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東京の街は金色仮面の話題でもちきりだった。ソフト帽を目深にかぶり、オーバーの襟を耳のところまで立てて、顔をすっかり包むようにしている。一寸ほどの隙間から黄金色に光る無表情な物が見えるのだ。
彼は五つの罪を犯す。第一は、東京で開かれていた大博覧会で、「志摩の女王」と呼ばれる国産真珠を奪う。第二は、日光にある鷲尾正俊伯爵の小美術館から、藤原時代の木彫阿弥陀如来像を盗み、鷲尾の一人娘・美子と彼女の侍女・小雪を殺害した。第三は、大富豪の大鳥喜三郎の蔵から家宝の「紫式部日記絵巻」を盗む。こともあろうに鷲尾の娘・不二子が黄金仮面に恋をし、彼女が実行犯だった。第四は、F大使館で、大夜会がおこなわれることになった。こそに、黄金仮面が参上するという予告状が届いた。第五は、東京美術学校名誉教授の川村雲山のアトリエから、超国宝級のものが盗まれ、その直後に川村は自殺した。
五つの事件すべてに明智小五郎と警視庁の波越警部が登場する。ただし、それぞれの事件ごとに解決してゆくのではない。
また、人々が恐れる怪盗に、両家のお嬢さまが恋をするという設定はおもしろい。
乱歩はよく、このようなストーリーを次から次に考え出すものだ。最後の最後に、黄金仮面が飛行機で逃げるという設定は、よく思いついたものだ。
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