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葉子と希美とは職安で知り合った。誕生日が同じ35歳。葉子は死んだ妹の息子・達也を抱えている。希美は弁護士事務所に勤務している。二人はたびたび会うようになり、葉子は希美の紹介で難波という大邸宅の家政婦になった。
実は、この二人すごい経験を過去にしていた。
本書『愚者の毒』はミステリーではあるが、すごい人生ドラマを展開している。葉子は、妹夫婦がつくった借金の連帯保証人になったことから人生が変わった。妹の家族は、借金取りから逃れるため、一家心中を図った。息子の達也が生き残ったが、その時のショックで声が出なくなった。葉子は、達也の親代わりになり、借金取りから逃れるため、夜逃げをくり返した。
希美は、九州の炭鉱の街で生まれ、育った。父親が落盤事故で脳に障害を負い、働けなくなった。母親は家族を捨て家を出た。中学校を出たばかりの希美は、父、中3の妹・律子、小学校入学前の二人の弟を食べさせて行くために必死で働いた。住んでいるのは、廃鉱部落の長屋だ。いわゆる極貧層が住んでいる。世間が東京オリンピックで浮かれて、カラーテレビが売り出されている時に、ここではラジオもない。水道もない。鉱毒水の風呂に入っている。廃鉱部落に住んでいるというだけで、学校でも職場でもいじめにあった。
希美は、同じ長屋に住む同級生のユウとここを出てゆくために、殺人を犯し、東京に逃げた。ところが、平穏な生活は長くは続かなかった。経済的には、安定した生活になったが、極貧生活から逃れるため犯した罪が一生付きまとうことになった。
また、本書は、殺人事件が4回起き、6人が死ぬ。警察は、すべて病死、もしくは事故死として処理した。これを殺人として犯人を特定したのは、葉子と希美だ。 ミステリーというよりも希美とユウの波乱に満ちた人生を描いた小説に近い。
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