「絵のための詩」

絵のための詩


―パルミジャニーノ「アンテア」―

             外光の無いアトリエで
             真空の静けさを呼吸する

             幾百年の曙光をこばんで
             官能をつかさどる巫女となり
             幾百年の恋情を涙に溶かしては
             いとけない星に含ます乳とする

             喪失を極め 久遠の有にいたるとき
             錦繍のガウンに覆われた秘めごとが
             夜目にも白い飛沫となって 
             銀河の額にほとばしる

             その瞳で もっとも多くの男を抱いた女



―デルヴォー「森の中の裸体群」―

             夜なのか 昼なのか
             夕なのか 朝なのか

             舞姫と見紛うほど しなかな腰の線を持つ少年 
             童貞を想わすほど 若やかな小ぶりの乳房を持つ母親

             白い馬 蒼い馬 黒い馬
             鉄条の樹々に囚われて 赤茶けた草を食む

             濃霧の彼方おぼろげに 藤蔓の十字架
             あるいは 幽谷の地にひそむ神経繊維の 
             雷雨のあとに浮きたつ めらんこりぃの一群





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