王様の耳はニャンコの耳

王様の耳はニャンコの耳

2026.07.04
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今日のような、優しい雨の日は大好きだ。

リビングから見る外の景色は、

田植えを終えたばかりの田んぼが広がっている

雨が水面に落ちるたびに、いくつもいくつも、綺麗な波紋の輪ができる。

その様子は、ずーっと見ていても飽きないくらい楽しい。

そんな雨の日の庭を眺めるのが楽しみなのだけれど、

我が家の庭には大きな備前焼の壺が2つ置いてある

実家の父は備前焼を集めるのが大好きで、たくさんコレクションしていた

父が亡くなり、実家の片付けをするとき、

この大量の備前焼をどうしようかと頭を悩ませた

結局、3分の2以上はメルカリに出品した

そんな中で、売らずに残した備前焼がある

価値は私にはよくわからないのだけれど、

「これは好き」と直感で思ったものだけを手元に残した

中でも大きな壺の備前焼を2つ

父が「これが一番高価だ」と言っていたものだ

値段を聞くたびに毎回金額が変わっていたような気がするので、真実のほどは定かではない。


最初は、家の床の間に飾っていた

でも、その大きな備前焼の壺は、なんだか我が家の床の間にはちっとも似合わなかった

そもそも床の間なんて、普段毎日見るところでもなければ、熱心にお掃除する場所でもない

なんだか、その大きな壺が、薄暗いところで埃をかぶってとても不憫に思えてきた

ある日、本をパラパラと読んでいたときのこと

備前焼の壺が、庭先にポツンと置かれている写真を目にした

その佇まいが、すごく、すごく自然で、素敵だったのだ

「あの大きな備前焼の壺を、庭に置きたい」

「木のそばに置いて、毎日リビングから眺めたい」

しかし、そのまま庭に出せば雨水が溜まってボウフラの温床になるのは目に見えている

私はネットで見つけた、コンクリートや陶器に穴を開けるという「ダイヤモンドドリル」を

Amazonでポチり、壺の底に穴を開けるという暴挙……いや、大作戦に出たのだ。

まずは別の花瓶などで何個も何個も穴を開ける練習をした

(ちなみに、そのとき練習台になった花瓶たちも、今は立派に庭で現役として活躍している)

「よし、いよいよ本番だ」

ドキドキしながら、あの大きな形見の壺をセットする

最初にドリルの刃を当てる場所が、とにかく肝心なのだ

ここで少しでも手元が狂えば、仕上がりがガタついたり、最悪の場合、パリンと割れてすべてが水の泡になる

正真正銘、一発勝負

私は大きく息を吸い、そして止めた

……ウィン、と鋭い音を立てるドリルに全身の力を込め、一気に穴を開けた


終わった瞬間は、緊張の糸が切れて、ぐったりしてしまった


もし、天国の父がこの光景を見たら、一体どんな顔をするだろう

「お前、ワシの宝物に何てことをしてくれるんや!」って、ものすごく怒るに違いない

そう思うと、なんだか可笑しくて、ちょっとニヤリとしてしまった

こうして無事に穴の開いた備前焼の壺は、いま、リビングから一番よく見えるお庭の特等席に並んでいる。

晴れの日も、雨の日も


朝、リビングのカーテンを開けて庭を見るとき、私の目には必ずその備前焼が映る


特に、今日みたいな雨の日は格別だ

空から降る優しい雨と、備前焼の壺の肌がしっとりと馴染んで、キラキラ、キラキラと光っている。

備前焼というのは、水に濡れると本当に表情が豊かになる

もし、これが自分で高いお金を出して買ったものなら、怖くてこんな風に庭に放り出すような真似は絶対にできなかったと思う

けれど、床の間の片隅で、誰の目にも留まらずにじっとしているよりも

こうして特等席に置かれて、毎日私が眺めては、「お父さん、今朝も綺麗に濡れてるよ」と

ちらっとでも父のことを思い出す時間があること

それこそが、この備前焼にとって、一番意味のある生き方のような気がしているのだ

雨の日の備前焼は、とても美しい







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最終更新日  2026.07.04 15:58:12


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