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まずはフランスパンについてです。
フランスパンの生地は窯伸びの悪い生地です。
だからこそ高温の焼成と蒸気の力を借りて、生地が伸びやすいように焼きます。
生地そのもので大事なのは伸びやすい生地に作り上げるということ。
そのためにオートリーズを取ります。ストレート法では必須と思ってください。
オートリーズ中に生地中の酵素、特にプロテアーゼ系のタンパク質の分解酵素を働かせることが一番の目的です。
タンパク質を分解して生地を柔らかくし伸びの良さを引き出すのです。
オートリーズ中に水和が進み、その後の生地が出来やすくなるのも利点ですね。
よく、フランスパンは捏ねないと勘違いしている方がいるようです。
プロ用のレシピを見ると、そう勘違いするのも無理は無いかもしれませんね。
家庭でのパン作りとプロのパン作りは、まずミキサーも違うし、仕込み量も桁外れに違う。
特にスパイラルミキサーはフランスパンを短時間で捏ね上げる専用ミキサーですから、家庭用のミキサーより何倍も捏ね上がりの時間が短いのです。
更に仕込み量の差です。
生地が重ければそれだけ強い遠心力がかかります。
その分、生地は早く出来上がりますし、その後の一次発酵でも生地が重いほどに生地が自重でグルテンを作る力が強いので、仕込み量が多いほどミキシングを抑えることが出来ます。
なので、家庭でプロ用のレシピ通りの捏ね時間では決して生地は出来上がらない。
これは断言できます。
なので、私はアドバイスする際に、まずは薄い膜が出来るまで捏ねてみては?と言います。
とりあえず、それでちゃんと窯伸びのする生地が出来ます。
そこからはミキシングを落とすなり酵素の多い配合にするなり調節すればいい。
と、私は考えます。
上でも述べたとおり、フランスパンは伸びの良さを出してあげないと伸びません。
捏ねない硬い生地が伸びるはずがないのです。
捏ねて伸びる生地に仕上げるからこそ伸びる。
例えるならば。
柔らかいゴムで出来た風船は軽く空気を吹き込むだけで膨らむけど、硬いゴムだと強い力で空気を吹き込まないと膨らまない。
そんなイメージでしょうか。
次にフランスパンに関わらずパン作りでとても大事な酵素の働きについてです。
パン作りに影響するのは主にデンプンの分解酵素のアミラーゼとタンパク質の分解酵素のプロテアーゼ。
まずアミラーゼは無糖生地では必ず頭に入れておかなければいけない存在です。
コレが働くからこそ、無糖なのにも関わらず酵母は餌である糖分を得ることが出来るのです。
小麦には4%程度、製粉時に損傷したデンプンが含まれます。
コレが最終的に糖分に変わる元です。
損傷デンプンにα-アミラーゼが働きデキストリンと言う物に変えます。
それにβ-アミラーゼが働き麦芽糖に。
あとはそれを酵母が自ら持つマルターゼと言う酵素で分解し食べるのです。
ちなみに砂糖などの直接的な糖分はインベルターゼと言う酵素を使って分解し食べます。
例えばヨーロッパタイプのイーストはマルターゼもインベルターゼも強いけど、日本タイプはそれに比べ両方とも弱め。
天然酵母も育った環境で変わるのではないかと私は考えています。
無糖の生地で育った酵母はマルターゼが強くなり、糖分がある生地だとインベルターゼが強くなるのではなかろうかと。
あくまで推測ですが。
なので私は天然酵母でパンを作る場合、無糖なのか糖分を入れるのかによって、種にモルトを入れるか砂糖を入れるかを変えます。
話がそれました。
無糖生地で焼き色が付かなくなる、と言うのはアミラーゼが生地中のデンプンを分解し糖分を作る働きよりも、酵母が糖分を食べてしまうスピードの方が早くなってしまっているからです。
最終的に焼き色を決定付けるのは生地中の残存糖分ですから。
だから、無糖生地にはモルトを入れますよね。
モルトはアミラーゼ、プロテアーゼなどの酵素の塊です。
モルトを入れることでアミラーゼの働きを助け、糖分を作る働きを強化します。
モルトを入れたからと言っても、酵母が多すぎると意味がありません。
酵母が増えると糖分を食べる量が増える。
さらに発酵時間が短くなりますよね。
短いと言うことは酵素が働く時間も短くなる。
それだけ糖分を作る時間も減ります。
なので、無糖生地は発酵時間が長めになることが多いのです。
次にプロテアーゼ。
これはどのパンに対しても影響のある酵素です。
タンパク質の分解酵素であるプロテアーゼ。
簡単に言えばグルテンのつながりを壊していく存在だと考えてもらって差し支えはないでしょう。
生地は時間と共に緩み、ダレていくのは誰もが感じ取れることだと思います。
それがプロテアーゼの働き。
生地は時間と共に分解されているのだと、そのことを常に頭に入れておかなければいけません。
なので、発酵時間の長い物は途中でパンチを入れますよね。
分解されて粗くなった生地をつなぎ直すために。
(パンチには酸素の供給、生地温度の平均化という意味合いもありますが。)
例えば窯伸びの良い食パンを作りたい。
一番考えなければいけないのはホイロの時間です。
一次発酵やベンチタイムは長くなって生地が分解されすぎても、その後に力を加えてグルテンをつなぎ直すことが出来ますが、ホイロ時にはもう生地に力を加えることが出来ません。
なので、伸びる力を強く残す為には、出来る限りホイロが短くなる工夫が必要になるわけです。
時間をかけるほどに生地は分解され力を失っていく。
更に目は粗くなっていきます。
例えば、ホイロが1時間で終了できた物と、2時間かかってしまった物を比べるとよく分かると思います。
ホイロを短くする為には一次発酵で酵母の活性を十分に高めておくこと。
ホイロの室温を高くする。なので食パンなどは高温のホイロを取るのです。
力を残したいのだからパンチもしっかりグルテンをつなげますよね。
分割時の丸めもしっかりと強めだし、成形も同じく。
逆にフランスパンはパンチも丸めも成形も弱め。
ホイロも低温で長めになるようにします。
食パンとは逆に目を粗くしたいから、必然的にそうなるわけです。
この酵素の働きは灰分の高い粉ほど強い。
小麦の外側に近い部分ほど強い。
なので、その部分を多く含む石臼挽き粉や全粒粉なども強い。
色で見ると分かりやすいでしょうか。
灰色がかった粉ほど酵素の働きが強いと思っていただけたら。
モルトも酵素の塊ですから、多く入れるほどその働きが強く出る。
発酵種やルヴァンも酵素の働きが強いので、使う際はこれを念頭に。
生地をどれだけの強さで作るのか。
発酵時に酵素の働きで失われる生地の強さはどのくらい?
残存糖分は?生地の粗さはどれくらいになるように?
などを考えつつレシピ、工程を考えるのです。
とりあえず今回はこの辺で。。