ひたすら本を読む少年の小説コミュニティ

2006.01.05
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カテゴリ: 春夏秋冬



さわやかな春風が窓を通って部屋にやわらかく入ってくる。

暖かな太陽の陽射しがハルの顔にふりそそぐ。

まぶしくて寝返りをうつ。

どこからか、風に乗った桜の花びらが静かに一本足の丸テーブルに降り立つ。

ハルの家を囲むように聳え立つ高層ビル群も、身を潤すように太陽の光を体いっぱいに浴びている。

ハルはまだ覚めきらない頭で朝が来たことを感じていた。

ショーケースの上においてある小さな目覚まし時計を見ると既に九時を回っている。

ハルは身を起こし朝の支度をした。

一通りの用を足す。

そして朝ごはん。

ベーコンをカリカリに、パンもカリカリに、ジャムはたっぷりと。

ピーナッツバタークリームが見当たらない。

おそらくあの男が持って帰ったのだろう。

ひどくあれを気に入っていたから。

仕方なくベーコンとジャムを交互にパンに挟む。

最後にグラスキャビネットから綺麗そうなグラスを二つ取り出し、そこにオレンジジュースを注ぐ。

丸テーブルの上、ハルの小さな食卓。

ハルはむしゃむしゃと食べ始めた。

外からは、春休みなのだろうか、子供のはしゃぎ声が木洩れ日のように聞こえてくる。

今日はいい天気だ。

雲ひとつ無い快晴。

春の青空。

蒼天。

とハルは思った。

ふと自分の体が力強いエネルギーを生み出していることをハルは感じた。

体の中でエネルギーが回転している。

ゆっくりと。穏やかに。

ハルは皿にあったパンを全てたいらげ、オレンジジュース1.5リットルを飲み干した。

そして無地の白のTシャツと、ボロボロのジーパンに着替えた。

ジーパンはもともとボロボロであったものを買ったのではなく、自然にボロボロになってしまったものだった。

幾分ごまかせなくなってきた気もするが、大した人とも会わないのにわざわざ買いに行くのは面倒だった。

Tシャツもあと数枚ある。

大丈夫。なんら支障はない。

部屋と同様、服に対してもハルはとてもシンプルだった。




ハルはレンタカーショップに電話をし、白のヴィッツを予約した。

昼ごろに取りに行く、とハルは言った。

しばらく運転はしてない。

記憶を頼りに勘を取り戻さないと。

あいつは良く飲む。

帰りは運転できないだろう。

自分がやるしかない。


ハルは約束の時間の二時間ほど前に家を出た。

家の鍵を、唯一育てている植物、マーガレットの植木鉢の下に隠した。

簡単な隠し場所だったが、ハルの家に入ろうという物好きをハルは想像できなかった。

現金はいつも持ち歩いているし、持っているといっても万札が2,3枚程度。

わざわざ人を襲ってまで手に入れる金ではない。



目的地まで歩いて向かった。

歩けば相当な距離があることはわかっていたが、ハルは歩くことを選んだ。

べつに歩くことは自分にとってそれほど苦な事ではないし、春の訪れた町をのんびりと歩きたいという意志もあった。

二時間というのはハルの気持ちだった。

町には人がゴミのようにいた。

近くでお祭りをやっているらしい。

三年か四年に一度の大きなお祭りで、毎年春のこのくらいの時期にやる。

軒並みに続く屋台。

お面や、風車、綿菓子、犬を売っている屋台もあった。

神輿をかついだ体の大きな男達が、掛け声にあわせ歩いてくる。

沿道からは女達がバケツに入った水を男達にかけていた。

その度に男達の声は大きくなり、活気に満ち溢れた。



人々は幸せを顔いっぱいに広げて、楽しんでいた。



しかし、ハルにはまったく興味がもてなかった。

何故彼らが嬉しそうに歩いているのか、そのようなことを考えることにも興味が持てなかった。

ハルは春の朝が見たかったのだ。

そのためハルは気分を幾分か損なわれた気がした。

ひどい。



一時間も早くレンタカーショップに着いた。

店員の女性は時間を間違えたと思ったのだろう。

気を利かせて、ゆったりとしたソファーと暖かいホットコーヒーをハルにサービスしてくれた。

「時々他のお客様でもこういうことがあるんですよ。」

とやわらかな笑顔を顔に浮かべて彼女は言った。

「そうなんですか。」

とハルは言った。

女性はふっくらとしていて、ピッチリと規則正しく制服を着ていた。

「あと、本当にすいませんね。いつもは予約された時間の一時間前には確実にここに着いているんですけど、今日はちょっと遅れてしまっていて。」

と今度はとても残念そうな笑顔を顔に浮かべて彼女は言った。

なんで残念そうなんだろう。

とハルは思った。

「いや、いいですよ。元はといえば早く着すぎてしまったことが間違っているんですから。ソファーだけでなく、おいしいコーヒーまでご馳走していただいて、こちらこそお礼を言わなければいけない。」

「嫌だわお礼だなんて。」

ハルがそう言うと、女性店員は少し照れてから満面の笑みを浮かべた。

「今日はどちらに向かわれるのか訪ねてもいいかしら?」

と彼女は言った。

「ちょっと気晴らしに友人とドライブ。ほとんど車に乗らないから自家用車を持ってないんです。」

「いいですねぇ。是非ごゆっくり街の風景でもご覧になって楽しんできてください。楽しむときは楽しまなきゃ。あ、今車が着きました。三十分遅れ。後で厳しく言っておきます。」

「ではこちらで契約のご確認を。」

ふっくらとした女性店員はカウンターへ向かった。

ハルも席を立ち、カウンターへ向かった。













ハルは夢を見る。


暗闇の中ハルが一本足の丸テーブルに座っている。

丸テーブルに置かれたランプがゆらゆらとハルの顔を照らしている。

ハルはしきりに何かを喋りかけるが口が開くだけで言葉は出てこない。

いつからかハルは涙を流している。

いつからかハルは自らの鋭い爪を体に喰い込ませている。

いつからかハルは歯を食いしばっている。

いつからかハルは暗闇に飲み込まれていく。

いつからかハルは意識だけになる。

暗闇を漂うだけ。

何も感じない。

突然大きな開き窓がハルの目の前で開く。

顔の無い男が闇の中からこちらへ歩いてくるのが見える。

そして彼は眼球の無い眼窩でハルを見つめる。





ハルはその男に笑いかける。






































すいません。楽天の編集機能がおかしくてページが更新できませんでした。
それによって下記の二つのコメントが消えてしまいました。
よって以下に掲載させていただきます。
べつに気分が悪くて消したんじゃないので誤解しないで下さいね 笑



相変わらず、、、 toru0375さん
先が気になりますね~~~♪(2006.01.05 12:58:51)






なんだか sherrie(しぇり)さん
ザワザワと胸騒ぎ。
続き、楽しみにしています。
ご自身のペースで執筆なさってくださいね^^
私も「邪魔」が入ると書けなくなるです。。。
(2006.01.05 20:56:40)








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Last updated  2006.01.06 11:02:35コメント(0) | コメントを書く
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