雅の日記~お気楽生活をめざして

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2012年10月02日
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カテゴリ: 読書録
村上春樹の『1Q84』を週末に読了した。


「いつもの春樹ワールドっぽくない」ということで、ファンの間からは毀誉褒貶出ているようだ。個人的には
「どうして登場人物を紹介するのに、まず詳細な服装の説明からはじまって、次に食べ物を食べさせたり、料理を作らせるのだろう」
「セックスの描写ばかりで飽きる。中途半端な描き方するくらいなら、渡辺淳一さんに任せなさい」
「描写にクラシックがよく出てくるので、クラシック好きはたまらないだろうなぁ」
ということをまず第一に感じた。

これは表面的なことなのだが、作品の内容に対しての感想といえば、「村上春樹と言う国民が狂奏曲を奏でるような人気を誇る作家の作品ですら、現実を超えられなくなったんだな」ということだった。

『1Q84』というお話の下敷きには、村上春樹がオウムを取材し、それに対する視点が練りこまれている。小説『アンダーグラウンド』やオウム信者インタビュー集『約束された場所で―underground 2』でも村上春樹はオウムを題材にしているけれども、本書はオウムに惹かれる人の持つ「空気感」を表現しようとして、「さきがけ」という教団を登場させている。


ただ、ここの掘り下げ方が浅くて、少し残念だった。
オウム、エホバというモチーフが抱えているものを表面的にさらっただけで、そこの信者の心の動きとか、なぜそういうものに惹かれるのかとか、これら宗教に帰依した人は普通の人に見えない何を見ているのだろうか。その感情の「ゆれ」が、あまり描けていないような気がした。

それは自分がそれらの宗教に携わる人たちと会ってきている経験があるからなのかもしれない。
小学生では私の周りにはエホバの信者を親に持つ友人がいて、体育でケガをして出血したとき、交通事故に遭ったときにはものすごく大変だった。
中学時代はオウムの修行道場が近くにできた。ある日、通学路に昨日まではなかった、教祖の写真を入れたステッカーが家の近くから学校まで、等間隔で貼られていた。まるで私の居所を
知っているかのように。なんだか気味が悪かった。

高校に入ると、今度は名古屋の友人がオウムに入ったと信仰告白をし、やがて出家してしまった。それをやめようと何度も手紙を出したのだが、だんだんその手紙をやりとりする間隔が短くなり、書かれた文字がペンから鉛筆に変わり、封筒がはがきになった。
友人宛に投函してから2日後に消印のない返信が届き、私の住んでいる家の近所にある道場に行って、話をして欲しいと書かれていた。
そこで私が話をした人は、地下鉄サリン事件の後、逮捕され、ワイドショーに何度も名前と、経歴が出てきた。

大学時代は、出家信者になった息子の脱会を手伝ってくれと、カナリアの会に所属する女性に懇願され、面識もないのに、一晩説得したことがある。

私がかかわったそういう信者さんのことを考えると、なんだかずいぶん村上春樹の本は、その宗教たちがただのモチーフでしかない本の中に出てくるような信仰に触れた人たち、あるいは虐待を受けた人たちが読んだら、哀しい気持ちになるんじゃないかな、と思った。


私は十五夜だということを思い出して、窓を開けてベランダに出た。
数時間前に台風が通り過ぎたせいで、雲はほとんどなく、目の前に白くて大きな月が、いた。

月は1つだった。
しばらくみていたけれど、1つのままで、少し安心した。





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最終更新日  2012年10月02日 15時26分08秒
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