バイオフィリア
イルカと泳ぐことのヒーリング効果の裏付けとして、「バイオフィリア」という概念があります。20世紀最大の科学者と言われるエドワード・O・ウィルソン博士(社会生物学)が提唱したものです。「生命は生命に心を寄せる性質がある」というようなことです。ボクたちが他の生命に心を寄せたり、「つながり」を感じるとき(また基本的にはそうしたがる性質がある)、私たちの体は自己治癒力をUPさせるのだそうです。エンドルフィンというホルモンの効果です。アメリカの大学の調査の結果で、病室に草花を置く場合と、無機質なままの病室では、病気の治りがまったく違うそうです。それは外科、内科、精神科、すべての場合に同じで、また草花が例え「絵」であっても同じだそうです。
この「生命とのつながり」の嬉しさは、相手が体が大きかったり力が強いなど、つながりにくそうな生物ほどUPします。恐怖を伴うだけに、つながったときの嬉しさが倍増するわけです。魚より猫、猫より馬、馬よりもイルカ(海という不慣れな環境での出会いという意味で)、さらにイルカよりも人間、というわけです。人間はやはり最後になります。アニマル・アシステッド・セラピーというのは、すべてこの「バイオフィリア」効果に基づいて行われるもので、その対象となる動物は、人間よりも恐怖を伴わない動物で、だけどできるだけ「つながり」を強く感じられる動物を使うことが望ましいということになります。
ワッツにおいて「バイオフィリア」効果はあるのでしょうか? ボクは大いに「あり」と考えています。Onenessは、単にセラピストの自己満足ではなくて、実際にクライアント側に効果があるものであると信じています。それは本物のワッツを受けていけば、体で感じることができることだと思います。
熟練したワッツのセラピストは、セッションの途中で「消える」と言います。クライアントの意識の中で、自分を支えているセラピストの「手」が感じられなくなるのです。これは、体を支える手を緩めるということではありません。体はしっかりサポートしているし、押圧もストレッチもしているのです。それでもなお「消える」というのは、セラピストがじっくりと意識を集中してクライアントと波長を合わせる結果、クライアントの体の意思に反するような動きが全くなくなるためだと思います。細かく言えば、指先の置き方など、クライアントとの接点の取り方にも注意を払う必要もあります。それよりも大切なのは「やり過ぎない」ことです。どうしても人間のサガで、クライアントにいい経験をしてもらおうと、次々と「やる」ことに意義を感じてしまい、「いる」ことに集中できない傾向があります。まず少しずつのアクションを加え、クライアントのリアクションを読み取りながら、次のアクションを考えていく、というスタンスが重要だと思います。
こうした一つ一つの努力の積み重ねで「一体感」が生まれると、クライアントは完全にセラピストを信頼し、緊張を全面解除して水に体を任せ、自分の意識の奥にどんどん入っていくことができます。セラピストが「消える」のです。ワッツの場合、「身」への働きかけよりも「心」への働きかけのほうがはるかに深く効果的なのは、こうした一体感によるバイオフィリア効果だと思うのです。バイオフィリアの対象としては、人間は最難関といえる動物です。様々な利害関係が発生しやすく、相手に心を許してもらうには「注意する」くらいでは済みません。「なる」ことが必要です。身も心も常に中立中庸に保つような「悟り」のような境地には、たどり着けるかどうか分かりませんが、「ワッツって深いなぁ」と思うたびに「それもしょうがないか」と水に流している次第です。
「一体感」のあるセッションは、見ていても本当に美しいものです。見ている人の心まで優しく穏やかにしてしまいます。そうしたセッションが日本のあちこちで見られるようになっていってほしいと心から願っています。