HANNAのファンタジー気分

HANNAのファンタジー気分

January 7, 2008
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テーマ: 本日の1冊(3697)
カテゴリ: 映画と原作
「カスピアン王子のつのぶえ」 は、5月公開だそうです。 公式サイト の予告編を見ると、征服されてしまったナルニア、その唯一の希望である王子カスピアンのヒーローぶりがどーんと強調されていて、この物語もまた(第1章 「ライオンと魔女」 と同様に)、夢と魔法の王国ナルニアを我々の手に奪還する戦いであるのがよくわかります。
 それに、カスピアン王子(ベン・バーンズ)がとてもカッコ良くて、わくわくします。

 けれど、私が原作を読んだ時は、この巻は(ねずみのリーピチープの登場を除いて)、他の巻にくらべて特に印象に残ったわけではありません。
 というのも、物語の視点がつねにルーシーたち4人の子供の側(つまり読者である子供)に立っているため、別世界との往来やそこでの時間の流れの相違、第1巻と第2巻との間に横たわる数百年にわたるナルニアの歴史などを、よくかみくだいて分かりやすく、でもちょっと理屈っぽく説明しているのです。
 これは、作者が児童向け読み物として至れり尽くせりの工夫をしているのでしょうが、どうも説明がゆきとどきすぎて、かえって物語にどっぷりはまりこめないもどかしさが残るような気もします。
 たとえば・・・


 「わからない。」とエドマンド。
 「バラ戦争よりややこしいわ。」とルーシィ。
             ――C・S・ルイス 『カスピアン王子のつのぶえ』 瀬田貞二訳

 そのあと作者は読者に向かって、「小人が物語をして説明するが、それをそのまま記すと長くてかえってわかりにくいから、要点をまとめて書くと次のようになります」などといろいろ前置きして、ようやくカスピアン王子の生い立ちを語る章へと続くのです。
 こういった「現状の把握」に、物語の半分ぐらいが費やされてしまっている感じがします。

 ただこれは、読者の感情移入しやすい4人の子供たちが、いかにして再びナルニア世界へと入りこんで活躍するかという、別世界への橋渡し部分をていねいになぞっているのだとも言えます。4人は数百年タイムワープして別世界へまた入りこんだのですから、少々説明を聞いてもピンと来ず、わけがわからない気がするのも当然。

 ただ、世間には、わけもわからず別世界に主人公(と読者)を放りこみ、とにかく前へ前へと怒濤のようにひっぱっていくタイプのファンタジーも数多くあるので、そういうのに比べると、やはりナルニア原作は古典的というか、学者先生作というか、ファンタジー初心者向けであると思います。

 ナルニアも巻が進むにつれ、説明的なところが減っていき(お説教じみたところは増えるようにも思うのですが)、物語自体が“ナルニア慣れ”していきます。それでも最後まで作者は物語の外枠から読者に解説しようとする姿勢を崩さず、これが私には全巻を通じて気になってしまう点なのです。

 ちみつな別世界構築という点では、もちろんトールキンも時として非常に解説が長いです 。『指輪物語』 を読もうとして冒頭の解説部分で挫折した人はいっぱいいるようです。しかし、トールキンの解説は、自分も別世界の内側からの解説、つまり後世の中つ国に住む歴史学者という立場で語っています。


 ともあれ、映画というのは、くだくだしい説明なしにお客を別世界へ連れて行ってくれますから、ナルニア第2章の旅、楽しみです。
 リーピチープくんはどんな様子なのか(予告編には見あたらないので)、気になりますけど・・・





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Last updated  January 7, 2008 10:27:46 PM コメント(4) | コメントを書く


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