日向ぼっこ大好き

日向ぼっこ大好き

病室で

わたしは確かに子供を生んだ・・・はずだ
今まであんなに張り裂けそうだったおなかも
今ではぺちゃんこになって
あんなに痛かった陣痛も
今では全然なくて・・・

私はベットに横たわっていた
なにが自分に起きたのか理解できなかった
妹がそばにいてくれたけど
何を話して時間をつぶしていたのか
よく覚えていない
妹も 
何を話していたのか覚えていないらしい

出張先から主人が駆けつけてくれたけど
目が真っ赤に腫れていた
初めて見る 主人の涙
本当なら笑顔で病室のドアを開けるはずだった・・・
そこに涙なんてなかったはずだった・・・

その日の夜は
病院の計らいで
主人が私に付き添って眠ってくれた
私は陣痛と出産で丸2日間
眠っていなかったのに・・・眠れない

近くの病室から
赤ちゃんの泣き声が聞こえる
でも、私の病室にいるのは
沈黙だけ・・・
赤ちゃんがいない

母乳をマッサージするため
三時間おきに助産師が私の部屋を訪れる
搾乳道具を取りに授乳室に行くと
生まれたての赤ちゃんと
眠そうに目をこする新米ママ
おっぱいをくわえる赤ちゃんの姿・・・

翌朝 廊下に出ると
日曜ということもあって
見舞い客がたくさん来ていた
みんな楽しそうな笑顔・・・
私と一緒に陣痛室に入っていた人が
ベビーコットですやすや眠る
赤ちゃんを安らかに眺めている

でも 
ここに私の赤ちゃんはいない

出産を終えたママたちが
昼食をダイニングで
みんなで談笑しながらとっている

でも
私のランチは病室に運ばれてくる
ダイニングで
談笑なんて私には出来ない

出産を終えたママたちが
夕食に
フレンチのフルコースを家族で食べてる

でも
私はこの夕食を断った
みんなでフレンチなんて食べられない

私は本当に出産したんだろうか?
これは悪い夢?
本当はまだお腹に
赤ちゃんがいるのではないだろうか?

さすった右手が
私を悲しく現実に突き戻す

確かに出産したんだ
でも赤ちゃんはここにいない
今後のことは何も分からない
赤ちゃんの病状もわからない
障害の程度も分からない

これが現実

テレビで見たのと違う
出産して
赤ちゃんが「オギャ」って泣いて
「元気な女の子ですよ」って先生が言って
「おめでとうございます」って助産師が言って
私が「ありがとうございます」といってうれし泣きをする・・・

全部 夢であってくれたらいいのに
誰か私を悪夢から救い出して!!

出産を終えた私に
安堵も喜びもなかった
あったのは
ただただ 不安だけだった









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