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著者・編者 | デイビッド・ホワイトハウス=著 |
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出版情報 | 築地書館 |
出版年月 | 2022年3月発行 |
太陽は、宇宙的規模で見ればごく普通の第2世代のG型恒星だ。世界中の天文台や観測衛星が24時間365日体制で太陽を観測している。時代を遡ると、あらゆる国の神話や宗教に太陽崇拝が見られる。それだけ人類の関心を集めている天体である。
日本では元旦の日の出に特別な意味がある。紀元前2800年から前1500年までの間に作られたイギリスの ストーンヘンジ
は、夏至の日の出の位置を示す。古代インドのスーリヤ、メソポタミアのシャマシュ、シュメールのウトゥ、古代エジプトのラー、古代ギリシャのヘリオス、イヌイットのマリナ、アステカのトナティウ――世界中の神話に太陽神があらわれる。
太陽は、人類に暦をもたらした。古代エジプト人は、太陽年が365.25日に近いことを知っていた。ユリウス・カエサルは初めて「うるう年」を導入した。だが、15世紀になることには、 ユリウス暦
は実際の太陽暦より1週間あまり進んでしまったため、ローマ教皇グレゴリウス13世は改暦を命じ、1582年10月に グレゴリオ暦
がスタートする。
日食の予報は、為政者にとって大きな関心事だった。信心深い古代の人々は、日食が凶事だと考えていたが、観測結果の蓄積からやがて日食の予報が可能になると、太陽は神ではないと考えるようになった。古代ギリシアの哲学者アナクサゴラスは、太陽は、直径160kmほどの真っ赤に焼けた鉄の塊でできていると考えた。
プトレマイオスは天体観測を行い天動説を唱えた。現代では天動説が間違っていることは明らかだが、観測結果から理論を導き出す方法は科学的であり、太陽の存在を神話や宗教から解き放ったことは確かだ。天動説は1400年間にわたって信じ続けられた。
1543年にコペルニクスは『 天球の回転について
』を出版し、天動説よりシンプルに惑星の動きを説明できる地動説が支持を得る。ガリレオ、ニュートン、カッシーニといった天文学者により観測技術が進歩し、1790年代に、ウィリアム・ハーシェルが強力な反射望遠鏡を製作し、次々に星雲を発見する。こうした観測結果に触発されたラプラスは、巨大なガス雲が回転しながら重力によって集まり、太陽や地球を誕生させたとする「星雲仮説」を提唱する。
ニュートン
望遠鏡が発明される以前から、人類は太陽に黒点があることを知っていた。最初の黒点の記録は、1128年、ジョン・オブ・ウースターが著した『最も重要な年代記』に描かれている。ガリレオも太陽を観測したが、同時期のシャイナーはヘリオスコープを発明し、太陽を継続的に観測し、『ローザ・ウルシナ』として発刊し、のちに、太陽黒点が少ないマウンダー極小期に当たっていることが分かった。
19世紀に入ると、私設天文台で太陽観測を続けていたキャリントンが太陽フレアを目にした。キャリントンは、黒点の観測を通じ、太陽が固体のように単純な自転をしているわけではないことを明らかにした。一方、 ルドルフ・ウォルフ
は黒点相対数を定義し、黒点が11年周期で増減を繰り返していることを突き止めた。1858年に、太陽を写真撮影できるフォトへリオグラフがキュー天文台に設置され、白斑の様子が明らかになった。
1889年に、 ヘール
はスペクトロヘリオグラフを発明し、太陽研究に大変革を起こした。この頃、太陽のエネルギー源は重力によるものだと考えられていたが、それだと太陽の年齢はせいぜい数千万年というものだった。一方、ダーウィンが発表した自然選択説では、生物進化に数億年以上の時間が必要とされた。このようなギャップがあったため、19世紀を代表する物理学者のケルヴィン卿は自然選択説に反対していた。
このギャップは アインシュタイン
が発表した「質量とエネルギーの等価性」によって解決する。1920年にエディントンは、水素とヘリウムの質量に0.7%の差異があることから、太陽は水素をヘリウムに変換することよって輝いているという仮説を唱える。
クリスチャン・ビルケランド
は磁気嵐と太陽の関係を予測し、1962年に金星に向かっていた宇宙探査機マリナー2号が太陽風を確認する。大規模な磁気嵐が発生すると、地上のパイプラインや電力設備を破壊するが、美しいオーロラをもたらす。
植物は光合成によって太陽エネルギーを利用する。1941年にラッセル・オールはシリコンの光起電力効果を発見し、のちに太陽電池となる。だが、太陽光や風力、波力、地熱のエネルギー密度は低く、人類のエネルギー需要を賄うことはできないだろう。そこで注目が集まっているのは、太陽のエネルギー源でもある核融合だ。
スカイラブや日本の太陽観測衛星「ようこう」によって、宇宙から太陽を観測できるようになった。
太陽黒点の観測から、太陽活動には長周期の変動があることが分かっており、それが地球上に小氷期と温暖期の循環をもたらしている可能性が高い。ストラディバリはマウンダー極小期と小氷期がはじまるころに生まれたが、その時期には冬が長く夏は寒冷だったために、クレモナの楽器に個性的で豊かな音色をもたらす材木が生産されたのではないかとの推測されている。
では、太陽以外の恒星にも活動周期があるのだろうか。太陽は今後、どのくらい輝き続けるのだろうか。
冒頭、1984年4月24日の太陽フレアが起こした通信障害について触れている。ちょうど今(2022年6月21日)、総務省の有識者会議が太陽フレア被害に備えて宇宙天気予報士の早期創設を提言しているところだ。
私は 小学校の時に買った天体望遠鏡
を使って、夏休みに毎日、太陽黒点の観察スケッチを記録して自由研究にした。本書にも登場するが、目を痛めないよう、太陽投影版を使った。中学・高校の部活動で、昼休みに毎日、黒点の観測を行った。『 女性と天文学
』に登場する小山ひさ子さんの観測結果と比較したものだ。
太陽の構造や核融合にも関心をもった。本書でも触れられているが、太陽光や風力といった、いわゆる再生可能エネルギーはエネルギー密度が低く、原理的にベースロード電源にはなり得ない。宇宙空間で太陽光発電をして宇宙エレベーターで送電するか、核融合発電を実用化するといった技術的ブレイクスルーがないと、現在の原子力発電を廃止するわけにはいかないだろう。
デイビッドさんによれば、古代エジプトの有翼の太陽円盤や、アッシリアの有翼日輪は、太陽コロナから発想を得た意匠だという。〈神の目〉たる太陽は、今日も我々の頭上に輝いている――。
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