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著者・編者 | 猪瀬直樹=著 |
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出版情報 | 筑摩書房 |
出版年月 | 2011年02月発行 |
地下鉄は誰のものか――「公共財は利用者のために税金を投入し、利用者が運賃を支払うことで運営される。それなら利用者を第一に考えるのは当然ではないのか」(216 ページ)というのが、著者の意見である。著者は、作家で東京都副知事でもある猪瀬直樹さん。
本書を読むと、都民として日頃利用している東京メトロと都営地下鉄について、実は知らなかったことが沢山出てくる。
メトロと都営で運賃体系が異なり、割引制度はあるものの、またいで乗ると割高になることは知っていた。会社支給の定期も最安路線で算出されるから、最短経路ではなく最安経路になっている。だが、このことにより一部の地下鉄が極端に混雑していたり、通勤時間が余計にかかって経済的損失を出しているということには気づかなかった。考えてみれば当たり前のことである。
九段下駅ホームの壁は、メディアでは見聞きしていたが、実際には気づかなかった。乗り換えが遠回りなことは感じていたが、まさか本当に壁一枚を隔てて隣に東京メトロのホームがあるとは思わなかった。
東京メトロの株主が国と東京都しかいないという事実も知らなかった。てっきり民営化されたものと「株式の構成は国が 53.4%、東京都が 46.6%」(28 ページ)という、「かたちばかりの株式会社にすぎない」のだ。大株主の副知事が言うことだから間違ってはいまい。
こうした問題点を列挙し、東京メトロと都営地下鉄は経営統合することが利用者の利益にかなうというのが本書の主張だ。
さらに本書では、東京メトロと都営地下鉄の財務・経営状況を分かりやすい表とグラフで提示し、経営統合が可能であることを論証する。
本書の中盤では、東京の地下鉄の歴史を紐解く。
「浅草までの直通運転をしたい五島と、それを拒む早川が対立し、両者は壁 1 枚隔てた別々のホームで新橋駅を営業した。その名残が『幻の新橋駅』」(94 ページ)というのは有名な話だが、この仲裁をしたのが当時の鉄道省監督局総務課長で後に首相となる佐藤栄作とは知らなかった。猪瀬さんは、東急の五島慶太が進めた私鉄のビジネスモデルと、地下鉄のビジネスモデルは全く異なるという。「私鉄の場合は、沿線開発をしながら資産形成するビジネスモデルであり、地下鉄は沿線開発ができない代わりに、公的資金の投入が行われ、金城湯池での営業をつづけることで借金を返済する構図」(138 ページ)だと説明する。
東京メトロと都営地下鉄は同じビジネスモデルであり、都営は遅れて開業したためにメトロより借金が多いものの、いずれはメトロの水準に追いつくことをシミュレーションで明らかにする。先行するメトロは「現在、剰余金が 2100 億円あり、借金もこのままいけば数年で返済できる」(50 ページ)というのだ。
政治的な難関が待ち受けていそうではあるが、地下鉄利用者としては、ぜひとも東京メトロと都営地下鉄の経営統合を実現してほしい。
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