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著者・編者 | 橋元淳一郎=著 |
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出版情報 | 集英社 |
出版年月 | 2006年12月発行 |
著者は、SF 作家で相愛大学人文学部教授の橋元淳一郎さん。哲学的な時間論は、相対性理論や量子力学といった最新の科学を反映させていない。そこで本書を著したという。「本書の目的は、物理学的時間と人間的時間の違いを明確にし、時間の向きや流れはどこから生まれるのか、また過去は変えることができない確定したものであるのに、未来はなぜ未知であるのかというような、時間のもっとも興味深い謎を解こうということにある」(14 ページ)とのこと。
まず、相対性理論を取り上げ、そこで扱われている時間は空間と一体のもので、過去から未来へ進む一方的なものではなく、未来から過去へ遡ることもできるということを確認する。
次に量子力学を取り上げる。不確定制限利が支配する量子力学においては、観測しないと粒子の速度を特定できない。つまり、時間が実在しないということになる。
では、われわれが感じる、過去から未来へと進む「時間の矢」がなぜ発生するのか。それには、マクロな物理現象を支配するエントロピーの増大(熱力学第二法則)が関与しているという。
ここまでは予想の範囲だったが、面白いのは「1秒の定義」の下りである。
われわれは「セシウム原子から放出される電磁波の 91 億 9263 万 1770 回の振動を 1秒と定義」(57 ページ)しているが、量子力学によれば、原子の振動数を測定することはできない。つまり時間に不確定性があるということになる。
これは盲点だった。理科年表に書かれているような定義は、あくまで人間の解釈によるものであって、科学的な(物理的な)定義と言えるかどうかは怪しいということだ。
ここから橋元さん独自の哲学が展開されてゆく。
「ある系に情報(エントロピー)が多いか少ないかは、ぞれを利用する人によって異なるはずである。それゆえ、情報量と対比して用いられるエントロピーは、結局のところ、人間の価値基準次第といえる」(102 ページ)と主張する。
さらに、「意思」をもった生命は、「外圧に逆らって秩序を維持する自由をもっている。すなわち、この自由こそが未来そのもの」(133 ページ)という。
ある意味、人間原理にもつながる考え方である。
この哲学を敷衍し、本書付録では、「並行宇宙は存在しない」(152 ページ)、「タイムマシンによる過去の改変は、別バージョン宇宙を構成する」(156 ページ)といった、SF 作家らしい意見を提示する。
進化論(自然選択説)は正しいのか、宇宙は本当に熱的に閉じているのかという科学的な疑問はあるものの、それは各々が哲学していけばいいことだろう。時間論に対する見方を変えてくれる良書である。
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