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私が患者を助ける理由は、カネを戴けるからだ。命と同じくらい大切なカネを、ね
映画化もされた「 チーム・バチスタの栄光
」の原作者であり現役医師の海堂尊による医療エンターテイメント。今回の舞台は「 ブラックペアン 1988
」の 2 年後。海堂小説では珍しく、海外シーンからスタートする。
外部研修から戻ってきた東城大学の研修医・世良雅志は、外科医局長の垣谷雄次とともに、南フランスにいた。世良の任務は、天才外科医・天城雪彦を日本に連れ帰ること。世良はカジノで一世一代の賭けに成功、天城を日本に連れ帰ることに成功した。
佐伯清剛・病院長と天城は新しい心臓病専門病院の設立を計画、世良がこれをサポートしていくことになる。天城は、世界中で彼にしかできない心臓外科手術「ダイレクト・アナストモーシス」を公開の場で行うと宣言。世良は、大学病院内の激しい権力闘争に巻き込まれていくことになる。
天城は「私は東城大に心臓手術専門病院を設立するように、という指示を受けた。カネの算段もせず、新しい施設が作れるとお考えですか?」(175 ページ)と、後に病院長となる高階権太に詰め寄る。高階は「医師の使命は患者の治療にあり、断じて集金が目的になってはならないからです」とやり返すが、天城の主張が次第に優勢になっていく。
天城は、「これから手術はニーズに応じ細分化していく。一般患者も手術の特性を知り、術式を自ら選ばなくてはならない時代になったのです。その時にはオペの見本市を開く必要がある」「医師は医療に専念すべし、などというしみったれた考えに洗脳され、医療とカネを分離しては、パラダイスは私たちのてのひらからこぼれおちていく」と言い切る。
天城の主張は、医療倫理や社会通念とは相反する。だが、天城自身のセリフに、現場を知る著者の叫びが込められているように感じた――「確かに命に貴賤はないのかもしれないが、労力には限りがある。だから私は、ふたりのうちひとりしか手術対応できない状況ならばどうするか、と問いかけた。どちらかを選ばなくてはならないという時点で人道的範噂からは外れるが、そんな状況は現実に存在する。ならば、そうしたことを考えることすら禁止するのは、欺瞞ではないのか?」
天城と高階の議論は、まるで政治哲学のマイケル・サンデル教授の「 ハーバード白熱教室
」を彷彿とさせる。われわれは患者として医療従事者に全てを期待するのではなく、各々が医療哲学を持つべきではないだろうか。そして、医療従事者自身も、立ち止まってじっくりと哲学する時間が必要なのではないだろうか。
なお本作品には、「 チーム・バチスタの栄光 」の心臓外科医・桐生恭一や、「 螺鈿迷宮 」で重要な役割を担う女医・桜宮葵も登場する。
■メーカーサイト⇒ 海堂尊=著/講談社/2010年07月発行 ブレイズメス1990
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