月下美人の語り草

月下美人の語り草

らぐなlock 第21話


青年「・・・わかった。伝令ご苦労。」

ヴァルハラからの伝令の言葉を耳にし、青年は静かに言った。
紫色の髪。右手にはスティレット。皮の鎧に身を包んだ男。
ヘルヘイム王、空野蜘蛛である。
ひどく哀しい眼をして要塞からヴァルハラの街に目を向けた。

空野蜘蛛「・・・・・(これ以上犠牲を増やすわけにはいかない。この戦いで倒れるのは僕だけで十分。。この国を護るのは王の義務だからね。。。)」

蜘蛛は伝令に目を向け指示を出した。

空野蜘蛛「ヴァルハラ防衛軍に伝令。『今すぐ戦いを止め、連合軍に投降せよ。なんとしても生きのびよ』とね。」


剣を受け流し顔面に蹴りを入れ、そしてまた走り出す。
目の前の敵を倒しても次の兵が向かってくる。
捨て身で掛かってくる敵兵に危うさを感じながら、徐々に街に近づいていく。
彼らは刺し違えてでもこちらを倒そうという気でいる。自ら止まることは決してない。
彼らを止めるには・・・『街を制圧すること』ただ一つ。
この哀しい戦いを早く終わらせる為にも、彼女は走る。目の前に広がる街へと。


エン「・・・投降?」
伝令「はい。『これは王命令だ』と。」

ヘルヘイム王からの伝令が発した言葉。
同時に渡された書状の文字を見る限り、蜘蛛の言葉に間違いないようだ。

zero「そんな命令聞けるかよ!!俺は戦うぜ!!!」

zeroはいつもの『w』を使うことなく声を荒げた。

エン「・・・命令だってさ。」
須佐之男「ふむ・・・確かにこれ以上被害を大きくする前に投降するのが賢い選択だろう。」

zeroとエンは須佐之男に視線を向けた。
しかし彼はニヤッとして彼らを見返して言い放った。

須佐之男「しかし我らはそんなに賢くないのでな。そんな選択はしない・・・だろう?」
zero「うはwwwさすがすさ爺wwwわかってんじゃんwwwww」
エン「ふふ・・そう簡単に負けてなんかやらないわ♪」

その言葉に二人は笑って答えた。
3人はそれぞれ伝令に手紙を渡し、王に届けるよう言って決戦の場に赴いた。


空野蜘蛛「・・・手紙?」

蜘蛛は伝令より渡された3人からの手紙を開いた。

zero『うはwww次に会ったらぶっ飛ばすwwwww』
空野蜘蛛「・・・・・(汗)」

蜘蛛はzero対策に落とし穴を掘ることを決意した。

エン『アンタだけがこの国を護りたいわけじゃないのよ。そんなことより要塞しっかり護りなさいよ!落とされたら・・・わかってるわよね♪』
空野蜘蛛「・・・・・(泣)」

蜘蛛は日頃の惨劇を思い出し、まるで濡れた子犬のように震えている。
・・・そんなに可愛くはないが。

須佐之男『我らはこれより連合軍と戦う。連絡はこれで最後となろう。無論我らは死ぬつもりはない。王も生き延びられよ。」
空野蜘蛛「あぁ・・さすが須佐之男さん。他の二人とは言うことが違うね(笑)」

読みながら『ビッ!』と親指を立てた。
・・・と伝令はもう一通の手紙を差し出した。

空野蜘蛛「・・・ん?須佐之男さんから追加?」
須佐之男『追伸。先程の戯れ言、非常に愉快だった。次に会った時には我が腕で貴公を楽にして差し上げよう。」
空野蜘蛛「・・・・・どうしてこの国にいる奴はこんなのばっかなんだ。。。orz」

蜘蛛は膝からガックリと崩れ落ち嘆く。
王のキャラで国風が決まるようだな。ある意味自業自得なのだろう。

ヘルヘイム兵「連合軍、動きました!!」
空野蜘蛛「はぁ・・・仕方ない。ちょっとは王らしいところを見せないとね。。」

言って蜘蛛は要塞を取り囲む連合軍に向かって歩いていった。
右手にスティレットを携えて・・・。


ヘルヘイム軍は必死の抵抗を見せ、辛くも厳しい戦いとなった。
しかしそれでも徐々に街へと押しやり、ようやく街の門にたどり着くことができた。
門の周りには防衛軍の残存兵。そしてその中央に3人立っている。
それぞれが覚悟を決めた表情をしている。
3人のうち1人、色黒の大男がゆっくりと右手を上げる。
連合軍、ヘルヘイム軍共にその動向を沈黙して見守っている。
そして・・・一気に手を振り下ろした!
その瞬間、怒号と共にヘルヘイム軍が突撃してくる。
その勢いは凄まじく、勝利を確信して浮き足立った連合軍の兵を蹴散らし、一気に3分の1までを突き破る!
狙いは・・・本陣!?
一直線に向かっている。まだ勢いは衰えない。

アイラ「くっ・・このままじゃ牛が・・・ッ!?」

アイラは急ぎ、攻撃を受け混乱している味方兵を押しのけて敵軍の進行方向に先回りする。
彼女が到着した時にはすでに連合軍の半分が打ち破られていた。

アイラ「・・・絶対に・・止めてみせるッッ!!」

言って敵軍を睨みつけ、待ち構えるアイラ。
そしてついに目の前の兵が倒れ、敵兵が姿を現せた!

アイラ「はぁぁぁああああッッ!!!」

敵兵が現れたタイミングに合わせ蹴りを放つ!

敵兵「・・・!?」
ガッ!!

敵兵は吹っ飛ぶ!・・・が、上手く受身を取りすぐに起き上がった。
とっさに左腕で庇いダメージを最小限に抑えたのだ。

zero「うはwwwまたアンタかよwwww」
アイラ「それはこっちのセリフよ!いい加減に負けを認めなさいよっ!!」

連続で攻撃を加えるべくzeroに向かって駆け出した。
・・・とその時!

須佐之男「そう簡単には負けられんのだよ。」
アイラ「・・・!?」

アイラは突如横から聞こえた声に驚いて振り向こうとする・・・が、一瞬後には弾き飛ばされていた。
連合軍の兵士たちに突っ込み、薙ぎ倒される。

アイラ「・・・ぅ・・くっ・・」

とっさにガードしたとはいえ、かなりの強打を喰らったようだ。
フラフラしながら立ち上がり、現れた大男を睨みつける。

須佐之男「zero、お前はこの先の指揮官まで行け。この娘は儂が引き受けよう。」
zero「らじゃーwwwす~ぐ終わらせてやるよwwww」

迷いもせずzeroは本陣に向かって走り出す。
アイラも追いかけようとするが、思ったよりもダメージが大きく反応が遅れる。
兵士たちの中から一人、zeroに向けて飛び出してきた。

ディス「させるかぁっ!!」

剣を閃かせzeroに袈裟掛けに斬りつける!
ギィンッ!!

ディス「・・・チィッ!」
エン「させないわ・・・!」

いつの間に現れたのか、双剣を交差させてディスの剣を受け止めるエン。
剣を弾いて後ろへ跳び、距離をおく。
zeroの姿はもうない。

エン「まったく・・私はzeroちゃんを庇ってばっかりね。あとで恩を着せていぢめ倒してやらなきゃ・・♪」

クスッと妖艶な笑みを浮かべながらも、その眼だけはディスを鋭く捉えている。

ディス「邪魔するんなら・・・斬るぜ?」
エン「ふふ・・やってみなさいw」
ディス「・・・そういえば前回は逃げられちまったからな。ここで決着をつけるとするか!」

言いつつ、前傾姿勢からの一撃を繰り出す。
しかしエンの姿が視界から消え去り、一瞬後に左腕に痛みが走る!
今の一瞬でエンにより斬られたのだ。

エン「遅いわね・・。そんなことじゃ一生かかっても私に触れることができないわよ♪」
ディス「ふん・・・。すぐにそんな口利けなくしてやるさ。」

左腕から血を流しながら、右手の剣を構え直す。
とはいえ、ここまで素早いと少々厳しいな。
しかもエンは『斬り込んでは退く』という、いわゆる『ヒット&アウェイ』の戦闘スタイルのようだ。
ディスの力を見る限り、一度渾身の一撃を加えることができれば戦闘不能にすることも不可能ではないだろうが・・・。
当たらねばそれも適うまい。

エン「そんな減らず口を叩けるのも今のうちだけよ♪」
タンッ!

今度はエンから仕掛けた!
高く跳び上空から双剣を振るい、ディスの右肩に軽い裂傷をつくる。

エン「へぇ・・なかなか反応良いじゃない。首を狙ったんだけどねw」
ディス「好きに言ってくれるぜ・・・。」

ディスの後方に着地し、感心したようにいうエン。
言葉を返しているが、正直動きが捉えられなかったのだろう。
首筋には冷や汗がつたっている。
今のは直感で避けたに過ぎない。
このままいけば・・・いつかやられる。
動きさえ止めることができれば・・・。
ディスは『何か使えないか』と周囲の様子を探った。
・・・?ディスの視線がある一点で止まる。

ディス「・・・・・。」

そしてすぐにエンへと視線を戻す。
しかし今までとは違い、何かを狙っている・・・そんな眼だ。
エンはそんな彼の眼の違いに気付かず、右手に持つ小剣を突きつけながら言い放つ。

エン「さてと・・そろそろ終わりにしてzeroちゃんの応援に行きますかね♪」
ディス「・・・やってみなッ!」

弾かれるようにお互いが駆け出す。ディスはいつもよりもやや低姿勢気味である。
中間地点でディスは左手の剣を左下からすくい上げるように振るう。
間合いとタイミングは申し分ない。普通ならばかわせない・・・が。

エン「甘いわッ!!」

僅かに頬を剣にかすらせながらディスの左側、視界の外へと回り込む。
そして無防備になったディスに向けて双剣を突き出す!
ディスはその体勢のまま素早く一回転する!


ギギィィイン!!!


二人とも動かない。
エンは両手の剣を突き出した状態のまま・・・。
ディスは一回転し、エンと向かい合う形の体勢のまま・・・。

エン「・・・・・バカな・・何故・・。」

先に口を開いたのはエンの方だった。
『信じられない』といった表情だ。
彼女の視線は・・・自分の両手の剣に向けられている。
彼女の剣は2本とも・・・真ん中からポッキリと折られて・・いや、斬られていた。

エン「何故そんなものを・・・いつの間に・・・。」

今度はディスの右手に握られている剣に向けられた。
『護衛獣の剣』・・・戦争前にリュシスで開発された武器だ。
その威力は世界各地に散らばっている『レア武器』と呼ばれるものに匹敵するといわれている。
先程までは持っていなかった気がするが・・・。

ディス「最後に対峙した時、俺の道具袋が落ちているのに気が付いてな。駆け出すと同時に拾ったってわけだ。・・・まぁ上手くいくかは賭けだったがな。」
エン「あの一瞬で・・・大した男ね・・・。」
ディス「この戦いで使うとは思わなかったがな。重くて俺には使い切れなかったのだが・・・コレをくれたシュウには感謝しなきゃな・・・。」
エン「・・・私の負けね。」
ディス「運が良かっただけだ。悪ければ・・・俺は死んでいた。」

そう言って剣を納め、背を向ける。
エンは不思議そうにディスを見た。

エン「・・・とどめをささないの?」
ディス「もう戦う気のない者を斬る必要はないだろう。」

その後ろ姿は司令官のいる本陣へと消えていった。
彼女は軽くため息をついて、空を見上げた。

エン「・・・あーあ、負けちゃったぁ・・・。」

その表情には寂しさや悔しさがあったが、安堵にも似たものを感じ取れた気がした。


エン「・・・そうだ。アイツがまだ戦ってたわね・・。無茶してなきゃいいけど・・・。」

しばらく佇んでいたが一つ心配事を思い出し、彼女もzeroが向かった本陣へと歩いていった。

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