彼との出会い



彼との出会い



アメリカに来て半年後、ルームメイトに誘われてあるゲームを見に出かけた。

あるゲーム。

それはガレッジ・フットボール。

アメフトだった。

「え?! フットボール見たことないの?! そんな人この世界にいるんだ?!

 今日はホームゲームなんだよ! 連れて行ってあげるから、さあさあ準備して!」

かなり強引で、かなり強制的な彼女のお誘い。

”今日がホームゲームだってことぐらい知っているわよ!

だって先週からみんなの話題はそればっかり。

TVだって、新聞だって、散々取り上げられてて、嫌でも目に入ってきてるわよ!”


せっかくのお誘いにも関わらず、ちっとも乗り気でない私。



スタジアムに着くとそこは既に超満員。

「これってうちの大学のゲームだよね? プロのゲーム? なんでこんなに人がいるの?」

「呆れた。 リコ、あなた何も知らないのね。 とにかくここに座って、座って。 

 私達の大学がどんな大学で、このチームがどんなチームなのか、まずはそこから教えなきゃね!!!」

目の前で繰り広げられる、男の格闘技・・・ 隣で説明しまくり、興奮しまくりの彼女・・・

そのゲームが終わったとき、

”攻撃は4回あること。 その間に10ヤード進む必要があること。” これくらい、わかるようになっていた。



その日のゲームはうちの大学の逆転勝利。

スタジアムは異常な興奮に包まれ、熱くなった観客が試合後も騒いでいた。

「今夜は盛り上がる!!!」

あちらこちらから、そんな熱い熱い叫び。

「早く帰ってシャワーしなきゃ! リコも行くでしょ? 当たり前よね!」

またもやかなり強引で、完全に強制的な彼女のお誘い。

「はい、はい。 行きます、行きますよ。」

”アメフトなんてどうでもいいけど、パーティーなら・・・まあいいか。”

速攻でシャワー、速攻でメイク、でもしっかりメイク!

”いつ、どこで、どんな出会いがあるかもしれない。

そして、それは私の人生の財産になる出会いかもしれない。

だからこそ、第一印象は大切。

そう『何事もはじめが肝心』だから。”






一時間後、ルームメイトに連れられてきたある家。

”これぞ富豪の家!!!!”と言わんばかりの趣。

「うちの叔父さんの家なの。 ホームゲームの後はこうしてみんながここに集まるのよ!」

”私のルームメイトって一体何者なんだ?”

家のあちらこちらを見れば見るほど、その疑問が沸いてきた。

「あらーあなたがジェシーのルームメイトのリコね? なんて綺麗な黒髪かしら!

 まさにアジアンビューティーね! おほほほほーーーーー」

マティーニを手にした明るい叔母さまがビックハグをくれながらそう言った。

「叔母さん、リコね今日が初めてのアメフト観戦だったのよ! 信じられる?!」

「あら~そんな人いるの? 信じられないわ! どうだった? 楽しかったでしょう。

 今日は特に良かったと思うわ。 ほら、あのタッチダウン!」

「そうよね! 彼は最高! でもその前のパスよ、パス!」

あっけに取られる私をよそに、二人はどんどん盛り上がっていった。

「あの~飲み物貰って来てもいいかな?」

恐る恐る二人の会話に割って入った。

「ええ、何でも飲みなさい。 あちらにあるわ。」

まだまだ興奮冷め切れない二人を残し、ようやく息のできる場所へと移動した。

”あれは血筋ね・・・”





プールサイドに備えられたバーカウンター。

”これって映画やドラマの中だけだと思ってた・・・あるんだ本当に、すげえ。”

”なんでも” 叔母さまのその言葉に甘えて、ハイネケンを一本、プールに足をつけながら飲んでいた。

相変わらず周りはガヤガヤ。

「どうだった、オレのタックル?」

「あんなチーム雑魚だぜ、雑魚。」

特に私の興味をそそる会話はない。

その家に、そしてその場の雰囲気になじめず水面に浮かぶ葉っぱをじっと見つめていた。

「もう、酔ったの?」

突然一人の男が話しかけてきた。

「チームが勝ったのに、なんかつまらなさそうだな。」

「ちがう。ただ疲れただけ。」

「じゃあ、もっと静かな所へ行こうか?」

そう私を誘ったのがトーマスだった。


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