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著者・編者 | 橋爪大三郎=著 |
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出版情報 | 光文社 |
出版年月 | 2013年06月発行 |
本書は、橋爪大三郎さんが慶応丸の内シティキャンパスで行なった、「宗教で読み解く世界」の講義をもとにしている。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、ヒンドウー教、儒教、仏教は何が同じで何が違うのか、社会と宗教の深いつながりをわかりやすく解説する。仏教(インド、中国、日本)は多くの宗派を取り上げたために理解が難しいが、最後の日本の宗教の部分は「なるほど」と納得させられた。
冒頭、三大宗教と政治の関わり方の違いを解説する。キリスト教は「その社会、その地域で通用している世俗の法律を守る」(60 ページ)。「ユダヤ教には、日常生活を拘束する宗教法(律法)がある。それは、地元の世俗法と衝突する場合が多い」(61 ページ)。という。「イスラム教は、その最初から、預言者ムハンマドが政府をつくりました」。一神教の理想である、宗教と政治組織が一体化した神聖政治を敷いている。ただし、ムハンマドの死後、政治家・軍事指揮官を担当するカリフと、法学者・裁判官を担当するイスラム法学者に分かれた。
次に宗教改革に触れ、ピューリタンによって作られたアメリカは信教の自由が第一義であり、「それ以外の政府のサーヴィス、たとえば、社会保障の制度が手薄でも、年金や保険が未整備でも、貧乏人が困窮しても、大した問題ではありません」(89 ページ)と解説する。極論ではあるが、それがアメリカの行動原理なのだろう。
イスラム教にも章を割いている。ジハードについては、「聖戦と訳していますが、“戦”ではなく“努力”というのが正しい訳です」(144 ページ)という。
ヒンドゥー教については、ヴイシュヌ神の第8番目の化身がブッダだとされてていることなどを取り上げ、「神が『化身』するという考え方が、ヒンドゥー教の根本的な点」(160 ページ)だと指摘する。化身することであらゆる神をヒンデゥー教に取り込むことができるのだ。仏教については、「解脱とは、端的に言うなら、インドの秩序、インドの常識を飛び出すということ」(174 ページ)と説明する。つまり仏教は、ヒンドゥー教が支配するインド社会の超克を目指していたことになる。
インドから中国へ伝わった仏教については、「中国では、仏教は国家仏教となり、僧侶は、行政官僚とそっくりの官僚組織に統合された。これを、僧綱制といいます」(208 ページ)と解説する。仏教を利用しようとした中国の為政者たちは、「書いでなければ、経典をつくればいいということで、経典の偽造が行なわれました。これを「偽経」というのですが、サンスクリットからの翻訳を装って、中国で経典を量産した」(209 ページ)という。いかにも中国らしいやり方だ。「漢訳仏典のおよそ三分の一は、偽経だと言われているほど」という。日本もこれを輸入している。
最後は日本の宗教だ。
まず、「日本人には、カミと人間の区別はない」(222 ページ)という。人間がカミになることも可能で、逆にカミが人間になることもできる。動物や植物や自然現象もカミになれる。これが一神教や仏教徒決定的に違う点である。
さらに、「日本人には、人聞が誰かに『造られた』という感覚がありません。自分は『自然に生まれた』と思っている」(224 ページ)という。そして、「日本人は、世界は自然に生まれたと思い、確信している人びと」であり、一神教とは相容れない。さらに、「日本人は、輪廻をまともに信じたことが一度もない」(230 ページ)という。
このため、日本に入ってきた仏教は清仏混合を経て、本来の仏教徒は違う姿になった。
儒教についても、「江戸の幕藩体制では、将軍家も大名家もイエ、農民や商人の生活単位もイエで、統治者も人民も一様に同一の社会原理(イエ制度)」(243 ページ)であったために、「忠と孝を区別する必要がないこと(忠孝一如)が、儒教の古典に根拠がないにもかかわらず、日本の儒学の共通見解になった」という。
戦後、神仏分離が起きたが、その急先鋒の平田篤胤が唱えた「英霊」は、キリスト教の影響を受けたものだろうと説く。陸軍は英霊の考え方を取り入れ、「仏式の家ごとの葬儀と別に、家族の許可なく神道のやり方で、招魂祭や合犯を行なう」(249 ページ)ことをはじめた。
靖国神社の問題を解決するには日本の旧教師を総ざらいする必要がありそうだが、英霊がキリスト教に由来するものなら、案外、解決は早いかもしれない。
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