ザビ神父の証言
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イギリスの庶民生活……(1)貧民の食べ物 3教区徒弟の悲惨な食事の話を記しました。では、職人たち不通の労働者の食卓はどうだったのでしょうか。職人と言っても、特殊技術を持つ熟練工は賃金も高く、小規模な商店主や手工業親方といったプチブルに近い生活を送るようになっていました。彼らの食卓には白いパン、砂糖つきの紅茶、そしてかなりの頻度で肉類も登場しています。それが半熟練工になると、肉類の質がグンと落ちてきますし、家計に占める食料費の割合(エンゲル係数)がかなり高くなってきます。それが非熟練工になると、白いパンと砂糖なしの1杯の紅茶が全てとなり、肉もバターもチーズもなしになります。そして日雇いや最下層の人々になると、白いパンも消えて、ライ麦等の褐色パンになり、紅茶に変えてミルクになります。最下層では、褐色パンの替わりに、ジャガイモが食卓に登場するケースも増えてきます。19世紀の半ばとなり、鉄道や蒸気船の発達、そして穀物法(小麦輸入を実質的に阻止する法規)の廃止や関税の引き下げなど、自由貿易が推進されたことで、安価な輸入食糧が豊富に出回るようになり、下層の人々の食卓も、多少は華やいできます。当時のイギリスで、労働者家族が家計簿をつけることは先ずありませんから、労働者の賃金は会社の帳簿から理解することは出来ても、家計支出については材料が乏しいのが現実です。1840年頃の半熟練労働者の家庭のエンゲル係数は、およそ60%程度と推計されています。この食費のうち、50%がパンとジャガイモで、22%が肉類という推計もあります。同じ時期の綿工場で働く非熟練労働者、工場内の最低クラスの労働者の労働者の家計では、家計に占める食費の割合は80%~85%近くに達しています。しかも食費に占める褐色パン、オートミール、ジャガイモの占めるウェートは、これまた80%近くに達しています。肉類の比率は3%~8%程度に過ぎないのです。勿論紅茶は登場しません。こうした低所得労働者の場合、飢饉などによる食糧価格の高騰は、すぐに食卓に影響を与え、1日の食事の回数を減ずることに繋がったのです。この絵は、ロンドンの簡易宿泊所で、貧しい日雇い労働者に提供される食事です。テーブルもなく、土間のような所に座って、褐色パンと薄いスープだけの食事を流し込んでいます。 続く
2009.03.13
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