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著者・編者 | 広瀬隆=著 |
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出版情報 | 朝日新聞出版 |
出版年月 | 2011年05月発行 |
『 危険な話 』の著者・広瀬隆が沈黙を破り、福島第一原発について書き下ろしたのが本書だ。著者の立場は 30 年前から一貫して、「原子力と人間が共存するということは、地球科学から考えて、あり得ないこと」(237 ページ)というもの。
本書の冒頭で、「原発1 基だけで広島原爆の 3~4発分のウランを毎日、燃やしている計算」(32 ページ)になると不安をかき立てる。
さらに、「自衛隊のヘリコプターが容器(容量7.5 トン)をぶらさげ、原子炉の上空から放水したりしていましたが―(中略)―放水は崩壊熱を冷ますどころか、崩壊熱で沸騰させられた水が、あっという間に水蒸気に変ったことでしょう」(52 ページ)と書かれている。そして、蒸発した水蒸気に乗って放射性物質が拡散されたことを臭わせる。このことを書くには作家としての覚悟があったはずだ。あの時、ヘリコプターに乗った自衛隊員の勇気を褒めていた国民感情を逆なでしかねないからだ。
これ以降、本書の中盤に延々と続く解説は冗長だ。読み方によっては、全国の原発が危険であることを誇張するための伏線のようにも読み取れる。
著者が本書で述べていることは、99%以上は事実である。
「1 号機の圧力容器の圧力が、運転中の 70 気圧から、地震が発生した翌日の 3 月 12 日深夜 2 時 45 分(地震発生からちょうど半日後)に、いきなり 9 気圧にストンと落ちている」(57 ページ)というデータも見た。崩壊熱のグラフも自分で計算し直してみた。にもかかわらず、チェルノブイリ後に著された『危険な話』ほどに反響がないのはなぜか? それは、前述のような冗長な書き方にも問題があると思うし、テレビやネットを通じてチェルノブイリ当時よりも膨大な量の情報が流れ込んできているためと思われる。
何が事実で何が虚構なのか、平均的な国民のスキルでは判断できなくなっているような気がしてならない。
原発が危険でないと言うつもりはない。だからといって、本書に記されている話のすべてを鵜呑みにする必要もない。本書に書かれている内容の幾つかを、マスメディアや政府が報じている内容と比べてみる。または数字の検算をしてみる。その結果、辻褄が合わない部分が出てきたら、それが「怪しい話」だと考え、深掘りしてみた方がいいだろう。
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