクリックすれば詳細を確認できるのは以前と同じだ。というより、宿泊予約等、他のサービスとようやく導線を統一できるだけの商品が揃った、ということだった。イメージで言うと、イチゴを買いたい客が、あるお店では佐賀産が350円で、別の果物屋に行ったら長崎産が400円で、次のお店では栃木産が350円で、と価格や見た目(おいしそうかどうか)をいったん記憶して比較し、長崎産と決めたら2番目のお店に戻り購入・・・という動きから、スーパーのイチゴ売り場に行ったら佐賀も長崎も栃木も同じ棚に並んでいて、一目で比較し長崎産を手にとってレジに向かう動きに変えたのだ。同時に、企画実施会社側での価格設定の方法も変えた。企画実施会社が商品を登録する際、一度登録した料金は原則的に変更できない(販売する座席数だけはリアルタイムに出し入れできる)形で、要するに各社のパンフレット上の販売価格をそのままサイトに登録してもらっていたのだが、この時期からは価格そのものを(理論上は1円単位で)リアルタイムに変動させるようにしたのだ。合わせて、レベニューマネジメント概念を本格導入し、データ分析に基づき各社の価格設定を支援するようにした。この変更が高速ツアーバス業態全体に与えたインパクトは、私たちが想定していたよりも大きかった。繁忙日には在庫切れ(早々に満席になること)が発生していることはわかっているが片道回送になっては利益が出ないと続行便の設定に二の足を踏んでいた各社が、最初から「ウラ」が回送になることを覚悟で「オモテ」便に思い切った高値を付けて片道輸送で十分に利益が出せるよう工夫するなどし、繁忙日の在庫切れはずいぶんと解消した。さらに私たちでは、旅行業免許も保有する貸切専業のバス事業者に、繁忙日だけの「スポット運行」をしないか提案に回った。ふだんは普通の貸切バス会社だが、連休や年末年始だけ彼ら自身が高速ツアーバスを企画実施し自社のバスを運行させる。自社企画実施とはいえ年に数回の運行のためにチラシやポスターを作るなど無駄なので、全席を私たちのサイトに登録する。もちろん、データ分析に基づき私たちの方から「○月○日は東京→大阪 3台 往路は8,000円 復路は4,200円くらいがベストですよ」といった支援はする。空席検索型の導線なら、その日だけ運行するスポット便であっても画面上は定期運行便と同列に並ぶので十分に予約が入る。平成エンタープライズなど、その形からスタートし定期運行に移行、今や3列シートの高速ツアーバス専用車だけで10台を超える。高速バス繁忙日はおおむね貸切バス閑散日だから、貸切バス事業者にすれば稼働率向上にとって非常に都合がいい。しいて言えば、旅行業免許は持っていても自社でツアーを日常的に企画実施している会社は多くないから、貸切バスの営業マンが自ら座席表を作成したり夜中に乗車受付を手伝ったりしないといけないが。私自身も何度も新宿や大阪まで乗車受付を手伝いに行った。最初はそこまでして「まずはやってみましょうよ」とお願いしていたのが、そのうち事業者の方から「今度の連休はどこに何台出したらいい?」と相談が入るようになる。一番面白かったのは近所の高校のサッカー部が全国大会に出場するだろうと大量にバスをキープしていたのに予選で敗退したため応援ツアーがキャンセルになり、あわてて高速ツアーバスのコースを設定し最後の1週間で5台を満席にしたことだ。もう一つ、空席検索型にしたことによる変化は、座席タイプを中心に商品バラエティが一気に増えたことだろう。企画実施会社としては多数の候補からなんとか自社の便を利用者に選んでもらいたいから、座席タイプはもちろんアメニティグッズや朝食付きなど商品の個性を競い始めるようになる。従来の、公共交通機関にありがちな「無色透明」「最大公約数的」な商品から、顧客セグメントに対応した個性を主張し始め、「お客様自身が、バスを選んで乗る時代」が生まれたのである。さらに未だ一部とはいえ、その「選択肢」の中に高速路線バスもようやく入りつつある。一方、上記の形だと繁閑に合わせて在庫(増発)をコントロールできるのは4列スタンダードタイプだけとなり、現状では高速バスくらいしか使い道のない3列シート車は閑散日に合わせた最低限の台数しか各社持ち合わせていない。結果として繁忙日には上級車両が早々に在庫切れになりスタンダードだけが空席検索結果に表示される、という事態が起こっている。次は何とか、3列シートを各社がどんどん増発設定できるような環境(要するに高速ツアーバスと補完関係になる3列車の使い道)を考えないとなあ。取り急ぎ老舗貸切専業バス事業者や観光型のバスツアーが得意な会社などとアイデアを出し合うことになろう。新しいアイデアを考えるためにブレストをする時は、いつも本当にドキドキする。
2010.04.08
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就職活動にあたって私はホテル業界を選び、かつ国内系ホテルチェーンの本社機能に志望先を絞った。その頃から既に「新御三家」を中心に外資系ホテルの方が世間の評価は高かったが、それでも国内系にこだわったのは(英語が得意でない、というような話は別として)、運営受託やフランチャイズなど、実際のホテルの経営主体(社員の所属企業)とブランドが異なる仕組みの元で、自分自身の帰属意識、愛社精神というのが正常に保てるのか、自分なりに心配だったからだ。大阪で最高級される「ザ・リッツ・カールトン大阪」を例に取れば、鉄道線路を地下化した後の余剰地に阪神電鉄がビルを建て、その中で阪神グループがホテルを経営している。社員は原則、阪神電鉄の100%子会社「株式会社阪神ホテルシステムズ」所属だ。一方、阪神は高級ホテルの運営ノウハウや国内外でのブランドを持たないから、米国の「ザ・リッツ・カールトン・カンパニー」に運営を委託。具体的には、人事権まで持つ総支配人の派遣を受け、その指揮の元、リッツ側が作成した運営マニュアルに基づいてサービスや調理を行なう(阪神側は、売上高等に応じ運営委託費をリッツ側に支払う)。当然、社員の名札にも「リッツ」のロゴが入っており、普通に利用する分には、そのホテリエ(スタッフ)が阪神の社員であることはまずわからない。「ヒルトン」「ハイアット」など一般に「外資系ホテル」と呼ばれるホテルチェーンで、実際に「外資」、つまりそこで働く社員の所属企業が外国資本である例は多くない。「外資系ホテル」ではなく「海外ブランドのホテル」というのが正しい。当時の私は、例えば阪神や、あるいは小田急(「ハイアットリージェンシー東京」の経営は「株式会社ホテル小田急」)などの社員としてその会社から給料をもらう一方で、お客様の前では「リッツ」や「ハイアット」の制服を着て「ザ・リッツ・カールトンの成定でございます」と胸を張って言えるのかどうか心配だったのだ。それで「いいホテル」「ベストなサービス」をそれで実現することができるのか、生意気にも勝手に疑問視し、「所有」「経営」「運営」を三位一体で行なっている国内系老舗ホテル企業にこだわったのだ。そのようなホテル企業を選んだことを後悔はしていないものの、その後ホテル経営を学んでいく上で上記の心配が杞憂だったことはよく理解できた。「ホテル経営の三要素」(所有・経営・運営)をあえて分離することの意義は実に幅広い。本日ここでは「いいホテル」「ベストなサービス」を実現するという目的にどう寄与しているかに絞って話を進めたい。一言にまとめると「甘えの排除」である。上記事例で言えば、仮にリッツ側が、もらっている委託料に満たない分量しか阪神側にもたらすものがなければ(例:リッツ側から大阪に派遣された総支配人が能力不足、とか、世界的にリッツのブランド価値が低迷し海外での集客が少ない、など)、阪神側はリッツ側に委託条件を低下させるよう圧力をかけるだろうし、極端な話、委託契約を延長せず「パークハイアット」等の別ブランドに委託先を鞍替えする可能性を示唆するかもしれない。リッツ側からすればそれは困るから、スタッフがベストなサービスを行ない売上や利益がより増加するよう必死の支援をする。逆に阪神側が手を抜けば(例:人員不足でサービスレベルが低下、とか、カーペットが擦り切れているのに補修しない、など)、リッツ側は「ザ・リッツ・カールトンのブランド基準に達しないからすぐに改善しろ」と言うだろう。極端な場合、ブランド供与を断ち切り、大阪でのリッツブランドの展開は他の企業とパートナーを組んで行なうぞ、とプレッシャーをかけることもあるだろう。互いに「いがみあう」ことがいいと言っているのではない。しかし、同一の会社が所有も経営も運営も一貫して行なえば、(その利点も多くあるものの)どこかに甘えが出る。総支配人の人選も、食材仕入れやスタッフ配置等、現場でのコスト管理も、最終的には一つの会社、一人の社長の判断になる。「売上が伸びないから、利益を確保するために食材のレベルを下げてコスト削減しておくか」という誰かの意見に対し「それをしてしまうとウチのホテルのブランド価値を保てないよ」という対立意見は出てこなくなってしまう。学生時代の私自身がそう感じたように、一つのホテルをよりよいホテルに育て上げるにあたってこのような「牽制」関係を持ち込みことは、「和」を重要視する日本人にはとっつきづらい印象を与える。一つの会社がホテル全部を司れば全員で一丸となって邁進するのに…とつい考えてしまう。しかしよく考えてみれば、そのホテルがよいサービスをしてブランド価値を上げ売上や利益を増やすことができれば運営側(米リッツ)にも経営側(阪神)にもメリットがあるわけで、お互いに大切なパートナーなのだ。大人の企業であれば、お互いに得にはならない足の引っ張り合いなどしない。いがみあうデメリットより、より高めあうメリットの方が大きい。それなら「耳が痛い」ことをお互いに言える関係は重要だ。「所有」「経営」「運営」の分離は、これ以外にもまだまだ多くの利点がある。その利点を高速バスにも、と考えるなら、それは高速ツアーバスに近くなる(もっともそれは「理念」としての高速ツアーバスであり、現状が理想に遠いことはお恥ずかしい限りだが)。少なくとも既存事業者では、高速バスの運行と営業を別セクションにすることがその一歩となるだろう。例えば私の会社では、毎月末、集客が目標に満たなければ各サービスの事業側責任者が全社員の前で詫びるし、システム障害などがあればシステム側責任者が同様に詫びる。各自に与えられた責任範囲を全うできていないからだ。だが一人の課長が「運行」も「営業」も両方に責任を負えば、それぞれに甘えが生まれる(以前は「運行だけ」考えておればよかったのかも知れないが)。実は電鉄会社には、百貨店やホテルなどマーケティングのセンスが求められるグループ会社も多く、新卒社員は数年目に「運輸系」「流通系」などと振り分けられるケースが目立つが、「高速バス営業課長」のようなポジションができ、(「運輸系」ではなく)「流通系」の有望な若手のキャリアパスの一環として定着するようであれば、今より大きく前進だ。航空会社の組織・人事システムなど、参考にできるものはたくさんある。
2010.03.23
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昨年の高速ツアーバスの年間輸送人員は、年間400~450万人だったと推計している。2010年はその約30%増を目指している。業界全体の数字は集約できていないが、私のサイトに限って言えば今年に入ってから対前年20%台半ば増ということで、目標には少し不足だ。そもそも2007年は前年に対し約80%増、2008年は前年に対し約50%増、そして2009年は約30%増と、成長率は着実に鈍化してきている。ポートフォリオ別に見ると、全体の40%近くを占める首都圏~京阪神の成長率が10%前後の増加にとどまっている。その次の規模の首都圏~名古屋、首都圏~仙台が20%を切る成長率。上記3路線で全体の70%ほどのポーションを占めているから、他の路線(首都圏~青森や京阪神~鹿児島など)がいくら高い成長率を見せても全体の成長率は上がってこない。私たちの会社が高速ツアーバスの予約受付事業に参入した2005年11月の時点で、全体の60%以上を首都圏~京阪神が占めていた。理由は二つ。高速ツアーバスという業態自体が、京阪神からTDRに、首都圏からUSJに観光客を送るというバスツアーの延長線上で生まれたため、元より同区間を中心に展開されていたこと。もう一つが、路線ポテンシャル(※)に比べて既存の高速路線バスが需要の掘り起こしを十分にできていなかったことだ。いつも書いている通り、既存事業者は大都市でのマーケティングがおおむね不得手だ。また他の同距離の夜行路線に比べて路線ポテンシャルが非常に大きいことから、何往復かを採算ベースに載せただけで「ドル箱」だと満足してしまっていたのである。※「路線ポテンシャル」=「同区間の、鉄道・航空・自家用車などを含む総移動量」×「距離や競合条件等を勘案した上で、高速バスが本来占めるべき市場シェア」。「本来占めるべきシェア」は、例えば長距離になればなるほど所要時間差が大きくなるためバスは不利なので下がっていくし、鉄道側の直行列車の有無とか、鉄道駅と市街地中心地との距離、などの条件で変動する。だから私たちでは、まず徹底して首都圏~京阪神を育て上げる戦略を採った。企画実施会社側で価格をリアルタイムに変動させられるようシステム改修すると同時に、私たちの側で徹底したデータ分析を随時行なって各社に情報をフィードバックし適切な価格設定をサポートすることで高速バスにおけるレベニューマネジメントの手法を確立。自社で旅行業免許を保有する貸切バス事業者に対し自社企画・自社運行のスタイルを提案し、商品ラインの拡充を急いだ。あわせて、メールマガジンやポイント付与キャンペーンなどウェブならではの手法で新規需要を開拓した。2007年、同区間の伸び率は最大で対前年3倍を超えた。その成功を踏まえ、同一の手法を2番手にあたる首都圏~名古屋、首都圏~仙台にも展開。実質初年度にあたる2006年に比べると、2009年の高速ツアーバス各社への送客人数は全国で3.5倍に増加している。だが冒頭に書いたように、成長率は着実に鈍化しつつある。これも理由は二つ。一つは、全体の規模が大きくなったために、成長「率」で見るとどうしても数字が小さくなってしまうことだが、問題なのはもう一つの「頭打ち感」の方である。大都市間路線には「既存事業者が耕し忘れていた広大な空き地」があったために、いわば敵がいない状態で簡単に需要を掘り起こすことができた。その過程で一部の高速路線バスに影響を与えたことは確かだが、大都市間路線の高速バスのシェアは以前の数倍にまで成長したことも間違いない。しかし、その「空き地」はそろそろ尽きつつある。残る「空き地」は、大都市~地方都市・観光地間の路線の、大都市側の潜在需要である。国交省のデータを分析し、高速路線バスの輸送シェア(ある区間の総移動量のうち、高速バスを使って移動している人の率)を方向別にソートしてみると、地方側居住者のシェアが大都市側居住者のシェアの約2倍となっている。中央高速バスにたとえて言うと、首都圏から山梨・長野に向かう出張者や観光客が(鉄道や自家用車ではなく)高速バスを選んでいる比率に比べ、長野・山梨から首都圏に向かう出張者や買い物客が高速バスを選んでいる比率が約2倍なのである。大都市側の、特に観光客については、間違いなく掘り起こし余地がある。これは長距離夜行路線でも同じ傾向なのだ。だからこそ私たちは、高速路線バスの取扱いをさせてもらい乗車率の向上に役立ちたいと、高速路線バスを運行する既存事業者にご提案している。ただそれも、「予約サイト」の立場だからできることだ。高速ツアーバス各社の立場に立てば、「おいおい、我々を置いていくのかよ。一緒に成長させてくれよ」ということになるだろう。ただ、ほとんどの企画実施会社はウェブによる集客だけに頼っている。大都市間のような「空き地」ならともかく、既存事業者が地元での圧倒的な存在感から市場の掘り起こしを済ませ、それを元に多頻度で便利な高速路線バスを運行している区間に、ウェブによる集客だけで後発参入するのはかなり難しい……その意味で高速ツアーバスは「踊り場」に差し掛かりつつある。さて、既存事業者やその関係者の方で、ここまで読んで「そうか、憎きツアーバスは頭打ちなのか。一息つけるな」と感じた方、どれくらいいらっしゃるだろうか。もしいらっしゃるなら、その考え方、その危機感不足こそが高速路線バスを、いや路線バス業界全体をこの体たらくに導いてしまったことを大いに反省すべきである。頭打ちなのは「これまでの」高速ツアーバスの事業モデルでしかない。高速ツアーバスの第1フェーズは(安全面等のブラッシュアップは除き、ビジネスモデルとしては)ほぼ完成に近づきつつあるが、高速ツアーバスの挑戦の「第2フェーズ」がこれからスタートするだけのことだ。そのための戦略、必要なパートナー……一つ一つ組み立て上げることこそ私たちの腕の見せ所だ。私のサイトでは、高速路線バスの取扱いも今後順調に増えていくだろうが、高速路線バス“だけ”の味方をするつもりもまた、いっさいない。路線やツアーといった業態を問わず、高速バスの「知恵袋」として取引先にアイデアを提供し、かつ高速バスに1人でも多くの利用者を掘り起こすことこそ、私たちの役割である。業界全体でさらに成長できると確信しているからだ。「成長なんてしなくていいから、とにかく波風は立てないでほしい」などという後ろ向きの事業者やその担当者なら、申し訳ないが、お役に立てることはないだろう。もちろん、高速ツアーバス企画実施会社でもそんなメンタリティの会社なら同様だ。私たちは今後とも、「1人でも多くのお客様に自社のバスに乗ってもらうにはどうすればいいか」を本気で考えている会社とだけ、お取引させてもらえればそれでいい。
2010.03.19
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先日、学部学生さんの卒業論文について書いたばかりだが、別の大学の大学院生さんからも修士論文が届いた。こちらは、バス産業の(特に規制のあり方についての)研究では有名な教授(私も日ごろよりいろいろ勉強させていただきお世話になっている先生だ)の研究室に所属する学生さんである。『高速バスと貸切形態ツアーバスの競争条件適正化に関する研究』。タイトルを読むだけで先日の卒業論文とよく似ている。先日のものは、指導担当の准教授が主に環境学や交通でも安全面がご専門の先生ということで、どちらかというと「安全性の公平な比較と、それに基づいた今後の制度の提言」という趣旨だったのに対し、こちらの先生はずばり「規制」「制度」がご専門だから、より営業面、制度面での比較と提言になっている。ただ、高速路線バスと高速ツアーバスという近いけれども異なる業態を比較し今後のあり方を提言している点では非常によく似ている。もちろん、似た論文を2篇続けて目にすることになったのは決して偶然とは言い切れないだろう。それだけ、この問題が注目を集めているということなのだ。そしてお二人とも、きわめて公平に、客観的にこの問題を捉えているという点で共通している。特に制度面で比較をする前提として、既存事業者の側からよく耳にする「競争条件が不公平→高速ツアーバスの方が廉価にサービスを提供できる→だから高速ツアーバスに乗客が流れている」という論理が正しいのかどうか、この学生さんは冷静に分析している。総合予約サイト(例えば私のサイト)が<インターネットの検索エンジン対策を行うことにより潜在的利用者を誘導する。また、居住地や嗜好に合わせたメールマガジンの発行、実際の利用者の感想をホームページに記載するなどの戦略をもち、高速バスとは別の方法で市場開拓を行った。その結果、現在のツアーバス増加につながった>とした上で、<都市部ではバス事業者が多く1社あたりの事業規模は小さい。事業規模の小ささ故に、マーケティング能力には限界がありテレビでコマーシャルを流すようなことは不可能だろう。ツアーバスは中小の事業者が多いこともあり、事業規模はさらに小さい。しかし、インターネットを巧みに使いこなす旅行社や商品取扱者の存在により、ここまで成長してきたと言える>と、ウェブの活用度合いの差が高速ツアーバス成長の大きな要因であることを突き止めている。逆に、駅前一等地に停留所を確保でき、かつ予約なしの当日発券にも対応できる高速路線バスの有利さも明記している。また、誤謬の典型として私がよく引き合いに出す「内部補助理論」についても、<高利益路線が他の高速バスやツアーバスに奪われて赤字の乗合バスの内部補助が不可能となると言う点である。もっとも、赤字の乗合バスの維持は内部補助におけるのはあまり好ましいと筆者は考えていない。それは高利益路線がいつまでも続くわけではないという点に尽きる。赤字の乗合バスについては内部補助ではなく、運行を民間委託するなど経費を節減しつつ、市町村による運行が望ましい>としており、きわめて客観的な書きぶりである。これは先日の卒業論文も同様で、<この内部補助そのものに関しては元来から議論があり、高速バスの利用者がなぜ赤字路線の赤字を運賃として負担しなければならないのかという意見がある。私の考えはその意見と同じであり、加藤(2006)p34 ※にある様に、赤字路線が地域振興のために必要であるならば、公的補助を検討すべきではないかと考える>としている。ちょっと先まで考えれば内部補助に頼った事業のあり方がいかに不安定か、研究者の先生方はもちろん学生さんでも理解できているのに、一生バスで生活していくはずの事業者の社員自らが将来の自分たちの首を絞めるような論理からなぜ脱却できないのか私は理解できない。※ここでいう「加藤(2006)」とは名古屋大学・加藤博和准教授の論文を指すが、恐らくは誤記で「加藤(2009)」とすべきではなかったかと思われる。『運輸と経済』2009年3月号「特集・新時代の高速バス」に掲載された同先生の論文『日本における高速バスの現状と課題~ツアーバス台頭を踏まえて~』p34ではないかと。ちなみに加藤先生ご本人は「誤植を見つけるのが特技」だから、もし本論文にお目通しされていれば既にお気づきかも知れない…。話を戻すと、そのような背景を冷静に分析した上で、本学生さんは新しい高速バスの制度のあり方についてきわめて前向きな提言をしている。私がこれまで拝見した中ではもっとも私自身の腹案に近い内容となっている。だから逆にここでは詳しく紹介できない。今の私の立場から私案段階で発表してしまうのは、その案の良し悪し以前に実現が遠のく状況だからだ。機が熟すまで私の中にとどめておき、タイミングを見て正しい手順で発表するよりないだろう。しかし一般論として言えることは、【1】EUなど諸先進国では「平場の路線バス」「貸切バス」の他に、名称はともかく「高速バス」に相当する制度的分類があること、【2】高速バスには「繁閑の差」がつき物で(かつ高速バス繁忙日はおおむね貸切バス閑散日でもあり)、繁忙日には余裕のある貸切車を活用することで多くの乗客のニーズに応えられること、【3】あえて「企画・催行」と「運行」とを分けることで(もちろん、事業者の希望により両方を担うことはかまわないが)、相互に役割と責任範囲を明確にでき、双方がより専門的な取り組みができること。以上を踏まえ、誰かの既得権益を守るための規制ではなく、高速バス全体の発展に寄与する制度であるべきだということであろう。将来的に新しい制度を模索するとして、従来の高速路線バスのあり方だけを「正」とするのは避けなければならない。もし高速ツアーバスという事業モデルが確立していなければ、もしそこに競争という概念が取り入れられておらず結果としてウェブマーケティングの活用に消極的なままであったら、例えば今日、例えば明日、私のサイトなどから予約して各社の高速ツアーバスに乗る、万を超える数のお客様はどうなっていたのか? その数は大都市間路線に限って言えば高速ツアーバス誕生前の高速路線バスの輸送人員など軽く超えた数字なのである。これだけの数の取りこぼしにも気づかず、従来どおりの業界秩序が守られ従来どおりの事業者が従来どおりのやり方で高速路線バスを運行することを指して「バス業界のためにはその方がよかった」と言うのなら、そこでいう「バス業界」とは誰のものなのか? 繰り返すが高速ツアーバスの現状を満点などというつもりは私にはさらさらないが、高速路線バスの従来の姿だけを「正」として一切の変化を拒む姿勢とは、私はずっと戦い続けたい。1人でも多くのお客様が高速バスを利用してくださることこそ、私たちの希望なのだから。
2010.03.18
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縁あって、ある大学の経済学部の学生さんの卒業論文を読ませていただいた。『ツアーバスと高速バスの現状とあるべき姿 ~ネガティブ情報を用いた安全性の比較と運輸安全マネジメント制度への提案を通じて~』。もちろん一学生さんの論文であって、よく目にする研究者の皆様のそれに比べると不足している部分もあるだろうし、事業に直接タッチする者から見ると実態と合っていない点もないわけではなかったが、客観的、かつ真摯にこの問題に取り組んでおられた。本学生さんはもちろん、指導担当の先生のことも私は存じ上げなかったのだが、この論文を読んで何かを感じるのは誰も同じらしく、たまたま目を通した私の知人がわざわざ送ってくれたものだ。そして私も、研究者ら多くのバス産業の関係者に転送させてもらった。本学生さんは、あずみ野観光バスのスキーバス事故や近鉄バス「フォレスト号」の横転事故などの報に接し、この問題に興味を持ち始めたそうだ。特にあずみ野の事故は彼の身近なところで起こったようで、それがこのテーマを選んだ大きなきっかけらしい。当時は、制度面で共通するスキーバスと高速ツアーバス(この二つは運用面では大きく異なるのだが…)が同一視され高速ツアーバスに対しても否定的な報道が相次いでいたのは確かだ。一方で彼は、「高速(路線)バスは安全、ツアーバスは危険」と安易に決め付ける報道のあり方に疑問を抱き、客観的な評価を本論文で試みている。その客観的評価の基準として用いたのが、国土交通省が公表している、事業者ごとの「ネガティブ情報」である。ただ高速ツアーバスについては、実際にどの事業者が運行しているかは公開情報からだけでリスト化できるはずもなく、実際に高速ツアーバス各社の集合場所に繰り返し足を運び運行事業者を特定したとのこと。このあたりの熱心さには本当に頭が下がる。一方、「ネガティブ情報」から事業者ごとの事故・違反点数をデータで収集し、それを分析することで「必ずしも高速路線バス事業者に事故・違反が少なく、高速ツアーバス運行事業者に多いというわけではない(むしろ、一部の事業者分類においては逆転している)」という結論を導いているが、まあ、事故・違反点数だけで比べると、事業者の規模が傾向として圧倒的に大きい高速路線バス側に不利にはなろうから、私もこれを持って「ほらみろ、高速ツアーバスが危険という考え方は間違っている」と吹聴するつもりは一切ない。大切なことは、客観性をもってこの問題に取り組むその姿勢なのだ。いわゆる「内部補助の問題」(高速バスの利益が圧迫され平場の路線バスの縮小を余儀なくされる問題)についても、本来的には事業者は内部補助のスタイルを転換すべきとしつつ、<現実にはそのような転換はなかなか上手く進んでおらず、高速バスの採算悪化による赤字路線の廃止という問題を抱えたまま、ツアーバスとの価格競争に望んで>いると、本来あるべき姿とそれについていけていない現実とを公平に目配りしている。安易に「高速バスの競争激化が地域の交通ネットワークを崩壊させている」と叫ぶ人には、そのような発言が結果として乗合バス事業者や地域住民にとって長い目でプラスになるのか、該当部分だけでいいから本論文を読んだ上で考えていただきたいくらいだ。先日、私の仕事に好意的な既存事業者の経営者の方から「高速路線バス取扱は増えそう? 営業は順調?」と尋ねられ、具体的な事業者名はお伝えできないながら「おおむね順調です」とお答えした後、「でも」と付け加えた。「でも、地方の事業者さんを中心に、私の会社がマーケットプレイス(総合予約サイト)だということを未だ認識してくださっていない会社も多いようで……。私の会社が高速ツアーバスを自ら企画実施していると勘違いなさっているんですよね」と申し上げたところ、「えっ? そんなこと、サイトの画面見たら簡単にわかるじゃない!?」おそらく、この一言に集約されていると思う。既存事業者が本当に高速ツアーバスに負けたくないと考えるなら、たとえ5分間だけでもサイトを見るはずだ。面倒でもなければ、コストがかかるわけでもない。私のサイトの画面を見れば、ウィラー・トラベルもオリオンツアーもキラキラ号も(そして一部の高速路線バスも)予約が取れることはすぐ理解できるはずだ。自分たちの事業を大きくしよう(少なくとも、これ以上小さくならないようにしよう)と本気で考える人なら、ライバルたる高速ツアーバスに自分で乗ってみるだろうし、そこまではともかく、サイトくらいは見るはずだ。ウェブを使わない年配の経営者の方であったとしても「そのツアーバスなるものは、どんな会社がやっているんだ?」と部下に尋ねるのが普通だろう。それが、現実には上記実態なのである。お題目のように「ツアーバスは安全性に問題がある」「地方の路線バスを縮小させている」と叫ぶことが、失礼ながら、自社の高速バスの将来に「本気」である証だとは思えない。もちろん必死で新しい取り組みを行なっている事業者も、担当者レベルはそれを望みながら会社全体ではそうはいかず歯がゆい思いをしている課長クラスや若手も私は多く知っているが、一方で、自分たちの数字が悪いことを高速ツアーバスのせいにして(それも最近は「1000円高速」の“おかげ”で下火だが)、会議の言い訳に使っているに過ぎない担当者も多く知っている。「昨日と同じようにバスを走らせていればさえ昨日と同じようにメシが食えるんだから、余計な話を持ち込まないでくれよ」と迷惑顔の担当者には、まずはぜひ、本論文を読んでいただきたいものである。(内容より先に)一学生さんでさえバスの将来をここまで真摯に考えてくれているその姿勢を学んでいただきたい。ましてや、道路運送法が改正され需給調整が撤廃されたとはいえ、主に「バス停の権利」を中心に実態として参入障壁が大きく残る寡占業界なのである。寡占主体の側が変化を拒み結果として市場をシュリンクさせている罪深さを、認識すべきである。本学生さんに卒業後の進路を尋ねると、バスとは関係ない某一流企業の名前が返ってきた。このような優れた学生さんにも「一生バスにかかわる仕事をしよう」と選んでもらえるような業界に、変わっていくことはできるだろうか。
2010.03.15
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本日から、富山県のイルカ交通の高速ツアーバスの取扱を開始した。イルカ交通といえば、乗合バス事業にまったくの新規参入でありながら2008年に高速路線バス(高岡~名古屋線「きときとライナー」)を運行開始したことが特徴的である。私も「きときとライナー」のニュースを聞いた際には大変驚いた。道路運送法が改正されて以後も、乗合バス事業については事実上のさまざまな参入障壁が残り続けたため、しばらく高速路線バスへの新規参入は見られなかったからだ。そのあたりは東京海洋大の寺田先生が詳しいが、既存事業者の越境的新規参入や、既存事業者の分社子会社による参入などを除くと、高速路線バスへの純粋な新規参入は富士交通/桜交通、おびうん観光(ただし既存事業者と共同運行)、それにこのイルカ交通くらいだろう(空港連絡バスを入れると、高知駅前観光の例もある)。本ブログの読者の方にはイルカ交通は人気なのか、たしか2度ほど、「イルカ交通を取り扱ってください」というようなコメントをいただいた。特に2度目のときは、ちょうどイルカ交通と細かい打ち合わせを進めていたタイミングだったから、しかし個別の案件の進捗状況をこのブログに書くわけにはいかないから、なんとお答えしたらいいか迷った記憶がある。私たちが同社とお話をし始めたのはずいぶん前の話になるのだが、双方でかなりゆっくりとお話を進めてきた。上記のようにファンの方にはずいぶん人気のある同社だが、やはり既存事業者の反応を考えると、大手事業者の乗合商品よりも先にイルカ交通の商品を取扱うことは私たちにはずいぶんとリスキーだったからだ。イルカ交通の経営者である村西会長は、既存事業者の既得権益に風穴を開けようというよりは、新しいことにいろいろ取り組むのが本当に大好きなだけ、というメンタリティだと思われるが、既存事業者のなかには、「新しいことに取り組む」会社自体に極端にネガティブな反応を示す方が多い。今回は、イルカ交通の「次の、新しいこと」として、東京線の高速ツアーバス「ドルフィンライナー」をまずは毎週1回、自社で企画・運行することになり、私たちはその販売のお手伝いだ。空港連絡などを含む、比較的短距離の路線や昼行路線は高速路線バス形式で、比較的長距離の路線は高速ツアーバス形式でと使い分けるのは、上記の高知駅前観光のほか、サンデン交通、イーグルバスと共通で、当面(つまり新制度ができるまで)のひとつのあり方ではないかと思われる。高速路線バス名古屋線「きときとライナー」の取扱については今の時点でははっきりと書けないが、実現したら当然この場でもご紹介することになるはずである。私たちでも乗合商品の取扱が開始しそれが大きく報じられ、それがさらに拡がりを見せそうな手ごたえを実感している今のタイミングでイルカ交通の取扱を開始するというのは、ちょうどいいタイミングだったわけだ。しかしまあ……せっかくこのように地方の新興バス事業者のチャレンジをお手伝いするという前向きなニュースのはずなのに、「業界の秩序」なるものに配慮しなければならないこの業界の実情を考えると、いやいや、悔しいというか、悲しい思いさえしてくる。ぜんぜん別の話になるが、私のサイトで高速路線バスの取扱を開始したことを聞いて、ある高速ツアーバス企画実施会社の担当者が、「ウチら、これからは“路線さん”とも戦うことになるんですね」と言っていた。その会社はかなり手広く高速ツアーバス事業を行なっておりその担当者とも私が今の会社に入社して以来の付き合いだから業界の「古株」に当たるわけだが、その彼の上記発言は、高速ツアーバス各社は高速路線バスと戦っているつもりはこれまで一切なかったことをよく表わしている。昨日書いたように、高速ツアーバス各社は新しいマーケット(例えば私のサイト。もちろん各社の自社サイトも含めたウェブマーケティングの世界、といってもいいだろう)において、他の高速ツアーバスと毎日、いや毎時毎分競争しているわけで、“路線さん”のことなどほとんど視野に入っていなかったのだ。高速ツアーバス各社は新しいマーケットを求めて、かつその新規マーケット内で少しでも大きな存在感を得ることを目指して競争し、その競争がさらにマーケット拡大を加速させてきた。高速路線バスの世界では、ダブルトラックがまったくないとはいえないものの、おおむね事業者同士の競争はない。いろいろ確執?がないわけではなさそうだが、とはいえ既存事業者同士は相互不可侵の関係だ。それに慣れている既存事業者の皆さんは、高速ツアーバス各社(と、イルカ交通のような新規参入事業者)が一致団結、束になって攻めてきているような印象をお持ちのようだ。しかし実際に高速ツアーバス各社は、“路線さん”のことを意識する前に、むしろ自分たちの世界での競争に忙しい。その競争こそがマーケット拡大を誘引しているから、外から見れば「一致団結、仲良くやっている」と見えるのかも知れないが、高速ツアーバス企画実施会社同士は一義的には競争相手だ。既存事業者から「成定さんの所が4条の高速バスを扱ったりしたら、ツアーバス会社は怒らないの?」などと聞かれることも多いが、高速ツアーバス各社は競争の中でビジネスをするのが当たり前であり、私のサイトで高速路線バスを扱っても彼らにとっては既に数多いコンペティターが1社増えるだけに過ぎない。既存事業者の側から「ツアーバス陣営は」などという発言を聞くたびに、両方の「陣営(?)」の気持ちがわかる私には、あまりにも一方的にかつ過剰に意識しているのが見えて、少し悲しいというか、むしろ滑稽にも見えてくる。まあ、どのような背景があれど、イルカ交通のような元気な新興事業者のお手伝いができるというのはうれしいことだ。とにかく面白いこと、新しいことをするのが大好きなイルカ交通の村西会長が次はどんなアイデアに挑戦なさるか、楽しみに待っていよう。
2010.03.11
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一昨日、取引先(高速バス・空港連絡バスの運行会社や高速ツアーバスの企画実施会社)向けの「管理画面」上で新機能を導入した。「カスタマイズページ」。さっそく1社使ってくれたのでご紹介したい。バスを予約しようと私のサイトを訪れた利用者は、乗車日・乗車地→下車地・人数を指定して「空席検索」を行なう。そうすると該当日に該当区間で空席がある便の一覧が表示される。その「空席一覧」上では、より細かい乗下車地(東京駅か新宿か、など)と出発・到着時刻、それに価格(運賃または料金)などが表示される。さらに基本情報に加え、「3列シート」「トイレ付き」「アメニティ付き」「女性専用」といったサービス内容を示すアイコンと、1行の「キャッチコピー」も表示されている。平日の首都圏-京阪神などでは80もの商品が並ぶから、利用者はその中からまずは「興味がある」商品の商品名をクリックし「商品詳細ページ」を開く。そこでは、座席やアメニティグッズのイメージ写真や、詳しい「セールストーク」など、より詳細な情報を見ることができ、いくつかの商品を比較検討のうえ最も自分に合っていそうなバスを予約する。これが従来の流れだ。ちなみに、もし乗車日や人数を指定しての「空席検索」機能ではなく、「路線一覧・商品一覧」から好みの商品を選ぶ形だと、リアルタイムの価格変動や、ここまで多彩な商品ラインナップは生まれなかっただろう。首都圏→京阪神で80の商品が並んだとして、「A社の3列シート」のページを見たら希望の乗車日は8,000円で、「B社の3列シート」を見たら希望の日は満席で、「C社の4列シートは6,000円」で…と各商品ごとにページを開かないと、希望の乗車日に空席があるか、価格はいくらかを確認できないようでは、利用者に大きなストレスがかかる。従来の高速路線バスの「ある区間にはせいぜい1~2路線」という状況ではそれで問題なかったし、価格変動しない状況でもそれで問題なかったが、多数の商品が並び、かつそれがリアルタイムに価格変動するようになればそれでは不十分だ。「検索」という機能を導入したことで利用者はバスどうしを本当の意味で比較しながら予約できるようになったし、それが高速ツアーバス各社の商品作り(ビビッドな価格変動にしても、また多彩な座席・商品ラインナップにしても)を大きく変えたことは間違いない。これまでの紙のパンフレットや時刻表であれば掲載できる情報量に限界があるが(あるいは多くの情報を掲載しようとすると逆にわかりづらさを招くが)、ウェブであれば、より詳しい情報を知りたい人はどんどんクリックして深い階層まで情報を見に行けばいいし、逆に使い慣れている人はそこまで見る必要もなくさくさくと予約すればいい。そうなると、情報量は多いに越したことはない。一方で、ウェブページを作るのは決して簡単ではない。デザインのセンスも必要だし、そのデザインをウェブ上で表現するための技術的な知識(HTMLタグなど)も必要だ。通常のバス事業者や旅行会社なら、専門業者に依頼して作ってもらうことになる。そこをなんとかしようと考えたのが、今回の「カスタマイズページ」だ。私の会社のデザイナーが、数点の「テンプレート」(雛形)を用意した。各社は、ふだん在庫や価格をコントロールするための「管理画面」を通して、例えば「画像1」のところにバスの外観写真を、「画像2」のところにアメニティグッズの写真を、「テキスト1」のところにワープロ感覚で「○○バスの自慢は…」などと書き込めば簡単にウェブページが出来上がるように準備したのだ。言ってみれば、このブログを書いているのと同じ操作感覚である。各社は、最大10ページまでカスタマイズページを表示することができ、利用者が多数の候補の中から最終的に1つの商品に絞って予約するまでの様々なステップで、このページを参考にすることができる。ずっと申し上げてきた「バスを選んで乗る時代」に向けてのさらなる一歩といこうとである。<一例 MKの「カスタマイズページ第1号」。まず公開されたのは1ページだけでそれもまだまだ「手作り感」が見られるが、今後リアルタイムに加筆修正可能であるしページ数も順次増えていくだろう。このページは、例えば、MK便の「商品詳細ページ」の左上に設置された「会社案内」ボタンなど様々な箇所からリンクされている。※モバイルでは表示されません>同機能は、私のサイトの宿泊(ホテル・旅館)予約部門からの横展開(ぱくり)だ。実は数年前にこの機能をホテル・旅館に提供開始した際、ビジネスホテルや普通の旅館の間では「何も書くことがない」という声が大きかったのだという。それどころか高級旅館でさえ、「伝統と格式」「心のこもったおもてなし」「新鮮な素材を使った料理」などいかにも典型的な決まり文句ばかり並んだ。しかし今は違う。普通のビジネスホテルや旅館や民宿が、自分たちの「売り」は何なのか真剣に見つめなおし、それを積極的にアピールするように変わっている。単純にウェブ上での情報量を増やすだけなら、従来どおり業者に依頼して「きれいなホームページ」を作ってもらえばいい。しかしそれではコストも時間も必要だし、自社サイトへの集客にもコストがかかる。本当に現場で商品を考えたり在庫をコントロールしているような担当者自身が、自分たちの「売り」を真剣に考え、業務の合間などにちょこっと管理画面を触って自分たちのページを修正していくような雰囲気になって欲しい。逆に言うとこれからは、「自分たちの方からお客様にアピールする」という積極的なマインドを持たない会社ならば、数多くの競合のなかで埋もれてしまうことになる。当然、私としては、高速路線バスを運行する既存事業者の皆さんが、安全性や信頼感も含め、この機能を使って自社の高速バスの魅力を積極的に発進していただきたい。それを彼ら自身が(業者任せではなく)管理画面から操作するようになって欲しいのである。
2010.01.15
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新年のビジネスが本格的に動き出したというか、連休明けに出社するとアポイントやご取材のお申し込みのメールが山ほど溜まっていた。会社のスケジューラ上でアポイントがどんどん増えていくのは「仕事をしてる気分」になってなんとなく嬉しいのだが、そこに既存事業者の名前が並ぶのはもっと嬉しい。それに、街でバスに出会った際、最近、それらの中に「取引先」(東京空港交通)や、「まもなく取引先になりそうな事業者」(会社名は言えないけど)の比率が増えてきたのもちょっと嬉しい。そんな時にはつい車内を見上げて乗車率をチェックしてしまう。もっとも、これは学生時代からの私の癖だ。バス好きの友人たちと高速バスを乗っていて対向車線の高速バスとすれ違うと、車両タイプなどそっちのけで「どれくらい乗っているか」をチェックしてしまう(バスを乗り歩く友人など限られているから、対向する高速バスの「車両チェック係」「方向幕や運行ダイヤから行き先を判別する係」などに自ずと「役割分担」が進むが、その意味では私はもう何年も「乗車率チェック係」だ←マニアックな話で恐縮です)。これまでなら、乗車率の低い高速バスとすれ違ったりすると、「もったいないなあ。なんとかあと数人でも乗ってくれないかなあ」と漠然と悔しさを感じていたのが、今だと「あの路線を扱わせてもらえたら、1便あたり何人増やせるかな」と真剣に考え込んでしまう。その路線を売るためにはこうやってああやって…と妄想はふくらむ。よく既存事業者の皆様は、高速ツアーバスを指して「あの料金でよくやっていけるな」とおっしゃるが、私に言わせると、高速路線バスこそ「あの乗車率でよくやっていけるな」という感じだ。つまり既存事業者の皆様は、どうも「乗客数を増やす」「乗車率を上げる」という発想になりづらいようだ。「平場」の路線バスを地域独占で走らせてきた彼らにとって乗客数はアンコントローラブル(制御不能)ということらしい。しかし乗客数はコントローラブル(制御可能)である。乗客数の増加こそ、マーケティングの出番である。いや、端的に言えば、価格弾力性が大きいタイプの路線(※)においては価格を下げればさえ簡単に乗車率は上がるが、本当は「乗車率が上がればさえ、それでいい」ということではない。<※鉄道や他社の高速バスと競合が激しい路線ほど価格弾力性が大きく、鉄道が不便で高速バスが独占状態にある路線ほど価格弾力性は小さい。この価格弾力性の大小の見極めはレベニューマネジメントのために非常に重要である。また、乗客数の最大化のためにマーケティングができる役割は、決して価格施策だけでないことも合わせて強く明記しておく>しかしそれで乗車率が上がっても単価が下落し収益(運賃収入)が悪化すれば意味がない。「バス一運行あたりの収益=販売単価(全乗客が支払った運賃・料金の平均)×乗車率×座席定員」であり、そのうち「座席定員」は原則的には車両購入時(数年に一度)しかコントロールできないから、あとは「販売単価」と「乗車率」のトレードオフの関係をいかにバランスさせるか、ということが重要になる。ここで「運賃・料金」や「価格」ではなく「販売単価」という語を用いたのは、乗車している乗客が支払う運賃・料金が一人ひとり異なるからだ。高速路線バスで言えば乗車距離が短い乗客は運賃の額が小さいし、高速ツアーバスでいえばダイナミックプライシング導入の結果、予約した時期によって一人ひとり料金が異なる。今後は高速路線バスでも同様のケースが増えるだろう。その組み合わせも重要だということだ。限られた座席定員を、どのくらいの販売単価でどのくらいの乗車率に持っていくか。乗車率が当日になっても低いからといってどんどん運賃・料金を下げれば、その瞬間に数席は売れるかも知れないが、ライバル会社が追随し不要な値下げ合戦が始まればお互い体力を消耗するだけだ。一方で年末年始のような繁忙日は単純に需要量と供給量を計算式に入れ込んで理論値を求めれば、瞬間的には「東京→大阪 4万円」というような数字が導かれたりするが、あくまで理論値でしかない。高速バスマーケットは「生き物」であり、今日出発と明日出発、今日予約受付と明日予約受付では環境が大きく異なる。なるだけ細分化した小さなマーケットそれぞれに適切な価格設定を行ないながら、個別の便ごとに単価と乗車率のベストなバランスを導き出し収益の最大化を図る。同時に、足元の収益にこだわり過ぎてはよからぬ単価下落を招くだけだから、短期と長期のバランスを調整する。そのためには、何段階かのレートストラクチャを構築した上で、最適なプライシング・ストラテジーを見つけ出す…それが「高速バスにおけるレベニューマネジメント」だ。こう書けばなにやら難しいようだが、ロジックをもう少し詰め、それを支援するためのシステムを開発することは、ホテルや航空業界の例を見ても不可能ではないだろう(それでも、「続行便設定の可否」つまり総在庫量が変動するというバス固有のパラメータを反映させられるかどうかは自信がないが)。「私が次にやりたいこと」の中の一つが、高速バスにおけるレベニューマネジメントのシステムを完成させ、各事業者に活用してもらうことであることは間違いがない。とまあ、こんなことを書くと「金儲け主義」という印象を持つ人も多いんだろうなあ。あるいは「ツアーバスなどというものさえ無ければ、高速路線バスは黙っていても利益を上げることができたのに」とでも言われるのか(「黙っていても利益を上げる」……それを「ぼったくり」というのだが)。まあ小言はそれくらいにして、レベニューマネジメントの教科書には最初に必ず書いてあることがある。それは「レベニューマネジメントとは、それ用の情報システムを導入することではない」というものである。マーケットの需要に耳を澄ませ乗客の心理を読む力や、末端のスタッフ一人ひとりを同一の目的のために動かす力など「総合的なマネジメント(経営)力」の話なのだ。そして高速バスの場合には、より柔軟な価格設定を可能とするなど、法規制面での地殻変動もまだまだ必要だ。そういった様々な課題を乗り越え「高速バス1便ごとの収益の最大化を通して高速バス業界全体の収益を最大化する」というアプローチは、まだまだ道半ばであり、チャレンジングでもある。
2010.01.12
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私たちのサイトを訪れる利用客の8割以上が、トップページ左上にある「空席検索」機能で乗りたいバスを探す。乗車地の県、下車地の県、乗車の日付と人数を指定して「検索」ボタンを押すと条件にあったバスが表示され、比較の上で予約に進める機能だ。「発車オーライネット」「ハイウェイバスドットコム」「楽バス」など高速路線バスの予約エンジンは先に「路線」を選ぶ形なので、マルチトラック化して全く同一区間に複数の路線がある場合、まずは路線(つまり、事業者)を選ぶのに対し、私たちの場合は検索結果の画面で商品を選ぶ点が大きく異なる。いつも書いていることだが、これをメインの動線に据えたことが高速ツアーバス業界にとって大きなターニングポイントだった。リアルタイムの価格変動も、繁忙日だけのスポット運行も、多彩な車両タイプやアメニティグッズ等の特典も、ポイント付与率の商品ごと日ごとの変動も、全てこの機能があるから実現したのだ。原則的には、利用者はプルダウンして乗車地、下車地の都道府県を選ぶのだが、首都圏-京阪神・名古屋・仙台の主要3路線については「東京→大阪」「名古屋→東京」などショートカットを用意してあって、ラジオボタンをクリックするだけになっている。この場合、例えば「東京→大阪」のショートカットを選べば、システム的には「乗車地:東京都 下車地:大阪府」をプルダウンから指定した場合と同じ結果を表示する。もっとも現実の利用者のニーズは様々で、一口に首都圏と言っても神奈川県や千葉県など東京都以外の県での乗下車の比率も大きいのだが、現在のところ首都圏-京阪神の高速ツアーバス全商品が、最低でも1ヶ所は東京都と大阪府を経由しているので、このショートカットにおける「東京→大阪」とは、実質的には「首都圏→京阪神」ということである。最初からもっと細かく「千葉県→京都府」などその利用者の希望に沿った検索に誘導した方が利便性が大きいのでは、という意見もある。しかしあえてそうしていない。最初に絞りすぎるのは選択肢を減らしてしまうと考えているからだ。例えば神奈川県在住の私が兵庫に帰省するのに「神奈川県→兵庫県」で検索した場合、「東京都→大阪府」に比べ3割程度の商品しか表示されない。3列シートやトイレつきなど「特車」の比率も低い。実際には横浜乗車も新宿乗車も、大阪下車も三宮下車も利便性は大きく差はないから、まずはたくさんの商品を見てもらいたい、と考えている。その意味で、最初の時点ではなるだけ「神奈川県」といった絞り方ではなく「東京」(実質的には「首都圏」)で検索してもらうよう誘導しているのだ。その上で、検索結果の画面では、画面上部に「詳細条件」を設定できる機能を準備している。平日の「東京→大阪」など80商品くらい表示されるから、乗車地を「東京都」よりも細かく「新宿」に絞り込んだり(もちろん「神奈川県」とか「横浜市」にすることも可能)、「3列シート」のみに絞り込むとか料金の安い順に並べ替えるとか、利用者は希望に合わせて再検索できる。ちなみに、高速ツアーバスのほとんどが夜行便なので、あえて時刻順で並べ替えをしない限りは、時刻順は無視して、座席グレードの高い順(「2列シート」が最上位)に表示される。ただ、と今考えていることがある。今後、高速路線バスの取扱が増えてくると難しいなあ、と。上記事例でも、仮に「千葉県発、神奈川県経由○○県行き」とか、「神戸行き(大阪府には止まらない)」のような路線であれば上記ロジックだと表示されなくなってしまう。例えば「金沢まで高速バスで行きたいのに渋谷発も新宿・池袋発も満席」で困っている利用者に「横浜発で空席を見つけた!」というようなことをお手伝いするのが私たちの役割のひとつであり、ならばシステムを小改修して、画面上で「東京」と表示している場合はシステム上は「東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県のいずれか」で空席検索するようにしようかなあ、などと迷っているのだ。一方、ではエリアをどんどん広げればいい、というものでもない。長距離夜行の場合は新宿発が満席なら横浜まで移動して乗ればいいが、距離が短い路線ではそうではない。最も極端なのが空港路線で、下車地の羽田空港は距離で言うと目と鼻の先。だが電車だと乗換が面倒だからあえて直行のバスを選ぶわけで、新宿乗車希望の利用者にとって池袋や東京駅発のリムジンバスを見せても煩雑なだけだ。この場合は「高速バス」とは異なるカテゴリーだから、そもそも入り口で分けてしまってリムジンバスの専用ページを作り、そこからの検索では「新宿発」と「東京駅・TCAT発」を別々に空席検索できるようにした。また、座席グレードは全便一緒なので、リムジンバスの検索の場合だけは出発時刻の早い順に並べている。ということは、今後、比較的距離の短い「高速バス」が増えてくると配慮しないといけないことが多くなる。仮に、の話だが、東京都から長野県に向かう高速バスの取扱が増えると(現在取扱中の高速ツアーバスは便数が少ないからさほど気にならないが)、「東京都→長野県」で検索しようとしている人にはもう一段細かく「長野」「松本」「伊那」などと最初から指定してもらった方がいいかも知れない。そしてこの場合は、リムジンと同様、出発時刻順がいいなあ。一方、この場合「東京都」の方は自動的に「神奈川県」も含んで検索するようにしておけば、まだ認知が小さい横浜発の伊那飯田方面も表示されて、新宿発が満席の場合など有効かなあ、などと妄想は(勝手に)膨らむ。その他、座席管理の手法など、鉄道をベースに発展した高速路線バスのオペレーションと、旅行ツアーをベースに発展した高速ツアーバスのオペレーションなど、両者の違いはけっこう大きい。今後私のサイトで取扱させていただける高速路線バスがどんどん増えていくということは、サイト上や管理サイドの様々な点において、高速路線バスの現状にも対応するよう改良していかないといけないということだ。もちろん、それが高速ツアーバスを好んで利用してくださっている利用者や高速ツアーバスの企画実施会社の便利さを妨げるものであってはならない。課題は大きいように見えるが、方法はひとつしかない。何度も何度も、様々なタイプの利用者や取引先担当者になったつもりで、サイトの利用者画面・管理者画面を繰り返し繰り返し使ってみること。それ以外に答えはない。
2010.01.09
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年末年始の取扱高は、今のところ対前年+30%程度の成長率で推移している。伸びているのは事実とはいえ、昨年の年末年始は一昨年に対して+60%増だったわけだし、売上予算は大きく未達であり、会社の中では肩身が狭い。社内会議でこれを言うと「言い訳」と一喝されそうだが、「カレンダーがよくない」のだ。ふつう、年末年始はおおむね5日間(12月30日から1月3日まで)が休みになる会社が多いから、最高の年だと前後の両方に土日がくっついて9連休となる。昨年の場合も12月26日の夜行から「帰省ラッシュ」が始まり、1月4日の夜行まで「Uターンラッシュ」が続いた。それに比べると今年は12月29日の夜から1月3日まで。コンパクトな年末年始だ。そもそも帰省や旅行そのものを手控えた人も多いだろう。また、航空やホテル同様、高速バスの場合も「在庫数」(座席定員)に上限があるから短い期間に人の移動が集中しすぎると満席で予約を断る羽目になるので、できれば分散してくれるほうがありがたい。「繁閑の差」にどう対応するかは、我々の宿命なのである。以前にも書いたが鉄道の場合は最大需要量に近い供給を提供し、航空は中間的需要量に応じて機材を準備する。それに対しバスの場合は、運行する台数を需要の大小に対応して増減できる点が大きな利点であり、それでもなんとか3割の成長を維持できている理由はこの点に尽きると言っていい。この「満席のはずの繁忙日にも在庫(続行便や臨時便)を確保する」ことに、以前は苦労した(高速ツアーバスが始まった当初からの「利益率が低い」「あれは力がない新免事業者が走るもの」という感覚が消えず中堅以上の事業者が消極的だったし、「やってみたいけど、既存事業者から“何されるかわからない”ので」という事業者も多く、自社の旅行業免許で高速ツアーバスを運行するのはもちろんNG。各企画実施会社が運行会社としてチャーターするのも苦労していた)ものの、今では180度風向きが変わったようだ。これまで「立場上、ツアーバスは走らない」と言っていた老舗の大手貸切専業者が、各旅行会社からチャーターされ運行会社としてどんどんクルマを出すようになった。年末年始など「高速バス繁忙日」は、もとより「貸切バス閑散日」だったわけで、それに輪をかけて不況による貸切バス需要の減少と、さらに円高によるインバウンド(訪日客)激減が追い討ちをかけた。会社の存亡が問われる中、これまで「立場上」と言っていた人たちも、自分たちがこだわっていた「立場」って一体何の立場だったんだろう?と自問し始めたそうである。いざ老舗の大手組が走るとなると、出てくる台数はその辺の新免事業者とは比べ物にならない。結果、予約人数は伸びているものの、せっかく上がった高速ツアーバスの単価(料金)は少し下がってしまい、取扱額では上記のとおり3割増にとどまる。昨年の年末は、首都圏→京阪神でスタンダード車(4列シート・トイレなし)で片道8000~9000円というのが普通だったが、今年は6000~8000円あたりに落ち着いている。一方、3列シートなどの「特車」から早々に完売する状況は未だ続いている。繁忙期の増発は、国内の貸切バスのほとんどを占めるスタンダード車にならざるを得ず、瞬間的な需要増加に合わせて特車の増発が確保できるかというとそれは難しい。だから、以前にも書いたが、特車は早々に完売する。この年末も、3列車は首都圏→京阪神で10000円を上回る価格が付いていたにもかかわらずすぐ満席となった。長距離夜行においては「特車」の増発便がまだまだ欲しい。しかし事業者が3列シートの貸切車を導入しても、現在の貸切バスの販売方法なら一般貸切で稼動することはほぼ無理で平日はクルマが遊んでしまう。最近、メディア系旅行会社(クラツー、阪急)などの「旗持ち」のツアーで「ゆったり3列シート使用」といったコースが目立ってきており、当面はその辺りと組み合わせて運用することを前提に「汎用特車」を購入できるよう導くとして、やはり最終的には貸切バスの世界でも利用者が好みのバスを選ぶ時代を実現(私たちでは「貸切バスの予約受付」もいつか開始して、幹事さんが乗りたい会社とクルマをウェブ上で選べるようにしたいと考えているが、貸切バス業界の事情が未だそれを許さない)し、一般貸切と夜行増発とで特車の仕業の補完関係を作るのが正攻法だろう(なおこれは繁忙日の増発の話で、所定車両は逆に細部まで夜行専用にこだわって満足度を高め平日の乗車率を確保することが肝要だ。繁忙日には所定便の「専用車両」と増発用「汎用特車」で多少の価格差をつけて売る。それが「お客様がバスを選んで乗る時代」なのだ)。一方(実現可能性や現行の法制度を考えずに書くが)、スタンダードの貸切車両(特に歴史も品質もある老舗の専業者。一例:日の丸やヤサカなど)は、本当ならこの時期には短・中距離高速バスの続行便に入るのが効率がいい。乗合系事業者は貸切事業をどんどん縮小しており、以前のように続行便を出せなくなっているからだ。もちろん、「○○へは△△バス(一例:長野県へは京王の中央高速バス)」そして「そのバスは○○バスのサイトから予約できる」「予約センターの電話番号は○○」「駅前のあのターミナルから乗れる」という認知は、ここまで該当路線を育ててきた乗合事業者の「資産」だから、乗合事業者の運賃収入(売上)と、続行便として「傭車」した老舗貸切専業者へのチャーター代(コスト)との差分は、乗合事業者が利益として得ればいい。価格の低い事業者を傭車すれば乗合事業者の利益率は上がるものの、安全性を含む品質を下げる。「コストと品質のバランス」をうまくとることは、世の中の多くの企業にとって一般的なビジネスである。現行のルール(法制度しかり、業界内の常識しかり)や特定の事業者の既得権にこだわる限り産業としては衰退するのは必至である。頭を柔らかくし、少し立ち止まってでもあるべき姿に思いを巡らすことがこの時期、大切だろう。既存事業者のためにも、である。
2009.12.28
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本日から、京成バスシステムの「あみプレミアム・アウトレット号」の取扱が始まった。小田急箱根高速バスの「御殿場プレミアム・アウトレット号」と同じパターンで、事業者こそ大手私鉄系だがあくまでも募集型企画旅行商品。そして、ウェブマーケティングのために私のサイトを活用いただくというよりは、基幹システムならびに自社サイトの予約エンジンとして私の会社が「システム提供」している、というイメージだ。小田急と京成では同商品を以前は電話のみで受付していた。発車オーライネットなど高速バス用のシステムは、事業者の社員が使う業務用基幹システム(予約入力や在庫管理、売上管理など)としては乗合形式でもツアー形式でもなんとかなるが、利用者がUI(ウェブ上の一般利用者向けページ)から自ら予約情報を入力する「予約エンジン」としては、旅行条件書の手交など旅行業法に定められた受付手続きに対応していないためツアー商品には利用できない。一方、発車オーライ同様の「システム貸し」をしているツアー用システムの中では「Wecanシンフォニー」「WILL」「ドリームジャーニー」などが、高速ツアーバス各社が好んで導入しており管理側もUI(利用者画面)も募集型企画旅行形式のバス予約向けに作ってあるが、あくまで企画実施を本業とする会社向けの基幹システムであり、ツアーは副業的で他に基幹システムを持つ私鉄系事業者にはオーバースペックで結果として価格も高くなる。そのため、両社とも同商品のウェブ予約化はあきらめていたのだ。ただ、アウトレットモールの利用者属性からみて、ウェブとの親和性は大きい。各アウトレットの公式サイトには相当数の訪問があり、公式アクセスとして小田急や京成の自社サイトにリンクされているので、かなりの数の「乗客候補」が事業者のサイトでアウトレット号の情報を見ている。しかし最後の最後に予約方法が「電話または窓口」となっていると、それが面倒で予約(つまり乗車)自体をあきらめてしまう。「導線切れ」というヤツだ。非常に「もったいない」状態である。本来、私たちの役割は「バスの認知を広め新しい乗客候補を連れてくる」「その上で予約・決済をウェブで行なう」ことなのだが、この商品に関しては前者の役割はアウトレット側がやってくれており、せっかくアウトレット側が集めてくれた乗客候補を、ウェブ予約ができないという一点だけで逃しているのは見ていて悔しい。私たちでは、このアウトレット号に限って「集客」という役割をいったん放棄する形で小田急箱根高速バスに提案した。私のサイトでは原則的に集客をしない。小田急のサイトから予約ページへ直接リンクを張ってもらう。予約センターに電話予約が入れば、私のサイトの業務用画面に小田急のオペレータが入力する。あくまでも発車オーライ等と同様の「システム貸し」に徹することで低い利用料(送客手数料ではなくシステム提供料)を提案したのだ。したがって、高速路線バス事業者が既に自社サイトから発車オーライネットや楽バスなど予約エンジンにリンクを張っていたり、高速ツアーバス各社が上記「シンフォニー」などを使って自社予約エンジンを用意していたりするのと全く同様であって、別に自慢できるような内容ではない。しいて言えば、高速路線バス事業者の自社サイトから予約エンジンへ飛んで希望の路線を予約しようとすると、導線上の隋所に、まるで障害物競走をしているかのような「難関」があってかなりストレスがかかるのに比べると、利用者には優しい導線を用意できているかな、くらいの話だ。小田急の場合、ただただ上記のことをしただけで乗客数は一気に伸びたらしい。それを見たアウトレット側が他の事業者にも積極的に説明してくれている。その第一号が京成なのだ。アウトレット側にすれば、ライバルチェーン等との集客競争も過熱しており自分たちの数字に直結するから一生懸命だ。その「1人でも来店者数を増やしたい」というアウトレット側の熱心さと、各事業者側の「今でもほどほど乗ってるから」「ホントに乗りたい利用者は、電話でも予約するんじゃないの」という感覚には差があるようだが…。アウトレット側からすれば、本当は私のサイトの集客力も活用しさらに集客できればベストということであり、そうなるとコスト増を気にする事業者との間でさらに話がかみ合わないのだが(コストは増えるが売上も増える、という当然のことがなかなか伝わらない)、何とかそれも乗り越えられそうで各社で最後の調整中だ。「本当に乗りたい乗客は何とかして予約してくれるはず」と言うのなら、例えばトヨタがクルマを作っていることは日本人全員が知っているわけで、いまさら多くの販売店もテレビなどでの宣伝も必要ない。パナソニックも資生堂もコカコーラも、みんなそうだ。十分な認知があってなお、消費者との接点をさらに増やすため各企業はリソースとコストを使っている。考えてみれば、このアウトレット号、非常におもしろい商品だ。アウトレットモールは、様々な理由から郊外立地が多い。商圏は、御殿場やあみで言えば首都圏全域からその周辺と非常に広い。したがって経営会社は、マス媒体(テレビや雑誌)を、有料広告もパブリシティ(無料掲載の広報)も上手に使って広い商圏から来店客を集めるプロフェッショナルだ。つまりマーケティング面では「空中戦」を得意とする。その彼らが小田急、京成や阪急、西鉄といった鉄道系事業者と組むことで、各鉄道の車内や駅にポスターを掲出するなど、狭域マーケティング、すなわち「地上戦」も低コストで行なえる。どの旅行会社でも「アウトレット往復バスツアー」を企画はできるが、アウトレット側に不足している地上戦の力を提供できる鉄道系だから公式アクセスとして認められ安定した集客が見込める。事業者側は意識していないのかも知れないが、既存事業者の「強み」を最大限に活かした商品である。自社の強みが「沿線での地上戦」であり、同時に「広域での空中戦」に弱みがあることやそれをうまく補完する方法など、既存事業者が自身の特徴と課題にあらためて気付くきっかけになればいいのだが。
2009.12.24
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自社(子会社を含む)の旅行業部門が集客する形で自ら高速ツアーバス事業に参入するバス事業者は順調に増えつつある。これまでは、貸切バス事業において地元で相応の存在感を持つ貸切専業者(青森観光バスや高志観光バス、南薩観光など)、企業や大学送迎など平日の仕業に強く週末の車両に余裕がある中堅事業者(MK観光バスや中日臨海バスなど)が中心だった。振り返ってみると、私たちの会社が貸切専業のバス事業者に「高速ツアーバスをやってみましょうよ」と本格的な提案活動を始めたのは3年ほど前。既存事業者に「高速路線バスの販売をお手伝いさせてください」と提案に回り始めた時期(実は、事業開始前には高速路線バス、高速ツアーバス各社の両方に営業に行ったものの<※当時はまだ私は関係していない>、ウェブをうまく使って予約数を増やしたい、と賛同してくれたのが高速ツアーバス側のみという結果だったようで、厳密には「提案営業の再開」だが)とほぼ同じである。高速ツアーバス予約事業の開始から1年経った頃で、要するに、事業の立ち上げが何とか終わり次のステップへの余裕が生まれた時期にあたる。サイト上の導線を、それまでの「路線・便の一覧」中心から、乗車区間と乗車日を指定して空席がある便のみを表示する「空席検索」中心に変えるとともに、需給バランスに応じ価格をビビッドに変化させる「ダイナミックプライシング」概念を導入することにより、繁忙期だけの限られた運行でも採算が取れる「スポット運行」のノウハウを見つけ出した頃だ。当時の思いとして、より「上位」の事業者に高速ツアーバスに参入して欲しいという希望があった。高速ツアーバス、イコール「格安」イコール「新免事業者」という思い込みが業界内で先に立っており、私自身も「アンチ・ツアーバス」の状態のまま今の会社に転職したわけだが、高速ツアーバスという事業スキーム自体には大きな可能性があると感じていた。私の会社で高速路線バスも取扱って新しい需要をお送りするということと並んで、より歴史やブランドのある事業者に高速ツアーバスに参入してもらい、両業態の垣根を低くしたいという思いが強かった。その思いは後日、まさに既存事業者そのものであるサンデン交通、弘南バスから「高速ツアーバスをやってみたい」とご相談を受けるという、私の予想を超えた動きで実現するのだが、その頃は上記のような事業者をまず引き込むことが最初のステップだと考えていたのだ。なぜあらためて昔話を書いたのかというと、その頃の提案先のうち特に思い入れの強かった2社が、ようやくこの年末から高速ツアーバスに本格参入するのだ。中紀バスと イーグルバス。どちらも、既存の大手事業者のくくりには入らないものの乗合事業をしっかりと営む「準・既存大手」として、ぜひお付き合いしたく提案にお邪魔していた会社だ。前者は和歌山県中部における戦前からの乗合事業者であり、ご他聞に漏れず「戦時統合」によって南海の一部となった。ところが戦後は見事に再独立し、規模は大きくないが乗合バスや介護事業など極めて地域に密着した事業を営みつつ、貸切バス事業では域外にも進出している(『バスマガジン』最新号参照)。後者は、逆に旅行業からバスに進出した事業者で、免許時代の参入であるため社長自ら誇りをこめて「成り上がり事業者」と自称する。当初は貸切専業だったが、埼玉県各地で乗合事業にも進出し、大手では赤字だった路線を譲り受け黒字化するなど結果を出し(※)、東京空港交通や西武バスと共同運行で羽田空港線にも進出している。※この黒字化。もちろん人件費レベルの差も大きいだろうが、同時に、谷島社長が MBA取得で培ったマネジメント手法を乗合事業に導入し「科学的」運営を行なっている点が特徴的だ。日経新聞をはじめメディア露出や各種受賞暦も多い。手法は「バスネットフォーラム」での講演資料をご覧いただきたい。極めてロジカルであり、逆に、このバス事業の危機における既存事業者の対応が精神論だけに頼っているのだと実感できるはずだ。なお、先日ご紹介したBさんの会社は、イーグルバスではないので念のため。成り立ちは正反対の2社だが、会社の「格」(というモノがあれば、だが)はよく似ており、結局、高速ツアーバス本格参入の決断までじっくり時間をかけたのも共通している(なにせ冒頭に挙げた会社たちは既に事業が軌道に乗っているのだから)。また本格参入に当たって3列独立シートトイレ付きの専用車で臨もうとしている点も両社に共通だ。相互に車庫や仮眠施設を提供し合えるようまずは私たちの方で「お見合い」をセットしたが、今後はお互いに事業パートナーとしてより踏み込んだ協力をできるよう協議中という。その辺り、ご決断いただいたことに感謝していると同時に、共同運行に近いシステムや車両タイプなど、何となく「既存事業者の高速路線バスの匂い」がして不思議な感じ。これはサンデン交通や弘南バスにも言えることだが、双方のいい面を取り入れた新しい事業モデルを作りあげ業界をリードしていただきたい。また、狭域マーケティングが重要で習慣的利用が多い短距離路線(空港線)は当日発券に対応できる乗合形式を、また価格や居住性の差が大きく商品同士を比較検討のうえ予約する率が高い都市間夜行はツアー形式を選んだイーグルバスの選択は高知駅前観光のそれと共通しており、これもまた一つのスタイルだと考えている。いつも書いていることなのだが、「高速バスとはこういうモノ」「バス会社とはこういうモノ」という既成概念に囚われては成長はない。一方、ただ刀を振り回すようなやんちゃなやり方では、その会社だけなら成長するかも知れないが業界全体へのインパクトは小さい。私の原点は「このままだとバスってダメになるでしょ」という一点であり、この2社のような「ハイブリッド型の高速バス会社」が生まれるのは、既成概念打破の象徴として大変嬉しいことである。それにしても、両社の夜行専用車。3列独立トイレ付きという仕様では共通だが、生い立ちは対照的。イーグルがセレガハイブリッドの新車であるのに対し、中紀は近江鉄道から流れてきたという富士ボディ=UD。趣味的にはどちらも乗ってみたいクルマではある(笑)。
2009.12.22
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ここ2ヶ月で、高速ツアーバスの企画実施会社が2社、連続して経営破綻に陥った。「シティライナー」ブランドのトラベルメディア社と、「イーストウェストシャトル」ブランドのサン太陽トラベル社(商標は「サミーツアー」)である。後者は事前に予約受付を全面停止していたので一般利用者への影響はほぼなかったと思われるが、前者は先の予約を受けていた中での突然の事業停止であった。私のサイト経由でも数百件の予約があり個別に対応することとなった。該当の全ての利用者に連絡がつき返金対応することができたが、ご迷惑をおかけしたことに違いなく、10月いっぱいまで該当予約があったので本ブログでもコメントを控えていた点、ご理解いただきたい。高速ツアーバス企画実施会社の経営破綻は過去に数件発生しているが、私のサイトでは取扱いをお断りしていた会社たちであったので、今回の件は会社として初めての経験で考えさせられることも多かった(もっとも、宿泊施設、特に旅館では廃業や事業停止はそれなりに発生しているが)。今回の件、まず事業サイドから話を進めると、破綻した両社はともに相応の歴史と規模を持つ旅行会社であった。トラベルメディアは15年、サン太陽は40年近い歴史があり、特に後者は学生旅行の代名詞的な時代もあったわけで、関西では、古くからの貸切バス関係者の皆さんを中心に驚きとショックを感じているようだ。公表されている年間取扱高など情報を総合すると、取扱高のうち高速ツアーバスが占める割合は両社とも数%(一桁半ば)であったと見られる。前者は、本業はリテーラーであり他社が企画実施する国内ツアーの販売では関西では大きな存在感があったが、先に書いたように旅行リテーラーという業種自体が先細り傾向の中、唯一、自ら企画実施しかつ収益源であったのが高速ツアーバス事業だった様子だ。業界紙によると、最後はなんとかリテーラー事業を縮小してバス企画実施事業に特化しようとする動きを見せたものの、間に合わなかったらしい。後者は、「あずみ野観光スキーバス事故」の際の企画実施会社という印象が近年ではやはり強いが、もともと関西発北海道・沖縄そして信州スキーに強いホールセラーで、関西で学生時代を過ごした人たちには「サミーツアー」ブランドは定着していたと言ってよい。スキー好きの私の家内も「え、ホンマにあのサミーが潰れたん?」という反応だった。ウェブ時代における旅行業の厳しさが意外な形で表面化したということであり、「副業の利益で本業の赤字を埋める」ことの難しさもまた、体現している。利用者側に目をやると、「予約していたバスが走らない」ことは言うまでもなくいい話ではない。旅行会社が経営破綻した際には即事業停止となる蓋然性が大きく、より安定した運行を保証するには、本ブログにコメントをいただいたように「運行事業者が自ら催行する形に限定」すれば間違いなく前進であるし、突き詰めるならば「社会的存在感が大きく公益性が強い既存路線バス事業者に限定して許認可」すれば少なくとも上記事態は防ぐことができる。一方、それが本当に利用者保護と言えるかという面も議論が必要だろう。参入する業態や事業者を限定し競争を制限すればするほど、安定の代償として商品は硬直化し価格も高止まりする。たしかに公益性の高い電力事業で「東京電力が倒産したから」というような理由で電気が止まれば大変だから、そのような産業では慎重に競争が抑制されるべき(鉄道や路線バス事業でもほぼ同様)である一方、「旅行」事業においては「旅行会社が潰れないよう競争を抑制しろ」という人はほぼいないだろう。数多くの旅行会社がアイデアや価格で競争しより魅力的な商品を提供することを多くの人が望んでおり、その上で、より安心に旅行したいという人は価格が高くても名の通った大手に申し込む。では高速バスという事業がそのどちらに近いのか、議論を通して正しい規制のあり方を考えていくべきである。法規制の一元化も議論の対象となろうし、競争排除による安定と競争による成長や機会平等とをどうバランスさせるべきか、その議論も肝心である(たとえば、事前予約率ほぼ100%で事業者が乗客の連絡先を把握できる長距離夜行路線と、フリー乗車が多く「バス停に行ったら毎時●分に●行きバスが来る」と習慣的に利用される昼行路線とでもそのバランスは異なるかも知れない)。今回の件で一人ひとりの利用者と電話で話した実感値からすれば「返金さえしてもらえれば、お宅のサイトで別の会社のバスを予約するよ」という声が多かったのは確かで(むしろ「わざわざ全員に電話してるの?おつかれさま」など声をかけていただき涙が出そうになったり)、利用者の多くは「多数の選択肢から自分の意思で選んで申し込んだ会社」というご認識だったこともよく伝わってきたが、かといって「利用者がそういう認識だから予約したバスが走らなくても問題ない」などという気は一切ない。利用者に少なからず迷惑がかかったことは間違いない事実であるし、現在の高速ツアーバス事業が抱える問題点の一部が露呈したもので、これ以外にも課題は多いと思う。現行の乗合バスに係る法規制が高速バスに最適ではないといつも書いているのと裏表の関係として、現行の募集型企画旅行の法規制もまた高速バスに最適でないことは間違いない。だからこそ、きちんと議論してよりよい規制のあり方を皆で考えていくべきなのだ。蛇足だが、このブログで高速ツアーバスのことをメインに書くのは久しぶり。ついつい既存事業者あるいは高速路線バス業態にばかりコメントしてしまう自分に、結局は既存側への愛着の方が大きいのかなと、あらためてハッとする。そしてとうとう、その既存事業者の乗合商品の取扱が、私のサイトでも明日から順次開始されるのである。最後の最後まで本当にバタバタして全身ぐったりという感じだが、ご決断いただいた既存事業者の経営者・担当者の皆様、ここまで導いてくれた協力者の皆様に、感謝の気持ちでいっぱいである。
2009.11.10
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私の会社の、コンサルティング部門のスタッフは、主に高速ツアーバスの企画実施会社に対して、商品設定や価格、ウェブ上での商品の見せ方などについてアドバイスをするのが仕事である。やはりその柱は、レベニューマネジメント概念に基づき、詳細なデータ分析から各社に適切な台数と価格を提案することである。余談だが、高速ツアーバスの企画実施会社は、私のサイトに販売を委託する座席数を、日ごと便ごとに、インターネットでつながった管理画面を通してリアルタイムに変更することができる。「今週末は自社サイトの販売分だけで満席になりそうだから」「別の販売サイトの方が手数料率が低いから」、逆に「このままだと絶対に売れ残りそうだから」など、各社は常に自社の判断で委託席数をコントロールするわけで、私たちも「頼りにしてもらう」ために情報提供に手を抜くわけには行かない。そういった現在の取引先へのコンサルに加え、自社で旅行業免許を持つ中堅以上の貸切バス事業者に対して、自ら高速ツアーバス事業に参入しないか勧誘?に回り、業態全体の規模を大きくするものコンサルティング部門の業務である。一方、私の会社のマーケティング部門は、高速バスを予約しようとしている人たちをサイトに集客するのが仕事、ということになる。これも大きく二つに分けられる。一つは、「今まさに高速バスを予約しようとしている」人たちを、一人でも多く私のサイトに誘導することである。その大きな柱は、検索エンジン対策だ。利用者が、YAHOO! やGoogleといった検索サイトで「高速バス」「高速バス 名古屋」などと検索した際、なるだけ上位に私のサイトが表示されるよう工夫するのだ。『運輸と経済』に掲載いただいた論文でもご紹介したが、YAHOO!で「高速バス」というワードを入力して検索される回数は、月間で約60万回ある。「ホテル」というワードで検索される回数が約30万回、「航空券」が15万回というのと比較すると、その数は驚くほど多いと言えるだろう。高速バスを予約する人の数が日本中のホテルを予約する人より多いとは思えないのだが、検索回数は高速バスの方が2倍もある。理由はカンタンで、ホテルや航空券を予約したい人は、最初から「帝国ホテル」「ANA」といった風に目的の社名ブランド名で検索するのだ。対して高速バスの場合は、高速バスを運行している会社名もブランド名もよくわからないから、一般的な「高速バス」「夜行バス」といったワードで検索する。地方在住者の場合は、地元の路線バス事業者は基本的に1社しかなく、その事業者が東京行きも大阪行きも一手に運行しているから話はまだカンタンだが、大都市在住者にとってバス事業者の存在感は極めて小さい上に高速バスの事業者も行き先別にバラバラで、上記のような検索行動につながっているのである(ちなみにこの検索エンジン対策について、JRバスグループは非常に積極的であり、かなりのコストをかけておられると思われる)。検索エンジン対策が「プル型」(高速バスに乗ろうとしている人を自社に誘導する)マーケティングの代表だとすれば、「プッシュ型」(高速バスの認知度を上げ需要を喚起する)の代表がメールマガジンだ。昨日も、四国地区在住の会員に対象を絞ってメールマガジンを配信したばかりである。顧客に会員登録を促し、ポイント還元などでリテンションを図りつつ、属性(居住地や年齢、性別など)をデータベース化しセグメントごとにダイレクトメールを送付して需要喚起する、という手法は世の中で広く行なわれているが、実際のダイレクトメールが印刷や郵送に費用が発生するのに比べると、電子メールなら直接費用はほとんど発生しない。しかし当然、「送り放題」という訳ではない。興味の無いメールであればすぐに「ゴミ箱」に直行だろう。あえて、四国地区とか青森県とかいったように地域分けして送信するのも、メールの「件名」(タイトル)に、「高知」とか「八戸」など親しみ深い地名が入っていると実際に目を通してもらえる率が上がることが証明されているからだ(本物のダイレクトメールであれば、郵便受けに届いた葉書を実際に読んでくれているのか捨てられているのかさえわからないが、電子メールならクリックした人の率まで計測しそれを元に開封率を上げる工夫もすることができる)。このほかにも、ポイント還元によって利用を促すキャンペーンや、パブリシティ(新聞やテレビのようなマスメディアへの露出)など、マーケティング部門の「打ち手」は幅広い。ただ、上記のような手法は、あくまで「いま」の姿でしかない。マーケティングに供される技術もアイデアも、驚くべきスピードで進化を続けている。そのうち、私のサイトのような中間業者をかませなくとも、利用者が乗りたい日の乗りたい区間の空席を一覧的に見られるようになるかも知れない。「予約」「発券(決済)」のあり方も、どんどん変質していくだろう。従来のやり方に固執することなく、新しい技術と利用者のニーズに常に敏感にアンテナを張り、バス業界を変革するお手伝いを続けられれば、と考えている。
2009.09.09
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日経BPネット、その他いくつかの媒体で、私のサイトから高速ツアーバス各社へのお盆の送客実績が前年比4割増しだったと報じていただいた。送客先の中では最大手にあたるウィラー・トラベルも同時に「前年比+24%」と発表している。昨年までの「前年比5割増し」ペースからは鈍化していることはたしかで関係者の間では若干の危機感が広がりつつあるものの、一般的に見れば、高速ツアーバス業態は未だ十分に成長基調にあると言えるだろう。一方で、「1000円高速の影響で高速バスが不調」という報道も相次いでおり、西鉄ではまずは近距離の単独路線から、週末のみ値下げを行なうのだという。厳密に言うと、今回対象の福岡―北九州、福岡―佐賀などの路線は、「高速料金上限1000円」が適用されるよりも短距離の区間なので「高速料金休日半額」との競争ということになる。ただいずれにしても高速バスにとっては、高速料金の割引によって価格優位性が揺らぐことそのものはもちろん、渋滞の増加による遅延(顧客満足度を低下させるとともに、実は乗務員の人件費というコスト増にも直結しダブルパンチ)、さらに「渋滞で遅れるのではないか」という「風評被害?」も加わり、とにかく悪いことはあってもいいことはない気がする。※※「税金を原資にした割引を高速料金だけに適用するのは不公平」と私自身も思うのだが、一方で鉄道事業者から見れば、「自分たちは線路というインフラを自前で用意して都市間輸送を行なっているのに、これまで高速料金程度しかインフラの整備費用を負担せず都市間輸送を行なってきた高速バスは不公平」とも取れ、あまり強くは言えない気もするし。さて、ではそのような状況の中で、なぜ「高速ツアーバスは順調」なのかというと、一言で言うと「成長ステージの差」。つまりは、「大人」と「子供」の差であって、未だ事業として「子供」に過ぎない高速ツアーバスは、ちょっとくらい天候不順だろうと転んでケガをしようと(景気が悪かろうと高速料金が割引になろうと)どんどん背は伸びてますよ、というだけの話だ。景気がどうのなどと、マクロ経済の影響を受けるほど未だ存在感は大きくないということなのだ。だから実はそれほど自慢することではない。ただ、一言。一概に「高速バス」といっても、現在のところ、既存の高速路線バスと新興の高速ツアーバスとの間で、主戦場が異なることは認識しておく必要がある。既存の高速路線バスは、地方都市における路線バス事業者の存在感・販売力によって、例に挙げた九州を筆頭に地方都市に強く、特に短・中距離の昼行便のポーションが大きい。対して高速ツアーバスはほとんどが大都市間(起終点両方が大都市)の夜行便で、具体的にはかなりのボリュームを首都圏―京阪神が占める。そういった路線に限れば高速ツアーバスはマーケットを自ら大きく掘り起こしたといえる。例えば先週末の首都圏―京阪神は、各社あわせると1晩に往復で250台ほどの高速ツアーバスが運行されているわけだが、おそらく高速ツアーバス業態が生まれる以前の高速路線バスは、郊外発着の路線もあわせて数十台レベルだっただろう。もちろん、レベニューマネジメントの導入により、週末の夜、高速ツアーバスの価格は高速路線バスと同水準かむしろ高い。かつては価格訴求で伸びてきた高速ツアーバスだが、ウェブを積極的に活用したことによる大都市での販売力の差が、価格が逆転してもなお大きな成長を導き、高速バスマーケット全体を拡大させたと言える。問題は「これから」である。冒頭に挙げた報道やリリースをよく読むと、大都市間路線の高速ツアーバスの成長率は鈍化してきている。マーケットはいつかは掘り尽くすものだ。一方で、一部の長距離路線中心とはいえ、地方路線の成長率は大きい。今後、高速路線バスの牙城である地方路線(まずは長距離夜行、最終的には多頻度の昼行路線)に高速ツアーバスが攻め込めるのか。共存できるのか。それとも共栄まで可能か。いずれにせよ、鍵になるのは新規需要の掘り起しである。そしていつも書いているようにその新規需要は、既に既存の路線バス事業者が掘り尽くしてしまった地方側にではなく、これまでほとんど手付かずだった大都市側に大きく眠っているのである。その新規需要を掘り起こし、業態を問わず(高速路線バス、高速ツアーバス双方に)お送りすることこそ、私たちのビジョンなのだが、今のところ、その片方しかお手伝いさせてもらえていないのは、悔しくてならない。
2009.08.24
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会社のPCに不具合があって、今朝から社内の共用デスクの共用PCを使って仕事をした。本来は、地方支社から本社に出張してきた社員などが使うためのものだ。使ってみると不便ではなく、むしろ余計な電話なども入らないし気分転換にもなるし、思ったより仕事がはかどった。そもそも社員のデスクを固定せず「自由席」にして、その日ごとに社員が好きな席に座って仕事をする会社が増えているというニュースはよく耳にするのだが、まさに瞬間的にその状態。ただ、私は頭が固いのか、気分的には、それでも「自分の席」がないと想像すると落ち着かない。一方で、理屈で考えると、実際にはほとんど紙の資料は使わないから、やってやれないこともない気もするし。少し違う話かも知れないが、私のオフィスは1棟まるまるを私の会社のグループが使っていて、ビルの上にはロゴマークが掲げられているから、よく「立派なビルを建てて」などと言われるが、実際には賃貸だ。ちょっと前の感覚で言うと、会社の規模がある程度大きくなると「自社ビル」を建てたり保有したりするのが当たり前だったのだろうが、不動産を保有することによる様々なリスクやコストを考えると1棟まるごと借りるほうが合理的ということらしい。これからは、自宅にしても、「土地を買って家を建てる」という旧来の概念はどんどん流動化していくだろう。終身雇用制のもと一生同じ会社が面倒を見てくれる時代は終わりつつあり、転職や転勤、家族構成の変化に合わせて、その時々のライフスタイルに合わせた家を借りる時代になるだろう。それに限らず、世の中のあらゆる物事が「固定的」「絶対的」から「相対的」「流動的」になりつつある。実はここ3年で「高速バス」のビジネスも相対化、流動化しつつある。許認可が必要な高速路線バスに対して、そもそも高速ツアーバスというモデル自体が総じて流動的ではあるのだが、その高速ツアーバスという業態の中でもさらに流動化が進展している。いくら許認可が簡便といっても、これまで高速ツアーバスを運営するためには、パンフレットを相当数印刷して代理店に配布したり、予約センターの体制を整えたりする必要から、あらかじめ商品内容、具体的には「路線」「スケジュール」「料金」を、先の数か月分まで決定する必要があった。また、相応の固定費が発生する以上、平日も週末も夏も冬も運行しないと回収できなかった。しかし今は違う。確実に満席になるお盆のピーク日だけ運行することにして私のサイトに商品を登録してしまえば、利用者が希望の乗車日や区間を選択して「空席検索」ボタンを押した際に表示される検索結果上では、通年運行の会社と同列に並んでいるのだ。高速ツアーバスの会社でも、流動化の度合いはいくつかある。さくら観光やロータリーエアーサービス(キラキラ号)は、毎日同じスケジュールで運行されるから、その意味では高速路線バスに比較的近い「固定的モデル」である。平日と週末の料金の差も小さく、かつ、あらかじめ決めたパンフレット価格と常に同額である。次に、ウィラートラベルや富士興商(旅の散策ツアーズ)は、運行スケジュールこそ「固定的」であるが、自社販売分と私のサイトなどでの代売価格を明確に分けることで、代売サイトではレベニューマネジメントを導入し繁閑によって価格がリアルタイムに、かつ大きく変動する。最後に、旅クラブジャパンやトラベルセンター竜ヶ崎、ワールド自興といった会社は、私のサイトでの販売状況や他社の増発設定のバランスから「来週の金曜は青森行きが1台足りない」というような状況を判断し、自社が抱えているバスの台数とを見比べながら臨機応変に商品を設定する。パンフレットも印刷しないし、そもそも固定された「路線」という概念さえない。料金も、基準になる「標準価格」のようなものは一切なく、その日その日の「時価」を設定する。「路線」という概念さえ存在せず、その日の状況に合わせて商品を作るというと、「固定的」ビジネスを続けてきた既存事業者の方は皆さん驚く。恐怖感というか、何ともいえない気持ち悪さのようなものを感じるだろう(「自分のデスク」がないと落ち着かないのと同じだろう)。しかし運用上は「貸切」と同じである。「来週の金曜日、新宿西口●●ビル前に22時に配車。翌朝7時に大阪駅周辺到着」という仕業なら、走るほうから言えば、「来週の金曜日、都内の●●高校前に22時配車。応援団を乗せて翌朝8時までに甲子園球場到着」と何も変わらない。変わったのは、販売サイドのあり方だけである。高速バスビジネスにおける「相対化」「流動化」は、準拠する法律の違いなど既に大きく飛び越えたレベルで進行しつつある。もちろん、高速ツアーバスでもリアルな(ウェブ以外の)販路はまだまだ残っているから「固定的」な商品づくりが完全に無くなってしまうことはないだろうし、何でもかんでも「流動化」というのは、利用者側のわかりづらさを誘引し、結果として利用者が背を向けるに違いない。ただ、世の中全体に流れる「相対化」「流動化」という大きな流れをよくウォッチしておかないと、利用者から置いていかれる蓋然性が大きいのもまた事実である。
2009.08.17
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日本航空の、空港でのチェックイン業務用システムがダウンし欠航や遅れが発生したと報じられている。いちおう(?)私もシステムに関係する仕事なので、このようなニュースを見るとヒヤヒヤする。日本航空くらいになると、いわゆる基幹システムとはいっても、素人が想像するだけでも、国内線/国際線/貨物の別、さらに予約系、チェックイン、航務、会計、調達など幅広い分野に広がっているだろう。さらにそれが旅行代理店等、提携会社の基幹システムや、UI(ウェブ上や専用端末上で直接お客様が操作する画面)とも関連するから、かなり大規模なシステムに違いない。私が航空会社のシステム運用の責任者だったら、毎日胃が痛くて眠れないだろう。決して規模が大きいだけではない。「安定運用」(システムダウンしないこと)について求められるレベルも高いものだろう。社会的責任が大きい認可事業としての公共交通機関であり(寡占的に国から認可を与えられているということは、その仕事を問題なくこなすという責任と表裏一体である)、かつ安全性については他のどの産業よりも高いレベルが求められる航空業界という、企業の特性が、その理由の一つである。そしてもう一つ、これはどの業界どの企業であっても「基幹システム」である以上、私たちのような販売系のシステムより、「安定運用」を求められるレベルは高いだろう。私たちは、「ウェブ上での販売」を担う立場だから、仮に何分間かシステムがダウンしたとしても、たしかに高速バスを予約しようとサイトを訪れてくださるお客様や、私たちのサイトからの送客(売上)を期待してくださる取引先にご迷惑をかけることには間違いないが、必ずしも「バスが出発できない」という状態にはならない。その意味では、各企業の基幹システムとは立ち位置が異なる。別に私のサイトが「止まってもいい」と言っているつもりはないが、限られたリソース(エンジニアの時間や予算)である以上、「絶対に絶対に止まらない」ことを実現するために使うよりは、「一人でも多くのお客様をサイトに誘導するために、システムがどうやって集客に寄与するか」と「サイトを訪れてくれたお客様にいかにストレスなく、簡単に予約までたどり着かせるか」に注力することになる。私たちは、少しでも多くの予約を取引先に送り込まなければ、存在価値がないからである。もちろん、システムダウンしていたのではそれが実現しないから、止まらない努力は決して怠らないわけであるが。その意味では、「高速バスネット」や「発車オーライネット」などは本来的には基幹システムであり、それを後からユーザーにインターフェイスさせウェブ予約を受け付けているに過ぎない(「高速バスネット」については、ユーザーインターフェイスを前提に作られたと言えるものの、作り手の鉄道情報システムやそこから委託を受け実際にシステムを作った会社にしても、「発車オーライネット」の(株)工房にしても、あくまで業務用アプリケーションのベンダーである)。もしシステムが短い時間でもダウンすれば、今まさに出発しようとしているバスの座席表も印刷できないし、窓口での発券や予約センターでの受付も止まってしまう。このことは、高速ツアーバス各社が基幹システムとして使っている「DJ」「ウィキャン」「WILL」といった各システムも同じことである。同じ「高速バスの予約システム」とは言っても、基幹系と販売系では「本分」というか、最終的に守らねばならないものは異なる。一般の人にとっては同じ「バス」に見えても、実際には乗合バスと貸切バスが異なるくらい、この二つは違うものなのである。「ものつくり」に対する信仰が色濃く残るバス業界では、「売るだけ」の私たちを異質なものと捉える人に多く出会う。だが、例えばメーカーで工場の現場の従業員より営業担当者が格段低く見られているとか、「売る」のが仕事のイトーヨーカドーや三越伊勢丹が蔑まれているとか、そんな話は聞いたことがない。私たちは、実際にお客様の安全を背負って走る乗務員に代表されるバス事業者や、それを支えるために基幹システムを守る会社たちに最大限敬意を払いながらも、私たち固有の役割として、一人でも多くのお客様に高速バスを認知させ、予約まで結びつけることをただただ追及していくのみである。高速ツアーバス業態では、DJやウィキャンといった基幹システムやそこからユーザーにインターフェイスしている各企画実施会社の自社サイトと、私のサイトはうまく協力し合いながら住み分けているわけだが、既存の高速路線バス事業者の皆様から、「高速バスネット」や「発車オーライネット」と私のサイトが、まるでライバル同士のように思われているのが残念でならない。
2009.08.03
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夏休みは、当然の話だが、高速ツアーバス各社がどんどんと新しい路線を企画する。私のサイトでも、初登場の路線、1年ぶりに復活する路線などが続々と登場している。一口に「新路線」といっても様々だ。競合環境で言えば、既に高速路線バスが一定の存在感を持つ区間に高速ツアーバスが後発参入するものもあるし、これまで高速路線バスが無かったマーケットを狙いに行くケースもある。路線の性格で言えば、高速ツアーバスが得意とする都市間・長距離夜行もあれば、その名称とは裏腹に高速ツアーバスが苦手としてきた観光地路線もある。例えば、仙台-弘前・青森の夜行便は、既存の高速路線バスには設定がない商品だし、大阪-奥飛騨線は、直行の高速バスがこれまで無かったが宿泊客などの送客を期待でき、路線の性格で言うと基本的には観光地路線だ。同じ観光地路線で言えば大阪-若狭の「海水浴バス」などは、高速路線バスと並行していると言えなくはない一方で、近鉄/福井鉄道が「わかさライナー」を運行開始するよりも何倍も長い歴史のある(もちろん都市間の高速ツアーバスが現在のような状況を迎えるずっとずっと前から走っている)「伝統の路線」だったりして面白い。そういった路線を私のサイトに登録して、すぐにバンバン売れるかというとそうではない。以前にも書いたが、「路線を育てる」という感覚は、実は既存の高速路線バスとそう変わらない。だから、私のサイトの販売力だけを頼りに新しい路線を設定されると各社痛い目に合うので、事前にご相談をいただくと「うーん、難しいですよ」とお伝えする。だがそこは各社とも旅行会社としては私のサイトなどよりよほど先輩格だから、宿泊とのパッケージ販売や『じゃらん』などへの広告出稿、そして代理店や大学生協に大量にパンフレットを設置するなど販路拡大に努めてこられる。その上で、販路の一つとして私のサイトでも販売をしていただくと、それはそれで多少は予約が入るから、こっちが驚いたりする。私のサイトとしては、新しい路線をお手伝いしたい気持ちはある一方で、限られたマーケティング費用やリソースをどこに割くかいうと、やはりボリュームがあり効果が期待できる路線、ということになる。東京(首都圏)-大阪(京阪神)線など、例えば明日は連休前日の夜だから、高速ツアーバス全社を合わせると上り下り合計で一晩で約400台(推計)のバスが動く。どうしても、我々のマーケティングはそこに注力されてしまう。プッシュ型のマーケティングとしては、本日も、登録の住所が青森県、宮城県になっている会員に限定して、青森-東京線や仙台-東京線を告知するメールマガジンを配信したが、県別に原稿を作成したり配信リストを準備したりと相応の手間がかかるわけで、細かい路線のためにそこまでやっていられない。プル型のマーケティングとしては、検索エンジンで「高速バス 大阪」や「ディズニー バス」と言ったワードで検索された際に上位に表示されるよう様々な対策を行なっているが、「若狭 バス」というワードのために貴重なコストとリソースを割いてはおれない。ところが、余り積極的にコストとリソースをかけていない上記の新路線でも、ボリュームは遥かに小さいとはいえ相応に予約が入るのである。ということは、私のサイトに来れば「高速バス」の予約が取れる、ということをなんとなくご存知の方がとりあえず私のサイトを訪問したところ、ご希望の商品があったので予約した、ということになる。上に挙げたような、ほんの数路線の新路線だけで、相応の数を各社にお送りできているわけで、仮に「全国のあらゆる高速バス」を私のサイトに並べることができれば、より積極的なマーケティングで需要開拓をすることもできるし、かなりの数の新しい予約を各社にお送りできるのになあ、とついつい考えてしまう。例えば東京-草津温泉線がそうだが、フリーククエンシーや乗下車地の設定など、明らかに既存の高速路線バスの方が強く価格差もほとんど無い商品が少しとはいえ私のサイトで売れているのを見ると、お客様は既存事業者のサイトと見比べて予約しているわけではなさそうで、「たまたま入ったお店」にその商品しかなかったから高速ツアーバスを予約していることになる。逆に、そのわずか1往復さえ高速ツアーバスが走っていない他の路線を探して私のサイトを訪れた人は、無事に既存事業者のサイトにたどり着いて予約まで至ったかどうか、心配になってしまう。その路線を繰り返し利用する地元の利用者はともかく、例えば観光地に向かう大都市の利用者に高速バスの存在や利点を訴求し、わかりやすく予約まで導くというのが私のサイトの役割であるのだが、それが100%実現するのはいったいいつになるのだろうか。
2009.07.16
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「高速ツアーバス戦略フォーラム2009」の翌日は、「高速ツアーバス連絡協議会」の2009年度の総会だった。本来的には、この二つのイベントはなんら関係ないものだ。前者は、私の会社が主催し、取引先に集まってもらって販売面の戦略を共有する純粋にビジネス的なイベントだ。後者は、私の会社で事務局を務めているとはいえ、あくまで業界横断的な業界団体の総会である。ただ、多くの参加者が共通する上に遠方からの参加も多いことから、「協議会」の理事に顔を連ねる、私の会社にとってはライバルに当たる他の予約サイトの皆様にもご了解をいただき、連日で開催とさせていただいた。戦略フォーラムの方は企画実施会社45人の参加であったが、協議会総会については、さらに運行会社(貸切バス事業者)、受託販売会社(予約サイト)、さらにセンディング会社まで集まり参加者は80人を超えた。私達は事務局であるから、会場の手配や案内状の送付、議案の作成などの準備から、当日の受付、司会、議長、そして来賓のお迎えお見送りと、気持ち的には前日の自社イベント同様、ホスト側である。国土交通省自動車交通局からは総勢7人、NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)からは3人の方々をご来賓としてお迎えした。国交省自交局には会員各社への講話をお願いした。山崎・安全政策課長からは「事業用自動車総合安全プラン2009」について、細かい点まで、熱のこもったお話をいただいた。旅客課のバスご担当、黒須・企画官からは、「貸切バス事業者の安全性等評価・認定制度」や「バス産業勉強会」についてのお話があった。NASVAの金澤理事長にはご来賓のご挨拶をお願いしたが、国交省で航空、観光、自動車と幅広く行政に携わった理事長のご経歴を踏まえ、安全の必要性について心のこもったお話を頂戴した。総会としては、引き続きオリオンツアーの橋本氏を会長に選任、ウィラートラベルの村瀬氏、杉崎観光バスの杉崎氏、平成エンタープライズの田倉氏をそれぞれ副会長に選任し無事に閉会となり、懇親会となった。懇親会は、会員である貸切専業者の経営者クラスが、直接、国交省の本省の皆様とお話しするいい機会になったようだ。どんな話になっているのか事務局としては正直ヒヤヒヤしないでもないが任せておいた。というよりも、受託販売会社である私達も、運行会社と直接話す機会はこの協議会くらいなものだから、なるだけ多くの方にご挨拶することに心を配った。お話していて、なるほど、と感じた点が一点。企画実施会社(自社で企画実施する運行会社を含む)には、私達もよくお話しするし、その中で高速ツアーバスを巡る様々な報道についても共有している。しかし純粋な運行会社にはそれは伝わらないから、運行会社としては『バスラマ』が重要な情報源ということだ。ただ『バスラマ』では、いろいろ事情があって高速ツアーバスにはネガティブな記事が続いているから、自らの事業の正当性について不安な気持ちになったりするようだ。そういった皆様には、『運輸と経済』の「特集・新時代の高速バス」をお読みになるようお勧めした。政府系機関発行の研究誌に、西鉄や常磐交通といった既存事業者の担当者、大学の研究者らが執筆しているわけだから公平性は十分だ。この特集を読めば、少なくとも自分達の事業の正当性について不安になることはないだろう。ただ、高速ツアーバスというビジネスモデルが合法であるということと、駐停車禁止違反や乗務員の拘束時間基準違反など個別の違反がない、ということは別の問題である。この「連絡協議会」への行政のご協力に代表されるように高速ツアーバスに対する社会的認知が進むということは、比例して社会的責任が大きくなっているのだということを、会員企業みながよくよく認識していかなければならない。
2009.07.12
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