売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2024.11.16
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10月後半、中国アパレル経営者日本研修ツアーのお手伝いをしましたが、このとき紳士服アパレル最大手ヤンガー集団は4人の幹部を派遣してきました。ヤンガー集団は李如成総裁が一代で築きあげた創業約50年の会社。アパレル部門は中国内トップの売上、ほかに不動産など多角経営しているのでグループ全体では推定2兆円規模と聞いていますが、そんな大企業が副総裁クラスを日本研修に送るのです。問題意識のある真面目な会社と思います。

ヤンガー集団の本社は上海の南側、浙江省寧波市にあります。寧波には競合大手アパレル杉杉(シャンシャン)集団もありますが、私は前職官民投資ファンド社長のときに杉杉集団幹部と接点がありました。阪急阪神百貨店のH2Oリテイリングと杉杉集団が協力して新規開店するショッピングモール阪急寧波への投資が接点でした。




私もこのプロジェクトが持ち込まれる前まで、寧波が隋、唐の時代から国際港だったとは知りませんでした。聖徳太子が送った遣隋使は寧波港で下船して隋の都だった長安(現在の西安市)まで旅したとか。また名僧鑑真は寧波港から日本行きを何度も試みては失敗した末最後に成功して日本に帰化し、麻雀は日本行き船中で時間を持て余す中国人たちが考案したゲームだそうです。そんな寧波市が歴史ある国際港だったとは、阪急プロジェクトに関わるまで全く知りませんでした。

経営者として私が責任を負った投資案件の中で最も多額の資金提供したプロジェクトがこの阪急百貨店を中核とするショッピングモール計画、巨額ゆえ失敗は許されませんでした。なので出資を決めるまで、さらに最終的にオープンするまで、H2Oリテイリング椙岡会長、荒木社長、現場責任者とは何度も打ち合わせを重ねました。


阪急寧波全館オープン時の様子


阪急寧波のトトロ


スーパーマリオもお出迎え


デパ地下にはH2O系列のスーパー泉屋


中国でも獺祭は人気

最初に合意した点は、集客のためには主だったラグジュアリーブランドをズラリ揃える、そして日本の優れものや美味しいものを地域社会に浸透させる、でした。まずラグジュアリーブランドを一通り揃えないことには消費者の間でショッピングモールの格は上がらず集客できません。格が上がらなければ日本の生活文化産業を中国市場に浸透させることはできないのです。

阪急寧波がオープンする前、中国のみならずアジア各地には日本の百貨店が店舗を構えていました。が、どれもお客様で賑わっているとは言えない状態。なぜならそれなりの所得階層を集客するためにはお店の格、つまり市場における高感度ポジショニング戦略が欠かせませんが、日系百貨店にはラグジュアリーブランドが揃っている店はありませんでした。当時これらが揃っているのは唯一シンガポール髙島屋ショッピングセンターだけでした。

1つか2つメインフロアにラグジュアリーブランドのショップがある日系百貨店はありましたが、導入ブランドの大半は外資ブランドでもラグジュアリーと呼べないボリュームゾーンに毛の生えたポジションにあるもの、これではお店の格は上がらず、富裕層の来店は期待できません。そもそもそれなりの所得階層でなければ百貨店という器で買い物しませんから。

そこで、多額の投資をする側の意見として、新規オープンする阪急寧波にはラグジュアリーブランドを多数導入することを提案しました。

大阪の阪急梅田本店ならラグジュアリー企業との交渉は簡単でしょうが、これから建設する新規店舗、しかも上海、北京、広州、深圳のような一級都市ではない中国地方都市ですから交渉は容易ではありません。中国やアジア本部のあるシンガポールで出店交渉を重ね、パリ、ミラノ本社トップの了解も得る必要があり、予想通り交渉は難航しました。なかなかブランド側の了解が得られないので、最後にはH2Oのトップに「あなた自身がパリに出張してトップ同士で交渉してください」ときついことを申し上げたこともあります。




阪急寧波総合受付

予定より遅れること約3年、阪急寧波は晴れてオープンしました。開店景気もあってモール全体で予算比の2倍、ルイヴィトン、エルメス、グッチ、プラダ、サンローラン、ロジェヴィヴィエなどが並んだメインフロアは予算比の3倍の売上の報告に、すでに私は投資ファンド社長を退任してはいましたが大喜びでした。が、またも国会ではお叱り。「外国ブランドばかり売ってどこがクールジャパンなんだ!」、と。

正直言って、ファッションビジネスを知らない国会議員の言う通りに海外ビジネスしていたら、せっかくのチャンスを逃してしまいます。まずはモールへの集客が最優先、お客様が来なかったらいくら日本の優れものや美味しいものを集めても評判にはなりません。何度もモールに足を運んでくださるそれなりの所得階層を顧客化する、その上で日本の食料品、総菜、化粧品、雑貨、家具、アニメ漫画、ゲームソフトやキャラクターグッズを販売してファンを広げる、海外日系商業施設におけるクールジャパン戦略はこの方法しかないんです。

いまの都内百貨店を見れば同じことが言えます。百貨店内のラグジュアリーブランドのインショップに行列を作っているのはどういうお客様でしょう。いま物価高が問題になっている中、売上が伸びている要因は海外からのお客様のラグジュアリーブランド消費、そのおかげで都心店は過去最高の売上を記録していますよね。もしもラグジュアリーブランドの導入数が少ない百貨店ならば、インバウンド消費は見込めず館全体の売上も伸びません。

「買い物しているのは外国人ばかりじゃないか」と批判的意見の方もいらっしゃいますが、ロンドン、パリ、ニューヨークなど世界主要都市の高級デパートや都心型モールを見てください。どこもラグジュアリーブランド購入の外国人の売上に支えられているのが現実なのです。コロナ明けで東京はインバウンド客数が再び上昇、やっと欧米主要都市並みになりつつあるのです。円高が続くこともプラス要因でしょうが、日本でラグジュアリーブランドを買うのはインバウンド客の旅の喜びの一つと言っても過言ではありません。


メインフロアにはエルメスはじめラグジュアリーが並ぶ


全館オープン時の賑わい

そして見落としてはいけないのは、消費欲旺盛なインバウンド客はラグジュアリーブランドのみならず、日本のコンテンツ産品、伝統的雑貨や食料品にも高い関心を示しているのです。彼らのおかげで美味しいラーメン店、たこ焼き屋、寿司店やてんぷら屋はこれまで以上に行列ができていますし、合羽橋の道具屋商店街も築地の元場外飲食街も新宿ゴールデン街も池袋サンシャイン通りも、インバウンドで大変賑わっています。つまりラグジュアリーブランドを爆買いする外国人は、クールジャパン戦略の一環として世界に広めたい日本の優れものや美味しいものも消費し、日本のディープな街をSNSで世界に拡散してくれるのです。

阪急寧波オープン時に批判した国会議員の皆さん、世界の主要都市の商業施設を歩いてください。合羽橋商店街や池袋サンシャイン通りをしっかり歩いてください。銀座や新宿でブランドのショッパーを持って歩く外国人がどこに向かうかをよーく観察してください。日本の消費全体を底上げするためにもクールジャパン戦略をさらに推進するためにも、ラグジュアリーブランドの役割は決して小さくはないのです。





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Last updated  2024.11.22 01:19:29


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