2005.07.06
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テーマ: 海外生活(7776)
カテゴリ: イタリアンなお話
「いくきーと、起きて!もうお義母さんも起き出してるよ。さっさと着替えて朝食にしよう。」


ぼんやりした頭の中、薄目を開けておっとを見るともうすっかり着替え終わっているところだった。階段の方を見ると階下が薄明るい。雨戸を開けたのか。(←わたしたちはすでに母が来た前日より2階で寝起きしているのである。)

「うう~ん、今何時?」と重い腕を伸ばして目覚まし時計を引き寄せる。



げ、朝5時半?!  起きれるか、んなもん!!



「あ、あたしゃ寝る。」

「何言ってるんだよ?せっかくお義母さんが来てるのに、ピシッとしないと。。。」と言うおっとの声を遠くに聞きつつ、わたしは再び眠りに落ちようとしたのだった。

おっとはブツブツ言いながら階段を降りた。
母と朝食を始めたカチャカチャという食器の音が聞こえ始める。
我々2人だけでは、いつも時間がなくてしたことのないトーストとコーヒーを沸かす香りが漂い始めた。



わたしは深いため息をついて毛布を引き上げ(ここ数日寒いのだ。)、寝返りを打つ。
だが、その幸せもつかの間だった。

TVっ子のおっとはいつものように朝から大ボリュームでTVをつけた。
ニュースキャスターが速報を読み上げる緊迫した声が家中に響き渡り、わたしの神経を完全に目覚めさせ、いらだたせる。

そしておっとが幼児スペイン語で母とコミュニケーションを図りはじめた。


「オッカサン(←ここだけ日本語)、いつも朝は何を食べてるんですか?」

「オッカサン、今日はどこに行く予定ですか?」


母はほとんどわかってなくて、オホホホホと、高笑いでごまかしたりしている。(←日本人だなあ)
哀しいかな、両方の言葉が理解出来るゆえに、おせっかいなわたしとしてはベッドに横たわりながらも「1年8ヶ月ももスペインに住んでたくせに、何でこんな簡単な質問がわからないんだよ!?」とじれったさに身をよじっていた。

ついには「いくきーとさん!あなたいつまで寝ているの!?マー君が何か言ってるのよ。さっさと起きてきてあなたの旦那様の相手をしなさいっ!!」と母が怒り叫ぶ声に渋々と起き上がって階下に下りたのだった。

わたし「おかあさん、こんなに早く起きて今日はどこに行く予定ですか?」




どういう妻って。。。。。
今日はおっとも早く起き過ぎ。


母「洗濯物もあんなに溜め込んで!洗濯機、廻しておきましたからね。」

わたし「そりゃ、どうもありがとうございます。」
。。。。どうでもいいが、彼女は洗剤のありかと洗濯機の使い方、わかったんだろうか?


ふう。。。後からもう一度やり直さないと。


やがておっとはわたしが起きてきたのを見て安心するかのように仕事に出て行った。

そう、わたしは今回母のために10日間の有給休暇を取ったのだ。
が、自営業のおっとにまで10日間も休暇を取られては「極貧夫婦」はピンチなのである。


「。。。で、どこに行きたいんですか?」とわたしは母が持ってきた細切れ状態の「97年度地球の歩◎方」に目をやる。

母「あなたにお任せ、と電話で言いましたでしょ?今日は疲れたわ。1日休息日にして明日、ミラノの中心にお土産を買いに出かけましょう。」


がく。2日目の朝早くから叩き起こされて、疲れたから休息日?
そりゃぁ、ないよ!


母「あなたも普段家でやれないことがたくさん溜まってるんでしょう?」


母の来伊をカウントダウンの最終日に慌てて全てをやり終えたのですることはない。
2階の段ボール箱たちも収納家具を買わない限り、始末できない。
貴重な有給休暇を2日目からして無駄に過ごすなんて。。。。。


わたし「お母さんが短い滞在期間に充実したイタリア旅行をしたい、というのでわたしとしては10日間いろいろ考えたんですよ?1日家に居るのはもったいないと思いませんか?」と嫌味を込めて言った。

母「あなた!ちっともわたしの身になって考えてくれていないのね?! わたしはか弱い老人なのよ!? しかも時差ボケで疲れているというのにいたわることを、知らないのっ!?」

わたし「わ、わかりました。では今日は1日家でくつろいで下さい。」汗


わたしはすっかり出かけることを諦め、ミルクを温めていると洗濯機が終わり、母が中から洗濯物を取り出し始めた。

わたし「あ、いやっ、お母さん。実はこれ、柔軟剤で洗ってくれてたのでもう一度やりなおさないと。。」

母「あら、そうなの?知らなかったわ。」

わたしがもう一度洗剤を入れなおし、洗濯機のスイッチを入れていると、今度は母は冷蔵庫を開け、中を覗き込んでいる。

母「今夜はパエリアを作って振舞おうと思っていたのだけど、冷蔵庫に何もないのね。お買い物に行きましょう。」

しかし。
母が前日に言ったように我が家の周りは何もない。一番近い小さなスーパーまででも徒歩10分だ。
そういえば、いろいろと買いそびれたものが思い浮かんできた。

母の室内用スリッパ、蚊取りマット。。。でもこれらはエルトンの家の近く、うちからクルマで20分は離れた大きなスーパーまで行かないと買えそうもない。

わたし「わかりました。リストを作ってくれたらスクーターで買いに行ってきます。」

母「わたしも行くわ。タクシーをお呼びなさいな。」

わたし「。。。。タクシーなんてたぶん、この当たりはないです。」

母「なんですって!!??」



ひ、やばいっ!!!!!こんなこと正直に言うんじゃなかった!!
この時わたしは母の逆鱗に思いっきり触れた、と確信した。




「あなたたち、どういう家の選択をしているの!?タクシーもない街なんて人間の住むところではないわ~~~っ!!★◎×=▽!!!!!!」



どうやら母はとにかく文句をつけたくて、こういう落とし穴にわたしが落ちるのを待っていたようである。この攻撃はちなみに午前中いっぱい延々と続いたのであった。
しかし、口での攻撃を休めず、手はしっかり昼食を作っていた母には舌を巻いたのである。
筋金入りの「主婦道」を見た気がした。


キャベツのおひたし、ひき肉あんかけ揚げナスを白いご飯と熱い日本茶で頂いた後、ようやく攻撃はやみ、わたしは買い物に出かけたのだった。


空は曇ってどんよりしていた。
スクーターの走行中に雨が降るのはたいした問題じゃないが、何が心配って、やっぱり屋根である。
慌てて買い物を済ませ、遠い道のりをたどって家に帰りついたと同時ぐらいに雷鳴が響き、夕立が降り始めた。

ちなみに母にはおそろしくて屋根の話はしていない。
この情けない話をしようものなら、「だまされて二束三文なボロ家を買ったのよ!」とキーキー死ぬまでわめき続けられるに違いない。

母が煎れてくれたお茶を飲みながらわたしは気が気でなかった。
果てしなく続く実家のご近所の噂話に母が一呼吸するのを待って「2階をちょっと片付けてきます。」と階段まではゆっくり何事もないように上がったのである。

以前の日記に書いたように2階はやはり滝が流れ始めていた。
「あ~!!!!!!!」と叫びたい衝動を抑え、わたしはおっとの古いTシャツをひっつかみ、壁から滲みだす水を拭き始めた。
1階にはしごがあったのだが、へたに持って上がって母に怪しまれるのもまずい。
あちこちピョンピョン跳ねながら壁を拭いていると

「何をドタバタしているの?何か手伝いましょうか?」と母が下から階段を見上げたので「い、いや、たいしたことじゃないからいいです!」と声を裏返して叫んだ。


そうこうしているうちに、おっとが帰宅した。もちろん1階の正面玄関からではなく2階の小さなドアからである。おっととわたしの行動はいまやシンクロ率100パーセントなのである!


おっと「あ~あ、やっぱりひどいや。明日すぐ不動産屋を呼ばないと。。。」と哀しそうな顔をした。


そしてそっとドアを閉め、さもたった今、仕事から帰ってきたかのように「オッカサン、タダイマ~。」と1階の玄関から入りなおしたのだった。

母が作ってくれたパエリアはおいしかった。実は間違って買ってしまった黄色いイタリアンライスサラダ用のそのまま炊いただけでは激マズの米を使ったのだが、これがまたパエリアには合っていた。
エクアドル大学時代、料理コンテストでパエリアを作って優勝したおっとのなのだが、お世辞か本心からかは謎だが「オイシイ、オッカサン!」と連発していた。



こうして母が着いていきなりの休息日は終わった。
次の日はミラノ、次の次の日はトリノである。








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Last updated  2005.07.19 21:23:41
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お目目@ Re:イースターいろいろ。(03/31) いくきーとさん、ご無沙汰しております目…
Hinatabocco@ 大丈夫ですか? いくきーとさん、このブログはもうノータ…
Ikukito @ ごめんなさい。 >shion0851さん そ。。そうです。26歳だ…
かつしちー @ おめでと! 色んな偶然があるんですね。 相変わらず…
shion0851 @ そーなんだ 26歳なんですか、そうですか・・・(-_…

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