山田維史の遊卵画廊

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Tadami Yamada's monochrome cuts -#1


Tadami Yamada's monochrome cuts -#2


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■Yamada's Article(4)夢幻能と白山信仰


■Yamada's Article (5) 城と牢獄の論理構造


■Yamada's Article(6)ムンク『叫び』の設計と無意識


■Yamada's Article (7) 病める貝の真珠


■Yamada's English Article (8) 能の時空間の現代性


■Yamada's Article (9)『さゝめごと』に現われた十識について


■Yamada's Article(10)狐信仰とそのイコノグラフィー


■Yamada's Article (11) 江戸の「松風」私論


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Jan 29, 2009
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カテゴリ: 映画・TV
昼間はあいかわらず遅々としてはかどらない新作の執筆をつづけている。心躍って筆が走りすぎるのを抑えなければならない状態にはまだほど遠い。

 息抜きに夜8時からテレビで稲垣浩監督の『無法松の一生』(1958年)を観た。主演は三船敏郎、高峰秀子。封切時に会津若松の東宝で観ている。中学1年、13歳のときだった。その当時、黒澤明作品にめざめ、おのずと三船敏郎にも関心がむいていたので、たぶん三船敏郎が出演しているので観たのであろう。シネマスコープ。
 シネマスコープというのは20世紀フォックス社が開発した横長の超巨大画面。1937年のパリ万博でアンリ・クレティアン博士(ソルボンヌ大学)が発表した原理を同社が権利を買い取って発展させ、1953年に第一作『聖衣』を世界主要都市で同時公開した。画面の縦横比率は、最初、1対2.55であったが、のちに音響装置の関係上1対2.35に変わった。『聖衣』は日本でも1953年に公開された。
 日本映画にシネマスコープが登場したのは1957年。東映が東映スコープという名称で第一作『鳳城の花嫁』を公開した。『無法松の一生』はその翌年の東宝作品で、ベニス映画祭大賞を受賞している。

 ちょうど50年前に観た映画。冒頭部分はすっかり記憶から抜け落ちていたものの、おおかたはまだしっかり記憶していた。・・・俥屋は芝居小屋の木戸御免(いわゆる顔パス)という小倉での慣習を、木戸番に拒否された松五郎(三船敏郎)が、腹いせに仲間(田中春男)と一緒に、桟敷で大蒜や韮や唐辛子を七輪で燻して大立ち回りをするシーン。
 吉岡大尉夫妻(芥川比呂志、高峰秀子)の息子俊雄少年を松五郎が初めて見かけるシーン。
 吉岡夫人に初めて会うシーン。吉岡大尉の死のシーン。
 ・・・そして学芸会で俊雄が唱歌「青葉の笛」を歌うシーン。映画のなかで唱歌を歌う作品というのは、たとえばやはり高峰秀子が主演した『二十四の瞳』の「荒城の月」や「浜辺の歌」、唱歌ではないが『ビルマの竪琴』の「埴生の宿」や、『生きる』で志村喬が歌う「ゴンドラの唄」、『泥の河』のキッちゃんが歌う「戦友」等々を思い出す。このような歌のシーンを成立させるのはなかなか難しかろうと思う。歌手がうたうのではなく出演者が、場合によっては子供がうたって、映画の観客を感動させなければならないからだ。うまいなー、いいなー、と思ってもらわなければならない。上にあげた映画ではそれが成功している。『無法松の一生』における「青葉の笛」も、なかなか素晴らしいのだ。「一の谷の戦破れ、討たれし平家の公達あわれ・・・」と、俊雄少年のボーイソプラノが哀切にひびく。二番までうたい、その長い時間をみごとに維持しきっている。

 記憶に残っているシーンを書きつらねていても仕方が無いけれど、13歳のときには見て取れなかったことがあることに気が付いた。当たり前といえば当たり前、それを少し書いておこう。



 ふたつめは、小倉祭の夜、空に花火があがって、松五郎が吉岡夫人をたずねてくる。夫人の一人語りを聞くうちに松五郎は泣き出し、あわてて座敷に駆け上がって亡き吉岡大尉の遺影の前に額づく。その異様さに驚いた夫人は、「私たちに出来ることは力になりますよ」と呼び掛ける。松五郎は向き直り、思わず夫人の手を取ろうとする。夫人は身をよける。松五郎はガバと畳に頭をすりつけて「儂の心は汚れている」と言い残して駆け去る。夫人は松五郎が何に懊悩していたかを初めて知る。そして当惑する。・・・13歳の私が見て取れなかったのは、そのときの吉岡夫人の両肩がほんの少しすぼめられるのだが、その高峰秀子の演技である。当惑と、思い当たるフシと、しかし何かやはり汚いものが身にふれたような感じ。身分違いの松五郎の思慕の情などまったく思いもよらぬことだった。しかしまた、ふと、みずからも流れだしそうな感情・・・それらが同時に押し寄せて、おもわずしらず両の肩をほんの少しすぼめる。・・・そんな老いの影さえさしている未亡人の一瞬の身体のブレなど、いくら精神的にマセていたとはいえ13歳の少年には理解できなかったことだ。

 三つ目は、絶望にうちひしがれて酒浸りの日々をおくる松五郎が、雪のなかをさまよい歩くシーン。一度雪の中に倒れ、おきあがって再び歩き出す。その後ろ姿にかぶせて、ド・ド・ド・ド・ドドド、ド・ド・ド・ド・ドドド、ド・ド・ド・ド・ドドド、・・・と小さな音で太鼓の単調な音楽が鳴る。長いシークエンスである。その音は次第に消えてゆくのだが、私は歌舞伎で雪を表現するときの太鼓による効果音を連想した。歌舞伎の雪太鼓は、ドーン、ドーン、ドーン・・・と一定の速度でつづく。この映画の場合はドーンという余韻は残さず、ド・ド・ドと短く刻まれる。それはまた心臓の鼓動のようでもある。・・・そう、松五郎は再び雪の中に倒れ込み、心臓をおさえる。酒に溺れて心臓麻痺で死んだ彼の父親のように・・・。
 この後、画面は、カラーフィルムの陰陽が逆転し、すなわちソラリゼーション化され、松五郎の死にゆく意識に一生が走馬灯のように浮かぶ。日本映画のなかできわめてめずらしいデザイン化された映像が長々とつづくのである。

 松五郎の遺品を整理していると、吉岡夫妻からもらった季節毎の祝儀が封も切らずに大切に柳行李からでてきた。夫人と俊雄名義の二通の貯金通帳も・・・。

 イヤー、私は涙ぐんでしまった。これも13歳のときにはなっかったことだ。私も年をとったということだな。50年ぶりの映画だもの。

【追記】
 2009年のこの日記を、9年後の2018年現在も読んでくださる方が多数ある。ありがたいことです。
 そこで、すでに一度書いているはずだが、もう一度追記しておく。
 この『無法松の一生』で、三船敏郎(松五郎)が飛び入りで小倉太鼓を打つ シーンがあり、私はそのおよそ3分にも及ぶ連打に驚嘆した。歌謡曲『無法松の一生』は、古賀政男作曲で村田英雄が歌っていて、確か村田英雄のレコードデビュー曲。そのデビュー盤で太鼓演奏しているのが三船敏郎である。ちゃんとクレジットされている。私が映画で驚嘆したワン・カット撮影の三船敏郎の太鼓演奏の技量は「本物」だったのである。村田英雄『無法松の一生』で三船敏郎が太鼓演奏しているレコードは、このデビュー盤だけ。それがいかにも惜しい。(2018,12,12記)

【追記】
 『無法松の一生』は3回映画化されている。1963年の東映、村山新治監督作品の主演は、三國連太郎と淡島千景。この映画でも、もちろん小倉祗園太鼓のシーンがある。しかし、三國連太郎氏、必死に叩いているが、身体にまったく音楽性がない。私は目をそむけたくなった。気の毒だが三船敏郎の音楽性とはくらべものにならない。音楽的感性、リズム感とは、付け焼き刃ではどうにもならないのだ。こんなことを書く映画評論家はいないだろうから、ちょいと憎まれ口を言っておく。(2022.3.19記)





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Last updated  Mar 19, 2022 10:26:14 AM
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AZURE702 @ Re:「比叡おろし」(汚れちっまた悲しみに)(08/21) 三角野郎(絵本「マンマルさん」)さんへ …
三角野郎(絵本「マンマルさん」)@ 「比叡おろし」(汚れちっまた悲しみに) ≪…【ヴィークル】…≫の用語が、[ 実務と…
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