売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2023.07.15
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古いパソコンの保存画像を整理していたら、10年前パリコレ出張したときにプランタン百貨店で撮影したCHLOÉ(クロエ)プロモーションの写真が出てきました。クロエは創業者ギャビー・アギョン(1921~2014年)から何人もクリエイティブディレクターが交代していますが、その割に世界観は大きく変わっていない珍しいブランドだな、と改めて思います。






そもそもクロエの服を私が初めて目にしたのは1974年、当時世界各国で活発なウール振興事業を展開していた国際羊毛事務局(ウールマーク)の業界人向けセミナーでした。このときパリで人気急上昇中と紹介されたカール・ラガーフェルドのクロエとケンゾー(高田賢三さん)の新作を初めて見せてもらい、大学生だった私は感動したことを覚えています。

ブランド中興の祖であるカール・ラガーフェルド以外にこれまでどういうデザイナーがクロエに関わってきたのか、ネット検索をしてみました。1963年にカールがクリエイティブディレクターに就任して以来今日まで随分多くのデザイナーが関わってきたんですね。しかも、カール以外はほとんどが短期間務めて退任して(もしくは解任させられて)います。


クロエ時代のカール・ラガーフェルド(クロエHPより)

1952年 創業
1963年 カール・ラガーフェルド
1988年 マルティーヌ・シットボン
1992年 カール・ラガーフェルド復帰
1998年 ステラ・マッカートニー
2002年 フィービー・ファイロ

2009年 ハンナ・マックギボン
2011年 クレア・ワイト・ケラー
2017年 ナターシャ・ラムゼイ・レヴィ
2020年 ガブリエラ・ハースト




2012年秋パリで開催されたクロエ回顧展

そして、2020年からディレクターを務めるガブリエラ・ハーストの退任が先日発表されたばかり、またもや短命です。9月のパリコレ2024年春夏シーズンが彼女のクロエ最後のコレクションとなりますが、どうしてカール以外のデザイナーはみんなこうも短命なんでしょう。

しかしながら、こんなにコロコロ交代しているのにクロエのフェミニンなブランド世界観はほとんど変わらず、歴代デザイナーによって引き継がれていますから、なんとも不思議なブランドと言えます。

近年の人気ブランドの継承劇を見ていると、後継指名されたデザイナーは自分のカラーを打ち出すこととブランドDNAを守ることの狭間で揺れているケースが多いように感じます。ブランドによってはDNAは全否定、イメージチェンジを狙って既存のお客様から見放され、新規顧客を獲得する前にブランドを追われてしまうデザイナーは少なくありません。

デザイナー交代ブランドを見るとき、いつも思うことがあります。既存ブランドを引き継ぐのであれば、後継デザイナーはブランドのこれまでの軌跡をしっかり検証し、ブランドDNAは最低限継承した上でクリエーションすべきではないか、と。それを無視して自分のキャラクターを前面に押し出したいのであれば、既存ブランドを継承せず、自らのブランドで自由にクリエーションすればいいのではないでしょうか。


2013年春夏CHLOEコレクション

かつてブランド継承劇を当事者として目の当たりにしたとき、私は後継デザイナーに「ブランド世界観の中であなたの信じるデザインをしてください。売れる売れないは考えなくていい、それはマーチャンダイジングを担う我々が考えることですから」と最初に話ししました。先駆者が築いたブランドDNAを守ることを前提に自分が信じるクリエーションをして欲しい、ショーで発表したものは必ず作って販売、売るのが難しそうなものでも絶対に生産中止にはしない、と約束しました。

私はこれまで多くのデザイナーといろんなプロジェクトに関わり、若手たちにたくさんアドバイスもしてきましたが、「もっといい服を作って」と言うことはあっても、「もっと売れる服を作って」と言ったことはありません。ブランドビジネスではものづくりチームが納得いくクリエーションをすればいいし、ビジネスサイドがクリエーションに口を出すべきではない。しかしどの商品をどれだけ生産するかの判断はマーチャンダイザーの領域、デザイナーは口を挟むべきではないと私は考えます。






抜擢されたデザイナーとマネジメント側がブランドDNAをどうするのか最初に十分話し合い、合意してコレクション制作がスタートすれば解任トラブルは少なくなるでしょうし、カールとクロエやシャネル、フェンディのように蜜月関係は長く続くと思います。が、デザイナーとブランドのマネジメントとの不幸な別れが多いのは、最初にきちんと協議していないからではないでしょうか。​

このところ世界で名の通った欧米ブランドのデザイナー退任ニュースが次々発表されます。5年にも満たない、まるでお役所の人事異動のような交代続き、それぞれ事情はあるでしょうがあまりに早すぎます。ブランド側はしっかり話し合ってデザイナーがロングスパンでクリエーションできる環境を整え、デザイナー側はブランドDNAを受け止めてブレないコレクションを制作してほしいですね。





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Last updated  2023.07.16 12:00:18
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