自分探しの心の旅

　で私はカルネーの娘に会ったのでございます。私はその娘に...、
　そうのう...」

　「なるほど、そうか。その娘が好きになったのだな。恋か。べつ
　に高邁な理想ということでもなかったわけだ。恋ゆえに、平凡な
　ラクダ使いも、勇敢な戦士になりたいということか。しかし、カ
　ルネーは金持ちだぞ。彼の娘とラクダ使い？こりゃ釣りあわぬ。
　だが、彼の娘と若くてハンサムな金持ちの商人...、フーム、こう
　なると話はべつだ。よろしい、よろしい。我が勇敢な戦士よ。お
　前が商人として、第一歩を踏みだすために、手を貸してやろう」


　若者は主人から上等のローブ（主に上下が一続きになっており、
　袖のついているワンピース形式のゆったりとした外套）を一つ売
　り物として受け取り、修行の行商に出ます。

　しかし立ち寄った街の住人はみな冷たく、まったく売れませんで
　した。


　「結局、私は商売に向いていないのかもしれない。ラクダの世話
　をして、その賃金をもらって生きるのが分相応なのか？」


　街の安食堂で食事をしながら若者は落胆していました。それでも、
　娘の顔を思い浮かべると勇気をふりしぼり、明日こそ売ってみせ
　ると誓って店を出ます。


　夜もふけて、野宿のためロバのつないだ洞窟へ歩いていくと、そ
　の洞窟の中から、わずかに灯りがもれているのに気がつきます。

　盗賊!?...。おそるおそる中を覗いてみると、むさくるしい顎鬚を
　はやした男と若い女がいました。傍らには、石のくぼみを利用し
　た飼葉桶の中で、小さな口を開けたり閉じたりして笑っているよ
　うに見える赤ん坊がいました。

　男と女は、自分の上着を赤ん坊に与え寒さに震えていました。

　その姿があまりにも哀れで、若者は赤ん坊から彼らの上着を取り、
　売り物のローブで、その赤ん坊を包みました。そして、そっと元
　の場所に寝かせます。

　それを見た赤ん坊の母親は、「ああ」と声にならない声をあげる
　と、若者に抱きつき頬にキスをしました。

　そのキスの感触を頬に残したまま、若者は空っぽの袋をくくりつ
　けたロバと一緒にトボトボと帰路についたのです。

　彼の頭上に、異様に輝く星がありました。

　それを見上げる若者の頬を、はらはらと涙が流れ落ちました。


　主人は、ひときわ輝く星がベツレヘムの方から少しずつ近づい
　てくるので、その夜は眠れずにいました。

　そして、その星がちょうど商隊のテントの真上にきたとき、若者
　がロバをつれて帰ってきたのでした。


以上、オグ・マンディーノ著『 地上最強の商人 』より引用とアレン
ジのショートストーリーでした。


メリークリスマス!!



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