「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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天気予報のうそつき
これから先はuntitleの番外編になっております。
本編を読んでない方はそちらを先に読むことをお勧めします。
では、読む方だけ、お進み下さい。
天気予報のうそつき
「天気予報のうそつき!」と思わず、叫んでしまった。
朝から、ずっと、天気が良かったのに
夕方少し前になって、急に降りだした雨が
コンクリートの地面を勢いよく、濡らしていく。
見る見るうちに髪も服も雨の水分のせいで重く垂れ下がっていく。
始めて見た。
こんなにはっきり、雨雲が近づいて来る様子を。
海の向こうから、こっちの方に向かって一直線に迫って来る雨雲。
逃げるということも忘れ、思わず、見とれていたら、
グイっと手を引っ張られた。
その手に導かれるように走る。
どんどん、スピードをあげて、空は青から灰色そして、黒へ
そして、ほどなく、追いつかれ、雨は2人の上に降り注ぐ。
今日はついてなかった。
とにかく、雨宿りできるところと 俺は周囲を見渡してみる。
あまり、美しくはないが、軒下の少し広い、
雨をしのげそうな倉庫のような建物が眼に入った。
あそこなら、なんとか、大丈夫だろう…
「おい、あの建物に避難しよう」
と俺はつくしに言うと手を取って走った。
雨音が激しくて、そばにいても返事も聞こえないほどだ。
軒下に逃げ込んで、2人で思わず、笑った。
びしょ濡れになった2人。
「濡れねずみだね」とつくしが俺を見て、指差して言う。
「ねずみと一緒にするな」
と言ってちょっと怒る。
濡れねずみ…か
俺はすぐにあの日のことを思い出した。
もちろん、こいつも忘れるはずがない、あの日。
つくしから、突然、別れを告げられた日。
あの日も2人、びしょぬれだった。
見えてきた希望が失われ、絶望を感じた日
でも、今日のこいつは濡れた俺を見て、笑っている。
こいつにあの日のことを思い出させないため、俺は言った。
こんな状態のこと、英語で
「get drenched to the skin」って言うんだ。
つくしは感心したように
「へぇー、そうなんだ。さすが、4年間もアメリカにいると
バカでも、英語ベラベラになるんだね。」
「バカは余計だ。」とつくしの額に軽く、デコピンをする。
相変わらず、つくしは笑っている。
そして、思う出したようにバッグから、小さなハンドタオルを取り出すと
俺に差し出して、
「こんな小さなタオル、ほとんど、役にたたないけど、顔くらいは拭いて。く
「バカ、俺はいいから、お前が使えよ。
お前、ほとんど、化粧しないからいいけど
桜子だったら、大変だぞ。化粧がはげるってパニックになって…」
急に俺の眼の前にタオルの花柄模様が大きく広がる。
つくしがタオルで俺の顔に張りついている
水滴をやさしく、取ってくれている。
「いや、お前のほうこそ、拭いてやるよ。」
と急いで、それを取り上げた。
「いいよ。自分でするから…」と顔を少し、赤くしながら、
あわてて、俺の手からタオルを取り上げると
俺にしてくれたのと正反対にゴシゴシと顔を拭きだした。
「おい、その拭き方はないだろう。肌、痛めるぞ。」
「平気、平気!あたし、朝はいつもこうだもの。
ゴシゴシすると気持ちいいの。」
つくしが自分の照れを隠すためにおどけて言っているのがよくわかる。
タオルから開放された顔が見えたとき、
俺は思わず、その可愛い口元に心が奪われ、キスしたいと思った。
つくしも俺の気持ちがわかったのか、一瞬、動きが止まった。
俺をまっすぐ、見つめている。
俺が顔を近づけようとした
そのときだった。
向こうから、2人、やっぱり、俺達と同じようにずぶ濡れになった
男女が走ってやってきた。
つくづく、今日はついていない……
「すみません。一緒に雨宿りさせてください。」
と女が言った。
「ここは定員は2人だから、よそへ行ってくれ。」
と俺は言いそうになった。
いや、本気で言いたかった。
が、「もちろん、いいですよ。どうぞ、そうぞ。」
と人のいいつくしが女に言った。
連れの男はあいさつも何もなく、見るとふて腐れたような態度だ。
女が「あんたもちゃんと先客にあいさつしてよ」と言うと
「なんで、俺があいさつをするわけ?
ここ、こいつ等の家じゃあ、ないだろう?
こいつ等もココ借りてるだけだろう?
大体、お前がもう少し、居たいなんて言うからこんな目に遭うんだ。
このまま、車に乗れねぇぜ。シートが濡れちまう。どうしてくれるんだ?」
男はもう、すでに女にケンカを売っている状態だった。
「だから、ここは定員2人なんだ。ケンカなら、よそに行ってしてくれよ。」
と言いたい。
つくしはというともう、おせっかいを焼いている。
「そんなこと言って、彼女を責めちゃあ、ダメよ。
この雨は誰にも予想不可能よ。
天気予報も雨なんて一言も言ってなかったのよ。
だから、あたし達もびしょ濡れよ。見て!」と男に言った。
「あんた、なに、横から、口、挟んでんだ。
俺はこの女に言ってんだよ。他人が口挟むなよ。」
とつくしに言ったかと思うと今度は女に向かって
「俺、もう、帰るから、お前も勝手に帰れよ。」
と言い、雨の中、走って行ってしまった。
「ちょっと、待ちなさいよ。なんで、彼女、置いて帰るの?」
とつくしが叫んでいるが当然、
雨の音が激しくて、男には聞こえてないだろう。
「ごめんなさいね。いやな思いさせて…いつもはあんなんじゃないの。」
つくしに対してひどい言葉を浴びせた男はもう、視界から消えてしまった。
「なんで、この女も連れて行ってくれないんだ」
と俺も一言は言いたかったのだが…
男に置き去りにされた女はまるでいつもされているのか全然慌てていない。
むしろ、落ち着いて、怒りを露わにしている
つくしのほうをなだめている始末だ。
「ごめんね。わたしのために怒ってくれて。
もう、いいの。気にしないで。
それより、わたし、考えたら、お邪魔だったかしら?」
と俺のほうを向いて言う。
俺が「そうだ」と返事する前に
つくしがまだ、興奮さめやらぬ状態で、
「なんで?なんで、怒んないの?車のほうが大事な訳?
どうせ、自分だって、濡れているんだから、同じでしょう?
あなただけ、乗せないなんて…」と必死に聞いている。
女は空を一瞬見上げると、
「もう、ずいぶん小雨になってきたから、わたし、追いかけてみるね。」
と言うと、その女も小雨といえども、
まだ、降り続く、雨の中、出て行った。
「いいの?まだ、降っているよ!とつくしが女の背中に叫ぶ。
女は振り向かずに代わりに右手を上にあげ、大きく振ってサヨナラをした。
雨宿りのほんの一瞬のできごとだった。
「あの、2人、大丈夫かな?うまく、仲直りできるといいけど…」
と心配する。
「大丈夫だろ。俺たちだって、いつも、ケンカしてるだろ?
人の事、心配するな!」
こいつは本当に自分のことより、人のことばかり、心配しやがって…
それがこいつのいい所でもある訳だが…
なんて、感傷にふけっていたら
「ほら、見て!空がまた、青くなっていく。本当に通り雨なんだね。
雨、やんだよ。良かったね!」
と大きな声で、つくしがはしゃいで言う。
お前、さっきまで、人の心配して暗い顔してたじゃあねぇか?
なんだ、そのはしゃぎようは?
それより、俺はあの2人が来る前の続きがしたかった。
俺ははしゃいでいるつくしの顔を覗き込んだ。
が、俺の期待はむなしく、
つくしは「なにかあった?」
と言うような顔をして
「早く、車の駐車場に行こう」
と今度は来た時とは逆に俺の手を引っ張って外に連れ出した。
何度も言うが、今日はついていない。
昼間の事といい、今のことと言い…
そう、今日はあの日の続き……
untitle【14】台無しになった夏の日のデートの続きでした。
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