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2005.10.23
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E・H・カー(清水幾太郎訳)『歴史とは何か』


本書は、カーが1961年にケンブリッジ大学で行った連続講演をもとにした本の邦訳です。
目次は、以下のとおりです。

1.歴史家と事実
2.社会と個人
3.歴史と科学と道徳
4.歴史における因果関係
5.進歩としての歴史


文末が「~です・ます」体で読みやすいです。それから、具体的な内容はともあれ、全体の印象として、たとえがうまいなぁ、と思いました。適切かつ面白いたとえ話が、いろいろなところで見られます。もとが講演ということもあるのでしょうが、興味深かったです。
歴史を学ぶ意味はなにか。歴史とはなんなのか。歴史を専門に勉強するようになってから6年目になりますが(大学一年生の頃は、歴史の専門の授業はありませんでしたが、中世ヨーロッパ史に関わる文献を読む割合が高かったですし、この一年もカウントしています)、考えつづけています。それなりの考えはもっているつもりですが、「だからどうしたの?」と言われてしまうとおしまいなのです。
中学、高校と、歴史は、いわゆる強者の歴史を中心に学んできました。それはもちろん大切なことですが、これまでに、莫大な人々が、歴史に名を残さず亡くなっているのです。ですが、偉業をなしとげたわけでもない、日々畑を耕し、ときには領主の畑を耕してあげ、バッタやらに作物を荒らされ、腹をたてたり、ミサに行ってパンを食べたり…。専門に勉強している説教に関していえば、説教を聞き、涙したり、逆に説教師にヤジを飛ばしたり、そんな人々はいっぱいいたのです。そういう名もない人たちの生活を復元したい、などと本当に単なるロマンティシズムですけれども、そんなことを考えているわけです。
ところが、「歴史学」は、政治史・制度史を中心に扱ってきましたが、経済史・社会史という分野も成長をとげ、すでに、日常生活の復元を試みる歴史家たちも多々いらっしゃいます。私が個人的にそういう歴史叙述が好きだから、先のような問題意識をもつようになっただけだ、といわれてしまうと、まだうまく応えられないのです。それに、問題意識はそれでわかったけれど、じゃあどうして12、13世紀の、しかもヨーロッパについて勉強をしているの、といわれてしまうと、これまたうまく応えられないのです。
第2章で、個人と社会の問題が扱われます。個人は社会に規定される部分があります。社会史・心性史といった研究領域がもしさかんに行われていなければ、私はそういうことに関心をもったでしょうか。なければ、歴史って退屈だな、と思うだけで、この道に進まなかったかもしれません。カエサルがルビコン川を渡ったことは歴史に残っていますが、私が今日電車で岡山駅に行ったことは、歴史に残らないのです。なにがどう間違っても、私のその行動は歴史にいささかの影響も与えないでしょうから。それでも過去に起こった事実という点では、同じことなのです(この部分は、第1章をふまえて書きました。そのあたりの話は、とても興味深く読みました)。
などなどとつらつらと書いてきましたが、ずいぶんパソコンに向かっているので、そろそろ記事を終えようかと。その前に、本書でいわれている歴史とは何か、歴史の意義について、いくつか書いておきましょう。
カーは、「歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり、現在と過去との間の尽きることを知らない対話」(40頁)といいます。また、「歴史から学ぶというのは、決してただ一方的な過程」なのではなく、「過去の光に照らして現在を学ぶというのは、また、現在の光に照らして過去を学ぶということも意味して」おり、「歴史の機能は、過去と現在との相互作用を通して両者を更に深く理解させようとする点にある」というのです。
ある事件に対する見方(評価)は、それを見る時代に規定される部分もあります。
この記事はあくまで趣味の範疇…ということで(言い訳ですが)、不十分な紹介しかできませんでしたが、興味深い一冊でした。





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Last updated  2008.07.12 21:06:24
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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