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幕末,堀眞五郎,敵への報恩長州編5
箱館戦争,幕末動乱維新の人々,峠下の惨劇,箱館戦争で捕虜になった男達,堀眞五郎のその後,品川弥二郎から受け取った「血に染まった人見勝太郎の陣旗」が紐解く「堀眞五郎、謎の空白場面」人見勝太郎と品川弥二郎,敵への報恩(長州編),【楽天市場】
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_函館戦争の余波
捕虜達のその後<敵への報恩_長州編(現在の頁)
■1(捕虜第一号)_五稜郭や陣屋などに置き去りにされていた負傷者達7人組_
長州、堀眞五郎他
この頁など、「敵への報恩SERIES」は・・・
幕軍に命を救われた敵の人々が敵の立場で、後どう動いたか、どう悩んだかを追求しています。
敵への報恩_長州編(5)
堀眞五郎、あの時、捕らえられた捕虜series_No.2
関連(あの時捉えられた捕虜Series_No.1):
敵への報恩(薩摩編)
「血に染まった陣旗」が紐解く「堀眞五郎、謎の空白場面」
敵への報恩_長州編:最初から読むには→
No.1
<
No.2
<
No.3
<
No.4
<※現在の頁は
No.5
<
No.6
<
No.7
急げ!人見勝太郎_箱館府へ向けて
◆使者、人見のラストスパート◆
幕軍は、「突貫」を繰り返し、
行く手を阻む敵陣に突入。
ここに、あまた多くの犠牲を払った。
清く美しい若き命が、無残にも、白い雪面に散った。
初戦では、長州に睨まれた福山が、藩の名誉回復の為に
捨て身でかかってきた悲壮な白刀戦に手を焼いた。
しかし、体勢を立て直し、結局は圧勝とはいえ、
峠下にせよ、大野、七重、戸切、各陣屋では
「たかが農兵」、追い散らせば逃げ去るだろうと
たかをくくった「農兵達」、彼らが
実に、しぶとかったのである。
それもそのはず、「たかが農兵」と目に映った者達は
八王子千人同心蝦夷移住隊だったのだ。
村を守る為に、痛烈なゲリラ戦法に出た彼らには
つくづく苦戦させられた。
しかし、それらの苦難を乗り越えて、幕軍は、
無事、使者「人見勝太郎」を走らせ、
箱館の町まで送り込むことがてきたのだった。
急峻な峠道を、人見達の騎馬部隊は、ひたすら駆けた。
降りしきる雪、息を詰まらせながらも、駿馬に鞭打ち、それでも駆け続けた。
それは、まさしく、箱館府につめる清水谷に「蝦夷到来、嘆願書」を手渡すために・・・。
俺たちは殺しに来たんじゃない。・・ミカドに必ず、お伝えせねば!
禄を離れた士族達に、蝦夷の地を!
北辺の守りと自ら開墾の意を誓って・・・!
人見の手には「嘆願書」が硬く握り締められていた。
峠を抜け切ると、嘘のように、雪が晴れた。
最期の登り坂を駆け登ると、なんと、一気に視界が開けたではないか。
そこには、晴天の冬空の下、港に面して町家がぎっしりと連なった豊な箱館の町並みが、
東西にゆったりと広がっている。文字通り、五稜の星を象る、五稜郭。堂々と構えたその姿。
人見は、息をのんだ。
思わず全身に力が入った。再び、駿馬に鞭を入れると、身の危険を顧みる余裕もない間に、
そのまま一気に五稜郭まで突入していった。
空転!失意の人見勝太郎
無我夢中の人見は狙撃兵の銃撃さえ、
恐れぬ勢いで突っ走って、門内に飛び込んでしまった。
「人見殿!なりませぬ!伏せ兵が居りまする!
ご用心下されぃ!!」
わずかに付き従った兵の一人は、喚き散らすなり、大急ぎで人見を追い抜いて、先頭に出た。
無防備な人見の挙動に、この兵は本気で苛立っている。
・・・が、しかし!
これは、一体、どうゆうことだろうか?
・・・
城内は、なんと!もぬけの空!!
・・・・・腹をくくって、飛び込んだわりには、・・・なんと、人の気配すらないではないか。
肝心要の清水谷本人のみならず、取り巻き連中も含め、皆全て揃いに揃って
逃げ去った・・・その後だった。
先刻まで静まり返っていた城内、
人見達の到着で突如騒がしくなった為、わずかに反応した者がいた。
それは、なんと!!
・・・厩舎に置き去りにされた彼ら、つまり、数頭の馬達だけだったのである。
「手遅れだったとは、なんたることぞ・・!」愕然と、思わず地べたに膝をついてしまった人見。
張り詰めていた気分が一気に抜け殻に化して、
心臓のどまんなかに、ぽっかりと大穴が空いてしまった。
そんな彼を哀れむかのように、厩舎の方向から、
主を失った馬達の嘶きが、弱々し気に聞こえてきた。
使者、人見勝太郎は・・・途方に暮れた。
傷心の彼も、悲壮だが、
・・・その一方で、「堀眞五郎」の身の上にも
この頃、不覚のアクシデントが起きていた!
人見に関して言うなれば、実のところ、海岸線から川汲経由で動いた土方歳三が、極秘裏に
小柴長之助を走らせ、外国船宛に「嘆願書」手渡し仲介を依頼すべく、動いていたのである。
ある意味で、実質的には「人見側」は正副でいう、「副」であり、
スペアに見える小柴側は率からすると、「正」であったという見方もできるわけだ。
しかし、若い人見には、そんなことは一切知らされていない。
また、それが、もし事実だったとすれば、策として巧妙&大正解、流石というところだが、
人見も気の毒だが、峠下など各所で、自らの命を引き換え条件にして突貫を決行し、人見を走らせ、
散った若者達の魂は、一体誰が救って無事、天に運んでくれるのだろうか?そう思うとやるせない。
・・・・
そして、一方、官軍側では、・・・
今や、箱館府、清水谷公考の右腕参謀、長州藩士_堀眞五郎、
彼の運命もここに、激動の瞬間を待ち受けていた。
▼
堀眞五郎、不覚!!の五稜郭
呪文の子守唄、目覚めて、『おたか』にとられた堀眞五郎
堀眞五郎、不覚!!
なんと、目が覚めると五稜郭!
そして、悔しながら、高松凌雲の病院で、
徹底徹底治療を施された。
堀自身にとって、この事は、一生の不覚、「己の恥」。
しかし、ここで彼は確かに、見てしまったのである。
それは、人命を尊重し、敵味方区別なく、
患者の治療に対処する高松凌雲の姿であった。
堀眞五郎の「謎の沈黙期間」がここに開始された。
明治の世になって、品川弥二郎氏から、人見勝太郎に
手渡された「彼自身の血に染まった陣旗」・・・(
詳細:現SERIES_No.1
)
キーマンは、どうやら、堀である。堀は、品川と共に、長州志士。悔しいながら、七重の戦で負傷。
生死の境界を彷徨う重症だった。
しかし、もっと悔しいことに・・・なんと、敵、榎本軍に救われて、治療を施された上、完治後の正月、
帰された。つまり、すっかり世話になってしまったのだ。
皮肉なことに、共に治療を受けたのは、「腰抜け共!それでも武士か!」散々に罵声を浴びせかけ、
尻を叩いては、動かした「福山兵」の生き残りだった。
堀自身にとって、この事は、一生の不覚、「己の恥」。
彼自身の手記に値する(
「伝家禄」←もう少し追記有
)では、榎本軍蝦夷到来時点から、
各隊を配し、陣を築かせ、清水谷の逃走手配など、東へ西へ疾風のごとく駆け巡る堀本人の
大活躍が、実に活き活きと書かれている。
ところが、不思議なことに、この話、敵に救われて治療を受けていた・・・などという部分の話が、
みごと!見つからない。
そもそも、あまり格好の悪い話を書くタイプではなさそうなのは事実ですが、それにしては、この後の
人生、クビになったり、この人物にしては実に不思議なことに大人しく降格に甘んじている不思議な
期間があったり、・・・かと思えば、箱館戦争終結後には、早速動き出したり、・・・
今度は辞表を叩きつけたり・・・と実に激しく揺れ動いています。
また、己の恥に該当する話をわざわざ好んで書く人もあまり居ないのは解るのですが、「まったく
存在しない」というのは、なんとも不自然な気がしました。なにやら「謎の沈黙の臭い」を感じます。
格好悪いから黙秘した・・・というような本人の単純な意思でなく、なんとなく、外的要因が加圧
されたように感じるのは気のせいでしょうか?
◆文章として形に残る形態ではけっして語らなかったのか、◆命を救われ、また敵味方区別なく人命を
尊重して治療を施した幕軍の姿勢を伝え、なんらかの幕軍寛大措置を提案したが故、ひとたび降格を
享受するはめになったのか?◇書いたが、明治政府に抹消されたのか?
◆長州ブレーン内で、統制が乱れることが懸念され、長州内で押さえられたのか?
・・・・
これだけでは、あくまで想像だけの世界になってしまいます。
ところが、残念!高松先生にあっさり、手記を残されてしまっている。
患者リストの中に、長州_堀眞五郎殿、及び、家来_山田梅吉とある。
★ここで世話になった事実は、残念ながら消えない!!
その上、福山の「天野利忠太」も非常に遠慮気味だが、文章を残した。
「重症のため自害もできずにいるところ、
銃で頭を叩かれ、気を失った。目が覚めると五稜郭だった。」
◆高松凌雲による病院で敵味方の区別なく、徹底治療を施された人々
初戦期:蝦夷到来時点発生患者=五稜郭や陣屋などに置き去りにされていた負傷者達7人組
★堀真五郎(長州)
山田梅吉(長州、上記堀の家来
若江中平(福山)
中島忠三郎(福山)
田頃栄之助(福山)
天野利忠太(福山)
島田吉太郎(福山)
◆この時の様子を文書にしているのは
「6の天野」のみ。
「重症のため自害もできずにいる
ところ、銃で頭を叩かれ、気を
失った。目が覚めると五稜郭だった。」
天野氏の表現はなんとなく遠慮気味。
助けてもらったとか、以外にも
徹底看護されたとか、
長州藩や薩摩藩に見張られてる立場、
まさか、そんな発言はできない。
福山藩は幕府に長州征伐を命じられた。
しかし、相手は怪物、長州。勝ち目
はない。また、長州と通じた自藩の
尊王派藩士の存在を幕府に指摘され、
幕府への忠義を疑われた藩主は、取り
急ぎ処分するなど、長州から見る
と玉虫カラーで様子を伺ってばかり
の弱者と見なされた。しかも、暫し
隠蔽していたが、藩主は途中、病に
倒れ亡くなっている。悲劇の藩である。
遥か蝦夷の地に派遣され、
土地勘もなく狼狽。福山の責任を
負った少年達、若い隊士達の散華は
実に痛々しい。
・・・
哀れ少年達の散華
■1■
M1/10/20鷲の木上陸早々~五稜郭入場迄に発生した捕虜達
◆箱館府総督清水谷公考へ、使者として「嘆願書」を持たせた
人見勝太郎を送り出すに当たり、対抗してきた部隊~
◆高松凌雲達、医師団が徹底手当、
◆重症時は「お粥」等病人食の配慮も為され、体力回復は徹底された。
◆完治後正月まで居た。
◆左記1の堀は大物。
新政府の箱館府総督清水谷公考の直下、右腕参謀。
怪我が完治して送還された後、青森総督でさらに軍艦として
更に活躍している。
命の恩人達への配慮として救命活動はどの程度だったろうか?
しかし、その後の動きを見ると、少々気になるところがある!
戦争終結まで、なぜか地位を「事務官」に落としてまでも、
青森で大人しくしている。
戦後処理の段階で、復活。再上陸して活発に動き出した。
・・・ん!、確かに、コレはなんかある!!
殺戮に関与せざるをえない時期は、確かに、青森に
ひっこんで断固動かない姿勢をとっている。
この人物の中で、何かが揺れ動いたのは明確だ。
しかし、己の抵抗姿勢、行動について記されたモノは無い。
微かに「謎の沈黙の匂い」が漂う。
堀眞五郎、彷徨い道
薩摩と長州の不協和音が発する中、
彼はついに、開拓使に辞表を叩き付け、
最終的には、「公平な裁判を目指して」裁判官として生きてゆきますが、
「公平の意に強く執着し始めた理由」とは
一体何だったのでしょう。
そこに、「堀眞五郎流、敵への報恩」の
秘密が隠されているのかもしれない。
正月、彼らを乗せた外国船は、
青森へ向けて、静かに港を発った。
上記7名は、高松凌雲以下、病院スタップの必死の介抱、甲斐あって、全員完治。
彼らの献身的な努力は実を結んだ。一度、生死を彷徨った重傷者も、
寝る間も惜しんで治療を徹底してもらった為、危ういところ命拾いしたのである。
◆非常に不思議で仕方ないのは、
堀真五郎の引渡し
に対して、
榎本軍は、何の取引条件も提示せず、行なわれたことです。(確かに再三の嘆願書では、
松前、薩摩、長州、福山など捕虜の命を救って、親切に送還した旨をアピールしてますが)
堀真五郎という大物、新政府督清水谷公考の直下、右腕参謀を
人命尊重の見解から、いかに治療が先決といえど、その実、捕虜なのだから、
あっさり無条件で返してあげたりせず、新政府に対して、
なんらかの駆け引きを齎さなかったのか??
不思議です。今のところ、それらしきモノ、発見できずにいます。
普通で考えるならば、大物の釈放には、それ相応のメリットを引き換え条件にするはず。
しかし、榎本チーム、あえて、そーゆー汚い事を嫌ったのでしょうか?
それとも、まさか、長州の人だという事は解っていても、箱館府の参謀だということ、見落とした?
・・・そんな間抜けなわけはないと思うので、
やはり、汚れ事を嫌い、平和裏を啓発したかったのでしょうか・・・?
堀眞五郎、降格の裏庭
絶句!!!
死んだと思っていた堀が無事生きて送還されてきた。
「こりゃあ、驚いた!
堀殿では、ござりませぬか!
よくぞ、ご無事で!」
生きた堀の姿を見た品川弥二郎は、まるで夢心地だった。
地にまともに足がつかぬ程に動揺した品川は
喜びのあまり、興奮状態が止まらない。
思わず、堀に駆け寄るなり、
意味不明に「堀殿!」「堀殿!」と阿呆のように
連発していた。
しかし、様子がおかしい。
本来の堀であれば、こうして品川が間抜けぶりを
発揮すれば、たちまち、毒舌が返ってくるはずだ。
「戯けぃ!生きてたら、悪いんかよ!」
こんな言葉が降ってくるのは当然のことだった。
しかし、堀の得意のポーズ、大股開きで片足ひっくり返して、
もう片方の膝に乗せて、鼻の付け根に、ぎゅっと三本皺寄せて、
怒ってなくても、いつも怒った顔をする・・・
しかし、期待したそのパターンには、全くお目にかかれそうもない。
これは、まずい。
なにやら、相当重い荷物を背負い込んで
帰ってきたにちがいない・・・
。即座に、品川は、直感した。
いつも、「ボサッと鈍感」を装う品川。
しかし、見かけと裏腹、ある意味で気の毒な程、彼は、こうした細々とした事柄に敏感なのだ。
吉田松陰が「人物的に実に柔らかく、よくできた男なのだが・・・」と批評したように
『だが・・・』の後に吉田松陰とて、ごくんと唾を飲み込んで語り難い部分がある。
それがつまり、彼自身も自覚している「己の切れ味の悪さ」というものだった。
堀と共に長州志士で、動乱の時代を先頭に立って動かしてきた男、品川弥二郎。
しかし、暴れ馬、堀達とは何もかも違っている。
群れの中にあっては、いつも「罵倒される側」にあり、だいたい、それには、もう慣れている。
下らぬ誤解を蒙っても、それが瞬時のものなれば、わざと被って見送って、済ましてしまう。
「異義有り!」となれば、もちろん、志を曲げてまで屈するような小物ではけっしてない。
がしかし、衝突による互いの損傷は徹っして避けるというのが、いわば癖になっていた。
そうゆう時はたいてい、惚けた顔して、痒くもないのに、小鼻のあたりをそろりそろりと
掻いて誤魔化しながら、実はいつも、ちゃんと「時」というものを考えていたのである。
考えすぎて、タイミングを逃してしまったこともある。
しかし、それはそれで、くよくよしないことにしていた。
対して、堀の場合は、同じパターンでも、実に風当たりの強さを、自ら好んで
招き入れんばかりのところがあった。
品川が小鼻を掻いているような時、堀のほうはというと、
露骨にぐにゃりと歪めた口を半開きにして、ボリボリと音をたてて、顎の端っこを掻きまくる。
よせばいいのに、そんな時は、すでに鼻の付け根に、またしても三本皺が発生してる
というのが通常だった。
それだというのに、いつもと全然ちがう。
・・何やら、人が変わった。
沈黙の堀、なにやら、一種、「誓い」を背負い込んで
来たのではあるまいか・・・?
堀生来の性格に加えて、品川が堀よりも年下であることもあって、堀は腹を割って事前に
打ち明けてはくれなかった。
結局、すったらもんだらあった。
降格というより、実のところ、堀は、終いに、辞表を叩いたのである。
言い出したら、聞かないやつ。それが堀だった。
堀は絶対に女々しい事を言うやつではない。小細工扱くタマでも、もちろんない。だから、かえって拗れた。
おかげて、事はいいだけ拗れて長州は揺れに揺れた。
やはり、今は亡き師匠、吉田松陰の評価は的をついていた。
▼
キレ者の堀は、潔癖。されどその度合いたるや、過ぐる。・・・
品川は、思わず頭を抱え込んでしまった。
堀眞五郎_迷い道、彷徨い心
波に呑まれた「津軽の小雪」
品川弥次郎にとっての我が友、堀は、
今、完全に降格。青森総督口で、なんと、最下層「事務掛」に甘んじている。
しかし、こう見えても、実のところ、
辛うじて、収集できただけでも、品川としては、天に感謝というもんだ。
長州としては、ここで堀を失うわけにはいかなかったのだ。とはいえ、長州志士といっても、
品川や堀は、いわば駒だ。もっと上には、ややっこしいのが構えている。だいたい、上だと思ったこと
もなかったヤツまで、なんだが上だ。ここで長州を損ねる?それ程の愚作がどこにあろうか。
それでなくても、今、薩摩との歪が、対幕軍以上のボリュームに化けて重くのしかかってきている。
断じて、ここで滑ってしまうわけにはゆかない。
尊王攘夷を謳い文句に今日に至った以上、ミカドの取り巻き、「THE_麻呂チーム」を損ねれば、万事、
地に消える。だいたい、麻呂チームにありながら、おおよそ麻呂らしからぬあの強面の約一名殿、
彼を担いできた今日までの長州、何もかも水の泡となる。断然、滑るわけにはゆかなかった。
今二人は、岸壁に立って、共に津軽の海を見つめている。
日頃出しゃばらない品川が珍しく、先にしゃべり始めた。
「堀さんよぉ、わしゃ、昔から
さっぱり、キレんやつじゃけん、実は自分で悩んどったんじゃ。」
対して、堀は堀で、勝手につぶやいた。
「おい!ここで、俺に猫被って、
おとなしく、丸まっとけってかよ!それが長州のためかよ!
それが、攘夷のためかよ!えっ?」
「おう、それよ、それ。わしゃ、
最近、ついに、それが解らんようになってしもうたわ。」
品川は堀を振り返りもせず、地平線の向こう側に、ぼんやりと目を向けたまま、さらに続けてこう言った。
「よう斬れる刃よりかな、場合によっちゃあ、大惚けの鈍器のほうが
使い勝手のいいっちゅうこともないかのう?
どうせ、こんまい事にしか使えんけんど、
そのかわり、錆びてまうこともないぜよ。」
ぶっちょう面の堀が思わず振り返って見ると、
品川は、いつもの惚やけた笑いを浮かべてた。
津軽の海に、小雪が舞っては、波にのまれて消えてった。
人見勝太郎、夢から覚めて・・・
◆久々に画面は、明治中期、
品川家に招かれた人見の場
へ戻ります。◆
品川弥次郎から手渡された思わぬ贈り物
「人見自信の血に染まったあの時の陣旗」
過去に思いを馳せて、すっかり夢遊病者状態に陥った人見。
その彼は、今やっと、我に返った様子だ。
だが、顔面は、すっかり血の気が失せて蒼白だ。
それでも、慌てて膝を正すなり、深々頭を下げると、仰々しく礼を言った。
品川が笑うと、人見も半分強張ったままの顔で、無理して笑ってみせた。
「やあ、まいりました。恐れ入りました。」
思わず、頭を掻いた。ガリゴリとその音まで聞こえた。
なんとも幼稚なアクションだ。
その姿は、やはりいつもどおりの
『いい年して、あいかわらずの童顔』・・・まさしく人見の姿であった。
ほっと安堵の溜息が漏れた品川は、
細君を呼ぶと、そんな人見に、一杯、熱い茶を差し出させた。
品川弥二郎、余計なお世話
すっかり夜が更けてしまった。
繰り返しお礼を述べた後、そそくさと暇を告げ、撤退体勢に入った人見。
品川も、べつにこれ以上引き止める筋はない。ところが、親切な女房殿は、顔面蒼白の人見の体を
気使い、繰り返し引き止める。家には、取り急ぎ、使いの者を出すので、安心して、今晩は
泊まってゆけと言ってくれるのだった。
しかし、まさか、ここでお言葉に甘えて・・などと図々しい真似をするわけにはゆかない。
しきりに頭を下げて、感謝しつつ、それだけは断った。
「母さんや、人見殿には車を呼んでやりなさい。あんまりもたもたしてたんじゃ、今頃、家の表札が
変わってんじゃないかとご心配しておられるわ。」
下らぬ冗談を言うなり、品川は、ゴホン、ゴホンと咳きついた。
・・・「いやだね。わしゃ、早くも棺桶に片足つっこんじまったかね。」
・・そして、すかさず、自分で下らん冗談で、場をはぐらかした。
車夫が到着するまでの間、品川は持ち前のサービス精神で、またぺらぺらとしゃべり始めている。
「まあ、それは冗談としてさ、わしゃ、特に早死にしちまう質でもなさそうだとは、
いつも思ってんだけどさ、まあね、人生だから、まさかってこともあるしよォ、
くたばっちまう前に、届けなきゃって、いっつも気になっとったんじゃ。
良かったよ。今宵のこの事が、アタシがすっかりくたばっちまう前にできたってわけさ。
やっと、人見さん、あんたに『借り』が返せた気分だね。ありがたいよ。ほんとにサ。」
そう言って笑った品川の屈託のない笑顔は、白い歯がとても爽やかだった。
「えっ?『借り』だなんて、んな馬鹿な、こっちこそ・・・」
思わず、人見は、ポカンと見つめてしまった。
「やだね。アタシの顔になんかついてのかね?」
流石の品川も少々気分を害した。
しかし、迷わず、そのまんま、感想を述べた人見の発言を聞くなり、可笑しくて、笑い転げてしまった。
「いえ、べつに・・・。でも、品川さんって、歯白くって、歯並びいいですよね。」
「なに言ってんだよ。アタシャ、これ気にしてんだよ。前歯が出っ張ってんだっちゅうに!」
「えっ?そうでしたっけ?」
そう言いながら、またしても、人見はあらためてじっと観察しようとする。
「だめだ!こりゃ、たまらんわ!」
すっかり品川は、腹の皮が捩れてしまった。
やっと車夫が到着した。あたふたと仕度をして、玄関先まで送ってきた品川。羽織をひっかけてきた。
どうも、咳が止まらないのだった。
「やあ、本当にありがとうございました。」
繰り返し、礼を述べた人見だったが、人力車の座にちょこんと乗るなり、いきなり、ちょっとだけ疑問が湧いた。
「しかし、また、なんで?あの頃なのに、品川さん、僕の名、すぐ解ったんですかね?」
「・・・えっ?」
一瞬不自然な間があったものの、品川は続けてこう言った。
「なにを阿呆な!天下の人見さんじゃがな!ええっちゅうねん、んなこた、どうでも。
そんな事よりわしゃ、コレ、全部、アタシの勝手さ。アタシの独断さ。
人見さん、すまんね。余計なお世話じゃったろなぁ。
あっちも、こっちも、結局、どっちも余計なお世話じゃねん。
解ってんねんけどな。こればっかりは、どうにも、止まらんかったんじゃわ。」
「えっ?どっちも、余計なお世話って?」
また人見が幼稚な質問をしてきた。
「ええっちゅうねん、それこそ、余計なお世話じゃて!」
品川は、さあ、行った行った!それ、行かんかい!と戯けた仕草で、車夫をせきたてると、
にっこり笑顔で、近頃町で流行りはじめた「バイバイ」のポーズをしてみせた。
人見の乗った人力車は、町灯りの坂道をゆっくりと下って行った。
人見勝太郎_トワイライト:THE_東京の街灯り
品川邸から坂道を下って、近道をするなれば神社の境内を横切って
行くのが通常のルートである。しかし、彼は急に、それが惜しくなってしまった。
急遽思い立ったら止まらないのが人見の性格。
即、実行に出た。車夫には充分すぎる程の礼金を手渡して、早々に手放した。
今、彼は、車を降りて、とぼとぼと坂道を登り、わざわざ遠回りをして、ゆっくりと歩んでいる。
今となっては、とっくの昔に「東京」と改名されたこの街。
京都生まれの人見は、江戸っ子でないにもかかわらず、亡き友、伊庭八郎の影響もあって、
「江戸」が大好きだった。片腕を失って痛々しい姿の伊庭八、そっと近づくと
何を言い出すのかと思えば、以外にもぽそっと、こう言った。
「人見さん、江戸の鰻は旨くてな、一辺一緒に食おうぜ。」
年の頃は似たようなもんだが、互いにお互いが年下のように、なんだがいじらしかった。
その人見に心配させまいと、こんな事を・・・。
目鼻立ちが整って、それでいてどことなく親しみのある顔、抜けるように色の白い好青年だった。
今だ彼は、伊庭八の笑顔が忘れられない。
片腕の壮烈剣士と一言で言い伝えられる程勇敢な男だったが、友情で結ばれた人見にしてみれば、
むしろそれ以外の場面が記憶に焼きついて、いつまでも消えないのだった。
忘れもしないあの晩、五稜郭。再起不能の怪我に倒れたままの彼。
榎本に事情を聞かされ、手渡されたモルヒネ。・・・我が友、伊庭は、ゆっくりと頷いた。
意を決すると一気に飲み干して、・・・そして、そっと微笑んだという。
人見は、空高く煌く星にそっと語りかけてみた。
「伊庭くん、何処だい?・・・見えているのか?俺はね、今・・・ここに居るよ。」
人見は、しゃべり出せばすぐ解ることながら、顔だけ見て、誰かが「人見さん、江戸っ子ですか?」
と言えば、上方の者には珍しく、それを非常に喜んで、結構機嫌を良くしたものである。
対して、この「東京」という町にはずっと今日まで、長い間、馴染めなかった。
その音声が、無性に憎らしく聞こえてしかたないのだった。
だが、今晩は違う。わざわざ坂道を登りつめ、
いつの間にやら、この見晴らしの良い丘まで、たどりついてしまった。
この丘から見下ろす「東京」の街灯りを今晩、初めて見たような錯覚を覚えた。
美しい。なんて美しいんだ。
人見は今夜、生まれてはじめて、この町、「東京」の街灯りを愛しいと感じ始めていた。
ふと、・・・・あの時笑った品川の爽やかな白い歯が記憶に蘇ってきた。
一瞬、ぐらりと眩暈がした。
なぜか知らないけれど、自分の中から、
突然、巨大な胡蝶が飛び去って行った。
逝き急いだ蝶達と、
逝き遅れた彷徨いの蝶は、皆何処へ。
品川弥二郎と人見 勝太郎の接点について、以外な実態
両者共に時期及び詳細は不明ながら、安井息軒の三計塾門下生に名有り。実は、元の顔見知りの可能性大。
三計塾の他門下生には、
谷干城、桂小五郎、広沢真臣、重野安繹、雲井龍雄
。
NEXT_敵への報恩_長州編(6)
敵への報恩_長州編:最初から読むには→
No.1
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No.2
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No.3
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No.4
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No.5
<
No.6
<
No.7
文章解説(c)by rankten_@piyo、
写真等、素材については頁下表示
Celestial Tier
:煌き川;
Piece
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