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著者・編者 | 宮田裕章=著 |
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出版情報 | PHP研究所 |
出版年月 | 2021年3月発行 |
著者は、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の教授、宮田裕章さん。専門のデータサイエンスを駆使し、厚生労働省の「新型コロナ対策のための全国調査」の分析結果を発表するインパクトのあるファッションからスーパーサイヤ人とも――。
宮田さんは、「データを使った社会変革」を軸にして活動しているという。つまり、これまでの社会が目指してきた「最大多数の最大幸福」ではなく、個別対応を可能にするデータ社会では、多様な価値を可能な限り把握し、一人ひとりに寄り添う「最大“多様”の最大幸福」が可能になると主張する。
一人一人から様々なデータを供出してもらい、大きな社会変革の力として還元しつつ、その価値を共有してゆく――宮田さんは、元気玉を練り上げる孫悟空と、アムロ・レイのようなニュータイプが合体した“新しい”人類なのかもしれない。
私は功利主義の立場にあるが、宮田さんが提唱する、データの利活用によって多元的な価値への対応を可能にする「データ共鳴社会」=「最大“多様”の最大幸福」に“共鳴”する。
資本主義を回してきた貨幣――もう少し定義を広げて「資産」というならと、これらは独占できるものであり、それを独占使用することで財(人々の満足)を生み出してきた。ただ、使用することで目減りする。一方の「データ」は、共有できるものであり、目減りもせず、しかも、使えば使うほど、さらに効率的に満足を生み出すことができる。
宮田さんは「テータが共有財として社会を駆動させることによって、人々の自由や平等が担保される新たな社会システムが生まれる」(58 ページ)という。ただし、「テータは使ってもなくなりませんが、信頼を失えばその価値を一気に失います」(93 ページ)ともいう。コロナ禍の世界で、ドイツのメルケル首相や台湾の蔡英文総統は、国民をリスペクトしながら、根拠に基づいたデータを明快な言葉で発信することで、感染拡大を抑え込もうとしている。
宮田さんは医師ではないが、慶應義塾大学医学部の教授として、臨床現場と連携して手術症例を分析するデータベース「NCD」を開発、運営しており、解析結果を臨床現場へとフィードバックすることで、医療の質を底上げしようとしている。その経験から、「データと言うと『監視社会』とか『AI に支配される』といったネガティブな側面が想起されがちです。しかし、データを『人間』や『命』に関わる分野で活用した場合にも、こうしたポジティブな価値が生まれる」(98 ページ)という。医療分野では、金銭ではなく QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が価値基準となりつつあることから、データ共鳴社会の実験場として適している。
宮田さんは、データでつながる世界では、well-being のもう 1 歩先の世界観が必要という。それは、「自分 1 人が幸せなら OK」ではなく、「こうすればみんなが幸せだよね」という社会善的な価値観が重要になるからだ。宮田さんは、それを「Better Co-Beging(生きるをつなげる。生きるが輝く)」と定義する。この共有価値が次の世代へと引き継がれると、SDGs の先を行く「持続可能な共有価値」になる。まるで、アニメ「機動戦士ガンダム」に登場する「ニュータイプ」のようだ。
宮田さんは最後に、格差問題を克服した資本主義大国アメリカ、社会信用スコアの評価基準をオープンした中国、多層型民主主義を成長させた日本――そのどれもが、新しい豊かさを生み出すことができる可能性があると結んでいる。そうだ。未来は、皆さん一人一人の手に委ねられているのだ。
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