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ご心配なく。これはクーデターではなく、市民のための独立戦争なのです(335ページ)
2005 年、『 チーム・バチスタの栄光
』(宝島社)で第4 回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、小説家としてデビューした現役医師・海堂尊による医療エンターテイメント最新作。今回は、浪速市(大阪府がモデルと思われる)に新型インフルエンザが発生、大パニックが起きるところから物語が始まる。
『 イノセント・ゲリラの祝祭
』で大活躍した彦根医師や、シリーズを通しておなじみの厚労省・白鳥室長が登場。近作でラスボスの雰囲気を漂わせている警察庁・斑鳩室長も暗躍。全体としてサスペンス・ドラマ仕立てになっている。
本作では医療と司法の対立がひとつの軸になっているが、これについては著者のドキュメンタリー『 ゴーゴー Ai
』に詳しい。
医療の頂点に君臨する医師資格と、司法の頂点に君臨する弁護士資格は、ともに国家試験の最難関。国家公務員I種(キャリア)などを鼻息で飛ばしてしまうほどのプライドを育んできた資格であるが、それゆえ、両者の哲学的・社会的な根深い対立を生んでいると言える。
著者が医師であるためだろう、本作も「医療=正義」の視点で進んでいく。たとえばベテランの検察官に「どこにも正義はない。正義の標準は赤煉瓦の建物で決定され、正義を達成するため我々検察官が正邪を糺す。検察官が実行することが正義だ」(267 ページ)と語らせる一方で、『イノセント・ゲリラの祝祭』で活躍した医師・彦根は「検察は社会正義を装いますが、現実は検察の利益を社会正義と履き違えている」(348 ページ)と言い切る。
私が好きなミステリー SF『鋼鉄都市』(アイザック・アシモフ=著)では、刑事イライジャ・ベイリとロボット・ダニール・オリヴォーが「正義」について論じる場面がある。ここでは司法権から見た純粋論理で話が進む。にもかかわらず人間的な議論が展開されてゆくのは、本書と好対照だ。(ちなみに、アシモフは生化学者でもある)
思うに、医療と司法の対立というのは、純粋実存主義と純粋論理主義の対立に置き換えることができるのではないだろうか。「実存=現実」「論理=理想」と置き換えてもいい。
個人的な経験論になってしまうのだが、自分が説明する当事者となった場合、医師には「たとえ話」で話した方が伝わりやすいが、弁護士には「ロジック」(私が得意とするプログラム・ロジック)で話しても通用する。どちらに正義があるという問題ではなく、依って立つパラダイムが違うだけように感じる。
『ナニワ・モンスター』に話を戻そう。
医療と司法の対立軸が縦軸とすれば、本書には、東京と浪速(大阪)という政治的・歴史的な対立を横軸として設け、話に厚みを出してみせる。このような立体展開は、著者の医療ミステリー・シリーズでは初めての試みではないだろうか。
現実世界の話として、日本国首府に対する政治的牽制として大阪府に副首府を任せるのは面白いアイデアだと思う。2011 年時点では、東京都(石原都知事)が日本国首府を牽制している形になっているが、これはリスクが高い。国が戒厳令を発動すれば、たちまち東京は国の統制下に置かれるからだ。その点、物理的に距離が離れている大阪であれば、国の動きに反対することもできよう。
なにも、クーデターとか革命を起こそうというわけでは無い。組織が大きくなればなるほど、腐敗や独裁を防ぐため、内部に監査機関は必要である。その役割を大阪に担ってもらおうという話である。
最近、橋本大阪府知事が副首都構想をぶち上げた。人気取りかと思って記事を斜め読みしただけだが、もし本気で首府に対して牽制球を投げる覚悟があるなら、東京都民の一人として応援したい。
これも最近の話だが、著者の海堂先生は、病理専門医から提訴された名誉毀損裁判で敗訴が確定している。彼は司法の判断を大人しく受け入れるのだろうか。
本書の最後の方は桜宮市に舞台を移し、『アリアドネの弾丸』の最後のシーンに重なる。今後の展開が楽しみだ。
■メーカーサイト⇒ 海堂尊=著/新潮社/2011年04月発行 ナニワ・モンスター
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