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著者・編者 | 永田稔=著 |
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出版情報 | 日経BPM(日本経済新聞出版本部) |
出版年月 | 2016年5月発行 |
ロジカルシンキングやクリティカルシンキングを学んでから久しいが、仕事の現場でそれが通用しないことの方が多い。そんなとき、とあるITコンサルタントから紹介されて読んでみた。
著者は、人事・経営コンサルタントで、日本初の人材評価AI「 マシンアセスメント
」を開発した永田稔さん。永田さんも冒頭で、「この思考法だけでは組織や人を動かせないケースに出合うことが多くなってきた」(19ページ)と述べている。
永田さんが書いているように、「真の問題解決力とは、策定した解決策を関係者に受け入れてもらい、どれだけ実行し成果に結びつけることができるか」(21ページ)であり、単にロジカルシンキングやクリティカルシンキングを当てはめ、上から目線でソリューション提案すれば済むというものではない。では、どうすればいいのか――。
クリティカルシンキングで学ぶことだが、問題解決のスタートで、まず、相手と課題共有することが不可欠だ。ここで、相手に「あなたが言っていることは正しいが、私が感じている課題はそうじゃないんだ」と思わせてはいけない。「理解と受容とは異なる」(35ページ)のであり。どんな非合理な課題であっても、それを傾聴し、一緒に解決していかなければならない。
ところが、クリティカルシンキングが基板とするロジカルシンキングは、じつは、人を対象にしたケースというのがほとんどない(143ページ)。
永田さんは、 ロジカルシンキングの罠
として次の5つを挙げる(42ページ)。
+他の人も事実やロジックを正しく理解しているはず
+自分はロジカルに考えているので正しいはず
+他の人や組織はロジックを理解すれば正しい方向に動くはず
+人を動かすには金銭インセンティブが有効なはず
+自分の役割は正しい指示を出し続けること
脳は身体の中でも多くのエネルギーを消費する。消費エネルギーを節約し、速やかに結論にたどりつけるよう、われわれは、経験や知識と推論を使って情報処理することが多い。 ヒューリスティック
と呼ぶものだ。歳をとって痛切に感じるのだが、若い頃より経験と推論に頼ることが多くなっている。
永田さんは、「限られた範囲での成功体験、固定化された成功体験は、問題解決に対する打ち手のパターン化を招きやすい」(72ページ)と注意喚起する。バイアスがかかることもある。高プライド組織と高プライド社員の場合には、こうしたバイアスに捕らわれることがある。
永田さんは「ロジカルに直線的に成果を追い求めるだけでなく、相手の状況や感情に応じて打ち手を瞬時に変えてゆく柔軟な知性」(120ページ)が必要だとアドバイスする。さらに、「相手と意見が異なった場合、必ずしも相手が間違っているとは限らない」(106ページ)にも注意しなければならない。永田さんは、自分の思考にバイアスがかかっていないか、客観的にチェックするポイントを挙げる(106ページ)。
すぐにムキになってしまう人や自信過剰になっている人は、自分の推論や仮説の正しさを過大に評価してしまう傾向がある。この自信過剰によるバイアスは自覚することは難しいが、「自分の仮説に対する反論を自分で考える」ことが有効(134ページ)とアドバイスする。これはすぐに実践できそうだ。
課題が共有できたところで問題解決にとりかかるわけだが、ここで、多様な価値観が認められるようになった現代社会の壁が立ちはだかる。
永田さんは、価値観の対立をマネジメントすることを「コンフリクト・マネジメント」と呼ぶ。コンフリクト・マネジメントをうまく進めないと、最悪、組織が機能しなくなる。
とくに変革を求めるときは、大半のリーダーは「まずあの旧弊の人たちを変えないと」ということで頭がいっぱいとなり、「認める」というところからスタートできないと指摘する(184ページ)。
大切なのは動機づけである。そのために、「マズローの欲求段階説」「フレデリック・ハーズバーグの動機づけ・衛生理論」といった古典論を振り返る。
永田さんは、「日本のリーダーやマネジャーは動機づけがあまり得意ではない」(215ページ)と指摘する。これは、外資系は人材が流動的であり、マネジャーは人材の引き留めという責任を課されるからだという。
永田さんは、外発的動機づけとして、「アメとムチで動機づける段階」に始まる3段階を経て、仕事自体に興味や面白さを感じる内発的動機づけに進むのがいいとアドイバイスする(231ページ)
本書はビジネスの現場だけではなく、子育てや地域コミュニティにも適用できるだろう。たとえば、子どもが抱えている問題の本質は、親が捉えているものと同じだろうか。子どもと親の価値観は同じだろうか。子どもに外発的動機づけ(アメとムチ)ばかりを与えていないだろうか。永田さんは「あとがき」で、いままで会ってきた素晴らしい経営者やリーダーが「抱える『矛盾』は、非常に人間的であり、魅力的でもあった。『矛盾を抱える人間とは美しいものである』と学ばせてもらった」(259ページ)と振り返る。なるほど、問題解決の相手はロジックではなく、ヒトなんだということを改めて認識させられた。そして、論理だけで突破できないからこそ、問題解決は面白いのだ。
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