HANNAのファンタジー気分

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October 10, 2020
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 世界で最も美しい本と言われる「ケルズの書」ができるまでの伝説を描いた 「ブレンダンとケルズの秘密(The Secret of Kells)」 です(「ケルズの書」は聖書の装飾写本。私も昔、 ダブリンのトリニティ・カレッジ図書館で展示を見たことがあります! )。

 この物語を観ると、ヴァイキングに国土が蹂躙された苦難の時代に、美しいものを希望の光として作ろうと、修道士たちが心血を注いだその心意気が分かります。さらに、連続する渦巻き模様やデザイン化された生き物が聖書の装飾として描かれているのは、古代ケルト文化の自然崇拝が、キリスト教に融合されたのだなあ、というのも分かります。

 といっても、小難しい物語ではなく、主人公の少年修道士ブレンダン(彼岸=北米大陸への航海をした聖ブレンダンとは別人)の冒険を、息をのむほど美しいケルト的な映像とともに楽しめます(以下ネタバレ)
 もともとケルズの書の装飾絵は、細密で迷路のように複雑で、生き物もデフォルメされてこの世のものとは思えない形態になっており、つまり魔術的です。その文様のような絵のイメージが生まれる過程を、幻想的なアニメーションで堪能すると、本当に幻術にかかったみたいにクラクラします。

 何しろ細かいし聖なる書物に描く絵ですから、まず特別なインクが必要です。映像では木の実からインクを取るのですが、その木はどうも葉っぱの形から、オーク(西洋樫)らしい。オークはケルトの神官ドルイドのあがめた聖なる木でもあります。妖精の手助けで、手に入れます。
 次に、クロム・クルアクの目と呼ばれる水晶のレンズを通して見ながら描くというのですが、おお、出た! アイリッシュ・ケルト最強の蛇神クロム・クルアク! セント・パトリックが倒した「蛇」です。

荻原規子『あまねく神竜住まう国』 のクライマックス、2匹の竜の恐ろしくも美しい舞を思いだしました)。

 まるでケルト文様が命を持ってうごめいているようで、ブレンダンも同じ儀式の中に取りこまれ、漂いながら戦わなければならない。その、人外魔境の混沌の恐ろしさ。けれどブレンダンは白墨で円く線を引いて蛇を閉じこめます。そう、そのようにしてケルトの神々や幻獣は秩序だった枠にはめこまれ、円い渦巻きに囲まれて、聖書を飾ることになったのですね。

 日本のアニメとは別種の、神秘の霧に包まれた幻影のような世界。平らにデフォルメされ一見コメディタッチな顔や動きの登場人物たち。それがなぜかマッチして、豊かなストーリーを紡ぎ出しています。
 久しぶりにケルトを堪能してしまいました。





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Last updated  October 14, 2020 01:32:17 AMコメント(0) | コメントを書く
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