りらっくママの日々

りらっくママの日々

2010年01月15日
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今日の日記





「ある女の話:カリナ74(知りたく無いこと1)」



出勤してきたイシタニくんと目があった。

「おはよーございます。」

いつもの笑顔は無くて、
何も無かったようにイシタニくんが言った。

胸がズキリと痛んだ。

「おはよーございます。」

私も何もなかったように言って、
笑顔まで作って通り過ぎる。

今までと何も変わらないようにしようって思っていたけど、
忘れようって思っていたけど、
イシタニくんの方からそうされたことで、
こんなに悲しい気持ちになるなんて、
思いもしなかった。

それだけじゃなくて、
これから先も、あんなふうに笑顔も無い挨拶が続くかもしれないと思うと、
ますます気持ちが滅入った。

「今日、第一会議室で報告会しちゃうから、
朝礼終わったらヨロシク!」

モリタさんが大きな声をかけてきた。
はい!って返事をした。
いつも通りに。

朝礼が終わると、
私の目の前を会議室に向かうモリタさんとイシタニくんが歩いていた。
二人の会話が聞こえてくる。

「モリタさん、すみませんホントに…。
あの後、奥さん大丈夫でした?」

「ホントだよ全く。
あ?もしかしてそれでヘコんでんの?
嫁さんが、気にしないでまた来てね、って言ってたよ。
でもさ~、
ヴィトンのバッグよろしくねって言うんだよ。
誕生日前だから、ねだりやすくしちゃったよな~。」

笑いながらモリタさんが振り向いた。

「聞いてよミゾグチさん!
コイツ、あの後ベロンベロンに酔っちゃってさ~、
終電逃したから、うちに泊めてやったの。
大変だったんだよ、ホント!」

あ、それであの挨拶だったの?

みんなにだったんだ?と思って、
私は少しホッとする。

でも、イシタニくんが返した一言が、
私を一気にどん底に突き落とした。

「すみませんホントに…。
俺、何も覚えてないんですよ…。」

一瞬、目の前が真っ白になって、
心臓を掴まれたように、
さっきより胸がズキリと痛んだ。

同時に、嘘だ!
って、
叫びだしたくなった。

悲しい気持ちと悔しい気持ちが沸いてきた。

私だけが今までと違ってしまったんだ…

そう思った。

せめてイシタニくんにも記憶があって、
同じように罪悪感があれば、
私も救われたかもしれないのに…。

そう思うと、泣きそうになった。

でもいっそ、
私も何もなかったって、
強く忘れようって思った。

お互い忘れれば、
現実何もなかったんだ。

そう思うのに、何でこんなに悲しくて、苦しいんだろう。

昨日は、あんなに青山くんのこと、
失くしたくないって思っていたのに…。


その日は自分の全てから、
何かが抜け落ちた気持ちで過ごした。

一日が終わると、
助かったような気持ちになった。

何から?

よくわからないけど。


その日から時々目がイシタニくんを追っていて、
目が合ったことで、
追っていたことに気付いて目を逸らした。

何をやってるんだろう…
って思った。

それでも、
私がふと視線を感じて目をあげると、
イシタニくんと目が合って、逸らされた。

こういうの、マズいんじゃないかな…
って思った。

何がどうマズいんだか、わからないけど。

まさか記憶が無いって、嘘じゃないよね?

確かめたくなるけど、
確かめてどうしようって言うんだろう…

あれから二人での仕事が無いことが、せめてもの救いだ。

派遣のイトウさんとランチをする機会が増えて、
席に戻る前にトイレに寄った。

最近、また溜息が多くなった。
職場に戻るのが辛い。

個室から出ようとした時に、
洗面所に誰か入ってきた音が聞こえた。

「ダンナの実家、広いんだよね~」

それはB子の声だった。
B子グループが洗面所にいるんだと思った。

「すぐ結婚しちゃうの?」

「ううん、まだそこまで話は行ってないけどね。
多分結婚したら、仕事やめないといけないかもなぁ~。
ダンナ、働かないで家にいて欲しいって人だから~。」

「そう~?そんなふうに見えないけどね。」

「だって子供好きだもん。
二人か三人は欲しいって言ってたし。」

「でも、そう考えると、そろそろって思うよね。」

そう言いながらB子グループは化粧直しが終わったのか、
声と足音が遠ざかって行った。

私はホッとして個室を出た。

ダンナって言うのは、B子が彼氏のことを言う時に使う呼称だ。
もしかしてB子が寿退社してくれるかもしれない。

そう思うと少しホッとした。
この前の異動で、A先輩もいなくなっていたし、
B子だけが、私の居心地を悪くしていたのは確かだった。

机に戻ると、私が戻るのを待っていたのか、
モリタさんが声をかけてきた。

「あ、ミゾグチさ~ん!
もう用意できてるかな?
チェック終わったら行ってきて大丈夫だから。
直帰でいいよ。」

「わかりました~!」

つい声が明るくなる。
私って嫌なヤツだな~って、
心で少し思ったけど、気分はハズんでいた。

昼休み前に、
「今日は早いの?」
って、”いつもお世話になってます”ってタイトルをつけて、
青山くんにメールを送っていた。

お使い出張の帰りに、
いっしょに夕飯でも食べられないかな~って思っていた。
そしたら、このことも報告したい。
私が嫌なヤツだってことの報告になっちゃうかもしれないけど、
それでも何でも、
嬉しかったことは青山くんに話したかったし、
青山くんの顔が見たかった。

パソコンを立ち上げると、
受信メールボックスに変なメールがきていた。

「TEST」
って書かれている。

アドレスに見覚えは無くて、@マークの下の方を見るとうちの会社名だ。
変なウィルスじゃないよね?
添付マークも無いし、
もしかしたら、誰かがアドレスを変更したのかもしれない。
誰からだろう?

それを後回しにして、
青山くんから返事が来ていたので、
まずはソレから開いた。


  今日は定時だよ。


やったー!ツイてる!

帰りに、いきなり行って驚かせようと思った。

ウキウキした気分のノリで、
私はその変なメールをクリックした。


  ********

  会いたい。
  早く会いたいよ。
  タケシ大好き。
  早く会って抱きしめて欲しい。
    ・
    ・
    ・

  ********

  俺も。
  早く帰ってミチルのこと抱きたい。
  待ってて。
    ・
    ・
    ・
  ********

  この前はごめんね。
  私が悪かったよ。
  でも、好きだから。
  タケシのこと、すごく好きだから。
    ・
    ・
    ・
  ********

  俺、ミチルのことばっかり考えてるよ。
  どうかしちゃうんじゃないかな。
  だから心配しないで…
    ・
    ・
    ・
  ********


鼓動が耳元で響いているのがわかった。

何…コレ…?



ミチルはB子の名前だ。

彼女は、この相手のことがすごく好きなんだ。

そしてその相手も、
負けないくらいB子が好きなんだ…って、

それはすぐにわかった。


そしてタケシが、

イシタニくんの名前だってことも。




前の話を読む

続きはまた明日

目次





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最終更新日  2010年01月15日 18時53分25秒
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