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末期がんの父、娘がすがった「自然療法」
高齢の父親が末期がんで余命1カ月の宣告を受けた。わらにもすがる思いで娘が頼ったのは「がんは治せる」とうたう自然療法だった。なけなしの500万円を支払って施設に預けたが、父親はすぐに体調を崩し、8カ月余り後に亡くなった。娘は「弱みにつけ込んだ詐欺的商法だ」として、返金や慰謝料を求めて裁判所に訴え出た。
間もなく80歳になろうとしていた父親は前年に肺がんが見つかり、放射線療法や化学療法を経て、自宅での緩和療法に切り替えていた。
余命1カ月の宣告を受けた後、娘はがんに効くというサプリメントを知人から勧められ、父親に飲ませてみた。すると、それまで悩まされていた便秘が解消し、心なしか顔色も良くなった気がした。
効果を信じた娘に対し、サプリを勧めた知人は「患者自身の治癒力を高めてがんを治す」という自然療法を紹介した。娘が連絡を取ると、先生と呼ばれる男性は電話口で「がんで人間は死なない。一緒にがんばりましょう」と自信ありげに強調した。
■寄付金名目で「先生」に500万円
娘は、男性の指導の下で食事療法やマッサージなどを受ける施設に父を預けることを決めた。費用は「寄付金」の名目で500万円。父の介護に専念するため大手金融機関を辞めていた娘は、退職金や貯金をつぎ込んで資金を捻出した。
施設に入る当日、施設と提携しているという医師が父を診察して「助けるのは不可能だ」と告げると、居合わせた「先生」は「それは西洋医学の見解だ。自然療法なら治る可能性がある」と力を込めた。娘には男性が頼もしく見えた。
施設での食事療法は、玄米食や発酵食品、無農薬の果物などを中心とする内容。父親も入所翌日から玄米食を始めた。ところが、効果があるどころか、わずか1日で肺炎を発症してしまった。飲食の際の誤嚥(ごえん)が原因の可能性もあった。
肺がん末期の肺炎は完治の望みが薄く、致命的になる恐れもある。娘の心に不信感が芽生えた。「どの患者も3週間で治すと言いましたよね」。男性に問いただすと、「治るのは本人の自然治癒力によるもので、私が治せるわけではありません」とかわされた。やりとりの中で娘は初めて、男性が医師免許を持っていないことを知った。
「先生」への信頼を失った娘は入所9日目に父親を施設から出し、地域の中核病院に移した。数日後に意識を回復した父親はそれから8カ月後に息を引き取った。
娘は施設の運営会社や「先生」を相手に提訴し、「がんが完治すると信じ込まされ、500万円をだまし取られた」と主張した。法廷では「父が治る可能性が少しでもあるならという気持ちで、そのときは信じてしまった」と悔しさをにじませた。
対する施設側は「がんが必ず治るなんて言っていない」と反論。「そもそも施設は治療目的ではなく、末期がん患者の死亡を前提に負担軽減を図るターミナルケア施設」と説明した。
■裁判所、「詐欺的商法」とは認めず 支払金の返還は命じる
裁判所は「証拠からは『100%完治する』と述べたとは認められない」とし、詐欺的商法だとする娘側の主張は認めなかった。しかし、「医学的な裏付けがあると患者が誤解しないように、自然療法を勧誘する場合は具体的な治療法を説明する義務がある」と指摘。説明義務の違反によって娘側は期待した対応を得られなかったとの理由で、運営会社の代表と男性に連帯して慰謝料30万円を支払うよう命じた。
さらに、寄付名目の500万円については「自然療法が実施されて契約が円満に終わることが前提だった」と判断。「実際は満足のいく施術が行われないままわずか9日間で退所した」として、必要経費を差し引いた354万円を返還するよう運営会社に命じた。
双方から控訴はなく、判決は確定した。
「先生」は法廷の証言台に座っても「空気の吸い方から音楽の聴き方から全部言うことを聞いてくれれば、末期がんでも免疫力が刺激されて治るケースがある」と持説を展開し続けた。著書を見ると「がんはすべて治る」と威勢のいい言葉も並んでいる。
代理人の弁護士の法廷戦略はもっと現実路線だった。裁判所に提出した書面には「現在の世の中でがんが必ず完治すると言ったり信じたりするのは新興宗教の教祖と信者くらい」と記されていた。
(社会部 山田薫)
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