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2012.04.30
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~講談社現代新書、1965年~


 歴史学の問題とは何か、歴史学はどういった性格の学問か…そういった問題を考察する領域を著者は「歴史哲学」と呼びます。本書は、その歴史哲学の実践方法を示す一冊です。
 本書の構成は次のとおりです。

ーーー
まえがき

1.「歴史を考える」とは
 1 「歴史を考える」ことの必要
 2 古典的な二つの歴史哲学
 3 歴史を科学にする哲学
 4 歴史を書くことから理解することへ

 1 「歴史」ということばの意味
 2 歴史の事実はどこにあるか
 3 歴史は現在つくられる
 4 歴史家の視座の問題
3.歴史は客観的に見られるか
 1 歴史学と物理学のちがい
 2 社会科学が発見したもの
 3 歴史の記述は主観的か客観的か
 4 客観的な歴史の見方
4.歴史はくりかえすか 一回かぎりか
 1 歴史の形而上学の考え方

 3 くりかえすものと一回的なもの
5.歴史は科学的に説明できるか
 1 歴史的説明と科学的説明
 2 歴史家と法則
 3 歴史の説明のルーズさ

 5 理由づけの意味と限界

終わりに

索引
ーーー

 いわゆる方法論についての本ということで目を通してみましたが、私の理解不足もあいまって、正直あまりぴんとこない感じでした。

 たとえば、歴史は一回的なものかくりかえすものか、という議論のなかで、「○○が暗殺された」と、述語をつければ、それは繰り返すといえるし、「○○年にどこそこで○○が暗殺された」という風にいえば一回的である、という説明があります。
 しかし、「歴史は繰り返す」という考え方はそういう意味ではなくて、たとえば、ある政治体制が腐敗し、それに対して暴動なりが起こり、新たな政治体制になるも、やはりまた腐敗し…ということが繰り返されるような様が、「歴史は繰り返す」という考え方につながっているのではないか、と思います。
 先に挙げた著者の説明は、あくまで話を単純化するためで、そこだけをあげつらうのはフェアではないかもしれませんが、しかし、私があげた意味での「歴史は繰り返す」という問題への答えは、あげられていないように思います。

 また、事実に関する議論について、著者は、たとえば「Aという事件があったという背景の中でBが起こった」というものを歴史学の事実といいます。A単体、B単体(たとえば、ある年にある国王が暗殺されたという事件)だけでは、昨日子供を連れて実家に帰ったという単体の事実となんの変わりもない、というのですね。
 けれど個人的には(以前読んでまだ感想を書いていない、遅塚忠躬『史学概論』の議論をふまえて)、Aという事件とBという事件の関連を指摘するのは解釈であって、Bという事件の詳細(いつ、だれが、どこで、何を、どうした)は単体の事実ではなかろうか、と思ってしまいます。うまく書けないですが、このあたりの議論で、なかなかぴんとこない感じでした。

 一方で、面白かったのは、歴史家の記述が、その歴史家が置かれている社会的状況、立場に規定されているという部分で、具体例が挙げられていることです。
 たとえば、19世紀はロンドン、自由主義の風潮のなかでグロートという人物が著した『ギリシャ史』は、アテナイの民主主義を理想化する著述になっているために、ギリシャの奴隷制の問題が外されてしまっている、というのですね。

 ぴんとこないと書きましたが、それでも歴史学の営みや問題について考えるきっかけになるという意味では、良い読書体験だったと思います。
 それこそ、歴史は一回的なものか繰り返すものかという議論は、最近の歴史学の方法論の著作ではあまり見ないので、自分なりに考えていくのも面白いと思いました。





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Last updated  2012.04.30 15:15:25
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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