PR
しかし、3人に赤紙が来るとはだれも予想していなかった。片岡は45歳、あと1ヵ月で46歳になる。つまり除隊の年齢に達する。
菊池は医専をでて一応、医師の免許はあるが、実際にけが人を診察した経験はほとんどない。
富永はかつて3回も出征し、新聞に載るような活躍をした有名人だ。だが、銃で指を撃たれ、右手の人差指と中指、薬指がない。これでは銃の引き金が引けない。
菊池はもちろん軍医として、富永は運転手として、そして片岡は通訳として千島列島に展開する第91師団に配属になった。
任地は北海道から1200キロ離れた日本の最西端・占守島だ。千島列島のもっとも北に位置し、ソ連に接しているところだ。
当時、千島列島は日本の領土だった。太平洋戦争の中ごろ、戦争の指揮をする大本営は、アメリカは日本への最短距離、つまりアリューシャン列島の上空を経由して千島列島を通過して首都・東京に入ってくると見ていた。その時に、千島でアメリカを迎え撃つため、25000人の兵を展開させ、特にソ連と国境を接する占守島には13000の鍛え上げた精鋭を置いた。しかも戦車60両をはじめ無傷の兵器を装備していた。
大本営は、近く戦争が終わることを予測していた。もし、日本が負けた時に、すべての軍が速やかに武装解除するか分からなかった。特に、精鋭と十分な武器を持つ千島が心配だった。
そこで、アメリカの使者が来たらスムーズに武装解除がおこなわれるよう英語の通訳を置いたのだ。
8月15日が来た。昭和天皇がラジオでポツダム宣言を受け、無条件降伏したことを発表した。はたして占守島はどうなるのか...。
以上が大まかな筋だが、本書は物語を通して戦争というものの本質を暴きだそうとしているのが大きな特徴だ。
「アメリカは紳士の国だから日本が負けてもひどいことはしないだろう」
「紳士の国がなぜ、広島と長崎に原爆を落として子どもや女を殺したのだ」
「結局戦争は、国と国との戦いで、いくらいい人でも、戦場に行けば敵を殺さなければならないのだ」
また本書は、誰に赤紙を出すのかを決める役人の苦悩。赤紙を配達する者の苦悩。若い、働き盛りの男が兵隊にとられて、生活が成り立たなくなった家。学童疎開で、子どもに教育する教師の悩み...、それぞれの立場で戦争を表現している。
日本人として読んでおくべき一冊ではないだろうか。
ホーム・ぺージ『推理小説を作家ごとに読む』も御覧ください。
http://bestbook.
l
ife.coocan.jp
『赤穂浪士』大佛次郎――最も生甲斐あるこ… 2019.01.23
『村上海賊の娘(上)』和田竜――景は、助… 2014.12.14
『西海道談綺(一)』松本清張――脱藩浪人… 2014.09.17