PR
本書『悪魔が来りて笛を吹く』は、終戦直後の東京と神戸を舞台にしている。元子爵の椿英輔は当時、世間を騒がせた天銀堂事件の容疑者にされた。アリバイが証明され、家に帰されるが、失踪した。しばらくして、信州の山の中で遺体が発見された。警察は自殺としてかたづけた。
ある日、金田一耕助のところに椿英輔の娘・美禰子がやって来た。父の英輔は生きているかもしれない、と話した。目撃者がいるのだ。今度、目賀という医師が父が生きているかどうか、占いをするので、立ち会ってほしいと言われた。
金田一は占いに立ち会った。その日の深夜、殺人事件が椿邸で起こった。事件の前に英輔が作曲したフルート曲「悪魔が来りて笛を吹く」が聞こえてきた。この事件を皮切りに、次々と殺人事件が起こってゆく。
本書の特徴は、推理小説のいろいろな要素を含んでいることである。
一つは、冒頭で東京の宝石店・天銀堂に族が忍び込み、宝石を奪うという事件が発生する。これは1948年に東京で実際におこった帝銀事件をモデルにしている。いわばパクリだ。
二つ目は、第一の殺人が密室のトリックを使っている。部屋は占いをした場所だった。すべてのドアと窓は、内側から鍵がかかっていた。ドアの上の換気窓は開いていたが、腕を通すのがやっとの幅だった。
三つめは替え玉。死んだはずの椿英輔が現れる。みんなは死んだのは椿ではなく別人だった、と考えた。読者もそう思う。この時代、DNA鑑定というものはない。椿英輔だと判断したのは、死体を見た娘の美禰子ら三人の証言だけだった。指紋も確認していない。
そして、意外なところに殺人の動機が隠されていた。
『悪魔が来りて笛を吹く』は古くても、現代でも通用する名作であり、横溝文学の中でもっともすぐれた作品のひとつである。
ホーム・ぺージ『これがミステリーの名作だ』も御覧ください。
http://bestbook.
l
ife.coocan.jp
『昨日がなければ明日もない』宮部みゆき―… 2019.05.09
『それまでの明日』原尞――調査の報告をし… 2019.03.21
『ファーストラヴ』島本理生――父を刺殺し… 2019.03.01