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著者・編者 | 朝日新聞社=著 |
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出版情報 | 講談社 |
出版年月 | 2011年08月発行 |
朝日新聞社による iPS細胞発見のデキュメンタリー。ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授をはじめ、バックアップしている京都大学の松本総長、ES細胞を発見したエパンス教授など、さまざまな研究者たちへのインタビューが詰め込まれている。
iPS細胞の画期的なところは、わずか 4 個の遺伝子を体細胞に導入することで、細胞が未分化の状態にリセットされることだ。iPS細胞の作成に取りかかっていた研究者は数多いが、その 4 個を絞り込むアイデアが、山中教授の研究チームに世界最初の称号を与えた。だが、山中教授によると、「今回の成果に結びつく最大の山場は、遺伝子を 24 個に絞り込む作業だった。それに約 4 年かかった」(166 ページ)という。
受精卵を破壊する ES細胞の研究に反対の立場をとっていたローマ法王庁は、iPS細胞について「人(受精卵)を殺さず、たくさんの病気を治すことにつながる重要な発見だ」(52 ページ)というコメントを出した。iPS細胞は宗教の壁をも越えようとしている。
山中教授はアメリカでの研究生活の経験から、「アメリカ人はハードワークは苦手でも、ビジョンが素晴らしい。素晴らしい仮説をたて、こういう実験をすればいいと考える人が多い。一方、日本人にはハードワークが得意な人が多い」(33 ページ)と感じたという。アメリカの幹細胞研究のリーダー的存在のメルトン教授は、「治療というゴールを目指すなら、専門分野以外にも興味をもち、しかも挑戦的な人材を集めなければならないと思いました」(142 ページ)と言う。
iPS細胞に関わる特許獲得の国際競争も熾烈だ。そこで山中教授は、「大学の研究者はこれまで、私も含めて、論文での競争を内外の研究者としてきた。今後もそれがいちばん重要な活動であることに変わりはないが、それに加えて、知的財産の確保、知的財産の競争も意識に入れて、しっかりそのルールを理解して、心がけないとダメだなと思います」(105 ページ)とも発言している。
山中教授の素晴らしいところは、基礎研究への理解が乏しい日本に腰を据えて研究してきたことだ。研究員に対する気配りも細かい。
最後に山中教授は、「最近の若手研究者は、任期つきポストが増え、1~2 年で成果を出さねば、という相当なプレッシャーがある。プレッシャーは必要だが、頑張れば研究が続けられるという保障があってもいい。でなければ、画期的な成果は出ない」(166 ページ)と指摘する。
ノーベル賞受賞により社会的・政治的な発言力が増したことで、今後の日本の科学教育・基礎研究への好影響を願わずにはいられない。
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