PR
キーワードサーチ
フリーページ
諫早湾の問題は、報道や映像だけでは窺い知ることが出来ない複雑な地元の事情があるようだ。
夏休みに九州を旅した際、車窓から 諫早湾の潮受け堤防
が見えた。11 年前に、ギロチンと呼ばれる潮受け堤防の閉鎖の報道と違い、たいへんのどかな印象を受けた。だが、本書を読んでみると、地元には、報道や映像だけでは知ることができない、人の生き様、思いがあることに気づかされる。
本書でインタビューに応じた、農民側、漁民側、行政側の登場人物は、基本的に良い人ばかりである。洪水、高潮といった災害を防いで農地改善しつつ、漁場も守りたい――おそらく皆が共通して持っている思いである。にもかかわらず、なぜ状況が悪くなる一方なのか。
本書は、10 年にわたる取材から出来ており、行政や御用学者を悪者に仕立て上げて終わるような軽い内容ではない。そして、著者が明確な結論を提示しているわけでもない。それだけ難しい問題なのだと思う。
自然の猛威を防ぎつつ、その自然から恵みだけを受け取りたいというのは、いつの時代にあっても人類の夢である。だが、これは矛盾する願いである。自然はそうは甘くはない。現代科学をもってしても、その矛盾を解決できなかった例が諫早湾の潮受け堤防なのではないだろうか。
しかし、漁獲高が激減し自殺者も出る状況で、こんな哲学的なことを言っている場合ではない。「天罰を受けている」(159 ページ)と感じている漁民がいるように、ここは、農民側、漁民側、行政側の三者で痛み分けをするような道を模索すべきではないだろうか。互いに権利を主張し合っても、自然の怒りは収まらないように思える。
■メーカー/販売元 永尾俊彦/岩波書店/2005年6月
■販売店は こちら
【SFではなく科学】宇宙はいかに始まった… 2024.10.20
【大都会の迷路】Q.E.D.iff -証明終了… 2024.10.06
【寝台列車で密室殺人事件?】Q.E.D.if… 2024.10.05