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2013.09.07
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~ミネルヴァ書房、2013年~


 同じ二人の編による 『中世ヨーロッパを生きる』 (東京大学出版会、2004年)の姉妹編です。前著が、環境や生活に重点をおいているのに対して、本書は中世キリスト教の概要や統治機構、都市と農村、衣服住など、幅広いテーマで中世ヨーロッパの「文明」を描きます。
 本書の構成は次のとおりです。

ーーー
序章 中世ヨーロッパ文明への視角

第1部 キリスト教世界の成立
 第1章 キリスト教化と西欧世界の形成(多田哲)
 第2章 ローマ・カトリック教会の発展(甚野尚志)
 第3章 中世後期の宗教生活(印出忠夫)

 第4章 戦争の技術と社会(堀越宏一)
 第5章 貴族身分と封建制(桑野聡)
 第6章 文書と法による統治(岡崎敦)
第3部 農業生産と交易
 第7章 西欧的農業の誕生(丹下栄)
 第8章 都市という環境(徳橋曜)
 第9章 ラテン・ヨーロッパの辺境と征服・入植運動(足立孝)
第4部 人々の生活
 第10章 衣服とファッション(徳井淑子)
 第11章 融合する食文化(山辺規子)
 第12章 都市と農村の住居(堀越宏一)

 第13章 知の復興と書物の変容(甚野尚志)
 第14章 見えないものへのまなざしと美術(木俣元一)
 第15章 ヨーロッパ音楽の黎明(那須輝彦)

あとがき
人名・事項索引


 以下、簡単に印象に残った点や感じたことをメモしておきます。

 まず、タイトルが残念だと思っていたら(『中世ヨーロッパを生きる』に比べると……)、序章でタイトルについて説明がありました。あくまで便宜的につけたタイトルだが、これだけでは本書の意図がわかりにくいだろう、と。英語タイトルMedieval Civilization of Europeの方がはるかによいので、たとえば『中世ヨーロッパ文明の探求』とか単純に『中世ヨーロッパ文明』(これだとル・ゴフの名著とだぶりますが…)とか(これらのセンスが良いかはともかく)、なんとかそういう方向にもっていけなかったのか、と思います(言っても詮無きことですが)。

 内容面ですが、第1部は、中世初期、中世盛期、中世後期それぞれのキリスト教の状況についての手ごろな概略です。

 そして私の関心からは、第4部以降を特に興味深く読みました。

 食生活に関する第11章では、朝食を意味するbreakfastの語源が面白かったです。もともと中世の人々は、子供や病人などを除いて、基本的には昼食と夕食の2回食だったそうです。ところが、朝も食べないと十分に働けないということもあり、15世紀頃から、断食(fast)を破る(break)朝食(breakfast)をとることも一般化したとか。また、中世では、四大(土、水、火、空気)に人間の4つの体液(黒胆汁、リンパ液、黄胆汁、血)が対応し、さらに人間の諸時期(幼年期、青年期、壮年期、老年期。順番は違います)も対応していく、という考え方がありました。これらの対応関係が、きれいにまとめられた表も載っていて、便利です。

 第13章は、中世ヨーロッパでの書物の刷新について論じています。たとえば、書物に章分けをしたり、頁番号を振ったりするようになったのはヨーロッパ中世(12-13世紀頃)のことです。そして、頁の余白に章番号が振られるようになるのも、アルファベット順の索引が付けられるようになったのもこの頃ということで、いま私たちがよく見る書物の形式は、この時代に生まれたのですね。

 本書には、各章の末尾に、その章の担当者によるコラムが付されています。特に面白かったコラムは、第15章のコラムで、ドレミという音階名が中世に生まれたことが書かれています。まさかその由来が中世にあるとは…。

 購入から通読できるまで半年近くかかってしまいましたが、通読できて良かったです。伝統的(?)なキリスト教史や支配のあり方、都市史、農村史をはじめ、新しく注目を浴びるようになった衣食住などなど、内容のバランスも良いですし、どれも最近の研究の成果を取り入れていて、興味深い指摘も多い良書だと思います。





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Last updated  2017.03.05 23:10:34
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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