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2022.12.28
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カテゴリ: 書籍
宇宙開発の不都合な真実

宇宙開発の不都合な真実

 不都合な真実を不都合なまま放置していくのか、不都合を好都合に変えていくのか、それはあなた自身の宇宙開発への向き合い方にかかっている。(204ページ)
著者・編者 寺薗淳也=著
出版情報 彩図社
出版年月 2022年9月発行

著者は、 宇宙開発事業団 (NASDA)、 宇宙航空研究開発機構 (JAXA)などで働き、現在、合同会社ムーン・アンド・プラネッツの代表社員でNPO法人 日本火星協会 理事、「 月探査情報ステーション 」編集長をつとめる 寺薗淳也 さん。宇宙開発の最前線で働いている寺薗さんは、宇宙開発を無思考に礼賛するのではなく、一歩引いて、日本と世界の宇宙開発を冷静に眺め、未来を展望するために本書を著したという。その歯に衣着せぬテクストには説得力がある。

第1章では、宇宙の資源採掘について考える。
アニメ『 機動戦士ガンダム 』では小惑星から採掘した資源を使ってスペースコロニーを建設するという設定だが、これが現実にものになりつつある。月にあるとされる水を利用し、月面基地を建設したり、火星への有人探査を進めようとするアメリカ政府――アルテミス計画には日本も参加している。小惑星探査機「 はやぶさ 」には、資源採掘の技術開発という役目があった。
欧米では法律を制定・改正し、宇宙の資源採掘を可能にしている。日本でも2021年に「 宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律 」(宇宙資源法)が成立した。
だが、寺薗さんは問いかける――こうした法律は、宇宙は誰のものでもないとする宇宙条約に反してはいないだろうか。

第2章では、宇宙開発をベンチャー企業に委ねる流れが加速していることについて考える。
イーロン・マスクが率いるスペースXは宇宙開発ベンチャーの代表選手だが、企業の都合ひとつでサービスが使えなくなったり、企業が倒産すれば技術が丸ごと失われてしまう可能性もある。
日本では小説『 下町ロケット 』や東大阪の「 まいど1号 」が話題になった。だがしかし、宇宙開発は総合技術の産物で、ある町工場の技術力がいくら優れていても、それだけでは宇宙開発はできない。
寺薗さんは問いかける――現在は少し宇宙ベンチャー偏重の雰囲気があるのではないか。

第3章では、日本の宇宙開発のレベルを考える。
寺園さんは、宇宙開発に順位をつけることは難しいとしながら、アメリカ、中国、ヨーロッパ、ロシア、インド、そして日本の順だろうという。日本の宇宙開発は、総合力で他国に後れを取っている(60ページ)。
まず、日本の宇宙開発予算は少ない。月・惑星探査計画を低予算で実行するNASAのディスカバリー計画では火星探査計画が約1000億円だが、これだけで日本の全宇宙開発予算の3分の1に達する。要員も少ない。JAXAの職員数は1500人前後で、NASAの10分の1以下、ヨーロッパと比べても少ない。
少ない予算で、月、火星、小惑星探査の順にアプローチすることは難しい。実際、月探査機「 かぐや 」(セレーネ計画)は、当初、月着陸を目指したが、予算不足とロケット打ち上げ失敗の影響でキャンセルになってしまった。そこで、 はやぶさ には、小惑星探査を先行し、そのインパクトで宇宙開発予算を増やそうという博打的な側面があったという。
はやぶさ は大成功をおさめたが、宇宙開発予算が増えたわけではない。全体の予算は増えたものの、北朝鮮の弾道ミサイル発射事件に応じ、情報収集衛星を次々に打ち上げているからだ。

第4章では、宇宙開発の軍事利用について考える。
現代の宇宙ロケットは、第二次世界大戦中にドイツで開発されたミサイルV2を先祖にもつ。日本がいくら宇宙の平和利用を唱えようとも、海外諸国がそれを額面通りにとるとは限らない。実際、アメリカ戦略国際問題研究所 (CSIS)は、 はやぶさ が小惑星からサンプルを採取するために使った衝突技術は、対衛星兵器に利用できると報告した。
日本の 宇宙基本計画 の2015年改訂版では、「宇宙空間の安全保障上の重要性の増大」という章が設けられた。
平和憲法があろうが宇宙条約があろうが、私たちは時代に即し、世界情勢を鑑みて、宇宙開発を現実のものとして見定める必要があるだろう。

第5章では、今後の宇宙開発に影響する人災と天災について考える。
まず深刻な問題が宇宙ゴミ(スペースデブリ)だ。10センチ以上のものは約3万600個、1センチ以下のものはなんと1億3000万個にものぼるとみられる。これが秒速8キロという猛スピードで宇宙空間を疾走する。ライフル弾の初速が秒速1キロだから、1ミリのデブリでも、その破壊力を甘く見てはいけない。アニメ『 プラネテス 』でリアルに描かれた。
小惑星や彗星が地球に衝突する大災害も心配だ。聖書に登場するソドムとゴモラの滅亡は、実際に隕石の落下によって引き起こされたという研究結果が発表されている。ある研究に寄れば、天体衝突で死亡する確率は3000~25万分の1。アメリカでは交通事故で死亡する確率が30分の1、飛行機事故が3万分の1で、それよりは低いが、地震の1万分の1、落雷の13万5000分の1に近い。
JAXAは、美星スペースガードセンター(岡山県)が望遠鏡を使った観測をしているが、スペースデブリに監視に注力すると、大災害の予測が難しくなる。
寺薗さんは、「扇情的なメディア、無関心な政治家、そしてそのような状況を許す国民。宇宙開発の、というよりは地球にとっての不都合な真実が、いつか本当の真実になってしまう」(189ページ)と警鐘を鳴らす。

小学生の頃、望遠鏡で夜空を眺める一方、図書館で伝記を読みあさった。コペルニクス、ケプラー、ガリレオからアインシュタイン、フォン・ブラウンまで――本書にも登場するヴェルナー・フォン・ブラウンは、ドイツでV2ロケットの開発に携わり、アメリカに移ってからは宇宙ロケット開発の中心人物となった。子どもの時から、宇宙ロケットとミサイルと同じものだと分かっていた。特撮やアニメでもそうではないか。
技術者として正常性バイアスには注意を払っている。阪神淡路大震災や東日本大震災に遭ったとき、慌てふためくわけでもなく、「どうせ大丈夫」「大したことがない」と軽視するでもなく、仕事として淡々と係わり、冷静にリスク分析することに努めた。
寺園さんは「情報技術(IT)の分野で起きたことが、宇宙開発の分野でも現在進行形で起きているとしか思えない」(190ページ)と指摘する。IT屋としては耳の痛い話である。
とはいえ、かつての天文少年は、仕事を通じて、宇宙開発事業との接点ができたし、ある程度は社会に発言力をもつようになった。寺園さんが言うように、私も宇宙開発ファンとしてではなく、宇宙開発サポーターでありたい。
JAXAの 水循環変動観測衛星 の名称公募に応募して、見事にヒット。立派な命名証が送られてきたものだから、年甲斐にもなく宝物にしている。パブリックコメントにも積極的に投稿していこうと思う。






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最終更新日  2022.12.28 12:10:27
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