売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2023.04.01
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セブン&アイのそごう西武売却の話が再び延期されたニュースに驚いています。売却予定先の投資グループが傘下のヨドバシカメラ出店を池袋西武に計画していることに対し、豊島区長らが猛反対、ビルの地主である西武鉄道も反対表明、セブン&アイは簡単に売却できそうにないようです。が、長期政権だった高野区長が先日急逝し、この先売却の話はどう進むのかわからなくなりました。




業界の若手の方はご存知ないでしょうが、1970年代からヨーロッパのトップブランドをライセンス提携の日本製でなく直輸入オリジナル品を販売していたのは西武百貨店だけ、ほかの百貨店はロゴをつけた日本製ライセンス商品でした。エルメス、サンローラン、ソニアリキエル、ミッソーニ、アルマーニ、ジャンフランコフェレ、ウォルターアルビニ、池袋西武にはオリジナル品の人気ブランドショップがズラリ、当然価格は飛び切り高く、私のような豊島区在住の一般人にはちょっと高嶺の花でした。

いまは本国が日本法人を直轄経営していますが、日本上陸当初は西武百貨店がジャパン社設立をサポート、エルメスジャポン社はじめ西武の関係者が日本法人の代表を務めていました。だから西武百貨店はまさしく日本のファッションリーダーだったのです。その西武百貨店の売り場の複数階にドーンとヨドバシカメラが入る、区長でなくてもちょっと抵抗があります。豊島区民として私もこの話には反対です。


アムステルダムの中心地ダム広場にあるバイエンコルフ


投資ファンドが売りに出ていた百貨店を買収するケースは欧米ではたくさんあります。かつてニューヨーク五番街サックスフィフスアベニューはバーレーンの石油系投資会社、ロンドンのハロッズは同じく中東カタール投資庁が現在も所有しています。投資ファンドが買収して大改革を進めたら滅茶苦茶な状態になった事例も少なくなく、その典型的な事例がオランダ首都アムステルダムのバイエンコルフです。

投資の世界では有名な米国投資ファンド(そごう西武売却のニュースの際にも売り先候補として名前があがった会社)がバイエンコルフを買収、人員整理も含め徹底的にコストカットを進めた結果、従業員のやる気は失せ、お客様の信頼はなくなり、ブランド側は取引をやめ、見るも無残な状態に陥ったとオランダ人の元従業員たちに聞きました。買収した投資ファンドは恐らく百貨店を早くブラッシュアップして高く売却するつもりで買収したのでしょうが。

そのボロボロのバイエンコルフを引き継いだのが、英国セルフリッジ百貨店を傘下に持つ資本でした。かつて古臭い大衆店だったセルフリッジをファッションに強いおしゃれな百貨店へと再建したグループが登場したことで、バイエンコルフは見事に立ち直り、いまではヨーロッパの主要ブランドをズラリ並べる高級百貨店として繁栄、アムステルダムに進出してきた北米の巨人ハドソンベイを駆逐しました。


ドリスヴァンノッテン、バレンシアガなど展開する婦人服フロア


サカイの名前もありました


気持ち良いフードコートのフロア

壁面にはLED栽培の野菜も

池袋駅にあった小さな百貨店を受け継いだオーナー社長の堤清二さんは文字通り日本の流通業の革命児でした。他社がライセンス商品を販売している中でオリジナル商品を直輸入して西武百貨店の地位を固め、「おいしい生活」をはじめ多くのシンボリックな広告を打ち出し、パルコを創設して若者文化を牽引、西友ストアでは無印良品を誕生させ、WAVEやLOFTのような新業態にも着手、セゾンカードを大きく伸ばし、セゾングループは一大流通企業に成長しました。

しかし、いろんな不幸が重なり、西武セゾングループはあっけなく崩壊しました。グループの中核そごう西武はセブン&アイに引き取られましたが、セブン&アイの物言う株主の圧力で再び売却されることになり、投資ファンドが登場することになったのでしょう。日本の生活文化をリードしてきた企業がいつの間にかマネーゲームの中で道具のように扱われ、セゾングループの功績には全く興味なさそうなゲームプレイヤーたちが走り回る。従業員やベンダー、テナントの人々はどんな思いでいるかは軽視、無視なんでしょうね。






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Last updated  2023.04.02 22:51:36
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