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昭和天皇は、辞めることができない。生まれてから一度も、辞めることがなかった。
その誕生から終戦に至るまで、昭和天皇の激動の半生を、側近の証言などから詳しく分析、整理したものである。家族への思いや信条、好きな食べ物、歴史観、政治観などが明らかにされる。
昭和天皇は鋭い洞察力を持っていたようだ。
明治天皇の大葬を控え、皇族の教育を担当していた乃木学習院院長が陸海軍少尉任官の祝辞を述べた際、皇太子となっていた裕仁は「院長閣下は、どこかへ行かれるのですか」と尋ねる。大喪の日の夜、乃木学習院院長は妻静子とともに白刃している。
また、太平洋戦争開戦前に「日米に事が起きたらどれくらいの期間で片づける確信があるのか」とたずねると、杉山陸軍総長は「3 ヵ月くらいで片づけるつもりであります」と答えたが、「汝は支那事変勃発当時の陸相なり。その時、陸相として『事変は 1 ヵ月くらいにて片づく』と申せしことを記憶している。しかるに 4 力年の長きにわたり未だ片づかんではないか」と追求する。すると杉山は、「支那は奥地が開けており……」とくどくどと弁明し、ついに天皇を怒らせてしまった。「支那の奥地が広いと言うなら、太平洋はなお広いではないか。いかなる確信があって 3 ヵ月と申すか」
私は、昭和天皇の後半生しか知らない。
全国各地を行幸し、海外視察をし、甲高い独特のイントネーションで話され、笑顔で手を振る昭和天皇しか知らない。しかし、その前半生の苦しさは考えに余りあるものであったろう。
著者が「昭和天皇は、辞めることができない。生まれてから一度も、辞めることがなかった」(12 ページ)と指摘しているように、天皇として 62 年という史上最長の在位をつとめあげ、崩御されている。
昭和天皇の大喪の礼の日は雨だったが、車列を見ようと街に出掛けたのだった。
■メーカーサイト⇒ 文藝春秋=著/文藝春秋/2008年12月発行 昭和天皇の履歴書
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