海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(5)ここで、一息・・・

      (5)

 ここで、一息ついて、皆の顔をぐるっと見た。三人ともただ、感心して聞いていた。日本広しといえども、これほどの学識のある人はいないだろう。唐国、朝鮮はおろかポルトガル、イスパニアなどエウロペの言葉が分かり、エウロペの地理や政治情勢まで理解し、遠く離れた他国の学者たちを友達のごとく近い存在にしているなどというのは、彼らにとっては信じがたいことだった。
 「この本のはじめにこう書いておる。[算学(本当は幾何学)の素養のないものは、入るべからず]
即ちこの難しい算学の計算の出来ぬもにとって、全く、意味のないものだ、
というわけだ]
 次郎丸は、よきせぬことにぶつかって興奮していた。「自分たちの住んでいるところが星だって?」
 不思議といえば不思議、そんなこと考えたこともなかった。ところが、このおじいさんは考えていたのだ。それでは、月は何なのか?。聞いてみることにした。
 「月はな、この地球を回っている。月の動きは本当に不思議で、いつも表の顔しかわれわれにみせたことがない。次郎丸にはどのように見えているのかな?。兎かな?。蟹かな?。それは、月が、地球を一周するとき、自分も一回転するので、月の裏側がみえないのじゃ。地球は地球で自転していて、一回転が一日というわけだ。そして、地球は月と一緒に太陽の回りを回っている。地球が太陽の回りを一周するのに、一年かかる。わしの計算では、三百六十五と二四四六日で一周することになる。(ちなみに現在の計算では、365.2422日)月が、地球を一周するのにどのくらいかかると思うかね?」
 次郎丸は突然の質問に、すこしとまどった。うーん、そんなこと考えたこともない。しかし、月の満ち欠けは関係あるのでは、と検討をつけ、
 「満月から、満月の間では?」
 「ほう、よくできたのう。そうじゃ。正確には朔(さく、ついたち)から朔までじゃ。二日目は二日月、三日目は三日月というようにだんだん月が出てくる。そして、十五日には満月になるというわけじゃ。これも、わしの計算では、およそ二十九と五三○五九八になる」
 このような話しに六兵衛はもう驚くばかりだったが、次郎丸はますます好奇心が旺盛になるようで、眼が輝いてきた。公秀殿は、このような次郎丸の反応を好ましく思うようであった。
                 (続く)




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