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2010.11.09
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~講談社現代新書、1991年~

 一時期、とりわけ桐生操さんの本からだと記憶しているのですが、グリム童話の解釈や「本当の」グリム童話について、大ブームになった時期がありました。
 私は桐生操さんの本は読みましたが、その他当時発表されたいろんな本は特に読んでおらず、本書がそれらと比べてどのように位置づけられるかは分かりません。が、単にその残酷趣味に焦点を当てるだけでなく、グリム童話が生まれた19世紀ドイツの状況、またメルヘンの構造に関する基本的知識、グリム童話にまつわる「神話」の実体などに目配りした、興味深い1冊だと思います。
 なお、著者の鈴木先生は、法政大学教授。文学批評や、精神分析学の文化史・精神史的研究を専門にされていらっしゃるようです。
 前置きが長くなりましたが、本書の構成は次のとおりです。

ーーー
はじめに―グリム童話の新しい面白さ

第一章 グリム童話とは何か

 2 グリム兄弟とは誰か
 3 童話集成立の背景
第二章 メルヘン学入門
 1 メルヘンのかたち
 2 メルヘンの意味
第三章 グリム童話をめぐる神話
 1 グリム兄弟は誰から話を聞いたのか
 2 グリム兄弟は手を加えなかったのか
第四章 グリム童話の面白さ
 1 性とエロティシズム
 2 暴力と残虐性

 4 厳しいしつけ
 5 『グリム童話』のイデオロギー

ブックガイド
あとがき
ーーー



 まず、「作者」は、ヤーコプ・グリム(1785-1863)とヴィルヘルム・グリム(1786-1859)の兄弟、いわゆるグリム兄弟です。
 二人の父フィリップは法律家で、高い役職につき、兄弟は大きな家に住んでいました。ところが、ヤーコプが11歳の時、父が亡くなり、一家は貧しい生活を余儀なくされました。ヤーコプとヴィルヘルムは家計を支えながら、勉学にいそしんだのです。
 二人は童話集で有名ですが、有名な『ドイツ語辞典』の編者でもあります。
 二人のエピソードの中で興味深かったのは、「ゲッティンゲン大学七教授追放事件」です。 1837年、イギリスからエルンスト・アウグスト3世がやってきて、ハノーファー王位を継承します。彼は絶対王制を志し、公務員に対して王個人にしもべとして仕えるよう要求します。ゲッティンゲン大学の7人の教授はこれに反対し、教授職を解雇されるのですが、その内の2人がグリム兄弟だったのです。

 二人の代表作『グリム童話』は、初版から第七版まで版を重ねます。版を重ねるたびに収録される話の数も増えれば、話にも変更が加えられていきます。ところが、『グリム童話』には、二つの神話があります。一つは、兄弟がドイツ各地をめぐり、教養のない「農家のおばあさん」に話を聞いて民話を集めていったということ。もう一つは、そのように集めた話に一切手を加えずに童話集にまとめた、ということです。
 本書は、これらの神話がでたらめであることを示します。
 第一の神話については、二人が話を聞いたのは実際には教養の高い人で、さらには自分たちの身内ともいえる人だったということが示されます。
 第二の神話については、二人が童話を集めてある学者に送った草稿と、『グリム童話』の中に多々違いが指摘できるそうです。
 特に興味深かったのは、これらの神話がなぜ多くの学者たちに受け入れられてきたのか、またなぜグリム兄弟がこのような神話を広めるような文章を残したか、という点に関する説明です。
 この記事では、二人がなによりドイツの人々(特にブルジョワジーの)ナショナリズムの高揚を目指した、という点のみ、書き留めておきます。

 今では世界的にあまりにも有名な『グリム童話』ですが、初めて出版された時、世の中には既に同姓のA・L・グリムという人物が発表した『子どもの童話』という本がありました。グリム兄弟は、この『子どもの童話』について、『グリム童話』初版の序文の中で「あまり質のよくない童話集」で、「私たちとも、私たちの童話集とも、まったく共通性はない」と書いているそうです(43頁)。一方、A・L・グリムも、『グリム童話』をこきおろしたとか…。勉強になりました。

 さて、童話の内容分析に関する部分も面白いのはもちろんですが、記事では特にふれないことにしておきます。たとえば赤ずきんちゃんの赤の意味など、研究者により多様な解釈がありますし、個人的にはそうした分析について、その当否を客観的・批判的に判断するのは難しいと感じるからです。こんな解釈もあるんだなぁ、と、楽しむくらいのスタンスで読みました。

 何年ぶりかの再読ですが、興味深く読みました。

(2010/10/13読了)





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Last updated  2010.11.09 07:12:58
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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